リリカルなのは 3人の想い
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13話 黒木 七実side
前書き
今回から主人公達が合流します。
なので誰がメインに動いているかで誰sideかを決めます。
とうとう今日、アースラは地球へと到着する。
長かったゾンビ狩りの日々も思い返せば懐かしく―――
腐った体でこちらへと襲いかかってくるゾンビ。
辺りを包む腐臭、ねっとりとまとわりつくようななま暖かい空気。
体の一部のパーツだけがこちらに這いずってくる下手なホラー映画顔負けな光景。
うん、吐きそうになった。
全然懐かしくないな。
それでも原作キャラと肩を並べて戦えたのはめちゃくちゃ嬉かったなあ。
「さーて今日こそ初勝利だ! 覚悟しろよクロノ!」
まあ、つってもそれまでは暇なわけで、暇つぶしにとクロノと最後の模擬戦としゃれ込んでいる。
「ふん、99連敗中の言う台詞とは思えないな」
クロノの言う通り俺は99連敗中だ、………まあ正確に言うと99戦0勝99敗だ。
「チキン戦法に徹してる奴に言われたくねえよ、あれって萎えるんだよね」
俺には近接意外に才能はないみたいで、遠距離攻撃がほぼできなかった。
具体的に言うと操作とか全然できないし、魔力弾の生成にも時間かかりすぎるしさあ、つーか魔王様とか一辺にバカみたいな数操るけどあれかね魔王様補正かね。
まあ兎に角、俺に遠距離攻撃がないとわかるやいなやクロノは徹底的に遠距離攻撃をしてくるようになった。
「最も効率的な戦法をとっているだけだ」
「チキン戦法をとる奴はみんなそう言うんだよ」
「どちらにしたところで今日が君の100連敗目なのは変わりないことだ」
「ふっふっふっふ、違うなあ今日は100戦目にして記念すべき俺の初勝利だっての!」
俺が何のために今日まで99連敗をしてきたと思っているんだか、そう全てはクロノの油断を誘い、アースラを降りる今日この日に華麗に勝ち逃げする作戦を京介に立ててもらったからに決まってるじゃねえか!!」
「声に出てるからな」
…………え?
「…………まじで?」
「僕の油断を誘って、わざわざ友人の手を借りてまで立てた作戦で華麗に勝ち逃げを決めるつもりらしいな」
やっべえええ! 重要な場所全部じゃんか!!
「ええい! どっちにしたって勝てば問題なし!」
▼▼
「ええい! どっちにしたって勝てば問題なし!」
そう言って合図と同時にクロキはいつも通り距離を詰めるべく動く。
だが今回はいつのまにか新しい魔法を覚えたらしく、身体能力を強化したのだろう、爆発的な速度でこちらに接近してくる。
確かに油断を誘っていたというのもあながち嘘じゃないかもしれない。
子供の腕力では考えられない速度で横に振るわれた大剣、速度と武器の重量もあって直撃すればただではすまないであろうことがわかる。
長大な刀身ということもあって、今からバックステップで後退しても間に合いはしないだろう。
ならばと空中へと待避する、クロキは飛行魔法を使えない以上空中に行けばこちらが有利になる。
「逃がすかよお!」
だが距離を置くよりも早く上から振り下ろされた追撃が迫る。
「ちいっ!」
シールドを展開するが、急拵えのそれを易々と切り裂かれてしまう。
ガキィッ!!
何とか杖で防ぐも大きく吹き飛ばされる。
その途中手が酷く痺れるが魔力弾を牽制でいくつか放つ、だがそれも当たるはずもなく回避されてしまった。
すぐに接近しようとするクロキから距離を空けるために今度こそ空中へと移動する。
「まあた、チキン戦法かよ。最後くらいまともに戦ってみようとか思わないわけ?」
仕切り直しとでも言うのか、クロキは大剣を肩に担いでこちらに話しかけてくる。
そしてその最後という一節にわずかにだが胸が締め付けられる気がした。
そう、これから先クロキが一般人として平和に生きるのであれば、まず僕と関わることはないだろう。
それは、認めるのは少し癪だがどうやら僕は多少はクロキがいなくなることにほんの少しではあるが心細さを
「しっかしあれか、やっぱりおちびさんは肝っ玉も小さ(ぶちり)うおっ! ちょっおま! いきなりバインドは卑怯だろ!」
気のせいだったようだ。
魔力弾と共にバインドをかけようとするが、クロキはことごとく避け続ける。
だがクロキに遠距離攻撃の手段がない以上ここからはワンサイドゲームになるのが常だった。
攻撃ができないクロキを徐々に追いつめて設置型バインドに誘導するか、一発逆転を狙って飛びかかってくるクロキの攻撃を避けてから返り討ちにして終わりだ。
今回は本人の宣言通り勝ちに来るだろうから十中八九後者になるだろう。
「行くぞクロノ覚悟しやがれ!!」
その言葉通り地面を蹴り、クロキが一直線に跳び上がってくる。
だがそれはやはり所詮飛ぶ、ではなく跳ぶである以上必ず限界は存在する。
その切っ先は高度を上げただけで届かなくなる。
はずだった。
「まだまだあ!」
「っ!?」
クロキは何もない中空でまるで見えない地面を蹴るかのように再び跳び上がり、こちらに急接近してくる。
それは油断していたならば避けるのは難しかったかもしれない。
だが今は油断をしないように気を張っていたおかげで、避けること自体は問題なくできるだろう。
………だというのに頭のどこかが警鐘を鳴らしている。
何かが引っかかっている。
考えろ、一体何が引っかかっているのかを。
…………待てよ、ロストロギア探索の際クロキは模擬戦の時のように声を張り上げてはなかったはずだ。
正確に言えば、ここ最近のロストロギアの探索中は黙々とこなしていた。
それが何故か模擬戦の時だけはわざわざ声を張り上げながら攻撃をしてくる。
まるでこちらに攻撃を仕掛けることを宣言するかのように。
もし、もしもそれこそがクロキの99連敗を経て、僕に自然と擦り込んできていたことなら?
今の僕はクロキの声に反応して攻撃を警戒するようになっている、そこから生まれるクロキにとってのメリットは注意を完璧に自分自身に集めることだろう。
だとしたらクロキの狙いはこちらの不意を打つつもりなのだろう。
周囲に気を張り巡らせクロキの不意打ちが何なのか探る。
そんな中、目の端におかしなものが映った。
それは僕とクロキの影。
そして僕の背後で大剣を振りかぶる人影だった。
反射的に身を捻る、そこには今にもこちらに大剣を振り下ろさんとしているクロキの姿があった。
「うえっ!?」
看破されるとは思っていなかったのだろう、驚いているのが声からでもわかる。
「惜しかったね!」
体を回転させた遠心力を上乗せした杖をクロキの胴へと一閃させながら称賛を口にする。
そう本当に惜しかった、最初の失言さえなければ、こちらが負けていたかもしれない。
それに加えて、いつの間にか扱いの難しい幻覚魔法を修得していたのは掛け値なしに称賛に値するだろう。
だがそれを聞いたクロキは焦った様子も悔しそうな様子もなく、ニヤリと笑みを浮かべてみせた。
「そっちがな」
その言葉に眉をひそめる間もなく、杖がクロキの胴へと吸い込まれるように向かう。
だが手に伝わってくる感触は空を切る感覚だけだった、渾身の力を込めた一撃はクロキの胴をそのまま通り抜けた。
「なにっ!?」
作戦とやらにはめられたと気づいたときはすでに遅く、ふりむこうとした首筋に押し当てられた大剣が勝敗が決まったことを示していた。
▼▼
「いや~、それにしてもまさかの大金星だったねクロキ君」
「いや~、お褒めに与り光栄の至りですね、エイミィさん」
ブリッジって言うので合ってるのかわかんないけど、とりあえずアースラを操作しているっぽい場所に来ると、まずエイミィさんことクロノの未来の嫁さんに称賛をされた。
いやはや照れる。
え? 前半表現が曖昧すぎないかって?
だって~俺別に船艦マニアでもないし知る訳ないもん☆(ぶりっこ口調で)。
おえぇ………自分で言ってて吐きそうになった。
「おだてられていい気になるのはいいが模擬戦だったからできたっていうことを忘れないようにすることだ、実戦では今回のみたいなことは使えるはずもない」
「おお? 随分不機嫌じゃねえのクロノ」
「気のせいだ」
あれか? 負けたから悔しいのか?
「クロノ君ってばクロキ君がいなくなるのが寂しいんだよ」
そんな事を考えているとエイミィさんが小声で話しかけてくる。
「な! 何を言ってるんだエイミィ!」
「ガッツリクロノに聞こえてる辺り小声にする意味ある?」
というか無いだろ、明らかに。
「あははは~、面白そうだからだよ」
グッと勢いよく親指を立てるエイミィさん、うんいい笑顔。某ハンバーガーチェーン店の店員にも負けてないな。
まあ、それはさておき。
「クロノ………男のツンデレって価値がないんだぜ……」
「誰がツンデレだ!」
「あはっはははっ! お、お腹痛……ぷっ! くく、つ、ツンデレって!」
「エイミィ!!」
ツボに入ったのか爆笑するエイミィさんにクロノが顔を赤くして怒鳴っている。
うん、平和な光景だ。
「んでさあ、エイミィさん結局何で俺は呼び出された訳よ?」
「そ、それはね………うっ、くく……ふふっ……」
だめだ、笑ってて何言ってるかわかんねえわ。
手っ取り早く一番偉い人に聞きますかねえ。
「リンディさん、エイミィさんがあてになんないんで教えてくれません?」
「あなたのせいでしょうに……」
酷い言いがかりだ。
リンディさんは何故かため息をついてから説明を始めた。
「簡単な話よ目的地についたから呼び出したの」
視界の端でエイミィさんと言い争っていたクロノの動きが一瞬ではあるが止まった。
「と言うことはついに地球ですかー」
「正確に言えばその軌道上だけどもね、それで場所は海鳴市であってたかしら?」
「はい、場所は適当な公園にでも降ろしてくれればいいです」
まあ、デバイス使って連絡とりあえたし、とりあえず2人が海鳴市にいることはわかってるしね。
会えるかどうかは時の運、又は普通に探すのも楽しそうだし。
「それじゃあ、いくつか候補を映すから選んでちょうだい」
とは言え、普通の人に見つかるわけにいかないので、人気が少ない場所を探すんだろう。
まず第一候補なのだろう、どこにでもあるような遊具が立ち並ぶ少し寂れてはいるが平和な光景が
『まずは金的っ! 次も金的っ! 懺悔しやがれ、コレがトドメの金的だーー!!』
広がってなかった。
地面に伏して男の急所を押さえる銀髪の集団。
『ざまあみろ! アーッハッハッハッハ!! ハーッハッハッハッハ!!』
そしてその中心で高笑いをする、見た目が八神 はやての色違いな俺の親友な一条 京介。
………いやいやいやいや、何やってんのあいつ?
連絡取り合ったときは普段からニット帽つけっぱなしだ、とか言ってたんだけど今はつけてないしな。
つーかその笑い方、見た目も見た目だけに王様思い出すんですけど。
見つけられはしたけど何なんだろうね、この苦笑いするしかない感覚は?
周りを見てみると男性局員が全員顔を青くしていた、もちろんクロノも例外じゃない。
まあ、なんにしたって。
「とりあえずあそこで」
「君は正気か!?」
クロノの言い分はもっともだな、俺だって親友じゃなければ近づきたくない。
…………まあ親友でも少し近づくのをためらうけどな。
「大丈夫だってあいつ俺の親友だしさ、それにあいつ普段はおとなしい方なんだぜ」
『やれやれ、わざわざ俺に喧嘩売るような真似してくるなんて、
死にたいのかなー?
それとも殺されたいのかなー?
馬鹿な人間の考えることはわからないなー。
もう俺に近づく気が起きないようにするにはどうやって痛めつけてやろうかなー?』
「頼むから少し黙っててくれよ京介ェ!!」
こっちが必死に弁明をしているのも構わず、どこまでもフリーダムな京介は銀髪の頭を踏みつけてグリグリと踏みにじっている。
「………あれのどこがおとなしいんだ?」
「ふ、普段はって言ったじゃん、今はちょっと頭に血が上ってるだけで」
『あっ! そうだいいこと思いついた♪ その股ぐらに生えているナニをちょんぎってしまおう♪ いやはや実に効率的にして将来的に有効的な実にいい手だね! さあてそうと決まれば有言実行、さっそくチョッキンといっちゃおうか!』
「ちょっおおお! そんな事したら痛みでショック死しちゃうからやめたげてーーーー!!」
どこから取り出したのやら、鋏をチャキチャキと音を立てて開閉させてる姿は男なら誰もが恐怖を抱かずにはいられないだろう。
『あ、でも鋏が汚れるからやーめったっと』
「よかった、本当によかった!」
「心臓に悪すぎる……」
理由が鋏が汚れるからでも18禁が入りかねない、グロテスクなことが起きなかっただけでもよかった。
『かわりに不愉快だけど蹴り潰すとしようっと』
「転送魔法急いで! 早くしないとあいつマジでやるから!」
「わ、わかった! 君も早く装置に入ってくれ!」
「おうよ! じゃあまたなクロノ!」
別れは酷く慌ただしいものとなりましたとさ。
そんなこんなで原作で使われてた転送装置に入って地球へと降り立つ。
その目の前には今にも蹴りを銀髪の股間へと放とうとしている恐怖の姿が!
「うおおおい!!」
思わず叫びながら咄嗟に後ろから京介を羽交い締めにする。
前世と同じように男とは思えないほど華奢な体はそれだけでバランスを失い、蹴りは大きく空を切ることになった。
こうして銀髪の股間は守られたのであった、………今考えたら守る価値あったのか?
「おい! 京すべっ!?」
噛んだ、うんそれは認めよう、だけど理由を聞いてほしい。
京介の振り上げた足がそのままの勢いで戻されて踵が俺の弁慶の泣き所、つまりすねに直撃しやがったんだよ!
「ふっ」
痛がる暇もなく、すぐに京介の肘が俺の脇腹へと突き刺さる。
「ぐぇっ!」
口から無理矢理に空気が排出されるのと同時に体が京介から離れ、前のめりになった。
激痛で呼吸が整わない中、咄嗟に顔だけをあげるとそこにはちょうど身を捻って最上段からこっちに肘を振り下ろしている京介の姿が見えた。
あ、やばいこれ終わったわ。
今から避けようにも、そんな暇を与えることなく京介はこちらの後頭部を打ち抜くだろう。
ああ、見ず知らずの銀髪なんて助けるんじゃなかったな。
などと考えていたが、京介と目が合った瞬間、その動きが唐突にピタリと止まった。
「なんだ黒木か」
あっぶねぇ! 顔上げといてよかったあああ!!
寸止めされた肘を避けて体を起こす。
ああくそ、息がなかなか整わねえ。
「なにハアハアしてるんだ、変態か?」
「主にお前の蹴りと肘打ちのせいだバカヤロー!!」
何? 何なのこの人? 何でこんなに反省の色がないわけ!?
「俺の後ろには誰も立たせない」
「お前はゴルゴか!!」
「後ろから抱きつかれれば誰だって抵抗する」
「うぐっ」
確かにそれを言われると弱い、こいつは転生前から他人に触れられるのを極端に嫌がっていたからな。
「………まあ、確かにそれは俺が悪かったけど、つってもなんなんだよこの有様はいくらなんでも止めに入るっつーの」
「止めてくれるな、今からこいつらを二度と俺に近づく気が起きないように教育、もとい調教するとこなんだ」
「なんでわざわざ悪い方に言い直すんだよ!」
長いつきあいだが、いまだにふとした時こいつの考えが読めなくなる。
そこからは俺と京介の攻防戦だった、転生者達に追撃を加えようとする京介とそれを防ぐ俺。
「しょうがないな、今回はお前に免じて蹴り潰すのはやめる」
「ようやくわかってくれたか……」
長い攻防の末、勝利した俺は思わず安堵の溜め息を漏らした。
京介はその間に地面に落ちていたニット帽とコンビニのポリ袋を回収している。
そしてニット帽を深々と、それこそ顔が目元まで完璧に隠れるぐらいにかぶった。
タンクトップにチノパン、ニット帽に十字架のついたチョーカーか………お前どこのB-boyだよ。
きめ細やかな肌や細い線が逆に目立つから無意味じゃね?
「今から林道に差し入れを入れに行くんだけど、来る?」
そう言って、京介はポリ袋を揺らしてみせる。
それ、そこら辺の地面に放り投げてあったけどいいのかよ。
「差し入れって、あいつ何やってるんだよ?」
「修行」
「はあ? あいつそんな体育会系なことする奴だっけ?」
どっちかっていうとRPGとかのゲームしてるインドア派だったはずだけど。
「他の馬鹿な転生者みたいになりたくないからだってさ」
「ああ、なるほど」
確かに俺も踏み台転生者ってのみたいにはなりたくないしな。
しっかし、修行ねえどんなことしてるのか気にはなるな。
「うっし、俺もついてくぜ」
「じゃあ行くかね」
決まるとすぐに京介は歩き出す、俺もそれに置いて行かれないよう後をついて行く。
銀髪どもは放置の方向で。
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