Element Magic Trinity
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妖精の堕ちる時
ナツがガジルと、ティアがシュランと、エルザがジョゼと対峙しているその頃。
妖精の尻尾のギルドの前では、ギルドメンバーと幽兵の激しい戦いが繰り広げられていた。
だが、ジョゼによって強化された相手に、メンバーは手も足も出ない。
『とある集団』を除いて・・・。
「行くぞ!エウリアレー!」
そう叫びながら、スバルは自身の銃『エウリアレー』に魔力を流し込む。
すると銃は連射に特化した形状へと変わり、その銃口に黒みを帯びた銀色の光が灯った。
「俺達のギルドに・・・手ェ出すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
二丁の銃を器用に構え、向かってくる幽兵に向ける。
「撃ち抜け常闇!滅しろ暗黒!ホーリィィィー・・・バァァアストォオォォッ!」
その銃口から放たれた無数の銀色の魔法弾は、綺麗に幽兵にだけ決まっていく。
しかも、銃弾一発一発が意思を持っているかのように、避けられても相手を撃ち、自由に方向転換する。
「何体でも来るなら来やがれ!妖精戦闘狂・・・スヴァルが相手だ!」
ちなみに、妖精戦闘狂は異名ではなく、ニックネームだ。
何せこの男、趣味は『売られた喧嘩を買う事』と答えるくらいの戦闘好きなのだから。
そしてその威圧感に怖気づいたのか、幽兵はスバルを避けてギルドに攻撃を加えようとする。
「チッ・・・ヒルダ!」
スバルが舌打ちをしながら叫ぶと、所有者に喚び出された召喚獣の様なスピードで、幽兵の前にヒルダが立ち塞がる。
「ギルドには指一本触れさせん!」
そう言うとヒルダは自身の杖『セルリヒュール』の先端に魔力を込める。
「聖なる光よ、全てを砕け!」
その瞬間、淡い紫の光が杖の先端に集まっていく。
そしてその光は鎌の刃のような形を創りだした。
「爆砕一閃!エラリケーション・・・ザンバァァァァァァァァッ!」
根絶の名の通り、相手を一掃する勢いで鎌を横薙ぎに振るう。
そのまま鎌を振るいながら、スバルと背中合わせになる。
「さっすがヒルダ」
「手は抜くな・・・力では我々が勝っているだろうが、如何せん数が多い」
「わーってる。こっちは怪我人も多いし・・・とにかく、やれる事をやろうぜ」
「ふっ・・・当然だ。そうでなければ、妖精の尻尾の名が廃る」
一方、そんな2人から少し離れた場所では。
「力を貸して!召喚!ルナティックロア!」
サルディアが飛竜のアイゼンフロウとは別の、今度は純白の羽を生やした天使のような女性を召喚する。
「お喚びでしょうか、サルディア嬢」
「お願い、私達のギルドを・・・皆の帰る家を守る為に、幽兵を倒して!」
「御意のままに」
ルナティックロアは向かってくる幽兵を睨みつけると、その手に純白の弓矢を握る。
「愚者に聖なる裁きを・・・天使の矢!」
「グガアアアアアアアアアッ!」
ヒュンヒュンと空を切る音と共に、光を纏った矢が幽兵に刺さっていく。
アイゼンフロウは大きく口を開け、幽兵を呑み込み、それを動力に黒い咆哮を放つ。
「中でナツ君たちが頑張っているんだもの・・・私だって諦めない!」
そしてそこから離れた場所では。
「む」
ライアーが自身の槍『フィレーシアン』を一振りし、幽兵を滅していた。
そこからリズミカルにステップを踏み、身の丈を超える長さと化したフィレーシアンを頭上でくるくると振り回す。
「ハァッ!」
フィレーシアンを横薙ぎに振るい、幽兵の体に何やら文字を描いた。
ライアーが槍の先端を地面に刺すと、そこから灰色の魔法陣が展開する。
「夜の帳よ・・・我が敵を砕け・・・」
ライアーが静かに呟くと、幽兵に描かれた文字が淡い光を帯びる。
そして槍を抜き、勢いよく振り下ろした。
「撃砕連斬!」
すると、文字が強く発光し始める。
次の瞬間、幽兵はフィレーシアンに斬り刻まれ、描かれた文字から流れる魔力に砕かれ、消えた。
それを見たクロスも剣を振るい、叫ぶ。
「もう一息だ!今、ドラグニル達が必死に戦ってくれている!俺達も全身全霊をかけて、俺達の家を守り抜くぞ!」
そう叫んだはいいものの、クロスには1つ不安要素があった。
(マズイな・・・相手は魔力さえ尽きなければ無数に現れる。だがこっちは生身の人間、魔力が尽きてしまえば戦えん。負傷者も多い。シュトラスキーの様に回復系魔法を使える魔導士もいない。今はまだ俺達が残っているが・・・ギルドがやられるのも時間の問題かもしれないな・・・)
クロスは一瞬そんな考えを巡らせたが、すぐに首を振ってその考えを消す。
(大丈夫だ。中にはドラグニルにスカーレット・・・それに姉さんもいる。こんな事を考えていると姉さんが知ったら「バカじゃないの?」と言われるな・・・今は出来る事をする、それだけだ!)
操縦室に、とてつもない轟音が響いた。
その轟音の原因は、火竜と鉄竜・・・二人の滅竜魔導士の拳がお互いの顔面に決まった事にあった。
その有り得ないほどの衝撃に、2人は吹き飛ばされる。
「ひえええっ!」
「あぶぁ!」
「うおおおっ!」
「何なんだよコイツ等ー!」
「うわああーーっ!」
その衝撃の余波は、ルーシィやハッピー、ファントムメンバーを襲う。
「だらぁっ!」
「うぉらぁああっ!」
その声を皮切りに、2人の激しいどつき合いが始まる。
時に拳、時に蹴り、時に肘打ち・・・一進一退の攻防戦が続いていく。
ナツの右拳が決まり、続いてナツの炎を纏った右足での蹴りが地に直撃する。
「ぐぁ!」
その蹴りを避けたガジルの拳がナツに決まり、お返しと言わんばかりにナツの炎を纏った左拳がガジルの顔面に当たる。
「つあぁっ!」
「オラァ!」
「がっ!」
「らっ!」
「す、すごい・・・」
そのどつき合いを見るルーシィは呆気に取られる。
それはファントムメンバーも同じだ。
「お、おい・・・あのガジルとどつき合いやってるぞ」
「し・・・信じらんねぇ・・・」
その戦いを見ている全員が呆然としていると、ガジルの頭突きがナツに決まる。
「ぎっ!」
それを喰らったナツの額から血が流れた。
だがそれに怯む様なナツではなく、今度はナツがガジルに頭突きを決めた。
頭突き返されたガジルは、よろよろと後ろに数歩下がる。
「ガジルが押されてんのかよ・・・!?」
「いや、火竜も相当息が上がってるぜ」
ファントムメンバーの言う通り、両者とも肩で息をしており、バテているのは明白だった。
すると、何を思ったのか、ガジルは突然床の鉄板を剥がし始め・・・
「ガジガジガジ・・・」
食べた。
「や、やっぱり鉄を食べるんだ・・・」
「テメェずりィぞ!自分だけっ!」
その光景にルーシィは驚き、ナツは憤慨する。
その間にガジルは鉄を食べ終えていた。
「鉄竜槍・鬼薪!」
「ぐぉああっ!」
ガジルは自分の左腕を鉄の槍に変え、ナツに向かって連続で突きを繰り出した。
「何!?さっきまでアイツ、フラフラだったのに!」
「滅竜魔導士は自分と同じ属性のものを食べる事で、体力を回復させたりパワーアップできるんだ」
「だったらナツも炎を・・・」
そこまで言いかけ、ハッと思い出す。
(そうだ・・・自分の炎、自分の発火させた炎は食べられないんだった・・・)
ルーシィとハッピーがそんな会話をしている間にも、ナツはガジルに押されていく。
「火!火!火の星霊なんかいたかしら!」
何とかしてナツに炎を食べさせようと、ルーシィはスカートのポケットを漁る。
が、すぐにある事実を思い出した。
(鍵・・・無くしちゃったんだ・・・)
そう。
ジュビアに捕まった際、構え損ねた鍵を落としてしまったのだ。
「手元にあるのは新しく手に入れたサジタリウスのみ。契約はまだだけど、これにかけるしか!」
ルーシィはガルナ島の報酬として手に入れた鍵を構える。
「我・・・星霊界との道をつなぐ者。汝・・・その呼びかけに応え門をくぐれ。開け、人馬宮の扉!サジタリウス!」
ルーシィの言葉に反応するかのように鍵が輝き始め、光が止むと同時に現れたのは・・・。
「はい!もしもし」
弓矢を持ち、馬の着ぐるみを着た星霊だった。
「そうきたかっ!」
「馬のかぶりもの!」
サジタリウスの姿にルーシィとハッピーは驚いたが、今はそんな事に驚いている場合ではない。
すぐさま本題に入る。
「細かい説明は後!アンタ火出せる!?」
「いえ・・・それがしは弓の名手であるからしてもしもし」
が、返ってきたのは「火は出せない」という答えだった。
「ルーシィ!危ねぇから下がってろ!」
「あい」
ナツに叱られ、ルーシィはサジタリウスの背中を押しながら下がる。
(あたしってば、役に立たなすぎる!)
己の無力さに涙を流しながら。
「どらぁっ!」
勢い良く地を蹴り、ナツは渾身の体当たりをガジルの腹部に喰らわせる。
「で?」
「!」
が、ガジルには全く効いていなかった。
「ハラが減ってちゃ力が出ねぇか?」
そう言いながら、ガジルはナツの足首を掴む。
「だったら鉄を食いな!」
「ぐああああああっ!」
そしてそのまま振り回し、ナツを壁にガリガリと思いっきりこすり付けた。
その光景にルーシィは口に手を当て、驚愕する。
「エグっ」
「やっぱガジルの方が・・・」
ファントムメンバーもその光景には驚く。
「もうテメェに用はねぇ。消えろクズがっ!」
そしてトドメと言わんばかりに、ナツを思いっきり床に叩きつけた。
ハッピーはその光景を見たくないというように、目を閉じる。
そしてナツは床に倒れ、動かなくなった。
「よっしゃ!」
「さすがガジルだぜ!」
「そ、そんな・・・」
それを見たファントムメンバーは歓喜の声を上げ、ガジルは笑い、ルーシィは震える声で呟く。
「ナツが負けるトコなんて・・・やだ・・・」
そう呟くルーシィの目には涙が浮かんでいた。
誰もがナツの敗北を予想した、まさにその時!
「大海圧壊!」
突然床が割れ、そこから凄い勢いの水と、その水に押されるローズピンクの髪の少女が現れる。
少女はギリギリで着地し、ガジルを見て目を見開いた。
「ガジル様!」
「シュラン!?何でテメェがここに・・・」
「よそ見してる余裕があるの?」
「!」
そんなシュランに容赦なく圧縮された水が決まる。
そこに堂々と、傷を負い、かなりの疲労があるのだろうがそれを感じさせないほど堂々と立つのは、言うまでもなく・・・。
「「ティア!」」
ルーシィとハッピーの声が重なる。
ティアは2人を見て少し驚いたように目を見開き、それからファントムギルドの壁に開いた大穴近くに倒れるナツを見た。
「何やってるのよ、バカナツ・・・何で、やられてるのよ・・・」
ティアの握りしめた拳が小さく震える。
そのアーモンドに近い形のつり目が、ガジルを捉えた。
「アンタが、アイツを・・・」
「あ?何だ、火竜の女か?」
「そんな訳ないでしょう」
ガジルの言葉にティアは即答する。
その速さ0,01秒・・・くらいだと思う。
「ガジル様、お下がりください。この女は私が」
シュランがガジルを手で制し、ティアと対峙する。
それを面白くなさそうにガジルは見つめ、それから大穴の外を見つめ、口を開いた。
「見ろよ。お前達が守ろうとしているものを」
その言葉にティアはシュラン越しに、ルーシィはサジタリウスと共に、ナツはうっすらと目を開け、同じ光景を見た。
そこにあったのは・・・
「妖精の尻尾があああっ!」
クロス達の健闘も虚しく、無残に崩れていく妖精の尻尾の姿だった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回はナツとティアのコンビが好きな人にとっては、少し嬉しいかもしれないですね。
その為に今回、ティアがここにいるのですから。
感想・批評、お待ちしてます。
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