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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第三部
  第一話

地霊殿奪還から、まる二日がたった。

地霊殿の内部や周辺の町並みは、革命軍によって変貌を遂げていた。一つ一つの部屋にへんな機械を設置され、町には物資が散らかっている。元の容姿のかけらもなかった。

二日経った今も完全に復旧したわけではない。だが、旧都の妖怪達の協力も得たため、なんとか元の姿を取り戻し始めていた。

そんな中、俊司達は地霊殿の玄関で出発の準備をしていた。


「いろいろとお世話になりました」

「それはこちらの台詞です。助けていただいただけでなく、復興まで手伝っていただいて……」

「こちらからお願いしたことですから。ところで……お空さんとお燐さんは……?」


さとりは何も言わずに顔を横に振った。

あの出来事以来、お空とお燐は一度も目を覚まさなかった。感情の抑制ができなくなりチップが故障したためか、思った以上にダメージがでかいらしい。

前回、霧の湖でタイプAのチップをつけていた椛も、感情の抑制によるチップの故障を引き起こしていた。その時も、目を覚ますまで非常に時間がかかった。今回のタイプBについても同じ現象なのだろう。

少し心配ではあるが、あまりゆっくりしていられない。俊司達は不本意ではあるが、お空達の回復を待たずに出発を決意していた。


「そうですか……」

「二人には私からきちんと伝えておきます。必ず恩をかえすようにと」

「……すいません」

「いいんです。あと、出発の前に……こいし」

「うん。はいお兄ちゃん」


こいしはポケットから二枚のカードを取り出すと、俊司に手渡した。


「これは……スペルカード……いいんですか?」

「ええ。中にはなにもこめられていません。あなたはまだ五枚しかスペルカードを持っていませんから、いずれ必要になるかと」

「ありがとうございます」

「いいえ」


さとりはそう言って笑みをかえした。


「それでさ……っと、あれ? なんだ、もう出発かい?」


たわいない会話をしていると、一同の後ろから突然声をかけられる。

そこには、例の三人の鬼が立っていた。


「ああ、皆さんおそろいで」

「行く前に一言声かけてくれればよかったのにさ」

「ちょうど出向こうかなと思っていたところですよ」

「そうか」


萃香かそう言って笑っていた。


「なあ俊司、一段落したらまた来いよ。一騎討ちしようぜ」

「……僕弱いですよ?」

「強い弱い関係ねえって。それにお前が弱いなら、他の連中はなんなんだよ」

「あはは……」


返答に困った俊司は、苦笑いでごまかした。当然相馬もそれに気づいていたが、気にしてはなさそうだった。


「ちょうどいいや俊司、よかったらついて行ってもいいかい?」


と、急に話に割り込んできてのは萃香だった。


「萃香さんが?」

「ああ。ちょっと上の方が気になるんだよ。ここ三ヶ月は行ってないからね」

「僕はいいですけど……どうしますか?」


俊司は映姫を見て意見を仰ぐ。

すると、映姫は何も言わずにうなずいた。映姫としても、ここで戦力が増えるのはありがたいのだろう。

それをみた萃香は、一言ありがとうと言っていた。


「霊夢や天狗達は今頃どうしてるんだろうなぁ……勇儀、相馬、お前らはどうする?」

「あたしはいいや。あんまりここの人数減らすわけにもいかないだろ?」

「俺もパスかな。上に上がったらしんどいし」

「そうか……まあいいか。じゃあよろしくな俊司」

「はい。よろしくお願いします」


俊司は深々と頭を下げた。


「では、そろそろ」

「気をつけてくださいね。みんなを……幻想郷を……よろしくお願いします」

「……はい」


さとり達に見送られながら、俊司達はゆっくりと歩き始める。

これで旧都の安全もなんとか確保された。地上にあった革命軍達の基地は、ほとんど俊司や紫達によって壊滅されている。事実上、相手に残されているのは天界にある本拠地だけだろう。

ながれは確実に俊司達を味方している。士気も徐々に高まりつつある中、終戦は近くなっていると、誰もが思っていた。






それから数分後、俊司達は旧都へ通じる地上の穴まで戻ってきていた。


「やっぱり飛ぶのにはなれないなぁ」

「私達は気がつけば飛べてたからねぇ」

「そもそも外には飛ぶという概念がないですからね。でも、なれると気持ちいいんだろうなぁ」

「そうですね。ところで俊司さん、これから天界に向かうのですか?」

「ああ。そのつもりだけど……」

「いえ、そのことですが」


そう言って話に割り込んできたのは映姫だった。


「天界に向かう前によっておきたいところがあります」

「そうなんですか?」

「はい……永遠亭です」

「!」


永遠亭と聞いた瞬間、俊司は体を震わせるようにして反応した。

永遠亭には紫達がいる。俊司が亡霊になって以来あっていないため、当然のように俊司は死んだと考えているはずだ。

だが実際は亡霊として生きている。黙っていたことを怒られないだろうか、そんな不安が心の隅に浮き上がっていた。


「天界にいくならそれなりの戦力も必要でしょう。合流するなら今が頃合いだと思いますが?」

「……そうですね」

「……どうかしましたか?」

「……いえ」


俊司は顔をひきつらせながらも、無理やり笑顔を作り出した。


「……そうですか」

「すいません」

「あやまることはないですよ。他に行っておきたいところはありますか?」

「あの、永遠亭の後でもいいんで、紅魔館と守矢神社にも行ってもいいですか?」

「わかりました。では参りましょうか」


行先を決めて、一同は歩き始める。







そんな一同を、ある男が木の枝の上で見ていた。






「確かにここで永遠亭に向かうのは最善の判断だ。だが、私は博麗神社にむかった方がいいと思うぞ?」

「!?」


男の声が、一同の足を止める。そのまま俊司達は臨戦態勢を取って、辺りを見渡した。

すると、見覚えのない男が、突然木から飛び降りて一同の目の前に現れた。


「……革命軍」

「その通り。革命軍の宮下怜と申します。お初にお目にかかれて光栄です」


宮下の名乗った男は、そう言って頭を深々と下げた。


「……一人? まさか、あなただけで私達を倒すとでも?」

「無茶を言わないでくださいよ。今回は話をしに来たのと、情報提供に訪れただけです」


宮下は笑顔を作ってそう言った。


「生憎そう言って猛威をふるった人もいるんで……」

「まあまあこの通り、私は丸腰で来ていますし」


宮下は両手をあげて降参のポーズをとると、腰のまわりを俊司達に見せた。

確かにハンドガンをいれるホルスターはあるが、銃は入っていない。手榴弾を入れるようなポーチも見当たらないところから、本当に丸腰で来ているようだ。

少し不審に思いながらも、俊司達は慎重に臨戦態勢を解く。それを見て安心したのか、宮下は軽く溜息をついていた。


「……で、話というのは?」

「まあちょっとした雑談みたいなものですよ。少しきになっていたことがありましてね……」


宮下はそう言った瞬間、フードをかぶった少年を軽く睨んだ。


「君……里中君だね?」
 
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