Element Magic Trinity
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フレデリックとヤンデリカ
ばたん、とルーシィはカウンターに突っ伏す。
はぁ、と短いため息をついて。
そしてその右隣にはもうルーシィとセット状態に化しているルーが座っている。
「あら?元気ないわねルーシィ。どうしたの?」
「お金ない・・・」
「お嬢様のセリフとは思えないわよ」
「違います!あたし、家のお金なんて一銭も持ってきてないんですよ!」
ミラの言葉に反応して、ルーシィが勢いよく顔を上げた。
そして頬杖をつき、再び溜息をつく。
「高額の仕事行ってもナツやグレイがいろんなもの壊しちゃうから報酬額減らされちゃうしさー。ティアはナツのストッパーなのにナツの暴走を止めないし。逆に半殺しにしまくっちゃって」
そう言うと、ルーシィは後ろの方でビリヤードをしているナツとグレイ、それを見ているハッピーに目を向けた。
「本当・・・人が悩んでんのにいい気なもんよね」
「あんなものどこから持ってきたんだろ?」
ルーシィにつられるように振り返ったルーは首を傾げる。
「おし!俺からな!」「オメーにゃ無理だよ」と短い会話をし、先攻のナツがキューを構えた。
そしてやけに真剣に先を見据えると・・・。
「うおりゃあっ!」
凄まじい勢いで球を撞いた。
ゴッ、ガッ、と音を立て、球が割れていく。
ナツのキューを持っていた右腕の肘が火竜の炎肘を発動していたのは気のせいだろう・・・多分。
「ちぇー、6コかぁ・・・」
「さっすがナツー」
「バカ言え!5コだろ!1コはヒビ入ってるだけだ!」
「遊び方違う!」
ルーシィは思わずツッコんだ。
そしてミラの方に向き直る。
「あの通り、物を壊す事に悦を感じてるんじゃないかしら」
「そんな事ないと思うけどナー」
「あーん!このままじゃ今月の家賃払えないよぉーーっ!」
「泣かないでルーシィ」
泣くルーシィを必死に慰めるルー。
・・・が、彼女の家の家賃7万Jを今パッと払えるほど、お金を持っている訳ではない。
こっそり確認した結果、現在のルーの所持金は財布の中に2万Jだ。
すると、そんなルーシィにウインクと笑顔を向け、ミラは右人差し指を立てた。
「じゃあとっておきの仕事、紹介しちゃおうかなー。すっごくルーシィ向きだし、何かが壊れる心配もないやつ♪」
「え?」
・・・という訳でルーシィ達最強チームがやってきたのは、マグノリアより商業が盛んなオニバスの街。
最強チーム結成のきっかけともなった鉄の森の呪歌事件で、鉄の森の情報を聞こうとした街だ。
・・・まぁ、結局のところナツとルーを列車に置いて来てしまった事を思い出した為、情報を得る事はなかったが。
「列車にはもう2度・・・乗ら・・・うぷ」
「ナツ、着いたよ。しっかりして」
既にグロッキー状態のナツの右手首を必死にハッピーが引っ張る。
「なるほど。客足の遠のいてる劇場を俺達の魔法を使って盛り上げてくれって話なんだな」
「そーゆー事♪面白そうでしょ?」
例の如く大荷物のエルザの少し前を歩くグレイの言葉に満面の笑みを浮かべるルーシィ。
劇場を盛り上げるだけなら何かが壊れる心配もなし、しかもあまり戦うのが得意ではないルーシィにとっては打って付けの依頼だった、という訳だ。
「しかしだな・・・」
エルザはそう言って「コホン」と1つ咳をすると。
「あー、あー、あー」
「あたし達がお芝居する訳じゃないから」
発声練習を始めた。
もちろんチームでの仕事という事でティアもいる。
いや、いる・・・と言うより、無理やり連れてこられたと言う方が正しいだろう。
実は彼女は今日、裁く以外の趣味であるガラス細工に没頭しようと考えていたところだったのだ。
が、そこにエルザがやってきて無理矢理オニバス行きの列車に乗せられた、という訳だ。
もちろん無理やり連れてこられた為・・・
「最悪だわ、何でこんな日に仕事なのかしら。家賃分の金くらい、余裕持って残しておきなさいよね」
とてつもなく不機嫌だが。
しかもその不機嫌の矛先は家賃が払えない状態になったルーシィに向いている。
その為、ルーシィは歩きながら絶対零度の寒気を感じていた。
「あたし達の仕事はあくまで演出。ナツが火出したりあたしがリラの詩で情感出したり。素敵な舞台になりそうじゃない♪小説書いてればいつか舞台化するもんね!うん!今のうちに演出の勉強しとくのも悪くないわ」
「ほぉ」
「舞台化云々より、まずは小説家になる事が先だと思うけど」
ルーシィの言葉に興味なさげにグレイが言い、ティアはいつも以上に素っ気なく言い放った。
「おお!」
「立派なトコだね」
その後、ルーシィ達はかなり立派な劇場の前にいた。
すると、その柱の影からひょこっと小さいおじさんが姿を現す。
この男が今回の依頼主であるシェラザード劇団団長『ラビアン』だ。
「あのぉー、妖精の尻尾の皆さんですかな?引き受けて下さり誠にありがとうございます」
「はい!演出ならあたし達に任せてください!」
ルーシィが元気よくそう言うが、ラビアンは言いにくそうに口を開いた。
「それがですねぇ・・・ちょっと困った事になってしまいまして・・・」
「えーーーーーー!?役者が全員逃げ出したァ!?」
「ハイ・・・ありがとうございます」
「何が!?」
とある部屋にルーシィの叫びが響いた。
カーテンから顔だけを出してそう言うラビアンにツッコむハッピー。
「公演する舞台が不評に次ぐ不評。やがては役者達も私の劇に出る事を恥に思う始末・・・脱サラしてこの道に飛び込んだのが30年前・・・夢を追う私に妻は愛想を尽かし出ていきました。私に残された道はもうこれしかないというのにっ!本当にありがとうございます!」
「礼を言うトコ間違ってるよ」
カーテンに隠れ泣くラビアンにグレイもツッコむ。
「そういう訳でせっかく来て下さったのですが舞台は中止なのです。ありがとうございます」
そうか、なら仕方ない、とルーシィ達が帰ろうとしたその時!
「フン。何かと思えばそんな事か」
突然エルザが口を開いた。
ずっと黙っていたティアが溜息をつく。
「役者ならここにいるではないか」
「えーーーーーー!?」
「か、輝いてる!」
これでもかというほどキラキラしたオーラを纏うエルザの発言に、ルーシィは再び叫んだ。
エルザと長い付き合いで彼女の性格を知っているのか、ティアは「やっぱりね」と呟く。
「発声練習しておいて正解だったな」
(そんなに役者やってみたかったのか・・・)
ハッピーがそんな事を思いながらエルザを見つめる。
「皆さん・・・」
「そうね・・・なんか面白そうかも」
「火吐く野菜と火吐く果物!俺はどっちをやりゃいいんだ!?」
「そんな役ある訳ないでしょバカナツ」
「あい」
「アンタの夢はこんなトコロじゃ終わらせねぇよ」
口々に傘下を承諾するメンバー(1名除く)の言葉に、ラビアンの目に涙が浮かんだ。
そして口を開く。
「まあ・・・やらせてやってもいいかな。チッ、素人が・・・」
「そこは『ありがとう』って言わねんだ」
「それにしてもひどい台本ね・・・」
「ハイ・・・ありがとうございます」
公演は一週間後。
練習も大事だが、練習より何よりまずは配役、という事で役を決める。
あるのは主役のフレデリック、ヒロインのヤンデリカ、敵役のジュリオス、ジュリオスの下僕のドラゴンの4つだ。
飛ぶ事の出来るハッピーはドラゴンが空を飛んでいるよう見せる時に必要な為、そして役がドラゴンを除いて人間の為、黒子である。
「さて、どうする」
「私裏方でよろしく」
早速言ったのは、意外にもティアだった。
脚を組み、肘を曲げたまま右手を上げる。
「え!?ティア裏方なの!?」
「・・・悪い?」
「そういう訳じゃないけど・・・ほら、ティアって美人だし姫役なんてどうかなーと」
「嫌、絶対嫌、死んでも嫌、お断りよ」
そこまでか、とルーシィが面食らう。
「ティアって目立つの嫌いなの?」
「えぇ、嫌いよ。だから裏方」
いやいやいや。
普段魔法界を騒がせている海の閃光であり氷の女王が何を言うか。
もう十分すぎるほど目立っている。
「ティア、とりあえずお前は何か役をやれ」
「何でよ」
「お前はそこら辺の女優より演技が上手いからだ」
まさかの事実が発覚した。
「そうなの!?」
「そうなのか!?」
「初耳だぞんなモン!」
「何だ、知らなかったのか?ティアは依頼先でいろいろ演じているぞ?」
「相手を騙す為に演技を勉強しただけよ」
相手を騙す為の演技がこんな所で役に立つとは。
が、ティアは参加する気はない様で。
「嫌よ。絶対に裏方をやりますからね!どっかの誰かさんのせいで趣味に没頭出来なくなったんだから、少しは私を自由にさせてもらわないと気が済まないわ」
そう言うとティアはこれ以上話す事はないと言うように頬杖をついて魔法書を読みだしてしまった。
こうなったティアはクロスでないと動かせない。
という訳で、フレデリックをエルザ、ヤンデリカをルーシィ、ジュリオスをグレイ、ドラゴンをナツがやる事になった。
そして、当日。
会場は満員、それを舞台裏のカーテンから見たラビアンは目に涙を溜める。
「おおお・・・こんなに客が入るなんて初めてですよ。ありがとうございます」
そして衣装に身を包んだルーシィ達も気合を入れる。
翠を基調とした王子風の服のエルザ、青を基調とした貴族風の服のグレイ、ピンクを基調としたドレスのルーシィ。ナツはドラゴンの着ぐるみを着て、ハッピーは真っ黒な黒子の衣装を着ている。
ティアも忍者かとツッコみたくなるような真っ黒な装束を着ていた。
「キャー♪リラもこんな大勢の前で歌うの初めて~」
「あとは成功させるだけね」
全く緊張していないリラ。
そして幕が上がる。
「遠い~遠い~昔の事~♪西国の王子は敵国の姫に恋をした~♪」
幕が上がると同時に、リラの綺麗な歌声が響く。
「なんて綺麗な声なんだ!」
「うっとりするわ」
それは観客にも好評だった。
・・・が、ここから劇は段々おかしくなっていく。
「西国の王子は~♪姫を助けに~死の山へ~♪」
「え・・・!?姫・・・なんか捕まってたの!?」
観客の知らない所で姫が捕まっている。
そしてついにキラキラ輝くほどに役者をやってみたかったエルザの演技が!
「わ、わ、わわ・・・わ、我が名はフレデリック~・・・ひ、姫、た・・・たた、たす・・・助けに・・・ました!」
「何だアレ!ガチガチじゃないかー!」
・・・が、エルザはまさかの本番に弱いタイプだった。
ちなみに今のセリフは本来なら『我が名はフレデリック。姫、助けにまいりました!』か『我が名はフレデリック。姫、助けに来ました!』のどちらかだと思われる。
そしてそこにロープで縛られた姫が吊るされる形で現れた。
「ああ・・・助けてくださいフレデリック様。私は『あの』セインハルトに捕まってしまいました~」
「あの・・・って言われても、誰!?」
観客の知らないキャラ、セインハルト登場。
と、そこにやってきたのは観客の求めるセインハルトではなく・・・
「我が名はジュリオス。姫を返してほしくば、私と勝負したまえ」
「お前も誰だよっ!セインハルトはどうなったんだー!?」
ジュリオスだった。
が、観客はジュリオスの事も知らない為、当然戸惑う。
まぁとりあえず、フレデリックとジュリオスはヤンデリカを賭けて戦闘を開始する!
「くらえ、氷の剣!」
そう言ってエルザを指さし氷の剣を造形するグレイ。
「すげー!」
「どうやったんだー?」
魔法に詳しくないのだろう。
観客たちはグレイの造形魔法を物珍しそうに眺めている。
「な、な・・・何の・・・私・・・に・・・は・・・10の剣が・・・ァる」
負けじと噛み噛みのセリフを言いながら背後に剣を円状に展開するエルザ。
そしてジュリオスは
「ぐわー」
「何か知らねーけど弱ーーーーーっ!」
一発でやられた。
「フレデリック様。ありがとうございます」
「ヤ、ヤンデリカ姫。たくさん・・・子供をつくりましょう」
「気が早ェよフレデリック!」
助けてすぐ子供の話をするフレデリック。
が、ジュリオスにはまだ切り札があった。
「喜ぶのはまだ早い!いでよ!我が下僕のドラゴンよ!」
グレイの声と反応してセットの岩が広がっていき、光る2つの目。
そして呼ばれたドラゴンは口から小さめの炎を吐いた。
「ぐぉがぁあっ!がおおおっ!」
ドラゴンに観客が歓声を上げる。
陰で見ているラビアンは「うんうん」と頷いた。
「俺様は全てを破壊するドラゴンだぁ!」
ドラゴンは自分でそんな事を言うのだろうか。
そしてそれを見たフレデリックとジュリオスがとった行動は・・・
「こうなったら手を組むしかない」
「オ、オウ・・・それは・・・たのも、しい」
「お前が呼んだんだろーが!どういう展開だぁーーー!」
手を組んだ。共闘した。
そしてロープから自由になった姫は勇ましく叫ぶ。
「私がアイツを足止めします!」
「オイオイ・・・何言ってんだ姫ーーー!」
突如フレデリックとジュリオス、ドラゴンの間に立つヤンデリカ。
「2人は逃げてください!」
「オウ」
「た・・・助かったぞー」
「逃げるんかいーーーーーーっ!」
しかも姫より戦えそうな2人は逃げた。
「オイ・・・これ・・・ひどくねーか?」
「ハンパじゃねぇ・・・」
観客が別の意味でざわついていく。
すると、必死にドラゴンの着ぐるみを持ち上げる黒子のハッピーがプルプル震え始めた。
「着ぐるみの分・・・重いなァ・・・」
と、その時。
「あ」
「が!?」
ハッピーがドラゴンの着ぐるみを落としてしまった。
その下にいたルーシィ、着ぐるみの中にいるナツは目を見開く。
それを見ていた裏方のティアは溜息をつくと、何やら準備を始めた。
「!」
ドラゴンが落ち、床が一部壊れる。
と、ルーシィのドレスに火がついた。
「きゃあああー!グレイ助けてーーー!氷!氷!」
「おし!アイスメイク」
もう役名ではなく本名で呼んでしまっている。
グレイが造形魔法の構えを取ったその時・・・火が消えた。
突然の事に舞台の上のルーシィ達も戸惑う。
「ドラゴンよ、怒りをお鎮めください・・・」
すると、そこに微量の悲しみに似た感情を含んだ少女の声が響いた。
コツ、コツ、と靴を鳴らし、声の主は姿を現す。
「嗚呼、偉大なるドラゴンよ!あなたをこの様に扱った人間をお許しください!」
そう言って祈るように手を組んで目を閉じるのは・・・
「「「「ティア!?」」」」
あれほどまでに舞台に出るのを嫌がっていたティアだった。
いつもの帽子はなく、淡い水色の尼僧服に身を包み、カーリーロングヘアは下の方でくるくるとしたツインテール、銀色の髪飾りが光を受け煌めく。
ティアはゆっくりと目を開くと、これまたゆっくりと頭を上げた。
「ティア・・・それが私の名なのですか?」
「え?」
「私には記憶がありません。如何して此処にいるのか、如何して私は私なのか・・・己の名すら思い出せないのです」
そう言って伏し目がちに俯く。
いつものあのティアはどこに行ったのか・・・と呆然とするルーシィ達。
「私に出来る事はドラゴンの怒りを鎮め、その猛る赤き炎を消す事だけ・・・嗚呼、何て私は無力なのでしょう!」
そう叫ぶとティアはその場に崩れる様に座りこみ、両手で顔を覆う。
すると、その指の間から水が滲む。
・・・涙を流しているのだ。
「フレデリック様・・・と申されましたね?」
「え?あ、あぁ・・・わ、わわ、我が名は、フ、フレデリック、だ」
突然声を掛けられ、ただでさえ噛み噛みのセリフが更に噛み噛みになる。
ティアは立ち上がり服の皺を直すと、再び祈るように手を組み、懇願するように目を潤ませた。
「1つ、頼みがあるのです。如何かこのドラゴン、命だけは助けて頂けないでしょうか。無力な私ですが、このドラゴンが天に召される事だけは嫌なのです!」
キラキラとした瞳でエルザを見つめるティア。
が、エルザ演じるフレデリックにとって、このドラゴンは敵、なので。
「す、済まない・・・が、私はここここのドラゴンを・・・た、倒さねば、ならない」
まぁ、当然と言えば当然の答えをする。
それを聞いたティアは俯くと、口を開く。
「・・・そうですか」
そう呟いたと同時に、ティアは顔を上げると、目を閉じた。
すると少しの風が起こり、その風はティアを包み、やがて消える。
そして風が晴れた時、そこに尼僧服のティアはいなかった。
「ならばここで全員の命を絶やすのみ!ドラゴンはやらせん!」
代わりに、バロンコートのティアがいた。
カーリーロングヘアは一気に短くなり、まるで男のような髪型になる。
豊満な胸はぺたんこになり、まるで男のような体形になる。
そしてティアは黒く、銀色の装飾が施された剣を手に持っていた。
「かかって来るがいいフレデリック!このドラゴンは俺が命に代えても守り抜く!」
「そ、そそそそう言うのなら、せ成敗いたす!」
一人称まで「俺」になるティア。
「痛ええええええええーーーー!」
そして今頃痛みが来たのか、叫びながら炎を吐くナツ。
その炎により、舞台が一部・・・というか、半分壊れた。
「よさねぇか、ナツーーーーー!」
「ぎゃああああっ!」
「!ジュリオス、貴様ァァァァァァァッ!」
これ以上被害を大きくしないようナツを着ぐるみごと凍らせるグレイ。
それを見たティアは剣を構え、叫ぶ。
「轟け!黒き稲妻よ!」
その言葉に反応するかのように、黒い稲妻がグレイ目掛けて落ちる。
もちろん当たりたくないのでグレイは避け、その稲妻で舞台が壊れていった。
「こ・・・こうな・・・タラ・・・ぜ、ぜぜ、全員成敗いたす!」
エルザは相変わらずセリフを噛みながら剣を構える。
「もうめちゃくちゃーーーー!」
ルーシィが叫ぶ。
こんな状況にも拘らず、ラビアンは笑みを浮かべて「うんうん」と頷く。
「しかも・・・凄くやな予感・・・」
ルーシィが小刻みに震えながら辺りを見回す。
と、同時にピシィ、と何かが割れるような音が響いた。
そしてピシピシ・・・とひび割れは大きくなっていく。
そして。
「やっぱりーーーーーーー!」
見事なまでに、割れた。
が、一気に観客は歓声を上げる。
「いいぞーっ!」
「ブラボー!」
「あははっ!」
「こんなの見た事ねぇー!」
観客の凄い笑い声にルーシィは振り返り、幸せそうな笑顔を浮かべた。
「素晴らしーーーーい!」
一週間後。
『フレデリックとヤンデリカ』のポスターには『SOLD OUT』の文字。
「げはははっ!まさかこんなに大ヒットするとはよォ。大根役者のクセしてやるじゃねーか」
満足しているラビアン。
そして控室でぐったり倒れるナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピー。
「オイ・・・いい加減報酬よこせや」
「1日3公演はキチすぎんぞ・・・」
あのナツとグレイでさえ、体力の限界というようにバテている。
「グズがぁ!とっとと準備せんか!今日も始まるぜ!」
「キャラ変わってるし・・・」
「早く帰りたい・・・」
ルーシィも限界なのか涙を流す。
「あー、あー、あー」
そしてやっぱり発声練習するエルザ。
でもってティアはというと・・・。
「そ、そういやよォ、ティア・・・」
「お前、いつまで男装してるつもりなんだ?」
そう。
最初の公演で男姿になって以来、ティアはずっとその格好なのだ。
それを聞いたティアはキョトンとしたような表情になり、やがて笑い出す。
「あははははっ!き、気づいていないのか?お前達・・・」
「え?」
疲れているナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピー、発声練習をしていたエルザ、全員がティアの方を見る。
何とか笑い声を堪えながら、ティアは自分を指さし、口を開いた。
「俺は姉さんじゃなくて、クロスだ」
「「「・・・は?」」」
「「え?」」
突然の発言に言葉を失うナツ達。
ティア・・・ではなくクロスは、笑みを浮かべながら続ける。
「一週間前に姉さんから『趣味に没頭したいから私の代わりに仕事に行ってほしい』と頼まれてな。他ならぬ姉さんの頼みとあらばと引き受けたんだ。性別の方は姉さんの作った『性別逆転丸薬』で換えていたから解らなかっただろう?」
クスクスと微笑み、さらに続ける。
「実は時々姉さんと入れ替わる事はあってな。仕事先で敵の目を欺く為に俺が姉さんになって2人姉さんがいる様に見せた事もある。口調や癖も姉さんを見ていれば自然と覚えてしまうさ。もちろん、演技の方は姉さんだけでなく、俺も得意分野だからな。苦労はしていない」
さらっと言うクロスを見て、その場にいた全員は同時に叫んだ。
「「「「「ティアァァァァァァァァァァァァァァァッ!」」」」」
「っくしゅ!」
オニバスの街で名前を叫ばれてる事など知らないティアは、趣味のガラス細工に没頭していた。
耽美なゴシック調の部屋の机の上にはガラスで創られた薔薇がある。
「にしても、いい弟を持ったわ」
ティアは満足そうに呟くと、お礼にクロスが帰ってきたらその日の夕飯はクロスの好物にしよう、と考えるのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
一卵性双生児は同姓で顔もかなり似ているらしいですが『同姓』なので、ティアとクロスは二卵性双生児ですね。
二卵性双生児の顔が似ているのかは解りませんが、この作品ではかなり似ている、という事で。
感想・批評、お待ちしてます。
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