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チートだと思ったら・・・・・・

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最終話

 
前書き
これにて移転完了です。 

 
火星人側のボス、超と麻帆良側の切り札、ネギの戦いは両者の最大呪文。燃える天空と雷の暴風にて決着がついた。呪文の格こそ超の方が上だったが、発動のタイミング、特性の差などにより結果はネギに軍配が上がった。
これにて一件落着。誰もが、そう感じていた。だが、それは突如発生した大きな魔力によって破られる。

「ッ!? これは!」

爆発的な魔力の高まり。そして次いで発生した天へと昇る紫の雷。一部、最後まで戦い抜いた魔法使いはそれを見て理解する。今のは雷系最大の殲滅魔法。千の雷だと。

「爺! 貴様は一般人が近づかない様にしておけ!」

学園にて千の雷が放てる者。そして、この戦いで姿を殆ど見せなかった者に心当たりのあるエヴァンジェリンは、チャチャゼロを伴いすぐさま雷の元へ向かった。



「………………」

当たりの地面や壁は焼け焦げている。だが、一切建物が崩れ落ちていないことから術者はよほど範囲を絞って千の雷を放った事が見てとれる。そんな中を、エヴァンジェリンとチャチャゼロは歩く。そして見つけた。術者と思われる少年、体の半分が炭化した健二と、恐らく健二と戦っていたのだろう黒こげ(だれか)を。

「エヴァンジェリンさん!」

やや遅れて、ネギとそのパーティが駆け付けた。何人か欠けているのは時間跳躍弾にやられたからだろう。そして、ネギ達は眼を見張る。エヴァンジェリンの足元、仰向けに体勢を変えられた健二が横たわっていたからだ。

「健二!?」

真っ先に駆け寄ったのは明日菜だった。健二の横に膝をつき、体を強く揺さぶる。

「ちょっと! 何やってるの!? 起きなさいよ! ねえ! ねえ!」

彼女の眼には炭化した健二の半身が見えていないのか。ただただ声をかけ続ける。ネギや他の者も健二へ声をかけ続ける中、一歩引いた場所で顔を青ざめさせていた千雨が、見つけた。

「お、おい……そいつの、左胸!」

千雨の指の先。本来なら心臓がなければいけない場所には、その先が見通せる一つの穴が開いていた。これを見れば、誰だって分かる。健二は、”死んだ”のだ。

「いや、いやよ。そん、なの……いやああっぁぁああぁあああああ!!」

祭りの夜。歓声に包まれるはずの空に、明日菜の絶叫が響き渡った。



健二が死んだ。その事実を突き付けられたネギ達が一度落ち着くのに三十分ほどの時間がかかった。落ち着いたとはいっても声を出して泣いたり錯乱しなくなっただけで、雰囲気は葬式のそれよりなお重い。

「こいつがこうなった理由だが、恐らくは千の雷を受けたせいだろう。お前たちも見たな? あの紫電を」

エヴァンジェリンが健二の死について話すが、ネギ達の頭にそれがちゃんと入っているかあやしいものだ。しかし、エヴァンジェリンはそんな状態でも聞き逃せない様な真実を口にした。

「そして、その千の雷を放ったのは恐らくコイツ自身だ」

「どういう、こと?」

消え入りそうな声で明日菜が尋ねる。エヴァンジェリンは一つ息をついてその理由を語った。

「千の雷は広域殲滅魔法。それ故に魔法は術者から離れた場所に発動しなければならない。そうでなければ術者も巻き添えだからな」

それはおかしい。だって、健二とその敵だったと思われる人物はそろって雷を受けたはずだ。エヴァンジェリンの言う通りなら、第三者が健二達に放ったことになる。

「だが、例外がある。それがコイツだ。以前、チャチャゼロが戯れに千の雷を撃たせたことがあった。魔法の腕が坊や以下のコイツがそんなことをした所で魔法は発動しないはずだった。だが、何故か千の雷は発動した。術者であるコイツを巻き込む様にしてその場でな」

では、何か? 健二はこうなると分かっていて、千の雷を放ったというのだろうか。エヴァンジェリンの言葉からその可能性が高いことは分かる。だが、それでは健二が自ら命を絶ったようではないか。そんなこと、ネギ達には認められるはずがなかった。

「お前たちの考えは尤もだ。だが、ここに全ての疑問の答えがある」

エヴァンジェリンの横には超が使っていたロボットの中の多脚戦車型が置かれていた。それに茶々丸が右手の人差指に内蔵された端子を接続している。

「この中には恐らく、健二の戦闘の様子が映されている。全てを見る勇気が、お前達にはあるか?」

その場にいる誰一人として、逃げる事は無かった。エヴァンジェリンは茶々丸に指示を出し、映像が壁へと映し出された。





赤青は対峙する。距離はおよそ十メートル。英雄の肉体を持つ男と、魔法によって身体能力を強化した健二ならば一歩で詰められる距離だ。両者は互いに槍と双剣を構え、睨みあう。

「そっちからはこねえか。まあ当然っちゃ当然だな」

健二がエミヤの戦闘法を模倣していると思っている男、ランサーは健二が基本的に自分から攻めてくる事は無いと判断した。

「だからこっちから、行ってやるよ!」

右肩、左わき腹、右太ももを習った三連続の突き。ランサーは手加減しているのか健二はその軌道を完全に見切る事ができた。そして、見切る事が出来たのなら防げないはずがない。

「フッ!」

陰陽の夫婦剣を縦横無尽に走らせ槍をはじき返す。そして、お返しと言わんばかりに莫耶を右薙ぎに繰り出した。しかし、そんな見え見えの攻撃が当たるわけもなく。ランサーは大きく後ろに飛ぶことでそれをかわした。
ランサーが距離をとったのをいいことに健二はすぐさま弓矢へと武器を換装。出来得る限りの速射と連射で矢をランサーへと射る。

「効かねえって分かってんだろうが!」

ランサーは矢避けの加護、それもランクにしてBを保持している。射手を視界に収めた状況でならば、その加護を越える何かを持ってしなければ彼に矢が届く事は無い。エミヤ本人ならばスキル、千里眼Cの命中補正で可能性が無くはないのかもしれないが、少なくとも健二には普通の矢をランサーに充てる方法は持ちあわせていない。

「だから、無駄だってのが分かんねえのか!」

そもそも健二が矢を射るのは当てるためではない。ランサーが短気なのではとこれまでの会話から何となく感じていた健二は苛立たせることによって少しでも相手の判断能力をそごうとしていたのだ。そして、その企みは成功し、相手は怒って此方へと特攻をしかけてきた。最初の突きよりかは幾分か早いが、まだ見切れる。健二は弓を消して新しく武器、”紅い二槍”を投影し迎え撃った。

「な、にぃ!」

健二が双剣で来ると思い込んでいたランサーは予定よりも早く己の槍が弾かれたことに一瞬動揺する。それを見逃さず健二はランサーの胸へと突きを放った。

「ちっ、防がれたか」

健二の胸への一撃は一切感知出来ない速度で突然現れたランサーの槍によって防がれた。おそらく、今の防御は命の危機を感じての咄嗟の行動であったはず。ならば、限りなく本気に近い動きだったはずだ。やはり、本気を出されては見切れない。また一つ、健二は自分の予測を確かなものにした。

「てめぇ、舐めたことしてくれるじゃねえか!」

槍を構えるランサーが発する闘気が高まっていく。戦いはそう長い時間かからずに終わる。それが健二が描く筋書きだ。だが、それでも戦いは始まったばかり。健二は一人、強大過ぎる敵に立ち向かう。



紅い三本の槍が縦横無尽に振り回される。二人の槍使いは己がもつ技術を駆使し、相手の急所を貫かんとする。しかし、互いに一つも攻撃を受けることなく、既に百に迫る攻守のやりとりが成されていた。

「お、らぁ!」

「ッグ!?」

一際大きいモーションで放たれた薙ぎ払いを健二は右に持つゲイ・ボルクで受け止める。槍を通して伝わる衝撃は、身体強化を使っているにも関わらず健二の骨を軋ませる。

「こなくそっ」

一端距離を置きたいがために放った苦し紛れの突き。だが、そんなものをランサーが恐れる筈もなく。地面を這う様にして槍を掻い潜ったランサーに、

「飛べ!」

容赦無い蹴りを水月に叩き込まれた。痛みと同時に、耐えがたい苦しさが健二に襲いかかる。だが、それでも倒れたり咳き込む様な無様な真似はせず、なんとか体勢を立て直しランサーへとガンを飛ばす。
しかし、ランサーにはそれが滑稽に見えたのかニヤニヤと健二を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

「槍を使いだしたときには驚いたが、所詮はこの程度。俺に敵うはずはねぇよなぁ。ま、これ以上があるってんなら話は変わるがな」

「…………」

見透かされている。健二はとうに全力を出している事を。すくなくとも、身体強化はこれ以降のことを考えると出力を上げられない。ならば魔術方面で、と普通なら考えるだろうがそうはいかない。真名解放どころか武器の換装さえ、ランサーの早さの前では行う暇がない。

「頑張ったほうなんじゃねーの? ただの人にしては」

その言葉には思うところがあった。その肉体さえ神に用意してもらったお前が言うなと、そう思った。だが、健二とてその戦闘技能の殆どは神に与えられたエミヤの力を使って得たものだ。身体こそ自分で鍛えてはきたものの、エミヤの力がもたらしたものからすれば微々たるものだろう。所詮、健二もランサーも、同じ穴の狢なのだ。

「無駄口が、多いじゃないか」

「あん?」

「俺をさっさと殺せない様なテメェが、英雄”クー・フーリン”を名乗るなんて片腹痛いって言ってんだよ」

ブチリ、と健二の耳に何かが切れる音が聞こえた気がした。よく見てみれば、ランサーの額には青筋が浮び、顔は真っ赤になっている。原作でも、ランサーが激しい怒りを感じていたことはあったが、その時のグラフィックに比べると、目の前の男の顔は何とも無様に見える。

「調子に乗りやがって! お前はもう殺す!」

「やってみな、三下」

このやり取りの後は何ともあっけないものだった。本気、真の英雄としての能力をもって襲いかかるランサーの動きを健二はセンリガンを用いても見切る事は出来ず。折角、高畑相手に行った見えない攻撃に対する対処法も意味を無くした。

「けっ、雑魚が」

「が、……はっ!」

そうなってしまえば、後はただただ嬲られるだけだ。腹部を貫かれ、足を切り裂かれ、腕は骨を粉砕された。他にも大小さまざまな傷を負い、傍から見れば襤褸雑巾に見えなくもない程に、健二は痛めつけられた。それでも意識が残っているのは、チャチャゼロの修行のたまものだろう。

「く……っぁ」

「まだ立つか。いいぜ、終わらせてやるよ」

それでも、健二は立ち上がる。まだ、終われないのだ。彼の思い描く筋書き通りに事が終わるまで、絶対に。

「アーチャーは突き穿つ死翔の槍は防いだが、こっちは無理だろう」

ランサーが持つゲイ・ボルクから底冷えする様な寒気が発せられ始める。間違いないランサーは刺し穿つ死棘の槍を発動しようとしている。ゲイ・ボルクの持つ因果の逆転の力。その能力を前面に押し出したこの技は、ゲイ・ボルクを越える神秘を持って防御するか、その因果逆転の力を覆すほどの強運を用いるしかない。

「確かに、俺には防ぐ手立てがないかもな」

自分にアレを避け得る程の幸運があると最初から思っていない健二は、別段恐れることもなく発動を今か今かと待つ槍を見据える。

「だが、最後まで足掻かせてもらおう」

――I am the bone of my sword.

「無駄なんだよっ!」

――刺し穿つ死棘の槍!(ゲイ・ボルク)

――熾天覆う七つの円環!(ロー・アイアス)

花の盾と、必殺の槍が両者の間で衝突した。





ここで、何故健二がロー・アイアスを使ったのかを語っておこう。ロー・アイアスとはトロイアの英雄、ヘクトルの投げ槍を唯一防いだ盾であり、その伝承故に投擲武具には絶対の防御力を誇る盾となった。
だが、ここで注目してほしいのは当時”防ぐことのできない攻撃を防いだ盾”と言うところだ。当時防御不可であった攻撃を防いだアイアスの盾。宝具となった今では投擲に対する部分にその力が集約してしまっているが、確かに、アイアスは防御不可の攻撃に対する力も秘めているのだ。
そして、ゲイ・ボルクは必殺にして必中。その力の前では防御など無意味。即ち防御不可の一撃である。それ故に、

「なん、だとぉ!?」

「ぐ、おぉお!」

本来なら盾など構えた所でそれをかわして心臓を貫くはずの槍。それがしっかりと、アイアスによって受け止められる。だが、だからといってゲイ・ボルクを防げるわけではない。その証拠に盾を形作る花弁は次々とその姿を散らしていく。最後の一枚、健二は原作でのエミヤ同様渾身の魔力を注ぎ込むが、それも無駄だった。

「っ!?」

最後の花弁は無残に散り、槍は健二の心臓を貫いた。





最後の花弁が散った時、健二はここが正念場だと歯を食いしばった。今から、自分は心臓を貫かれる。普通なら、痛みを感じる前にショック死してもおかしくはない。だが、健二は耐えねばならない。そのために、準備もした。
エヴァンジェリンに付き合ってもらった最後の修行、アレは固有結界を故意的に暴走させ、体を貫かれることになれる修業だったのだから。数多の剣が内側から体を突き破る痛み。そんなものに延々と耐え続けたのだ。たかが槍一本がこの身を貫くのを耐えられぬはずがない。
健二は迫りくる槍を、覚悟を持って迎え入れた。

「終わったな」

健二の体から槍を引き抜き血を払う。最後の抵抗がまさかアイアスだとはランサーも思わなかったが、問題なく終了した。これで、邪魔ものは排除でき自分がこの世界の主役となれる。これから自分の手で作り上げていく未来を想像しながらランサーはその場を後にしようと踵を返した――が。

「あぁ?」

未だ手に持ったままの槍が何かに引っ張られ、足を止めた。一体何だとランサーが振り返れば、そこには槍の柄尻を握り締める健二がいた。

「なっ、生きてやがったのか!?」

そんなはずはない、確かに心臓を貫いたはずだとランサーは自問自答する。だが、それは失敗だった。健二は未だ動いている。その事実だけを認めすぐさまこの場を離れれば彼はまだ助かったかもしれない。しかし、それはIFの話だ。少なくとも、完全に健二の筋書き通りの道を進んだこの世界では、ランサーは助からない。

「なあ、知ってるか……」

ヒューヒュー、というおかしな呼吸音が混じっているというのに、健二の声ははっきりとランサーの耳に届いている。

「型月の世界の対・抗魔力と、この世界のそれは、全く別物なんだ」

「っ!! 離せ! 離しやがれ!」

ようやく、健二が発する不穏な気配に気づいたのかランサーは健二の体を蹴りつけて己の槍から手を離させようとする。自身が槍から手を離せばいいというのに、そんなことに気付けないほど今のランサーに余裕は無い。

「お前は、神に、ランサーにしてくれと言ったんだろう? それなら……」

「離せえええぇぇええぇええぇえ!!」

――この世界での抗魔力は、全くの零だ

「一緒に地獄に、落ちようぜ」

「あああぁぁぁああぁああぁあぁあ!!」

――解放、千の雷!!

健二の全魔力を吸いつくして発動した紫電は、ランサーと健二を巻き込み天高くその姿を立ち上らせた。







「…………」

健二は白く輝く光の中を漂っていた。こんな場所にいては眩しい、と微かに思ったがそんなことはなく。全身を、何か温かいものに包まれているようで非常に気分が良かった。

「…………誰だ?」

いくばくかの時間、光の中を漂っていると、不意に二つの気配が現れた。一つは巨大にして神聖、もう一つは、どこか親近感を覚える気配だ。

「こっち、か?」

ただ漂っていただけの健二は、二つの気配の元へと向かった。



「この辺りだと思うんだが……」

あれからしばらく健二は移動を続けた。そして、ようやく気配を感じた辺りに辿り着いたのだが、ざっと辺りを見渡したところ、人影は見当たらない。だが、気配は確かにここにあった。

「さて、一体どういうことだ?」

気配はすれども姿は見えず。まるで漫画だ、と健二は思った。ただ、一つ漫画との違いを上げるなら。正真正銘、気配の主の姿が存在しないことだ。

「ふむ、見えんか。ちょっと待っておれ」

「この声……」

突如聞こえた声は、健二にとって聞き覚えのあるものだった。忘れようはずもない。自分に、エミヤの力と容姿を与え、ネギま!の世界へと送り込んだ張本人。

「神、か?」

「そうじゃよ。しばらくじゃな」

かつて見たのと変わらぬ姿の神が、そこにいた。



「さて、まずはお前さんに謝る必要があるか」

「それは、何に対してだ?」

この健二の質問は、割と本気だった。目の前にいる神が、一体に何に対して謝るというのか。健二にはいまいち、想像できなかった。

「全て、じゃよ。突然別の世界へやったこともそうじゃし、あの男を送ってしまったことも、じゃ」

「…………」

前者については健二はそれほど気にしてはいない。それどころか、逆に感謝しているくらいだ。そして、あの男……ランサーの事だろうが、それに関しても健二は特に何かを言うつもりは無かった。なぜなら、もうすべては終わったのだから。

「いやいや、このままでは終わらんのじゃよ」

「……どういうことだ?」

「さぁ、出てきなさい」

健二の前に座する神。その隣に、未だ姿を現していなかった。もう一つの気配が、姿を現した。







「健二……! 健二!」

健二の戦いの模様、そのすべてを見た彼女達は再び眼から溢れんばかりの涙を流していた。最初は、言葉どころか涙すら出なかった。心臓を貫かれながらも体を動かし、敵を道連れにする。壮絶、としか言いようがない。
何故、健二がそこまでしてあの青い男を討ったのかは誰も知らない。だが、超との戦いより優先し、また、命をかける程の戦いが、無駄であった筈がない。これだけの戦いを行ったからには、それに見合う理由があったはずなのだ。

「健二! 健二ィ!」

だからこそ、彼女達は涙する。超と言う敵が自分たちにもいたとはいえ、健二を一人にしてしまったことを。健二が自分たちを頼ってくれなかったことのふがいなさを悔いて。

「うっ、あぁぁ」

涙を流すものの中でも、明日菜のそれは群を抜いていた。それも無理はないだろう。明日菜が一番健二と付き合いが長く、また一番親しかったのだ。明日菜は最早骸と化した健二にすがりつき、恥も外聞もなく顔を歪め、涙を流す。

(…………だ)

今の明日菜はすべてを悲しみに染められている。だからこそ、気付かない。彼女に呼びかける声に。
まだ、道は繋がらない。







「おまえ、は!?」

健二は現れた人物に驚きを隠せなかった。長身に白い髪、褐色の肌。間違えるはずがない。この男はエミヤ、そして宮内健二(じぶん)の姿だ。

「はじめまして、か? こうして面として向き合うと妙な気分だな。お前は俺を知った筈だし、俺もお前のことを知っている」

ここまで聞けば、目の前の男が誰であるかを察するのは容易だ。健二は自分でも意識せず、息をのんだ。

「それでも、一応自己紹介しておこうか。俺の名前は……」

「「宮内健二」」

二人の声が、意図せず重なった。

「その通り。お前に体を奪われた、あの世界の宮内健二だ」

今まで、少なからず考えていたことを明確に口にされ、健二は心臓を鷲掴みされたかのような気分に陥った。

「この者をここに呼んだのは、どうしてもお前に話したいことがあるからだそうだ」

ドクン、と今度は心臓が跳ね上がった気がした。自分が体を奪ったことで、目の前の男は一体どうなった? 考えるまでもない。その人生が、終わってしまったのだ。健二は今、己の罪と対峙している。

「宮内健二。俺は、お前を……」

男は、目の前にいる自分の体を奪った男を見据え、自分の心の中をもう一度整理していた。浮かび上がるのは自分の体を奪ったこの男がこれまでおこなってきたことだ。
合コンに始まり裏の事情へと踏み込むこととなった。敵に囚われた修学旅行。突如現れた青い男。付きつけられた宣告。そして、学園祭が始まり、最後の戦いへ。
どれもこれも、見ていたことだ。彼の中で、何もできずとも確かに見ていた。そして、その中でも一際強く彼の中に残る一人の少女。
既に自分は答えを出している。後はそれを告げるだけ。男……いや、”宮内健二”はもう一度少女の顔を思い浮かべ、決意を固め、それを口にした。

「宮内健二。俺は、お前を許す」

「……え?」

「聞こえなかったのか? 許す、と言ったんだ。だから、お前は戻れ。彼女の元に」

許す。その言葉にも健二は固まったがそれ以上に聞き逃せない言葉があった。”戻れ”と、一体どう意味だというのか。

「どういう、ことだ」

「その身体の中には、俺とお前、二つの魂があった。だが、人が死んだ時消える魂は一つ。たまにお前の様な例外もあるらしいが、基本的にはそれが大原則だ。つまり、俺が消えてやるからお前は(そこ)にいろ」

「どう、して! どうしてなんだ!?」

健二は人生を奪った。だというのに、目の前のコイツはそれを許すどころか、自分に代わって消滅するというのだ。自分が言うのもなんだが、正気の沙汰とは思えない。

「彼女が……」

「かの、じょ?」

「そうだ。彼女は今、悲しんでる。その悲しみを止めてやれるのは、お前だけだ」

男は健二の全てを見てきた。そして、健二と同じように一人の少女に心を奪われたのだ。何も不思議なことではない。男と健二は平行存在。特に、この二人は半ば融合させられる程に似通っていたのだ。故に、健二が惚れた相手に男が惚れるのは、むしろ当然と言っていい。

「俺だけ……本当に、そうなのか?」

今明日菜を悲しませている元凶足る自分が、彼女の悲しみを止める資格があるのかと、健二はマイナス方向へと思考が動く。だが、それを男は一括した。

「お前じゃなきゃ、駄目なんだよ! 俺じゃなくて、お前じゃなきゃ!」

健二と共に明日菜を見てきた彼は気付いていた。彼女を真に笑顔に出来るのは、自分では無く目の前の男なのだと。戦いを挑むこともなく自覚してしまった男としての敗北。だが、それでも男は明日菜のために己が消滅することを受け入れた。それは、明日菜のために命をかけた宮内健二(こいがたき)への、最後のわるあがきだったのかもしれない。

「分かった。俺は、戻る。明日菜の元へ」

健二とて馬鹿では無い。男が自分と同じように明日菜に惚れているのだと理解している。そして、惚れた女のためにという男の願いを、健二は無下にすることはできない。

「だが、俺はそうすればいい?」

「肉体は、お前が放った魔法の所為で半分が黒こげだ。だが、お前は知っているだろう? そんな状況からでも、復活できるような奇跡のアイテムを」

確かに、一つ心当たりがある。だが、アレは使用どころか、投影すらできないはずだ。本当にそれで、と健二が疑心暗鬼になるのも仕方ない事だろう。

「大丈夫。確かに、お前一人じゃ無理だ。だが、二人の力があれば……」

「……そういう、ことか」

さすが、といえばいいのだろうか。男が核心を話していないにも関わらず、健二は理解したようだ。

「おい」

「何だ?」

「……もう、泣かせるなよ?」

「ああ、当然だ」

その身を光の粒子へと変えながら、男は拳を健二へと突き出す。健二は笑みを浮かべて自分の拳を突き出されたそれへとぶつけた。

「それじゃあ、頼む」

「うむ、わかっておるよ」

男は完全に光と成り、静かにその姿を消した。





(…………だ)

「ふぇ?」

ようやく、涙が落ち着いてきた所で明日菜は誰かの声を耳にした。聞き覚えのある、されど何処か違和感を感じる不思議な声だ。

(あき……な。仮……する、んだ)

「誰? 誰なの?」

突然声を上げた明日菜に周囲は驚くが、明日菜はそんなこと一切気にせずに声を聞きとることだけに集中する。何故か、そうしなければいけない気がした。

(あきらめるな。アイツは、まだそこにいる)

「アイツ? アイツって……」

明日菜は慌てて、健二の亡骸を抱き上げる。そして、誰のものかも分からぬ声に大声で問うた。

「どうすれば……どうすればいいの!?」

(仮契約を。そうすれば、道は繋がる)

「仮、契約!」

それを聞いてからの明日菜の行動は早かった。戸惑うネギ達をよそにカモへ契約の魔法陣を書くように指示する。一体何を、と思ったカモも明日菜の有無を言わさぬ迫力に自己ベストを更新するほどの速さで陣を書きあげた。そして、明日菜は陣の中に健二と共に入った。

「健二……まだ、アンタの口から聞いてないし、私も返事をしてないのよ。だから……」

――帰ってきなさい!

明日菜と健二の唇が重なり、辺りを光が包み込みこんだ。そして、現れたのは青い装飾の施された黄金の鞘。その名を……





「これは!?」

突如、健二の元へ降り注いだ光。健二にはそれに、覚えがあった。

「これは、明日菜の魔力!?」

「彼だよ」

先ほどから殆ど口を開かなかった神が、ここにきて再び口を開いた。

「彼が、最後に道を繋げてくれたんだ。さぁ、行きなさい」

「ああ」

これで準備は整った。健二の脳裏に、先ほどまではなかったはずの設計図が浮かび上がる。

――投影、開始!

投影する宝具、その名は……



――全て遠き理想郷(アヴァロン)!!



黄金の光に包まれる健二と明日菜を、男は一人見ていた。既に消える寸前である男は、あのエヴァンジェリンですら気づくことは出来ない。

(これで、よかったんだ)

鞘が出現した時点で健二が蘇る事は確定した。これで、何も心配することは無い。男は最後にもう一度明日菜に眼をやり……

(幸せに、な)

今度こそ、この世から完全に消え去った。







学園祭最終日から幾らか日が経ち、麻帆良学園は夏休みに突入していた。ネギ・パーティの面々は八月に来る魔法世界訪問に向け、修行に宿題にと、忙しい日々を送っている。
そんな中、明日菜と健二は互いに時間を作り、麻帆良の街を二人で歩いていた。

「…………」

「…………」

ただ、二人の間に会話はなく。近いけど遠い、という何とも言えない距離を保ったまま歩き続けていた。そして、それを打ち破ったのは健二だった。

「明日菜」

「な、なに?」

眼に見えてうろたえる明日菜に、健二は思わず笑みを浮かべる。このまま、彼女を眺めていたい気もするが、今日は大事なことを伝えなければいけない、と。健二は表情を改め明日菜と向き合った。

「明日菜、俺は……宮内健二は、神楽坂明日菜を愛している」

「う、え、あの……その……」

明日菜とて、これを予想していなかったわけではない。自分を好いている男から、大事な話があると言われれば、明日菜とてさすがに気付く。だが、予想してたからといって冷静に受け入れられるかは別問題だ。

「えっと、その」

「無理に急がなくていいさ。今日は、自分の想いを伝えたかっただけだから」

「よくない! でも、その、ちょっとだけ待って。絶対に、返事はするから」

自分とて思い人にフラれたばかりだというのに、ちゃんと此方の事を考えていてくれる。その事実に、健二は明日菜に惚れたことが間違いではないと、今一度再認識した。だが、ここでふと悪戯を思いついた。少しぐらい、いいか。と健二はその悪戯をそのまま口にする。

「分かった。明日菜の返事を待つよ。だけど、急いだ方がいいかもよ?」

「え? どういうこと?」

「あんまり待たせると他の誰かに俺をとられるかも、ってことさ」

「ちょっ! そんなのダメよ!」

健二はその場を駆けだし、明日菜もそれを追った。ここに、第三者がいたらこういっただろう。仲のいいカップルだ、と。





余談だが、健二が昨年度のバレンタインで貰ったチョコの数は本命4、義理6の計10個。最後に健二が言った悪戯は、あながち間違いではないのかもしれない。

                                        おわり 
 

 
後書き
今作品は私が本格的に書いた最初の二次創作になります(昔に少しだけモバゲーで書いてた経験あり)。
しかし移転に際し、誤字確認ついでに読み返してみると非常に恥ずかしい思いにもなりました。
とにかく投げっぱなしの部分が多い。複数に分かれて展開されている場面をうまく書き分けれない。
そんな感じでしょうか。しかし、ちゃんと完結まで持っていったことだけは、自分を褒めてやりたいです。
にじふぁんから追いかけてきてくれた方、移転後、新たに読者になっていただいた方。
最後まで今作品を読んでくださり、ありがとうございました。

最後にお知らせですが、もう一つ連載中のNARUTO小説の新話は10月に入ってからになります。
そして、私がにじふぁんで連載していたアーチャーが憑依も折を見てのんびり移転作業をしていこうと思います。 
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