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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第五十五章 君の元へと《2》

 
前書き
 進むセーラン。だが、その足を阻む者達。
 お急ぎスタート。 

 
 進むセーランは、正面に見える解放場から光が上へと流れ出るのを見た。
 解放を行うための予備動作に入ったことを示すものであり、残り時間の少なさを示すものでもあった。
 早く向かわなければ解放場が外界と解放対象を隔てる、桁違いの結界を張ってしまう。
 人類史上、解放場の結界を破った者はいない。ゆえに解放場の結界は他のどの結界よりも強い。
 迷っている暇は無い。
 流魔操作により宙を行き、地上にいる黄森の者達から離れる。
 ここさえ抜けられば、後は解放場へと流魔線を繋いで行ける。
 だが今それを行ってしまうと、これから自分の行く軌道を伝えているようなものだからやりはしない。
「絶対に間に合わせる! ここまで来て、終わらせてたまるかよ!」
 既に一キロは切り、五百メートルも無い。
 解放場との距離は近いが、そのため相手の数も多い。
 天上へと上る解放場から放たれている光は今は塵状だが、光が弾けてしまったならばもうお仕舞いだ。
 焦る気持ちを感じながら進む。しかし、行く手を阻む者が二人現れた。
 一人は黒髪の髪の毛を後ろで束ねた、刀を携える少女。もう一人は緩やかにカーブの掛かった金髪の、両手に槍を握る少女だ。
 戦闘艦の甲板上から、見上げる形でいた。
 面倒な相手が来たものだと、焦りから怒りに似た感情が湧き出る。
「そこどきな!」
「それは出来ぬ相談だ」
「この先へ行きたいのならば私達を倒していきない!」
 言い放ち、黒髪の少女である繁直は先行し、左の腰に携えた刀の柄を握る。
 甲板を蹴り飛ばし、加速系術を発動して一気にセーランとの距離を縮めた。
 ある程度の距離に達したところで、鞘から刀を抜いた。
「沸き出ろ、蛆虫!」
 抜刀した軌道上に、無数の細長い玉状のものが現れた。
 黒い玉は次の瞬間に蝿へと形を変え、羽を羽ばたかせ飛翔した。何か分からないが、とにかく危険な感じがした。
 黒い蝿は黒の軌跡を残しながら、狙いをセーランに定め迫る。
 避けようと、行動に起こそうとした時。
「そのままでいろ!」
 の後に、
「焼け、赤蛇!」
 背後から赤の蛇が、黒の蝿に向かって行き、全ての蝿を食らうように焼き殺した。
 後ろを向くセーランはある者を見た。
「八頭! ――さん!」
「後からさん付けご苦労」
 跳躍した八頭によって、彼方の攻撃は打ち消された。
 しかし、一体あの蝿はなんだったのだろうか。
 疑問に思ったことを、八頭は落下の軌道に入りながら説明してくれた。
「あれは妖刀による攻撃だ。あのまま喰らっていたら身体に無数の穴が開いていたな」
「マジかよ。本当怖いぜ、妖刀は」
 落下していくなかで、
「前を向いていろ!」
 後に続く相手へと注意を向けさせた。
 金髪の少女、清継による双槍の攻撃が来る。
「落ちろ――!」
 落下に入った八頭はなす術無く落ちていくが、交代するように地上から新たな者が来た。
 清継による攻撃がセーランへと届く前に、相手と対峙するように一人の忍者兼侍が来た。
「させぬで御座るよ!」
 相手の攻撃が行われる前に、忍者兼侍である魅鷺は打撃を放った。
 空中で武器を振ることは、地上で振るのとはわけが違う。だからこの身による攻撃が素早く攻撃出来る。
 地面に押し返すように、相手の胸元少し上を平手打ちした。
 宙なのだから支えもなく、軽く地上へと向かって行った。
 背から地上に向かうなかで。
「まだです!」
 言い、宙を蹴り飛ばしたような動作をして、再び上がって来た。
「噛み合え! 右鎖、左矢!」
 清継は両手に持った槍を、勢いよく刃と刃でぶつけた。
 冷たい金属音が鳴るや否や、何も触れていない筈の魅鷺の肌が切れた。
「む……?」
 事態が掴めなかった。
 急に肌が切れ、制服兼戦闘服も同じく切れた。
 しかし傷は浅い。
 ゆえに魅鷺は事態の把握ではなく、攻撃を仕掛けるのとを優先した。
「セーラン殿、足場を!」
「了解!」
 魅鷺の足元にセーランによる流魔操作によってつくられた足場が現れ、その足場に足を置き、加速系術・駆々走を発動した。
 効果は至って簡単。
 最低からの最大、最大からの最低の速度を約束するものだ。
 相手との距離は三メートル以内であり、これならば行けると感じた。
 駆々走を発動し、額の前にその名が表示された映画面|《モニター》が現れ、なので前に進むと同時に額で映画面を割る。
 清継の懐へと入った魅鷺は、相手が行動を起こす前に行動した。
「手荒な真似、すまぬ」
 付げ、
「――っ!? 一体何が……!」
 気付けば清継の身体には、鈍く光る鎖が巻き付けられていた。
 上半身のみだったが、鎖は両の腕も巻き込んで縛っていた。
 忍になるための技術の一つだ。
 “早絞め”と呼ばれるものをやったのだ。
 普通の者なら、まるで一瞬に思えるがそうではない。だが清継は理解出来ず、縛られたまま落ちて行った。
 先に甲板上に落ち、着地していた繁直により清継は受け止められたが、大きな隙を生む結果となった。
 目の前に邪魔するものは無く、隙が生まれた瞬間にセーランは動き出した。
「ありがとな」
「ここは任せておけ」
「後少しで御座るよ!」
 宙を行ったセーランを見て、戦闘艦の甲板にいた繁直は休む暇無く映画面を表示し指示を飛ばした。
 指示を飛ばす先は、既に空へと上がっていたワイバーン級戦闘艦だ。
「撃て! 撃てえええ――――!」
 叫び、事態の重要さを伝える。
 ここを抜けられてしまえば、流れが一気に日来側になる。なんとしても耐えねばならない。
 外装甲に取り付けられた副砲が標準を合わせ、迷い無く砲撃を放った。
 ビーム状の砲撃は、宙を行くセーランへと向かっている。これを食らったのならば、重体どころか即死もあり得る。
 例え殺したとしても、宇天の長の元へは行かせないことを黄森は選んだのだ。
 無茶苦茶だと思いながら、回避を行い逃れようとするが、甘かった。
 主砲が鳴った。
 はなっからセーランを殺しにきていたのだ。
 光が放たれ、眩しさと共に砲撃の音と熱が来た。
「セーラン殿――!」
 長の名を呼ぶ魅鷺。
 だが今、セーランの横からは砲撃が迫っている。
 直撃する。
 誰もがそう思った。
 砲撃が推進する轟音と共に、光がセーランの全身を包んだ。
「あれは……!」
 地上にいた八頭が、空を見て言った。
 戦闘艦の他に空を行くもの。
 青く、しかし黒と金色の塗装がなされたものが、砲撃の方へと高速で向かって行った。
 高速ながら音は風が隙間を吹き抜けるような音で、光を反射しない、まるで光を吸収しているかのような装甲。
 そう、これは騎神であり実戦機。
 戦争では主役となるもの。
 訓練機とは桁違いの能力を秘めた、選ばれた者のみにしか操作の出来無い機体だ。
 騎神は砲撃に向かい、日来の長であるセーランを庇うように前へと行った。向かう砲撃に左腕を見えるように構え、籠手のような装備が展開し盾となり砲撃がぶつかった。
 砲撃に対して小さい盾だったが、砲撃はその盾を壊すことは出来ずに四方八方へと威力を削がれて飛び散った。
 副砲など既に眼中にないかのように、騎神の装甲に当たるが掠り傷すら付かない。
 砲撃の光が消える頃、地上から八頭が騎神の名を叫んだ。
「あれは辰ノ大花が誇る実戦機騎神が一機――轟竜騎か!」
 実戦機の投入は、一気に戦況を覆す力を送り込んだということだ。
 騎神のなかでも実戦機はそれ程脅威であり、脅威であるからこそ実戦機に使う部品は訓練機騎神の数機分の価値があるとされる。
 幾ら多くの訓練機騎神が相手でも、対峙しているのが実戦機騎神だったのならば意味が無い。そんな実戦機騎神・轟竜騎を宇天の長の救出に向かわせた。
『行け、日来長! 宇天学勢院を代表して俺が言う。俺達の長を救ってくれ!』
 轟竜騎から聴こえる若い男性の声。
 これを聴いたネフィアと共にいる騎神・戦竜の操縦者は、内部通信で轟竜騎の操縦者と会話を試みた。
 この声に聞き覚えがあるからだ。
『お前、まさかA1か……?』
『そのまさかだ』
『お、おま……実戦機なんて学勢の俺達が操縦出来るような機体じゃねえぞ。どうやったんだよ』
『それはな』
 話しは日来の赤い騎神との戦いが終わった頃までさかのぼり、起きたことを話した。



 日来の赤い騎神との戦いを終え、負傷した戦竜から意識を取り戻した自分はすぐに目が覚めた。
 カプセル状の操縦席から見えたのは、青く彩られた世界だった。その青は被っていたヘルメットに備え付けられたアイシールドの色だと気付いたのは、意識を取り戻してから数秒のことだ。
 操縦者の意識が戻るとカプセル状の操縦席は自動で開き、早々に次の行動を起こすために素早く出た。
 整備班やじいさん、仲間のことは今は無視し、向かう先は社交院の騎神操縦者のいる別の場所だ。
 倉庫と倉庫は地下で繋がっており、地下に降りて向かって行った。事態が事態なためか通路には人数が少なかったため、走っていても邪魔するものは無かった。
 幾らかの時間が経ち、先輩方がいる倉庫へと着いた。
 走って来たが息を整える暇無く、足早に先輩方の元へと向かった。
「何しに来た」
 地下から上がり、十五メートル以上はある騎神の頭部と同じ高さとなる階に着いた途端に言われた。
 すぐのことだったので、戸惑う方が先で返事が返せなかった。
「別に言いたいことは解る。どうせ、この轟竜騎を使わせてくれとか言うんだろ」
「そうです」
「当たってたか。使ってもいいぞ、お互い後から上から色々と言われるだろうが」
 話している相手は、辰ノ大花の社交院の騎神操縦者であり騎神隊のエースだ。
 黄金時代では無名ながらその実力は本物で、幾度も辰ノ大花を窮地から救った一人である。今はもう中年のいい歳とした大人の男性ながら、まだ現役を続けている、自分が尊敬している人だ。
 近くに同僚がいたが、彼らは二人を交互に見るや何も言わずに離れて行った。
 まるで何事も起こってないかのように。
「だけどな、こんなもんを使って何になるっていうんだ。お前に長が救えるとは、すまないが思えない」
「気にはしてますが事実なので仕方ありません。確かに轟竜騎で出来ることは限られています。ですが何もせずに、長であっても後輩の彼女を見殺しには出来ません」
「言っていることは解らんでもないが、長を救った場合の黄森の態度を無視することは出来無い。神州瑞穂にいる以上、黄森とは嫌でも関わらなければならない。行くならよく考えろ、今後の黄森との向き合い方を。
 お前達はまだ学勢だが、いずれ代が代わり、お前達が辰ノ大花の社交院に勤めることとなった時。その時にどうするかを考えておけ」
「どうするか……を」
「既に世の中は次世代を意識して動いている。今後は大人が世を動かすのではなく、高等部学勢も世を動かす存在となるだろう。子ども染みた考えもいいが、きちんと現実を意識した考えも持て。
 そうしなければ辰ノ大花は、結局は黄森の下でしかない」
 言っていることは解る。
 いずれはこの辰ノ大花を動かすのは自分達であり、浅はかな考えは将来に関わる。
 長を救出することには異議は無いが、今後黄森とどのように関わっていく気なのかと彼方は問うているのだ。
 ここで答えるのはこの場限りの答えではなく、今後に続く答えだ。
 息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「今、自分が考え付くのは黄森との睨め合いを続けることです。幾ら黄森でも、神州瑞穂の主戦力の一つである辰ノ大花を無理矢理潰そうとはしないでしょう。黄森と仲が悪かったのは今に始まった話しではありません。ですから、この状況を続け、何時しか黄森に盾突けるようになったら盾突こうと思っています」
「つまり時を待つ、と言うことだな。ふ、お前らしい現実的な考えだ。確かに現状を維持することは大切だ。だから後は、逆らう機会を間違えるな」
「……はい」
「行って来い」
「え?」
「言った筈だ。逆らう機会を間違えるなと。今は黙って見ている時か? それとも行動に起こし、黄森に盾突く時か?」
 まさかこんなにも容易く、理解してくれるものなのだろうか。
 しかし今、行って来いと言われた。
「どうした。早く行け」
「いいんですか?」
「いいと言わなければ解らないのか」
「す、すみません……!」
 反射的に姿勢を正す。
 背筋を伸ばした状態のまま、
「この恩は行動で示します」
「当たり前だ。轟竜騎は俺のを使え。俺に合わせて調整しているから操縦は難しいだろうが、扱えない程じゃないだろ。こっちで意識の送り込みはやるから心配はするな」
「ありがとうございます。では、使わせてもらいます」
 一礼し、先輩である男性が使う操縦席へと向かった。
 操縦席へと着き、騎神へ意識を送り込むのにはそう時間は掛からなかった。
 不馴れな機体に機体制御が始めは上手くいかなかったものの、持ち前のセンスですぐにコツを掴んだ。
 お互い、言葉はない。
 今なすべきことは、もう分かっているからだ。ゆえに起動した轟竜騎は何も言わずに、開いた倉庫の扉から出た。
 そして、蒼天の下。
 一機の騎神が出撃したのだ。




『物分かりのいい先輩でよかったな』
『全く同感だ』
 A3の言葉に同意する。
『増援はすぐには来ないが、後から来る。それまで持ち堪えるぞ』
『了解!』
 内部通信を切り、外部通信へと変更する。
 日来の長を庇いながら戦闘艦からの砲撃を防ぎ、確実に解放場へと送り届ける。
 だから騎神の近くにはセーランがいた。
「本当にすまえねな」
『それはこっちの台詞だ。わざわざ長のために、ありがとな』
「好きでやってんだ。お礼なんて言うなよ」
『――ほら、もうここまででいいだろう』
 声を張り、日来の長に言う。
 もう解放場との距離は二百メートルを切っている。
 騎神はセーランから離れ、今だに砲撃を続けている戦闘艦を駆逐しに行こうとしていた。そうすれば戦闘艦は日来の長を狙おうか、騎神を狙おうか一瞬でも迷う筈だ。
 その一瞬さえあれば、実戦機ならば容易に距離を縮められる。
 理解したセーランは、頷きを一つ入れた。
「戦闘艦は頼んだぞ」
『必ず、救ってくれよ』
 と言い、騎神は速度を上げて離れていく。
 離れ際、その騎神に向かって一言。
 セーランは短く、決意を告げた。
「やってやるさ」
 流魔操作を続け、残りの距離を縮めていく。
 解放場から放たれている光が多くなり、濃く、青色に染まりつつある。光が弾けるまで、もう時間は秒単位だろう。
 誰もが必死だった。
 黄森の者達であっても、辰ノ大花の者達であっても、日来の者達であっても。
 何時もは呑気なセーランであっても、額には焦りから出た汗が見える。
 徐々に大きさを増す解放場と、解放場に立つ宇天の長。ドレイク級戦闘艦に向かい、迫る勢いで宙を進んで行く。
 この機会だけが、宇天の長の元への近付ける最後の時だ。
 幾ら後悔しても、憂いても、この機会しかない。
 風を切り、宙を舞い、進んで行く。
 戦いの音が響き、聴こえる。
 そのなかでセーランは行く。
 想い人に告白するために。そして、一緒に生きるために。
 三年間、一目惚れという形ではあったものの彼女のことを想い続けた。
 まだ片想いのままだ。だから行く。
 委伊達・奏鳴に告白するために。
 委伊達・奏鳴を救出するために。



 駆翔天艦内は慌ただしくなっていた。
 それもそうだ。このドレイク級戦闘艦・駆翔天が背負う解放場へと日来の長が向かっているのだから。
 理由は一つ。
 これから解放を行う宇天の長を救出しに来たのだ。
「何をやっている! 早く解放に取り掛かれ!」
「無茶言わないでください! 予備動作を終えずに解放を行えば、解放場本体にダメージが渡りますよ!」
「それでもだ! いいか、なんとしても宇天長の魂の流魔結晶は必要なのだ。今は解放場のことよりもいち早く解放を行うことに集中しろ!」
 隊隊長は叫ぶ。
 解放を開始するのはもう間も無くだが、日来の長はすぐそこまで来ている。
 油断などしていれない。
 焦りながら解放場の操作を行う者達は必死になって、皆それぞれの指を動かす。
 予備動作を十分にしていないため、解放による解放場の故障を警告するアラームが鳴るが艦内にいる者達は無視した。故障したとしても、まず解放しなければならない。
 宙に浮く一つの映画面|《モニター》の向こうでアラートの音を聴く、黄森の天桜の長は近くにいる隊隊長に向かって言う。
『やれやれ、私が行った方がよさそうだな』
「身体の方は……」
『無用な心配だ』
「そうか、だが無理も無茶もするなよ」
『偉そうに』
「幾ら織田瓜が黄森を治め、その織田瓜が学勢であっても子どもには代わりはないからな」
 この後に続く言葉は返ってこなかった。あえて言わなかったのかもしれない。
 数拍置いてから、映画面から声が発せられた。
『日来長が解放場に辿り着いたのならば、せめて私が行くまで解放場に留めていろ』
「了解した」
 言うと映画面は消えた。
 だから隊隊長は今なすべきことに、意識を集中させた。
「あれを使え」
 と解放場の操作をしていた一人に告げる。
 あれ、という言葉を聞いて、誰もが立ち止まったがすぐに自分達の役目を果たすために動いた。
 告げられた者は一瞬戸惑い、一度確認を取る。
「いいんですか。あれは天魔の……」
「我らが織田瓜の娘が分けてくれた力だ。ここで使わず何処で使うというのだ」
 しかし……、と言うも、間を開けて納得したように一回頷いた。
「分かりました」
 返事の後。すぐに取り掛かった。
 映画面を表示し、パスワード入力画面を開く。そこである数の文字、数字を打ち込む。
 少し経つと現れた、何かのロックを解除するボタン。
 肯と否の二つのボタンがあるなかで、肯のボタンを一回押す。
 無意識に唾を飲み込み、起動するのを待った。数秒後。別の戦闘艦から一つの鉄製のコンテナが放たれ、駆翔天の手前に金属音を響かせて落ちた。
 落ちるや否や、近付いてくる日来の長に向かってコンテナから漏れるように無数の黒い手のようなものが。コンテナを破裂させ、飛び散るかの如く伸びて行った。
 おぞましい何かを放ちながら、日来の長を飲み込まんと迫っていく。
 宙で歯を食い縛るセーランは何も出来ず、迫る黒の手を見ることしか出来無かった。何故ならば、コンテナから放たれた直後にセーランの眼前へと伸びたのだから。
 まるで空間を飛び越えたように。 
 

 
後書き
 セーラン君が進む先を阻む黄森勢。
 何故、彼らはそこまでして宇天長の解放に必死になるのか。それは後で分かります。
 黄森も黄森の事情があり、その上で次々と起こる物事を解決しています。
 黄森を納めている者はまだ学勢。
 第二十九章をお読みの読者ならば分かっていると思いますが、黄森を治めている一族には今現在、両親はなく、子のみが生存しています。
 ゆえにその子が黄森を治めているのですが、この事態が起こったのは、その子に関係があるのです。
 単純なようで複雑、複雑なようで単純。
 世界はとても面倒なものですね。
 更に今回は“天魔”というキーワードが出てきました。
 文章では特に強調していないので、そのままスルーした読者は多いのでは?
 キーワードになっているので、この“天魔”が後にとある事態を引き起こします。
 少しのネタバレ。
 ですが今は宇天長を救出することが重要。

 頑張れセーラン!
 負けるなセーラン!

 いきなりですが、ここで去らば。
 ではまた。 
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