蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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憤怒と幽霊
二人の半透明の男が、宏助の前で、ふわふわと漂っていた。
二人とも、顔立ちや背格好が似ていて、ぱっと見だけでも、兄弟なんだな、と分かった。
それでも、この二人は、律儀に自己紹介をしてくる。
「こんにちは。私は、佐多善無。で、こっちは、」
二人の内の少し背の高く、ひょろっとした方が、二コリともせずに横にいる少し肉がついた体の方に自己紹介の権利を渡す。
「私は佐多義男。」
『以後お見知りおきを。』
二人そろってそんなコンビネーションばっちりの自己紹介をしてくる。正直、いつもならツッコんでいたところだが、元気がない今の俺に、このギャグのような自己紹介はキツイ。
別に今更幽霊について何か言うつもりもなかったし、うっとうしかったので、適当にどっか行って下さい、と言おうとしたとき。
宏助の言動をその兄弟の言動止めた。
「時間がないので率直に報告いたします。」
善無が言って、義男が後を継ぐ。
「麗が撃たれました。」
「・・・・・・なッツ!なにをっ!」
そこで思わず叫んでしまう。人が少ないと言っても一応いた少ない従業員と、客に怪訝な視線を向けられる。
気がつくと立ち上がっていて、一度、席に着く。
「・・・・・どういうことだ?」
義男、善無が交互にその問いに答える。どうやら基本順は、善無、義男の順らしい。
「麗は、屋敷に繋がる隠し通路の存在を知っていて、屋敷に進入しました。しかし、相手方は、その隠し通路の存在を何故か知っていて、麗に銃撃をしました。」
「麗のその行動を止めようとしたものの、この身体では、止めるに止められず、麗が撃たれるのをみすみす見逃してしまいました。しかし、せめてもの努力として、豪邸から出てきた貴方に、このことを伝えてみました。」
彼らが語る事実に驚愕する。
何を言っている、コイツら。麗が撃たれた、屋敷に繋がる隠し通路?そもそもコイツらは一体・・・・?
そんな疑問の視線をぶつけていると、二人が答え始める。
「我々は、元は、あの豪邸に住むSPでした。ある出来事で死亡して、このような身体になって五年前から豪邸に住み着いていました。」
「しかし、ただひとつ、つい二週間前ほどに、貴方があの豪邸にボディーガード兼執事として何故か就職した。それ以来それを不審に思い、ずっと我らは、貴方を見張っていた。明様と会話できるのは知っていましたが、もう、あの方をこれ以上あのことで悲しませたくない。だから貴方を見張っていた。だから貴方の事情も知ってる。」
「最早、一刻の猶予を争います。詳しい事情はあとで。とりあえず、この発信機を外す方法を教えます。今すぐに、聞いて下さい。」
「・・・・・・。」
言われるがままの宏助はいよいよ混乱してきた。つまり・・・どういうことだ?
まとめると。
・俺の前にいる二人は佐多善無、義男で兄弟。
・元豪邸に住んでいたSPで、今は幽霊。
・俺や明の事情を知っていて、今まで見張っていた。
・先程麗が撃たれたのを目撃し、俺に伝えに来た。
なるほど。なんとなく事情はわかった。今から、この発信機も取り外す方法を教えてくれると言うし、とりあえずコイツら信用できないことはあるまい。
「お、おう。早速教えてくれ。」
多少二人の勢いに気圧されながら、二人の兄弟の丁寧な説明と共に、発信機を取り外していく。
しかし、なかなか時間がかかるので、説明を善無に任せて、お前らが死んだときのことを教えてくれ、と頼む。
しかし、そう頼まれた義男はなにやら難しい顔だ。
「なんか言えない事情でもあんのか?それならいいけど。」
善無の説明を聞き、手を動かしつつ、義男に聞く。
確かに人の死んだときのことを聞くのは無礼だが、そうすれば、もしかしたら、彼らを成仏できるかもしれない。今成仏されても困るが、自分を助けてくれているのだ。成仏させてやりたい。
しかし、善無は渋々といった顔だ。
「我らの過去を語るには、あまりにも悲しい、麗様が関わるあの事件について語らねばなりませぬ。」
麗の過去、と聞いて黙っていられない。
野次馬根性かもしれないが、しつこく再度聞いてみると、
「仕方ありませんなぁ。」
と話してくれるようだ。
その話は、既に終わりかけの発信機の分解作業が終わるまでの数分足らずの話だった。
しかし、宏助は思う。
こんな話、聞かなきゃ良かった、と。
明は思う。
先程鳴り響いた銃声はなんなのか、心配しながら思い出す。
彼・・・・・若菜新間は・・・・・何故、
何故・・・・今この場にいないのだろう。
何故・・・・・死んでしまったのだろう。
何故・・・何故・・・・その疑問符が明を苦しめる。
宏助は怒っていた。
らしくない、自分でそう思っていてもやはり、冷静ではいられない。
麗は・・・・、麗は本当に・・・・・、
後ろでは、佐多兄弟が待機中だ。既に発信機を取り外し、机の裏に貼り付けておいた。
しかし、このまま屋敷に突入すれば、いくら宏助と言えども、SP全員を無事に護りきることが出来るかどうかは分からない。
でも、宏助はいいと思った。
そう、問題ない。
SP達に死の覚悟がないとは思えない。だから、見殺しにするのは酷くとも、何かをするのに彼らの命が絶対に助かるような道を検討しなくてもよいのだ。
だから、麗は・・・本当に・・・間違ってる。
貴方が護るべきなものは、恋人の遺言でも、SPの命でもない。
麗と・・・そして俺が護るべきなのは・・・・
「・・・・・お嬢様・・・・こう呼んだの初めてか。今から助けにいきますよ。」
だから自分は、行く。もう死んでる兄弟のSPと、死んだはずの自分で、
頑固で・・・馬鹿な・・・彼女達を助けに行くために・・・・、
宏助は行動を起こす。
佐多兄弟から聞いたのは・・・簡単な話。
麗は元々、斉藤、という姓だったらしい。
彼女は、昔、神条総帥の元で、秘書として働いていた。
そんな職場で出会ったのが、神条総帥の、SPとして働く若菜基道だった。
二人はお互いの仕事の上ではとても有能だった。そんな才覚ある者同士、除々に惹かれあい、やがて付き合い、その関係はどんどんと密接になっていき・・・・やがて婚約までした。
しかし、婚約した直後に基道は神条総帥の一人娘である明のSPの配属に特別に回される。
特別な理由とは、明が神条総帥と共に、舞踏会に出席するとのことで、その道すがらの警備を担当することだったらしい。
その中には、佐多兄弟もいた。
麗は彼の出発を悲しんだが、無事必ず帰ったら、結婚しようと、別れの言葉を爽やかに告げて出かけていったらしい。
しかし、結局のところ、その約束は果たされることは無かった。
舞踏会への道すがら、いきなり襲ってきた、一味の一人に、ナイフで、胸を一突きされ、基道はあまりに呆気なく死んでしまったと言う。
佐多兄弟も、その基道が死んだショックで、呆然としているまま、一味に殺されてしまったらしい。
こうして、明を護ることが出来るも、三名の死者が出た。
その知らせを聞いて麗が出来るのは、人前で泣くのを堪えることだけだった。
そして機械的に麗が仕事をこなし、夜もロクに眠れない数週間を過ごした後、明から麗が呼び出される。
何故麗を呼んだのか、その理由は簡単だった。
基道の幽霊と、麗を会話させるため。
明はどうやら、幽霊と左手を繋ぎ、人と右手を繋ぐと、幽霊と人との会話のみを可能にするらしい、と前に聞いたことがある。
その方法で、麗は、基道と会話した。
最初は半信半疑だった彼女も、基道の声を聞けば、思わず涙が出、すぐに信じたと言う。
その一部始終を見ていた佐多兄弟は、基道が残した言いつけを知っているらしい。
彼が残した言いつけはこうだ。
「あいつらを・・・・この明お嬢様と、それを護るあいつら・・・SPどもを護ってやってくれ。」
以来、彼からの遺言を護るため、麗は、SPたちと修行をし、とても強くなったと言う。
だからこそ今回の事件は麗にショックが強過ぎた。
護る、護る、と自負して、とても強くなったにも関わらず、それ自身を明と天秤にかけられれば、麗は冷静でいられるはずはない。
しかし、宏助はこの話を聞いてなお、怒りしか湧いてこない。
何故、どいつもこいつも身勝手にことを進める。
どいつもこいつも自分のことしか考えてねぇ。
SPも、敵も、麗も。
だから、宏助は、行動を起こす。
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