Element Magic Trinity
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これで おあいこな
『うおお!でっけー!これが魔導士の集まるギルドなのかー!』
崩れていくギルドを見るナツの脳裏に、自分がギルドに加入する時の光景が蘇える。
『妖精の尻尾じゃ・・・』
『フェアリー・・・テイル?』
『妖精に尻尾はあるのかないのか・・・もっとも、本当にいるのかどうかさえ誰にも解らない。だからこそ永遠の謎、永遠の冒険。そんな意味が込められておるのじゃ』
7年前・・・育ての親であったイグニールが突然姿を消し、ナツは3代目マスター・マカロフによってギルドに連れてこられた。
『何だよテメェ』
『グレイ、服ー!』
いきなりガンを飛ばすグレイと、そんなグレイに服を着ろと注意するカナ。
『エルザだ、よろしくな』
『いよっす新人!俺ぁアルカンジュ、アルカでいいぞ』
『僕はルーレギオス。ルーって呼んで!』
手を差し伸べるエルザと、片腕を上げるアルカ、今と変わらない笑顔を浮かべるルー。
『また厄介そうなのが入ってきたわね』
『姉さん・・・』
こっちも今と変わらず、初対面でも容赦ないティア、そんな姉を困ったような目で見るクロス。
今と変わらないどんちゃん騒ぎ、依頼板から依頼を取り、仕事に向かうナツ。
『ギルドは楽しいか?ナツ』
『うん!気に入った!俺、ここに入りてぇっ!』
それを思い出したナツは、立ち上がった。
魔力もほぼ空、傷だらけの状態で、肩で息をしながら立ち上がる。
その光景に、今にも再戦しようとしていたティアとシュランも動きを止めた。
「た、立ち上がった・・・!」
「う、嘘だろ・・・?」
よろけながらも、ナツは一歩一歩ガジルに向かっていく。
(もういいよ・・・ナツ・・・あたしがこいつ等に捕まれば・・・)
ルーシィが涙を浮かべていると、その足にハッピーが触れる。
「ナツはまだ諦めてないよ」
そのハッピーの言葉に、ルーシィは何も言えなくなった。
「ギルドは崩れた。テメェ等は負けたんだよ」
「ぐはぁ!」
そう言うと、ガジルは虫を払うようにナツを殴り飛ばし壁に叩きつける。
それを見たルーシィは、両手で顔を覆った。
「でも・・・あたし・・・これ以上・・・」
が、それでもナツは倒れない。
倒れる訳にはいかないのだ。
崩れたギルドの為にも、傷ついたレビィ達の為にも、狙われているルーシィの為にも。
「ぐほっ・・・がはっ・・・ゲホッゲホッ」
血反吐を吐きながらも、立ち上がる。
それを見たガジルは一撃加えようと足を持ち上げた。
そしてもう限界寸前・・・いや、既に限界であろうナツにガジルの蹴りが決まる・・・
「大海銃弾!」
事はなかった。
ガジルの顔面に、ティアの手から放たれた水の弾が直撃する。
「・・・テメェ」
「貴女、ガジル様を・・・」
ガジルとシュランがティアを睨む。
が、そんな事で怯むような女ではない。
「・・・私、愚者に裁きを与えるのは趣味とも言えるけど、目の前で死にそうな誰かを放っておく趣味はないのよね。死にそうな奴が、私の嫌いな人種であろうと」
半殺しにする事が趣味なのは問題だが、今はそれにツッコんでいる場合ではない。
「シュラン、下がってろ。こいつァ俺がやる」
「・・・それが御命令とあらば」
納得がいかないような顔をしていたが、シュランは後ろに下がる。
「調子に乗んじゃねぇぞ小娘がっ!鉄竜剣!」
腕を刺々しい剣へ変え、ティアに向かって振るう。
これがいつものティアならば、避けもせずそのまま喰らったであろう。
が、今のティアはシュランによって体を水に変える事を不可能とされている。
「っ!」
・・・が、海の閃光の名に恥じぬ瞬発力で、ガジルの攻撃を避けた。
「大海白虎!」
負けじと水で構成された虎をガジルに向けて放つ。
が、相手は鋼鉄の鱗を纏っている為、そこまでのダメージは期待できない。
「無駄だ!テメェ如きが俺の鋼鉄の鱗を・・・」
ガジルは叫ぶが、そこである違和感を覚える。
ティアは不敵で妖艶な笑みを浮かべた。
「何を言っているの?もうアンタは既に海の罠の中に・・・」
「っしま・・・!」
そう。
ティアは虎を放つと同時に、ガジルが吹き飛ばされるであろうポイントに魔法陣を展開していたのだ。
「大海白竜!」
床の魔法陣から水で構成された竜が現れ、ガジルを襲う。
「う・・・うおおおおおおっ!」
まさか攻撃が来ると思っていなかったガジルは、避ける事が出来ず、直撃した。
辺りに土煙が舞う。
「やった!」
「ティア凄い!」
それを見たハッピーとルーシィは歓声を上げる。
だが・・・。
「調子に乗んなっつったよな、小娘・・・!」
突如土煙の中からガジルが姿を現し、ティアに拳を振るう。
ギリギリで避け、すぐさまティアは反撃に出た。
「大海怒号!」
勢いよく水が発射される。
が、それはガジルに当たる前に・・・『消えた』。
「っ!?」
「無駄ですよ。ガジル様に貴女の攻撃は当たりません」
シュランは冷静に呟くと、ガジルの右腕を見た。
そこには怪しい紫に似た色合いの蛇模様。
「波動の蛇。波動の魔法の要領で、魔法を消し去る蛇です。まぁ、一属性しか消せませんが、貴女の場合は『水』の魔法しか使えませんから・・・これが丁度いいでしょう」
よく解らなかった人の為に説明しよう。
ガルナ島で戦ったユウカという男の魔法『波動』。
これは魔法を通さない魔法で、全ての魔法を中和・・・つまり、無力化する。
が、一つ弱点があり、一回に一属性しか消せないのだ。
例えば、相手がアルカの様に、火と土の属性の魔法を使ってきたとする。
その場合は、火か土、どちらかしか無効化できないという訳だ。
が、ティアはアルカの様に二つの魔法が使える訳でも、クロスの様に様々な属性の『何か』を持っている訳でもない。
魔法鞭はあるが、鋼鉄の鱗を持つガジルには魔法以上にダメージを与えられないだろう。
「っ・・・でも、やるしかないわね!」
ティアは鞭を握りしめると、それを鉄の棘のついた鞭に変え、一気に振るう。
しかしガジルは至って冷静に鞭を見つめると・・・
「しゃらくせぇんだよ!」
腕で鞭を弾いた。
「え!?」
「オラァ!」
あまりの事に驚くティアに容赦なく床が割れるんじゃないかという勢いで拳を振るう。
それを喰らってしまったティアは、大きなダメージのあまり動く事すら出来なくなってしまった。
「そんな!だってティアは、体を水に・・・!」
「もしかして、あの蛇が封じてるんじゃ・・・」
その光景にルーシィとハッピーも驚きを隠せない。
すると、ガジルはティアの綺麗にくるくると巻かれたカーリーロングヘアを乱暴に掴み、持ち上げた。
「くっ・・・」
「やっぱテメェ、火竜の女だろ。男一人に必死になってよォ」
ガジルは意地の悪い笑みを浮かべてそう問いかける。
それに対し、ティアは冷めきった瞳でガジルを睨んだ。
「何を言っているの?私はアイツの為に戦っている訳じゃない。ボロボロになったギルドの為でも、傷ついたアイツ等の為でも、ましてやどこぞの令嬢様の為でもないわ」
予想外の答えが返ってきた為、少しガジルは目を見開く。
ナツも、エルザも、ギルドを守っていた連中も、ギルドの為仲間の為と戦っていた。
が、彼らと同じギルドに属す彼女は、誰かの為に戦っている訳ではないという。
・・・だがまぁ、そんな事は・・・
「・・・まぁいい。どっちにしろ、二人まとめてぶっ潰すだけだからなぁ。まずはテメェだ」
ガジルには関係ない。
「潰れろ・・・海のクズ女」
ゆっくりとガジルが拳を振りかぶる。
「っ・・・!」
「ダメェーーーーーーー!」
「ティアァァァーーーー!」
ティアは振り下ろされる拳を覚悟して目を閉じ、ルーシィとハッピーが叫ぶ。
そして・・・ガジルの拳がティアに振り下ろされる・・・
「・・・せ」
事はなかった。(本日二度目)
何者かがガジルの手首を掴み、それを止めたのだ。
「なっ!?テ、テメェ・・・!」
ガジルはその人物を見て、思わず目を見開いた。
気づいた人も多いだろうが、その人物とは・・・
「ハァー・・・ハァー・・・ハァー・・・!」
先ほど相手をしていた男・・・既に限界であろう体に鞭を打ち、苦しそうに息を乱しているナツだった。
「・・・を・・・なせ」
「あ?」
「・・・アを・・・なせ・・・」
「聞こえねぇよ!」
途絶え途絶えにナツが呟く。
ガジルが聞き返したその時、ナツはガジルを睨みながら叫んだ。
「ティアを・・・放せぇ!!!」
その瞬間、ナツの掴むガジルの手首から、メキッと軋む音が響いた。
「ぐおああっ!」
あまりの痛みにティアの掴まれていた髪がガジルの手から離れる。
(コイツ・・・魔力もほぼねぇのに・・・どこにそんな力が!?)
ガジルが痛みを堪えながら驚愕している間に、ナツは自分の腕の中にティアを引き寄せる。
「・・・助けてなんて・・・頼んで・・・ないわ・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・可愛くねぇ奴・・・」
こんな時でも全く可愛げを見せないティアに、ナツは素直な感想を述べる。
「ハッピー!ティアを・・・」
「バカ」
「んなっ!?」
頼む、とハッピーにティアを任せようとした時、ティアがぼそりと呟く。
距離が近く・・・まぁそうしたのはナツなのだが・・・しかもナツは滅竜魔導士である為、はっきり聞こえていた。
「私はまだ戦えるわ。それに、あの蛇女は私の獲物よ。誰にも渡さない」
その強い意志のこもった目を真っ直ぐに見つめ、ナツはいつもの笑み、とまではいかないが、笑みを浮かべた。
「・・・そう言うと思った」
ティアはすぐさま立ち上がり、シュランと再び対峙する。
真っ直ぐにシュランを睨みつけるティアに対し、シュランはガジルの方を見ていた。
それを確認したナツは、よろよろとガジルに向かう。
「いい加減沈めよ火竜!」
「うああっ!」
ガジルは向かってきたナツに、容赦なく蹴りを加える。
「俺は手加減って言葉知らねぇからよォ。本当に殺しちゃうよ、ギヒヒ」
そう言って邪悪な笑みを浮かべながら、ナツに攻撃を加え続ける。
「ジュピターの破壊、エレメント4との激闘・・・魔力を使い過ぎたんだ!炎さえ食べれば、ナツは負けたりしないんだー!」
ハッピーが叫ぶ。
そしてその叫びを聞いていた者が一人・・・いや、一体。
「なるほど」
その叫びを聞いた星霊・・・サジタリウスが動き出す。
スッ・・・と矢を一本抜き、構えた。
「少々誤解があったようでございますからしてもしもし。ルーシィ嬢は『アンタ火出せる?』と申されましたので、それがしは『いいえ』と答えました」
「?」
「・・・そうよ!そこの馬星霊!アンタなら・・・!」
サジタリウスが弓を構えた丁度その時、ティアが何かに気づいたように声を上げる。
「しかし・・・今重要なのは火を出す事ではなく、『火』そのものという訳ですな。もしもし」
サジタリウスがそう言う間にも、ガジルはナツにトドメをさそうと、右腕を鉄の剣へ変えていた。
「トドメだ火竜!」
「やめろーーーーーーー!」
ハッピーの悲痛すぎる叫びが響く。
その時・・・サジタリウスが放った矢が、二人の間を通過した。
その矢はガジルを倒す為にガジルを狙って放たれたのではなく・・・
その先にあった機械を狙い、放たれたのだった。
そして矢が命中すると、そこから一気に火が燃え上がる。
「火!」
「機材を爆破させて炎を!」
「おっしゃー!」
それを見たナツはがぶがぶと炎を食べ始める。
その右側に二本、三本と矢を放っていき、そこからも炎が燃え上がっていく。
「うおおおおっ!」
当然、それも残さず食べるナツ。
「何なんだ、あの馬みてーのは!?」
「星霊・・・あの女、星霊魔導士!?」
ガジルとシュランがサジタリウスに目を向ける。
「射抜き方一つで貫通させる事も粉砕させる事も、機材を発火させることも可能ですからしてもしもし」
「凄い!弓の天才なのね、サジタリウス!」
ルーシィが喜んでいる間にも、ナツは全ての炎を食べ終える。
「ごちそー様。ありがとなルーシィ」
それを聞いたルーシィは「うん」と頷く。
「火を食ったくれーでいい気になるなよ!これで対等だという事を忘れんなァ!」
「援護しますわガジル様!剛腕の蛇!」
そう言ってナツに向かっていくガジルの両腕に、真っ赤な蛇模様が巻き付く。
が、ナツはそんなガジルをギロリと睨み・・・
「ぐぁあっ!」
炎を纏った左拳でガジルの顎にアッパーを決めた。
「これでパワー全開だーーーー!」
ハッピーが喜びの声を上げる。
「レビィ、ジェット、ドロイ、じっちゃん、ルーシィ、仲間達、そして妖精の尻尾・・・」
「んぎぃ!鉄竜の咆哮!」
負けじとナツに向かってブレスを放つガジル。
が、そのブレスを突如起こった大波が綺麗に呑み込んだ。
「なっ・・・!?」
「相手がコイツ一人だと思ったら大間違いよ」
ティアは小さく地を蹴り、完全無防備なシュランに蹴りを入れる。
その蹴りでガジルとシュランは背中合わせのような状態になった。
「お、俺のブレスが・・・!」
「どれだけのものを傷つければ気が済むんだお前らは!」
ナツの怒りの叫びが響き渡る。
「バカな・・・!この俺がこんな奴に・・・こんなクズなんかに!」
「今までのカリを全部返してやる!妖精の尻尾に手を出したのが間違いだったな!」
「愚者は妖精の前で堕ちなさい!いいえ・・・必ず堕としてやるわ!こんな愚かな争いを起こした、これがアンタ達への罰よ!」
「俺は・・・最強の・・・」
「ガジル様!」
ナツは右拳に魔力を集中させ、ティアは空中に三つの魔法陣を展開する。
そして、まるでタイミングを計ったかのように・・・同時に渾身の魔法を放った。
「紅蓮火竜拳!」
「大海海竜拳!」
「ああああああああっ!」
「きゃあああああああっ!」
炎を纏った右拳の連続パンチと、水で構成された拳が決まり、それを喰らったガジルとシュランは倒れた。
それだけではなく・・・ファントムギルドの全体が崩壊した。
それを外から見ていたクロス達は、一気に歓声を上げる。
「これで、おあいこな」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ふふふ・・・とてつもなく機嫌がいいです、私。
今回はナツとティアのコンビが好きな人にとってはいい話になったんじゃないかな、と思う半面、下手だったかな・・・と思う、何かと忙しい緋色の空さんでした。
どうなるかは解りませんが、20日と21日は個人的な用事の為、更新出来ないかもしれません。
まぁ、その日になってみないと私にも解らないのですが。
感想・批評、お待ちしてます。
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