ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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GGO編ーファントム・バレット編ー
60.死の正体
前書き
第60話投稿!!!
死銃との全面対決!!
その実力に圧倒されるシュウとキリト。
そして記憶の断片が蘇る。
外の空気が肌に突き刺さるような寒さだがそんなことを気にしていられるような心の余裕はなかった。集也くんとお兄ちゃんが戦ってるのにそんなこと気にしてられない。
レイナさんのバイクの後ろに乗り、走らせること十五分くらい。スピード違反なんか気にせずに夜の街を駆け抜ける。
少しでも、一秒でも早くそばに行きたい。必ず行くから待ってて。
この世界に存在している剣は数少ないとシノンから聞いていた。だからこそ驚きを隠せない。《光剣》と《暗剣》は剣として斬るということができるが、もう一人の死銃。奴がキリトを刺したあの武器。SAOにも存在した刺剣(エストック)だ。
すると俺の前のボロマントが動く。それに反応し左手に持つデザートイーグルの銃口をボロマントへと向ける。
「テメェの相手は俺だ」
深く被ったフードの奥で、しゅうしゅうと掠れた笑いを漏らす。続けて切れ切れの声が鼓膜を振動させる。
「貴様では、俺を倒せん。無論、《黒の剣士》も、やつを、倒すことなど、出来ない」
前兆動作もなく奴は動き出した。今までボロマントの中に隠れていた左手から先ほどの同じアサルトライフルが姿を現し、無数の弾丸が空気を切り裂き襲いかかる。
後方へと飛び退き、右手に持っていた暗剣《シンゲツ》の出現させ可能なかぎりそれを弾き落とす。
すると奴は、もう一人の死銃と話すキリトの背後に銃口を向け躊躇なく放つ。
「キリト!!」
放たれた弾丸はキリトを貫く.....かと思われたがそれを知っていたように横へと飛び退き回避。
その瞬間に左手に持つデザートイーグルのトリガーに指をかける。《着弾予測円》の出現と同時に力いっぱい引き絞る。『砂漠の鷲』はやつのアサルトライフルを中央から狩りとる。
「言っただろ。テメェの相手は俺って!」
フードの奥から睨む赤い二つの光が見える。
「お前に、ここまでの、射撃スキルがあるとは、予想外だな」
嫌みのようなその口調。
「シュウ、助かった」
キリトがこちらへと来る。そして奥から刺剣を右手にぶら下げたボロマントを身に纏い、フードの奥から赤い二つの光の殺人者が姿を現す。そしてもう一人の殺人者の横で立ち止まる。
「《黒の剣士》は、オレの獲物だ。手出しをするな、リューゲ」
「貴様が、呑気の雑談など、しているからだ」
しゅうしゅう。二つの軋むような呼吸音と切れ切れの声が耳に付く。
「《黒の剣士》、それに《槍剣使い》よ。もう、理解している、だろう。オレと、お前らの、違いを。オレは、本物の、殺人者(レッド)だが、お前らは、違う。お前は、恐怖に駆けられて、ただ生き残るために、殺しただけだ。その意味を、かんがえもせず、何もかもを、忘れようとした、卑怯者だ」
「「.........!!」」
言葉を失った。
(こいつの言うとおりかもしれない。俺は自分の殺人を忘れたことはない。けど忘れようとしたことは何度もある)
ぐにゃりと歪みかけた視界を、全精神力を振り絞って立て直す。
(結局俺は.......)
「.....そうかもしれない」
隣の少年が低い声で応じる。
「だが、お前らはもう殺人者なんかじゃない。お前らがどうやって《ゼクシード》と《薄塩たらこ》、そして《ペイルライダー》ともしかしたらもう一人を殺したのかは、もう見当がついている。あの黒い拳銃の力でも、ましてやお前ら自身の能力でもない」
「ほう?なら、なんだ。言ってみろ」
キリトは精一杯の力で真相を言葉にする。
「......お前はその光迷彩マントを使い、総督府の端末でBoB出場者の住所を調べた。部屋にあらかじめ共犯者を侵入させ、銃撃にタイミングを合わせて薬品を注入し、心不全による変死を演出した。これが事実だ」
「「...........」」
二人の殺人者は沈黙する。
キリトは、さらに口を動かす。
「お前らは知らないかもしれないが、総務省には、全SAOプレイヤーの、キャラネームと本名の照合データがある。お前の昔の名前が判れば、今の本名も、住所も、お前らが行った犯罪の手口も、何もかも明らかになる。もう終わりにしろ。ログアウトして、最寄りの警察に自首するんだな」
尚も沈黙。
RECマークが点滅させる中継カメラが、焦れたように高度を上げる。キリトの言葉に肯定すれば剣を交える意味もなくなる。
だがーー。
数秒後、フードの下から漏れたのは、これまでと何ら変わらないしゅうしゅうという嗤い声だった。
「......なるほど、面白い、想像だ。でも、惜しいな、《黒の剣士》。お前は、オレを、止められない。なぜなら、お前は、オレの昔の名前を、絶対に思い出せない、からだ」
「ク、ク。お前は、自分がそれを忘れている理由さえ、忘れている。いいか......あの戦いが終わり、ポータルで牢獄に送られる前に、オレはお前に名乗ろうとした。だが、お前はこう言った。『名前なんか、知りたくないし、知る意味もない。あんたと会うことは、もう二度とないんだから』と」
「ーー!!」
言葉を失うキリトに、嘲笑うように死銃が囁きかけた。
「お前は、オレの名前を、知らない。だから、思い出せない。お前は、何もできない。ここでオレに倒され、無様に転がってーーオレがあの女を殺すのを、ただ見てること以外には.......何も、できない!!」
空気を斬る音。薄闇に煌めく銀色の円弧が唐突な動きで、刺剣が突き出される。
光剣がそれを狙撃する。
ぶんっ、とエネルギーの刃が唸り、青白いプラズマが食い込む。
それに合わせて動こうとする死銃(リューゲ)に迷いを一時的に振り切って漆黒の刃で空を切り裂く。
黒いプラズマが弾ける。奴はさっき俺が破壊したアサルトライフルで漆黒の刃を防いだ。この状況でのやつとの距離は五十センチ足らず。
すると強烈なまでの殺意を俺の神経を捉える。逃げようと後方に飛び退こうとするがその前にボロマントの中に差し込まれていた右手から火花が飛び散る。
火花から放たれた仮想の鉄の塊は、俺の体を貫く。血のような赤いライトエフェクトが空へと飛び散った。
(ーーキリト、シュウ!)
声に出せない絶叫と、トリガーを引こうとするがそれをぐっと堪える。
約七百メートル離れた戦場では、黒衣の光剣使いと暗剣使いは、身体中からダメージエフェクトの光を零しながら吹き飛ばされたところだ。キリトが戦ってる死銃の剣さばきは、剣以外の武器に触れたことのない私の眼からは凄まじいものだった。だが、それ以上にシュウが戦っている死銃の銃の使い方はおかしいといってもいいぐらい凄まじいものだった。幸い二人はDEADタグを抱えることなく砂漠にまだ立っている。
しかし二人の死銃は、亡霊のようにマントをなびかせながら間合いを詰めていく。自動制御の中継カメラが、決着を予感してか次々と数を増やす。
へカートのスコープさえ無事なら、狙撃で二人を支援できるのだが、この距離を肉眼では予測円を収束できない。闇雲に撃てば、最悪二人に当たってしまう。
(がんばれ。頑張って、キリト、シュウ)
現実の自分に迫る危険も忘れ、岩山の上で膝立ちになったまま、片手にへカートのトリガーを握り締めたまま念じる。
あの二人は、伝説のデスゲーム《ソードアート・オンライン》の中で、自分や他の誰かを守るためとはいえ人を殺した。その経験は、詩乃の背負った過去に驚くほどよく似ている。
キリトとシュウは今、自分の言葉を行動に変えようとしている。SAO世界の闇を引きずる死銃という名の犯罪者を、自分たちの手で止めようとしている。
それができるのは、あの二人が強いからではない。強くあろうとしているからだ。自分の弱さを受け入れ、悩み、苦しみ、しかしそれでもなお前を向こうとする人間だからだ。強さというのは多分ーー結果ではなく、何か目指そうとする過程そのものなのだ。
(今すぐ、あなたたちと話したい。私の気づいたこと、感じたものを、あなたたちに伝えたい)
何か、私にできることがまだなにかないか。岩山から降り、接近するのは逆効果だ。
黒星を向けられた瞬間、キリトは動けなくなる。といって、スコープなしでの狙撃はただのギャンブルだ。サイドアームのMP7では、射程がまったく足りない。他に.....他に何か、支援する手段がないのか.......
「..........!」
瞬間、ぴくりと全身を震わせた。
ある。たった一つ、今の自分がアクティブに行える《攻撃》が。どこまで効果があるかは判らないけどーーでも、やってみる価値はある。
大きく息を吸い、ぐっと奥歯を噛み締めて、彼方の戦場を見据えた。
「ありがとうございます、レイナさん!」
駐車場にバイクが止まるや否やヘルメットを脱ぎ、走ってエントランスを目指す。大きなエントランスがある。自動ドアは電源が落ち開かず、その脇の夜間面会口のガラス戸を迷わず開ける。
面会受付カウンターにいる女性看護師に集也くんがいる部屋番号を告げ、学生証を提示する。菊岡さんが話を通していたので面会者パスをもらい走る。
後ろから、病院では走らないでください、という声を無視し、階段を駆け上がり七階の七〇二五室へと全力でダッシュする。
.......二五室のプレートにパスカードを押し当て、赤のインジケータが青に変わった瞬間、ドアを引き開ける。
個室のある二つのベッド。そこにモニター機械と接続されたコードが幾つも枝分かれして、ベッドに横たわる二人の少年の、剥き出しの胸に貼り付けられている。少年たちの頭には、見慣れたシルバーの円冠、アミュスフィア。
個室には、白衣のナースキャップ。三つ編みにまとめられた髪と、洒落たデザインの眼鏡の看護師と驚きの表情をしているアスナさんが四十インチ程の薄型モニタを凝視している。
パネルの中で、全身黒い服に包み、長い髪を風でなびかせる小柄なアバター。青紫色の刃を右手に構える少女の体から真紅のダメージエフェクトが絶え間なく零れる。その小さなフォトンで、プレイヤー名の表示。【Kirito】。
「お兄ちゃん!」
思わず声が出てしまった。
するとパネル内の画面がその光景を変える。そこには、イグドラシル・シティのモニターで見た少年がそこにはいた。
(よかった。まだ、集也くんは生きてる)
ほっと胸を撫で下ろした瞬間だった。死銃と呼ばれているプレイヤーとシュウが激突。その距離五十センチ弱の距離まで詰める。するとバックステップで回避しようとした瞬間に真紅のダメージエフェクトが飛び散った。
(ーー集也くん!!)
悲鳴を口に手を押さえ押しとどめる。
すぐそばのベッドに横たわる集也くんの顔を見る。額には汗が滲み、表情も少し苦しそうだ。
「......フルダイブ前に多めに水分を取ってもらってるけど......もう四時間以上経つし、こんなに汗をかくと脱水の危険があるわ。一度ログアウトしてもらうことは.....できないのよね?」
看護師の言葉に、アスナさんは唇を噛みながら頷く。
「ここで何を言ってもキリトくんとシュウくんには聞こえませんし......そもそもPvP大会中ですから、ログアウト機能が有効かどうか.....」
ALOの大会でも大会中に自動ログアウトは不可能。
「.....一応、アミュスフィアが脳内血流を監視してて、危険なほど脱水する前に自動カットオフするはずなんですが.......」
アスナさんがそう付け加えると、看護師は軽く頷く。
「解りました。もう少し様子を見るわ。まさか患者さんでもないのに、輸液で水分補給するわけにもいかないし」
「そう......ですね」
沈黙してしまう。その中、遅れてレイナさんが部屋入ってくる。だが、状況を即座に察したのかただ液晶パネルを見続けてるだけだ。
お兄ちゃんと集也くんは向こうの世界で戦っている。隣にいるのに。手が届く距離にいるのにそこに彼らはいない。
キリトとシュウは今、剣士としての自分を賭けて戦っている。それは私が知らないSAO時代のことだ。
(あたしに出来ること......)
「シュウなら大丈夫だよ」
中継を見続けていたレイナさんが不意に呟く。
「シュウはどんなことがあっても負けない。例えそれがチート使いでも凶器を持った奴だってシュウは負けないよ」
レイナさんが今まで中継を見続けていたのは、シュウ/集也を信じていたから。何があっても集也くんは諦めない。
『ママ、リーファさん、手を』
不意に、アスナさんの携帯端末から小さな声が聞こえた。ユイちゃんだ。
『パパの手を、シュウさんの手を握ってください。アミュスフィアの体感覚インタラプトは、ナーヴギアほど完全ではありません。ママとリーファさんの手の温かさなら、きっと二人に届きます。私の手は、そちらの世界には触れられませんが.....わたしの.....わたしのぶんも......』
言葉の後半は、大きく震えていた。
「ううん.....そんなことない、ユイちゃんの手もきっと届くよ。一緒にパパ......キリトくんとシュウくんを応援しよう」
ベッドに力なく投げ出されたお兄ちゃんの左手に携帯端末を握らせ、その上から両手で包み込むアスナさん。
私もそっと集也くんの右手を両手で包み込む。氷のように冷え切っている。
中継画面を観る。シュウくんはその足でしっかりと立っている。それを観て眼を閉じ、ただ念じた。
(がんばって、集也くん。あたしはいつも傍にいるから。支えるつづけるから)
(俺はこいつを倒すことができるのか)
地面に倒れこみ真っ黒に染まる仮想の空を眺める。HPバーは、クリティカル判定でもしたのか三分の一くらい削られている。その瞬間、赤い幻影が体を突き刺す。横へと回転することでそれを回避し、立ち上がる。
「お前あっち(SAO)の世界よりこっち(GGO)の世界の方が向いてんじゃねぇのか」
切れ切れの声が空気の流れを振動させる。
「それは、俺が一番、思っていることだ」
再び、赤い幻影が伸びる。今度は二つ。漆黒の刃でそれを弾き飛ばす。
こいつの早撃ち技術のその正確さは、この世界でもトップクラスの能力であろう。
(それなら......)
地面を蹴り上げ、一気に距離を詰める。そして片手剣から槍へと変更し、右手から左手に入れ替えようとした瞬間、微かにやつの仮面越しから笑みがこぼれた感覚がした。
「しまっ......」
宙を浮く暗剣を右手で掴み直そうとし、微かに指が触れた一瞬、赤いラインが伸びる。それと同時に目の前の暗剣が砕け散った。
続けて赤いラインが伸びる。だが、暗剣を破壊された今、俺は弾丸を防ぐ手段はない。左手のデザートイーグルで防げばそっちも破壊されかねない。弾丸は俺の胸を貫く。
「ぐはぁっ!!」
胸の激痛とともに再び地面へと倒れこむ。
強い。
こいつは、《死銃》アバターに宿る元《ラフィア・コフィン》の幹部プレイヤーは、あの討伐の時では俺の剣が見えず、苦労もせずにHPを半減させ、戦線を退かせたはずだ。
だが、この男は、俺への復讐心のエネルギーで、技を磨いた。
俺も《ヴォーパル・ストライク》のような単発なら再現はできるが、連続攻撃となると極めて困難だ。そしてやつはもう、大技を繰り出させる隙を一切見せないだろう。
攻撃を回避するも徐々に減少する。ゲージは残り三割を切る。
しかし、このまま敗れることは許されない。やつの黒い銃はシノンを撃てる射程圏内に入っている。俺が倒れれば、死銃はシノンを襲う。いくらシュウといえどシノンを守りながら二人と戦うことは不可能だ。
一瞬。ほんの一瞬でいい。
このラッシュを、一瞬ブレイクできれば。
キュキュキュン、と唸った三連技のラストが右頬を切り裂き、HPゲージがついに赤く染まる。
赤ーー。《ラフコフ》のエストック使いも、アイカラーを赤くしていた。記憶が激しく軋む。
そうだ......、俺は確かに、こいつの名を聞くのを拒否した。二度と関わりたくないと思った。あの狂気と鮮血、悲鳴と怨嗟に彩られた夜を、一秒でも早く忘れたかった。
でも、そんなことできるはずがなかった。
俺は全てを忘れたのではない。忘れたふりをした、自分自身を騙しただけ。
死銃のエストックの冷光が、忘れようとしていた記憶の断片を蘇らす。
討伐隊が出発する直前の最後のミーティング。《ラフィア・コフィン》の幹部と首領たる《PoH》の武装とスキルと外見と名前。
幹部の中にはイメージカラーを固定している奴が二人いるという話になった。一人は、黒。毒とナイフを好んで用いる男で、名前は......そう、《ジョニー・ブラック》だ。クラインが俺とシュウに向かって、『お前ぇはそいつと戦うなよ。どれを援護していいか解らなくなっからな』と真顔で言った。
そしてもう一人が、赤。と言っても全身ではない。眼と髪を真紅にカスタマイズし、フードマントにも赤い逆十字を染め抜いた刺剣使い。
俺が回線直後に剣を交えたのはそいつだ。後方に引く間際に『いつか、殺す』と言い残し、戦後処理中に俺に名を教えようとしたのはそいつだ。
そして、一年半の時間と異世界の壁を隔てて俺の前に現れた《死銃》.....その名前は........
「《ザザ(XaXa)》」
口から零れたその短い音が、今まさに心臓を貫かんとする鉄の軌道を狂わせた。
胸を浅く抉り、後方を抜ける刃の感触を意識することなく、言い続けた。
「《赤眼のザザ》。それがお前の名前だ」
直後。
俺の後方から飛来した一条の赤いラインが、死銃のフードの中央を音もなく突き刺した。
実弾....ではなく、照準予測線。シノンだ。その瞬間、俺は彼女の真意を悟る。これは予測線の攻撃。彼女の経験と閃き、そして闘志がつぎ込まれ放ったアタック。幻影の一弾(ファントム・バレット)。
あいつは、俺のことを知り尽くしていた。俺以上に俺のことを。片手剣から槍へと入れ替える時に無意識的に《槍剣》の時の癖で右に片手剣、左に槍に持ち替えることをやつは知っていた。あいつはこの一瞬を待っていたんだ。......暗剣の破壊というこの一瞬を。
少し顔をあげ観るとそこには、一歩一歩徐々に近づいてくるやつの姿が。その眼はより一層赤みを増したように見える。
暗剣を破壊された今、銃で戦いあってもやつと勝てる可能性は、皆無だ。
空は真っ暗となり何も見えない。左手で握りしめたデザートイーグルを死銃に向けようとする。すると空を赤い幻影が一直線に伸びる。その幻影は、死銃の体を貫く。
その赤いラインが、シノンの予測線だということは考えるまでもなくわかった。それは彼女の実体無き攻撃。幻影の一弾(ファントム・バレット)。
だが、やつはその歩みを止めることなく俺に近づいてくる。
(なぜだ.....?)
その幻影の一弾が出てきているのに避けない。それが考えられる理由は、避ける必要がないから。
その行動に俺は忘れようとしていた記憶の断片がフラッシュバックする。
俺はこいつを知っている。
この全てを悟ったような行動と自分の有利な状況にもっていってから確実にトドメをさしにくるこの人物を。
(そうか......最初から気付いてたんだ)
最初にあの予選の前、地下で会った時に気づいていたんだ。だが、俺自身がそれはあり得ないと決めつけて選択肢から消していた。
「......そうか」
だから俺はあの時、ミサキに.......
自然と笑みがこぼれる。痛む身体に耐えながら俺は立ち上がる。
「なにが、おかしい」
そう言いながらも赤いラインが俺の体を突き刺す。
一年半の時間と異世界の壁を隔てて現れたボロマントーー《死銃》。その名は...........
「《嘘つき(ライア)》」
その瞬間、やつの動きが一瞬止まる。その隙を見逃さなかった。右手を刃の如く振るいやつの手に持つ銃を吹き飛ばす。その瞬間、右腕が漆黒の光を纏い刃のような姿に形を変える。
その感覚を俺は知っている。かつて二年間閉じ込められた世界で茅場よりもらい受けた力。自らの腕を武器に変える俺だけのユニークスキル《手刀術》。
右腕を前へと突き出し過去の亡霊へと漆黒の刃を突き立てる。
「《虚言のライア》。決着をつけるぞ!」
後書き
次回、死銃の名......
死銃(ザザ)対キリト、死銃(ライア)対シュウ
ついに決着!!
過去の亡霊とけりをつけるため2人の刃が死銃を貫く。
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