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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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六十三 濃霧に沈む

一枚の木の葉が風に乗っていた。

修行跡を残す演習場を抜け、威容を誇る火影岩を横切り、子ども達の笑い声が轟くアカデミーを通って、空を翔けてゆく。賑やかな街並みを見下ろしながら、里の隅々を宛ても無く。

一葉は木ノ葉隠れの里を一望するかのように高く高く舞い上がり、やがて橋の上へ辿り着いた。そうして、水面にそっと降り立ち、波打ち際に橋上を見上げる。


木漏れ日が射す水上。漂う一枚の木の葉を見下ろして、うちはサスケはぽつり呟いた。
「だがやはり俺は木ノ葉が許せない…」

兄弟仲は修復された一方、やはりサスケは木ノ葉の里に対して憤りを覚えていた。困ったように眉を下げるイタチの前で、「兄さんが守る価値がこの里にあるのか」と不快そうに顔を伏せる。握り締めた拳が小刻みに震えていた。

「火影もいないこの里に……」
「ひとつ、いいか?」
唐突に、澄んだ声が割り込んだ。

弾かれたように顔を上げたサスケとイタチの視線の先。話の腰を折った事に対して申し訳なさそうに詫びを入れた後、毅然たる面持ちでナルトは告げた。

「三代目火影は生きている」
「「…!?」」
サスケは勿論イタチもまた、その一言に絶句した。驚愕する兄弟をちらりと見遣って、ナルトは言葉を続ける。

「昏睡状態だが、確かに生きている…――――俺が言いたいのはそれだけだ」
それきり口を閉ざす。再び沈黙するナルトを、二人は暫し愕然と眺めた。逸早く我に返ったイタチが、ナルトの言わんとしている事を察して、弟を宥める。

「最後までうちは一族を、俺達兄弟の安否を気遣った三代目が守る木ノ葉を、お前は潰すのか。それは三代目の厚意を裏切る事になる」
「…………」
「三代目は木ノ葉を守る火影…。お前が木ノ葉へ牙を剥ければ、穏便な三代目も火影として敵に回る。しかし、そうなる前にあの方は最良策を講じようと為さるだろう……一族の時と同じように」
そこで一度言葉を切ったイタチはサスケの瞳を覗き込む。サスケが目を逸らせないように真っ直ぐ見据え、彼は問うた。

「サスケ。お前は火影様が嫌いか?」
その問いにサスケは答えられなかった。


素直ではないサスケとて、三代目火影である猿飛ヒルゼンには並々ならぬ親愛を寄せていた。温厚な人柄の老爺は多くの人に好かれ、誰にでも分け隔てなく笑顔を向ける。人を寄せ付けようとしないサスケにも、尻込みせず、手を差し伸べてくれた。

骨ばった、だがとてもあたたかい手。

己の頭を撫でるその手を、表面上嫌そうに振舞いながらも、サスケは決して拒まなかった。本当はそのあたたかい手が好きだった。
しかし時折、哀愁を帯びた眼差しで見つめてくるヒルゼンに、サスケは薄々気づいていた。
イタチの真実を知った今ならわかる。三代目は一族の悲劇を食い止められなかった己を悔い、イタチとの約束を守ろうと力を尽くしてくれていたのだ。

だから三代目火影が生きているとわかった時、サスケは逡巡した。
思い出すのは、あたたかく骨ばった火影の手。


それでも猶、里を嫌う素振りを見せる弟に、兄は穏やかな声で歌うように紡ぐ。
「俺はこの里が好きだ。幼き日に通ったアカデミーも、火影岩から見た美しい光景も、お前と共に修行した演習場も。…―――今となっては戻る事は叶わないけれど、それでも目を閉ざせば鮮明に見えてくる……俺の、故郷…」
最後のほうはほとんど聞き取れないほど小さき声だった。だがそれがより切実めいていて、サスケは誘われるようにじっと兄の話に耳を傾けた。弟の真剣な眼差しに、イタチが微笑する。

「サスケ、お前が生きているこの里が、俺は本当に好きなんだ」

兄の微笑みを真正面から受けて、サスケは一瞬息を呑んだ。優しくも決然たる顔をまじまじと見遣る。
ややあって言葉の意味がじわじわと浸透し、サスケは顔を伏せた。込み上げてくる嗚咽を秘かに呑み込む。

「それでも許せないのなら、お前が里を変えてゆけばいい」
サスケの顔が見えているのか、いないのか。俯いたままのサスケに、イタチは静かに声を掛けた。耐えるような嗚咽の微かな音は聞こえない振りをして。

「あの夢を今度こそ実現させよう」
やはり顔を上げない弟のおでこにそっと触れる。僅かに震える肩を覗き見て、イタチはふっと笑みを零した。
「俺が外、お前は内から」
兄の言葉の先を継いで、弟は口を開いた。言葉には出さなくとも、心の中で同時に宣言する。

((共にこの里(故郷)を守ろう))
おでこに触れるその指先は、昔と変わらず、あたたかかった。










程無くして、サスケは恥ずかしげにイタチから顔を逸らした。その瞳は写輪眼の影響だけではない赤を湛えている。

「……話はついたか?」
心を交わした風情の兄弟を見て取って、ナルトはおもむろに声を掛けた。
びくりと肩を跳ねさせたサスケの代わりにイタチが答える。

「ああ。…――世話を掛けたな」
「構わない」
イタチの礼に、ナルトは短い返答で応えた。次いで彼はイタチとサスケに視線を巡らす。
穏やかな顔が一転して、真剣な面差しとなった彼に倣い、兄弟もまた顔を引き締めた。

「三代目火影の生存は極秘だ。また昏睡状態である事から、木ノ葉の上層部は次の火影を決める意向にある。火影候補として挙げられたのは、自来也と…志村ダンゾウ」
ダンゾウの名にサスケが過剰に反応する。兄の話を聞く上で、弟である自分を引き合いに出したこの男を、サスケは最も憎んでいた。

「だが自来也は火影就任を辞退した。代わりに推挙されたのは、初代火影の孫にあたる三忍の一人――『綱手』。しかしながら彼女は里外にいる為、自来也が急ぎ探索に出る……波風ナルと共に」
「………ナル?」
見知った名が突然耳に入ったサスケが怪訝な声を上げた。訝しげな視線に促され、ナルトは話を続ける。
「波風ナルは今、自来也の弟子だ。ちなみに綱手はうちは事件には全く関与していない。ダンゾウと違ってな」

兄を苦しめた火影と、何も知らない火影。後者のほうがまだマシだ、という結論に達したサスケが意気込んで口を挟む。
「なら俺も…っ」
「サスケ。お前は里にいろ」
捜しに行く、と続く弟の言葉を、イタチは諌めた。不満げに見上げてくる弟へ微笑みかける。

「ダンゾウが火影に就任しないよう、出来るだけ引き延ばせ。俺の代わりに里を頼むぞ」
「…!―――ああ。わかったよ、兄さん」
自分を頼りにしてくれた兄に歓喜し、サスケは強く頷いた。
今まで憎んでいた反動か、幼き頃同様にイタチを慕うサスケを、ナルトが微笑ましく、だが少し羨ましそうに眺めている事など彼は気づかなかった。


とにかく一段落ついたと解釈し、すぐさまイタチに視線を投げる。ナルトの鋭い視線を受けたイタチもまた、静かに目を眇めた。
『暁の任務は諦めるんだな。三忍がお目付け役に就いている以上、どうにも出来ないだろう』
『…わかっている』
サスケに悟られず、【念華微笑の術】で互いに話をつけた二人は秘かに頷いた。おもむろにイタチの瞳が、再不斬から離れてゆく鬼鮫の姿を捉える。

「サスケ。一族の真実や三代目に関しては口外するなよ。心によく留めておけ」
「ああ」
もう一度サスケに念を押してから、イタチはナルトに一瞥を投げた。ナルトが術を解いたのを確認し、鬼鮫の後を追い駆ける。

最後にイタチは名残惜しげに弟を振り返った。一瞬微笑み、今度こそ振り返らずに立ち去る。闇の如き外套が踊った。


描かれた雲の赤き光――暁の軌跡を残して。




















たゆらに流れ続ける水。一時とて定まらず、波打つ球体はその大きな空洞に囚人を見事に捕らえていた。

【水牢の術】。

以前と同じ水の牢獄に己を閉じ込めた再不斬を、ようやっと我に返った水月はふてぶてしくも鼻で笑った。
「僕にその術は通用しないよ」

寸前に体験した死の恐怖がまだ身体に残っているのか、震える声。それでもその怯気を打ち消すように水月は声を張り上げた。わざと余裕綽々に振舞う。
生意気な風情を装いつつ、水月の目線が秘かに下がった。水牢の下に広がる水を覗き込む。

以前と同じように、身体を液状化させ、水中に逃げ込もう。水面に揺れる自身の顔を見つめ、逃げる算段を考える水月。

しかしながらその目論みは、再不斬の一言で露と消えた。


「俺が同じ手を何度も食らうと思うか?――――ドス!」 
「はい」
再不斬の高らかな声。次の瞬間、水月の目の前には一人の少年の姿があった。
顔をほとんど覆い隠すその身形は再不斬とよく似ている。

水月の怪訝な顔を気にもせず、少年――ドスは何の前触れもなく、いきなり水の円球に右腕を突っ込んだ。
突如、水牢の壁を突き破って、眼前に迫った腕に水月は驚く。慌てて液化し、牢内の水に溶け込んだが、その瞬間。

物凄い振動と衝撃音が水月の全身を貫いた。




気絶し、【水化の術】が解けた水月。牢の中でぷかり浮かぶ少年の姿を見遣って、再不斬は【水牢の術】を解いた。途端、ザバリと水が滴下し、ドスの足下を濡らす。

再不斬を見ると、彼は橋の方角へ眼を向けていた。その視線の先に、ドスはナルトの姿を認める。ナルトの傍にイタチがいない事から察した彼は、内心安堵の息をついた。
(やれやれ…。ようやく御役御免ですか)

ドスは先ほどまで木々の上で待機していた。再不斬の声に応じてすぐさま降りて来た彼は、命じられるままに【響鳴穿】の音を奏でたのである。
水月の【水化の術】は自身の身体を自在に液化させる術。物理攻撃を無効化し、敵の目を錯乱させるなど様々な用途があるものの、避けられぬものもある。

その一つが、音。

人体の70%以上は、音を伝導する水分で構成されている。ましてや全身を水と化す事が可能な水月は一溜りもない。ドスの【響鳴穿】による音の振動は彼をあえなく気絶させた。
つまり水月自身が耳と言っても過言ではないのだ。


気を失った水月を再不斬が肩に担ぎ上げるのを見ていたドスは、肩の荷が下りた気がして、少し警戒心を緩めた。直後、慌てて気を引き締める。

まだ此処は木ノ葉なのだ。すぐ傍に木ノ葉の上忍もいるのに、どうして気を許せようか。
この場から無事に立ち去るまで緊張の糸を切ってはいけないと己を奮い立たせる。

再不斬に指示を仰ぐ。目配せから意図を理解したドスは、次の行動に移るべく、頭上の者へ声を掛けた。







膠着状態に持ち込まれていたアスマと紅は、自分達を取り囲む数多の鏡が一瞬で消え去った事に目を見張った。
(術が解けた…!?なぜ、)

木ノ葉の増援が来たのかと内心期待する二人。しかしそれは結局、ぬか喜びに終わった。アスマと紅の目に飛び込んできたのは、対峙していた少年の他に、もう一つの影。
あの『霧隠れの鬼人』――桃地再不斬だった。

(最悪だ…ッ)
くそっとアスマが悪態を吐いた。ギリリと噛み締められた咥え煙草。
同じく顔を青褪めながらも紅が眼つきを険しくさせる。
多勢に無勢だが、最期まで闘う覚悟が双方には確固としてあった。身構える。

しかしながら、鬼人はただこちらをじっと見つめているばかりで動く気配がない。
訝しげに眉を顰めるアスマと紅。二人の警戒心が高まる一方、その場一面を覆っていた霧が徐々に晴れてゆく。
霧の動きに呼応するかのように、陽炎の如くゆらゆら揺れる再不斬と白の姿。まるで濃霧に沈み込んでゆく二つの人影に、アスマと紅は思わず手を伸ばす。


突如、霧が一斉にざあっとひいた。



顔面に霧の粒子がかかり、思わず目を瞑る。次に二人が眼を開けた時には、其処には誰もいなかった。

クリアとなった視界の中、唖然と立ち尽くす。暫し呆けたように突っ立っていたアスマは、我に返るとすぐさま周囲に視線を巡らせた。
しかしその場はまるで最初から霧さえも発生していなかったかのように静まりかえっている。罪人は姿無き霧の彼方へ消えてしまった。

慌ただしく駆け出す。追跡しようとした矢先、アスマと紅の前に数人の忍びが立ちはだかった。
「遅いぞ!速く追い駆け…」
急かすアスマに反して、木ノ葉の忍びであるはずの彼らは微動だにしない。むしろ二人を邪魔するかのように立ち塞がっている。
「おい!聞いてるのか!?」
アスマの怒鳴り声を気にも留めず、忍びの一人が一歩前に出た。無表情に告げる。

「此処から先は我ら『根』が預かる。お二方にはお引き取り願おう」
「はあ?何言ってるの!指名手配中の抜け忍がさっきまで此処にいたのよ!?今ならまだ間に合…」
「お引き取り願おう」

取りつく島も無い。
にべもなく追い遣られたアスマと紅は瞠目する。目の前の男達は何を言っているのか。
つい先ほどまで『霧隠れの怪人』こと干柿鬼鮫と『霧隠れの鬼人』桃地再不斬、それにあの、うちはイタチがいたというのに。なぜそんな悠長にしていられるのか。

「追う事は罷り成らぬ。また、此処で起きた事は一切他言するな―――これはダンゾウ様のご意思だ」

茫然自失するアスマと紅に冷たく言い捨て、『根』の忍び達は立ち去った。『根』に所属する色白の少年だけがちらりと二人に視線を寄越したが、すぐに踵を返す。


そうしてその場には誰もいなくなった。しん、と沈黙した空間で、動くのは二人の足下を濡らす静穏なさざ波のみ。
ややあって、アスマの顔がみるみるうちに歪んでゆく。

「くそ…ッ、なんだってんだ!!」
靄で翳んだかのように考えの纏まらない脳内。だが其処は、やり場のない怒りで満ち溢れている。

遣る瀬無い思いに我慢ならず、彼は咥えていた煙草を吐き捨てた。煙草は弧を描いて水面へ落下する。水没直前に一度だけ浮かび上がった赤い火口が、最期の灯火とばかりにぽっと光った。
それきり沈みゆく。


後には静寂だけが残された。





















橋の上。ナルトと二人きりになったサスケは居心地悪げに頭を掻いた。一頻り唸ってから、罰が悪そうに「わ、悪かったな…」と呟く。

まさか自分に掛けられた言葉だとは思わず、ナルトは思わずきょとんとした。サスケへ視線を向けると、物凄い勢いで顔を逸らされる。
だが真っ赤に染まった耳がサスケなりのお礼の言葉だった事を明らかにしていた。ナルトの口許に笑みが湛えられる。

今、彼の胸中を占めるのは、仲睦まじい兄弟に戻れたイタチとサスケを祝う歓喜と若干の羨望。
しかしながら、今回の行動が後にどのような影響を及ぼすのか、この時ばかりはナルトも予想出来ていなかった。

「こちらこそ、ありがとう」
逆に述べられた礼に、サスケは怪訝な顔で振り仰ぐ。写輪眼に、嬉しそうに細められた青い双眸が映った。
「イタチを信じてくれて」

何時の間にかナルトは橋の欄干に腰掛けていた。不意に仰け反る。驚いたサスケが手を伸ばすが、その手をすり抜けて、重力に従い墜落してゆく。

慌てて駆け寄り、橋の下を覗き込むサスケ。だが彼の瞳に映ったのは、水面にゆらゆらと揺れる自身の顔と、その上に浮かぶ一枚の木の葉。ただ、それだけだった。








一足先に橋から遠ざかっていた再不斬達と合流する。走る速度を落とさなかったにも拘らず、ナルトはすぐに追いついた。
木ノ葉から無事脱出する経路を【神楽心眼】で探っていた香燐が歓喜の声を上げる。抱きつこうとする彼女を視線で制し、白が気遣わしげにナルトを見つめた。

アスマと紅を足止めしていた白。彼は撤退する頃合いを正確に判断し、【魔鏡氷晶】の術を解いた。鏡に潜っていたキンと共に、白と再不斬の姿を模った水分身と入れ替わる。その上で【霧隠れの術】により発生した霧を霧散させ、霧が晴れると同時に水分身を水に戻す。
そして今現在は、ドスと同じく木の上で周囲を窺っていた香燐を筆頭に、橋周辺から遠ざかる最中だったのだ。


追っ手が来ないか後方を気にしながら、白を始め五人の忍び達は視線こそ前方に向いているものの、皆がナルトの様子を窺っていた。
「少し、休養をとったほうがよろしいのでは?」
その言葉にナルトは聊か驚いて目を瞬かせた。木から木へ飛び移り、白の隣に並ぶ。
「そうかな?」
「そうですよ」
白の間髪容れない催促にナルトは苦笑した。さりげなく再不斬の肩に乗せられている少年に目をやる。『根』の包囲網をよく突破出来たな、と感心すると共に、彼は以前ダンゾウと取り決めをした内容を思い返していた。


『木ノ葉崩し』直前、ナルトは『根』の創始者たるダンゾウと取り引きをした。
大蛇丸と取り引きしていた事実を明るみに出さない代わりにイタチの汚名返上の手助けを行い、尚且つサスケの暗殺を取り下げるよう、彼はダンゾウに要求した。その際、イタチが里に来た場合の対処法もこの時既に取り決めていたのである。

そしてまた、イタチ及び彼の仲間と対峙する者が誰であっても、例え指名手配されている抜け忍であっても見逃すよう手配を頼んでおいたのだ。

橋周辺に人気が全く無かったのも、木ノ葉の増援が来なかったのも、抜け忍同士の派手な戦闘騒ぎに誰も駆けつけなかった事も、全てダンゾウの計らいによるものだ。ナルトが事前に人払いを頼んでおいたからである。
まさかイタチが『うちは一族殲滅事件』の真相をサスケに伝えているなどとは考えもしなかったダンゾウ。つまり彼は間接的に兄弟仲を取り持つ助力の一端を担ってしまったのだ。

また、火影直属である表の忍び、つまりはアスマと紅が再不斬達を追跡しようとしたものの、『根』に食い止められたのも、ナルトが前以てダンゾウに裏で手を回すよう要請していた為。


しなやかに撓む木々の枝を軽く蹴って、ナルトは背後を振り返った。既に見えなくなってしまったが、橋があった方角を流し目で見遣る。木々の合間を透かし見るように彼は目を凝らした。橋上に掛けた術が完全に消えているのを確認する。

五感の遮断及び幻術の二重結界と零尾による憑依及びチャクラ吸収。そして更にナルトはその上に幻術を掛けておいたのだ。
時間や空間、質量などあらゆる物理的要因を支配する精神世界。その中にイタチとサスケを引き摺りこんだ上で話し合いをさせていたのだ。零尾にチャクラ使用可能にしてもらった、あの時である。

いくら零尾の力で打ち解けやすくなっているとは言え、イタチとサスケの蟠りを溶かすのは時間がかかる。だから彼は時間の干渉が及ばない空間にて討議させたのだ。例え精神世界で三日経てども、現実世界においては一瞬にも満たない。
だからこそサスケはイタチを信じる事が出来たのである。何度も何度も意見をぶつけ合い、お互いに激しく議論した。その結果は言うまでもない。

流石にイタチは零尾以外の術は気づいていたようだった。それ故に、別れ際ナルトに解術を求めたのだ。
現実に戻る。無情だが、此処が己の生きる世界なのだと。


再び生き別れる兄弟。しかしながら、誤解が誤解を招いた前回と違い、今回は双方共に精神世界の体験が残っている。
だから今のサスケはもう兄を復讐の対象としては見ないだろうと、ナルトは口許を微かに緩めた。

そしてようやく白に視線を戻す。
「そうだな…」
己を案じるあまり憂色を漂わせる彼を見て、ナルトは微笑んだ。
「それじゃあ、久しぶりに会いに行こうか」

木ノ葉の人間に気づかれずに里外へ通じる門を潜り抜ける。眩い白日の下、彼は穏やかに笑った。
それは太陽にも負けないくらい眩しげな笑顔だった。


「重吾に」
 
 

 
後書き
大変お疲れ様でした!!これにて兄弟話は(一応)終了です。
この展開にご不満な方は多いと思われます。申し訳ありませんでした!
不快にさせてしまったのでしたら、本当にすみません。
もしどうしても展開が合わないと感じた方は、非常に残念ですが、閲覧をご遠慮ください…(泣)

長々とありがとうございました!!次回もよろしくお願い致します! 
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