| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

蘇生してチート手に入れたのに執事になりました

作者:風林火山
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

瞬殺、そして救済へ

佐多兄弟は傍観する。
今までのように無力を噛み締めながらではなく、本当に、本当に、
自分たちの力が必要ない、と感じながら。
目の前のたったひとりの男を見ながら、思う。
発信機を外し終わった彼は、従業員が物言えなくなるほどの剣幕で、ファミレスを出、そのまま人目も気にせず全力疾走。
やがて辿りついたのは、人気の無いコインパーキング。
車を使って屋敷に行く気だろうかと思い、やはり先程同様自分たちの力が必要なのではないか、と彼に提案すると、
「車を奪って、屋敷に行く?俺にそんな技術ねぇし、お前らの力があればそれも出来るんだろうけど、そんなまどろっこしいコトしているヒマはねぇだろ?」
彼の言うとおり、既にタイムリミットまで、後十分程度の時間しかなかった。
じゃあどうするんだ?と彼に聞くと、
「車に載るのは合ってるけど、ちょっと違うかな。まぁ、俺の力があれば、こんなこと位できるかな?と思ってさ。」
そういって、近くにあった乗用車ーごく普通の中型だーを軽く持ち上げた。
そんな彼の行動に戸惑っている我々に一言。
「お前ら、後から着いてこいよ~。」
そう言って、彼はその乗用車を思い切り放り投げ・・・・、
自らその放り投げた乗用車に飛び乗った。
 
 宏助は今、初めて空を飛ぶ、という経験をしていた。
眼下には住宅街が見え、自分の周りに広がるのは青空。
高所恐怖症でなくとも、背筋が凍る体験だ。空飛ぶ車に飛び乗るなんて。
あの豪邸の位置は、ご丁寧にも楼(?)から貰った地図のおかげで分かった。異常な嗅覚や視覚を使えば、屋敷までの距離感もなんとなく分かった。
だから、乗用車を投げたときもしっかりと、屋敷の庭・・・初めて宏助があの屋敷に入ったときに通った道に投げたつもりだ。
乗用車に飛び乗るときも、必要最低限の体重しか掛けないように努力し、できる限りこの自分で投げた勢いを消さないようにした。
だから、先程タブレットで見た位置に・・・・屋敷の前庭にこの乗用車は落ちるはずだ。
そうこうしている間に、屋敷の周りを護る住宅が見えてくる。
と、同時に乗用車の高度が下がってきた。
しかし・・・・・・・
(はやすぎるな・・・・・・。)
幾らなんでも高度が下がるのが早すぎる。これでは、屋敷周りの住宅に激突してしまう。
「ま、そういう事態も織り込み済みだからな・・・・。」
宏助は先程佐多兄弟が話していたもうひとつの話について思い出す。
彼らはこう言っていた。
「明様はまだ殺されてはいない。麗さんが撃たれたことを知らないのでしょう。そして、麗は今、数発の弾丸で撃たれたあと、なんの治療もなしに、寝かされている。おそらく、彼らは、最初から、これを狙っていた。貴方と麗を分離させ、どういう訳か、麗が屋敷に繋がる隠し通路のことを知っていることも知っていた。そして、わざと我々でも解除出来るような簡単な発信機をつけさせ、麗をも手に入れた。後は貴方だけだ。ただひとつ彼らの誤算だったのは、おそらく麗が貴方に助けを求めず、ひとりで来たこと。だから、彼らは貴方を待ち構えている。つまるは、貴方は飛んで火にいる
夏の虫、てな訳ですよ。つまり、屋敷に進入するには誰も想像しないような侵入自体がバレず、かつ、大混乱を引き起こせる方法でないといけません。
それでもやりますか?」
勿論、宏助の返事はイエスだった。
「夏はもう終わりだ・・・・。季節外れの虫は、生命力が強く、たくましい証だぜっ!」
そう呟いて、宏助は、高度がほぼ下がり、今にも住宅にぶつかりそうな車の裏に回り、豪邸をぐるりと取り囲む住宅の一角の屋根を思い切り蹴飛ばした。
ビュン!と音を立てて乗用車は猛スピードで、屋敷へ、宏助の予定した位置に・・・・宏助の居場所に向かって突っ込んでゆく。
宏助はひとつの確証があった。
奇想天外な進入方法としては、この方法は・・・申し分ないだろうということだった。

 既に宏助の乗用車は、屋敷の見張り台ー普段SP達が監視に使っているところから見えていた。更には、乗用車が、住宅にー屋敷を囲むその住宅の屋根を蹴り飛ばしたりする前からレーザーが反応し、追撃しようと、住宅の屋根からいくつもの銃器が自動的に作動、その砲口を乗用車に向けていたし、住宅の屋根に設置された監視カメラから、楼が連れてきた襲撃犯達も全員見ていた。
そして、全員が困惑していた。
意思を持たぬセキュリティシステムでさえ。
乗用車が飛んでくるなんて、前代未聞だし、ましてやセキュリティシステムにもそんな場合の対処法はプログラムされていない。
困惑しながらもしかし、さすがというべきか、とりあえずセキュリティシステムも、部下もその乗用車の追撃に向かう。
しかし、監視カメラから見た映像は、一人の男が、何故か飛んでいる車から出てきて、住宅の屋根を蹴る。
すると、乗用車は見えなくなり、まもなくそこにあったはずの乗用車を捉えようとした弾丸が放たれる銃声と、
近くで、なにかが地面に落ちたようなすさまじい轟音が鳴り響くのはほぼ同時であった。

「な、なんですか?これは?」
明は混乱していた。突然鼓膜が破れるかと思うぐらいの音と、屋敷全体に伝わった揺れがあったからだ。
確かにこのことで、皆は混乱していたが、ひとつだけ宏助も予想外のことがあった。
つまり、明の横にいるのはロボットだから、混乱などせず、
強い衝撃を受けたため、元々備わっていたプログラムを実行する。
『緊急事態の場合、神条明だけをとりあえず連れ去る』というプログラムを。
「ラァ!」
「ぼべふふッツウ!」
またひとり宏助の膝蹴りの餌食となる。殺さない程度にはしてあるが、別に大した加減もしてない。
別に明を襲おうとしたような奴がどうなろうと知ったことじゃない・・・・・、
宏助は今それくらいまで考えられるほど、怒っていた。
そろそろ三十人ほどか・・・・と殴っては蹴るを繰り返していた宏助がようやく人の波が消えたことに気づく。
そこでSPが寝かされていた場所へ向かう。
三十人・・・・のほとんど・・・・見張りは随分血相を変えて、こちらに宏助のことを報告しようとした数人・・・・も含めて、宏助に立ち向かったきたが、
先程数えている数から計算すると三足りない。そしてその三は・・・・・
「・・・・SPと麗が寝かされている場所!」
三人が宏助の実力を見て、麗だけでも持ち帰ろうという算段だろう。今まさに、SPと同じところに寝かしておいた重症の麗を持っていこうとしている。
「待てぇ~!」
三人の男が、血だらけの麗を担いで持っていこうとしているのが見える。
宏助は地面が削れるほどの全力疾走で駆け出し、その勢いのまま、三人を一気に蹴り飛ばす。
『ボベガァァァァ!』
三人とも何やら素っ頓狂な声を上げて飛んでいき、屋敷の壁に激突する。
宏助はその三人は気にも留めず、支えを失って倒れた麗を抱える。
「麗さん!大丈夫ですか!麗さん!」
「・・・・う・・・うん・・・・」
耳元で叫ぶと麗は間もなく目を覚ました。どうやら見た感じ銃弾は全て急所からずれていたので、今すぐの命には大事ないが、出血量が気になる。
宏助は、見よう見まねで、麗の今着ていたメイド服をちぎり傷口をふさぎはじめる。
そうしていると麗が話しかけてきた。しかし、彼女の第一声は・・・・
「明様は・・・・・・SPたちは無事ですか・・・・・?」
自分以外を思いやる言葉だった。
だから宏助はため息をひとつついて、こういった。
「馬鹿ですか・・・・馬鹿なんですか麗さんは!」
いきなり宏助に怒鳴られ、麗が自分の腕の中で、ビクリとするのが分かる、しかしやめない。やめるはずもない。
「麗さんははまず、ひとりで勝手に、屋敷に行った!俺に助けを求めもせずに!そしてもうひとつ、自分の身を省みずにSPや明のことを心配ばっかりしてる!そして、最後に!麗さんは自分の過去に囚われすぎてる!アンタの恋人との約束だかなんだか知らないが・・・至極どうでもいいんだよ!麗さんは・・・・麗さんのために生きろよ!死者とか、護るべきもののためなんかじゃなくて!
そして、麗さんはもっと他の人に頼れよ!麗さんは、もう・・・・恋人がいなくなったって、ひとりじゃない・・・・・・。
SPどもが・・・・・・明が・・・・・・俺もついてる!
麗さんは自分と・・・・そして麗さんの生を望む俺たちのために・・・・生きろ!」

 麗はゾクリとした。彼にあの言葉を言われたとき。
そうだ、なんでこんなに簡単なことに気づかなかったんだ。私は。
そうだ、彼は言ってた、私に。あれが、本当に本当に最後の言葉だった。
そう。彼は言ってた。
・・・・・俺の分まで生きてくれ、と。
ニッコリと微笑みながら、爆炎たつこの豪邸の庭の芝生に・・・寝ながら彼の面影を思い浮かべる。
もう大丈夫、後は、後は、
・・・・彼が・・・・・伊島宏助が・・・・なんとかしてくれる。

「うおおおおおお!」
ドカァン!という音とともに宏助は先程から視覚と聴覚を駆使して位置を突き止めていた・・・明・・・そして明を連れ去っていたロボットである楼を発見する。
彼らはちょうど裏門の入り口から出ようとしていた。
明はグッタリとしていて、楼にかつがれている。
宏助はちょうど豪邸の屋根を破壊し、裏側に出たところだ。
楼のロボットは少しこちらを見ると、明にいつのまにやら腕から生えているライフルを向けている。
どうやら武器まで内蔵されているようだ。
自分に手を出せば、こいつの命もない、と言いたいのだろうか。
しかし・・・・・・、宏助はニヤリと笑う。
しかし・・・・・・・、そんなものは、自分にとって無駄に等しい。
「おい、そこのサイボークだかロボットだか。」
ビュン・・・・ジャキッ・・・・ドドドドドド!
宏助が・・・・屋根を蹴って、ロボットの背後に回りこみ、話しかける。ロボットの反応はあまりに遅くこっけいだった。
ライフルの銃声、しかしあんなもの、『こちらの手元に明がいる場合』全く持って不必要だ。
そう、既に宏助の腕には明が抱えられていた。
そして、既に宏助は、ロボットから数十メートル離れた位置に移動する。
「おい、ロボット、そのデータに記憶しとけ。瞬間移動並のスピードで移動し、奪われていたお姫様を奪還する。ゲームじゃこれを・・・・・・・、
チートっていうんだ。覚えておきな。ま、俺のチートは更にお姫様を攫った魔王ですら瞬殺する位のチートだけどな。」
そう宏助が言い終わるのと同時に、ロボットは音もなく一瞬で崩れ去った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧