神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第五十四章 君の元へと《1》
前書き
突如の事態。一体何が!?
それではスタート。
白となった視界から目をつぶって黒とし、全身を痛みが襲った。
雷による攻撃が乱れながらも身体を打ちて、行動不能にさせようとしている。
セーランは雷のなかを身体全体を流魔で覆い、なんとか身を守っているが連続してくる雷に対してあまり意味をなさなかった。
雷が流魔を打ち、すぐに流魔が打たれた部分を修復しようとするが、その前に新たな雷が打ち付けられる。
その繰り返しで回復が追い付かず、流魔の膜を通り抜けた雷が身体へと向かい、打つ。
先程の大量の流魔線をつくったために、身体はかなりまではいかないもののしんどいものだ。
このままでは内部流魔が保たないと思った矢先、何が起こったのだろうか急に雷が止んだ。
嵐が過ぎ去ったように。
止んだお陰で視界は白から色様々な世界を映し、身体を覆う流魔も解くことが出来た。
「一体何が起こったんだ」
疑問を口にするセーランは、正面、力を使い果たしたように地に座っていた実之芽を見た。
先程の、あまりにも強い雷によって、幾つかの流魔線は切れていたが、それでもまだ多くの流魔線が繋がれていた。
だが、身体の自由を奪う筈だった流魔線は、もはや今の相手の様子を見て必要無いと感じた。
既に相手は、戦う気力が無いからだ。
急に静かになった空間に、呟くような実之芽の声が聞こえた。
「分からないのよ……どうしたらいいか。私は委伊達家を護る家系の娘で、奏鳴様が死を望むならばそれを叶えないといけない。でも、私は死んでほしくないと思ってる」
間を開けて、
「だけれど、約束を守るためには奏鳴様を殺すしかない。だけれども、私は奏鳴様を死なせたくないのよ!」
「なら、救えばいいじゃん」
セーランは言った。
当たり前のように、さも当然のように。
だが、実之芽は反論した。
「簡単に言わないで! どれ程手を費やしたと思っているの? 奏鳴様を救うために仲間に救出の手助けを頼んでも、手を貸してくれる人は少なかったわ。黄森に何回も頭を下げて、恥ずかしくても人前で解放を取り止めてほしいと頼んだわ。その度に笑われた。悔しかったけど……耐えたわ」
ここまでは、まだ耐えられた。
「けど、幾ら奏鳴様を励まし、生きることを諦めさせないようにしても、結局私達の声は届かなかった……。奏鳴様はもう、決めてしまったのよ」
「けど俺はまだ諦めない」
「それは貴方がこれまで彼女のために何一つしてなかったからよ! だからそうやって余裕ぶった口が叩けるのよ! 止めてよ、貴方みたいなのが救えるわけないわ」
「全面否定かよ。けど俺は行くぜ。何一つしてなかったから、今からやりに行く」
「そこまでして何になるのよ。一体貴方は何がしたいの。奏鳴様を救って、その後はどうするの? 苦しみを背負いながら生きさせるのなら、私は貴方を許さないわ」
「それに似たこともう言われた。自信ならあるから心配……するよなあ?」
近く、実之芽の元へと歩く。
彼女もまた、奏鳴のことを思ってやってきたのだ。
しかし、違和感を持つ。
それは、
「お前、これまで自分の意志で行動してきたのか?」
ということだ。
違和感はそこだった。
普通に聞いていればなんとも思わないが、気にして聞いてみると何処か自分の意志で行動していないようにも思える。
気のせいかもしれないが、そう感じた。
「なんかさ、家系に縛られて行動に移してる気がするんだよな。委伊達家を護る家系だからって委伊達・奏鳴を救うために行動してきた感じがするんだわ。だからあいつから救わなくていいって言われた途端に諦めちゃったんじゃねえのかよ」
「そんなことないわ! 私は違う!」
「ならなんで救いに行かねえんだ。お前はあいつに死んでほしくないと思ってるんだろ。だったらそれがお前の意志なんだ。我を貫けば他人に迷惑掛けるのは当たり前だ。お前の意志はもう決まってる、後はお前が行動に移せばいいだけなんだよ」
「でも奏鳴様は……」
「んなもん考えなくてもいいんだよ。お前は機械じゃねえんだからさ。意思があって、感情があって、そこから生まれた考えで生きてきたんだ。ちったあわがままになって、自分の意志、貫いてみろよ」
地面に座り込む実之芽と、視線の高さを同じにするためにセーランも膝を曲げて背を低くした。
一度、実之芽はセーランの顔を見たが、すぐに視線を逸らした。
特に言動は無いため、続けてセーランは言う。
「昔な、俺は自分の考えが無かったんだ」
思い返し、語った。
「色々と事情があってな、馬鹿みたいに物静かな奴だったんだよ、昔の俺はさ。いっつも皆の後付いてくような奴だったけど、今はこうして長になって皆の前に立ってる。
変われたんだ、物静かな俺からさ」
「それは貴方の話しよ。私には無理。今と違う自分になるなんて考えられないわ」
「自分は自分だ、根本的なもんは何も変わらねえ。お前の委伊達・奏鳴のことが大好きだってとこは変わんねえよ、可愛いもんな奏鳴」
「わ、私は別に奏鳴様のことが好きなわけじゃ――」
「じゃあ、嫌いなのか?」
急に空気を変えられた。
いきなり奏鳴の名を出されて動揺している自分に気付き、落ち着けと言い聞かせる。
頬を微かに赤め、
「す、好き……よ?」
「疑問系大好き宣言いただきました」
「棒読みは止めてよ! い、一体何がしたいの。貴方は奏鳴様を救いに行くのでしょ? もう私が動けないことは解ってる筈よ」
「だからこうやっておちょくってるんだろうが。身の危険も省みずに放電するからだよ。幾ら神化系術は使用者に害は無いとはいえ、限度ってもんがあるだろ。ばっかだなあ、お前も」
「貴方と一緒にしないで。私は私なりに頑張ったのよ、無駄だと解ってることでも、頑張って……。家系にとらわれていたのかもしれないけど、それでも私の意志でしてきたの。それを否定されてほしくないわ……」
何故、自分は泣いているのか本人は分からなかった。
涙腺が緩くなったように、気付けば涙が肌を伝っていた。泣き出したのを見て、慌ててセーランは慰めに入る。
「ご、ごめんて。否定して悪かったよ、お前はお前なりにそうしてきたんだよな。ああ、構わねえよそれで。立派だ立派! だから泣かないでくれよお」
「何も解ってない。なのに、あそこまで言われるなんて……酷過ぎるわ」
「ごめんよお、頼むから泣き止んでおくれよお。親に異性は泣かせるなってキツく言われてたんだよお。女の子泣かせたことがバレたら絶対叱られるからよお」
「嘘よ」
「へ?」
御雷神|《タケミカヅチ》の力を無理に使ったため、腕が動かず涙を脱ぐえないので涙が流れるなかで言った。
馬鹿みたいに唖然とするセーランがおかしくて、肩を小さく震わせる。
「おちょくられるのは気に障るから、おちょくり返してやったのよ。まんまと騙されたわね」
「く、悔しいが一本取られたぜ」
「でも、涙は本物だから……」
「おうよ」
もう馬鹿というよりアホの方が近いのかもしれない。
騙された後はまた騙されるかもと思う筈たのに、涙は本物だということを信じた。
間違ってはいない。
この涙は悔しさから出たもので、だが騙された後に信じようとはしないだろと思う。
「あ」
一文字が口から出た。
「どうしたんだ」
「なんでもないわ」
「そう言われるとすっげえ気になるんだけども」
「レディには隠し事の一つや二つはあるものよ。これから付き合うのだったらそれくらいは覚えておきなさい」
「性格変わったか? 急に俺に対する当たりが優しくソフトになった気がするんだが」
「気のせいよ。ほら、さっさと行きなさい。もうすぐ解放の時間よ」
「嘘じゃないよな?」
そこを疑うのかと、半目で見詰める。
殴られると思ったセーランは一気に距離を離し、安全な位置まで避難した。
離れたが、声は届く範囲内だ。
息を吸う実之芽は少し大きな声で、離れたセーランに向けて言葉を放つ。
「解放は一時からよ。もう数分も無いわ」
「本当だったのかよ! くそ、なんでもっとやられてくれなかったんだよ」
「殆ど貴方が話してたのが原因だと思うけど。変に格好付けるからよ」
「俺的にいい感じだと思ってたのに! くそ、まだまだ演技に磨きを掛ける必要があるな」
日来の長も苦労するものだと、見てて思う。
立ち上がり、解放場を目指すために北側を向くセーラン。
気付いたように振り返り、
「お前の動き封じるための流魔線、もういらねえよな。切り離さねえと」
言うと、実之芽の身体中に繋がれていた流魔線が消えていく。
同時に地面に刺さっていた棒も、同じく塵となって消えていった。
全ての流魔操作でつくったものが消えると、セーランは実之芽に向かってこう言った。
「委伊達・奏鳴は絶対に救うから心配すんな。後、救出したらさ、奏鳴を日来に乗せようと思うんだわ。辰ノ大花から離れて、世界を巡って、あいつが知らなかった世界を見せてやりたい。
だからもし、奏鳴が日来に乗ることになったらお前はどうするか、考えておいてほしい」
「付いていってもいいの?」
「お前がそれを選んだらな。手続きは後ですりゃあいい。だけどよく考えておけよ。もし辰ノ大花から奏鳴が抜け、お前も抜けると覇王会会長と隊長、後確か指揮官もだったな。その三つの役職者が覇王会から抜けることになるんだからさ」
「言われなくても分かってるわ」
「そうかい。なら行ってくるわ」
左手を上げ、そう言ったセーラン。
対する実之芽は身体を動かすことが出来無いため、顎で行くようにと指示を出す。
それを笑い、理解したセーランは何も言わずに走り去って行った。
ある程度の距離から流魔操作によって宙を駆け、その場から姿を消した。
後ろから見ていた実之芽は、セーランの姿が見えなくなるとほっと一息付く。
特に意味の無い一息だ。
息を付くのに下げた顔を上げて、なんとなく見上げる空。
「なんであんな人が、覇王会会長なのか、少し解った気がするわね」
気付けば自分は日来の長と話しをしていた。
その間、あれ程気に食わなかった日来の長のことをそう思わなかった。
とても不思議だった。
考えるのはそれまでとして、ここからが本当の勝負。
まず解放が始まる前に解放場へと辿り着かなければ、今までやって来たことが無駄になる。
もっと早く行かせていた方がよかっだろうか。
いや、今までの自分は彼のことを気に食わない奴だと思っていたのだ。そんなこと出来るわけがない。
久し振りに馬鹿になって戦って、子どものように叫んだ。
仲間内に見られていたら恥ずかしいが、お陰で心の靄が晴れた気がした。
「そう言えばまだ敵が待ち構えていること言ってなかったわね。まあ、いいっか」
開き直る実之芽。
彼なら別に大丈夫だろうと、確信も無いのにそう思う。
大丈夫、きっと辿り着ける。
あんな人だが、それでも学勢院の覇王会会長なのだ。
身近な者では駄目ならば、最後の選択肢として第三者である他人に任せよう。
それでも駄目ならば……、いや、そんなことはない。
きっと彼ならば、と信じることを貫いた。
自分の意志が信じろと、自分自身に訴えていからだ。
そして想いを、託した。
●
「正面に日来長発見! 総員構え――!」
言うのは黄森の隊隊長だ。
流魔操作の連続操作によって宙を行く日来覇王会会長、幣・セーランを発見し仲間に指示を出す。
指示を聞き、隊隊長の前に列を構える黄森の社交員らは手にした長銃を空に向け、合図の時を待つ。
数秒後。
「射て――――!!」
連続して発砲音が鳴り、銃弾が空へを向かう。
狙いはセーラン。
全ての弾丸がセーランを穿とうと、一直線に突き進んだ。
慌ててセーランは弾丸を防ぐために、地上に向けて流魔操作によって盾をつくり出す。
が、幾つかの銃弾は盾を無視して飛んで来た。
「はあ!? 流魔消滅かよ。幾らなんでも今のご時世、崩壊進行があるっていってもそこまでするか普通」
流魔を消滅させられたのでは、流魔操作を行うこちらとしては対処の使用が無い。
ゆえに、銃弾が身体を撃った。
この世のものは全て流魔で出来ている。だから流魔消滅をもつ銃弾は皮膚や骨、内蔵を無視して身体を貫いた。
痛みは無い。
流魔を消滅させられたのだから、痛覚をも消滅されられ痛みが無いのだ。そして流魔が消滅したところは、何時まで経っても消滅したままなので、そのお陰ということもあってか痛みを得ることはなかった。
解放場との距離はまだある。
長銃を携えた隊が他にも幾つもあり、同じく流魔消滅を行う銃弾があったのならば解放場へと辿り着くのは困難。
「どうにかしねえとな」
「ならば覇王、わたくしめがどうにかして差し上げますわ」
「ネフィアか!?」
宙を進むセーランの横を、巨大なものが通り過ぎた。
騎神だ。
青い騎神の肩に乗ったネフィアが駆け付け、援護に来てくれた。
騎神は辰ノ大花のものだ。
ここで八頭が言っていたことを思い出す。
「辰ノ大花の宇天長救出隊ってところだな」
我ながらいいネーミングセンスだと、自分で自分の才能を褒める。
騎神の肩に乗るネヒィアは勢いそのまま、肩から飛び下り、銀冠|《ジルバーンクローネ》を鞭状変形させて、更に二本にして両手に持った。
『行ってきな』
「貴方も続きなさい」
『了解――!』
先行したのはネフィアだ。
両手に握った鞭を地面に叩き付けて自身に回転を加え、着地すると同時に爆発的に鞭の長さを伸ばし、広範囲に広がっている黄森の者達を凪ぎ払った。
まるで鉄の棒に思いっきり叩かれたような打撃に、黄森の者達はただ凪ぎ払われていくだけだ。
続くように騎神が地上へと向かって来て、地上に激突しないすれすれの距離で機体を回転させ、加速機による圧で黄森の者達を吹き飛ばす。
大きな騎神は長銃の絶好の的だが、各機器を制御する装置を射ぬかなければ対して意味は無い。
それに照準を合わせようとしても、機動力が高い騎神のため、照準が会う前にネフィアによる鞭か、騎神による加速機の圧で払われる。
「すまねえ、助かる!」
「早く行きなさいな。もう一度告白するために」
『黄森に借りを少しでも返さねえとなあ!』
守るようにネフィアと騎神は相手を払い、セーランを先への行かせる。
だからセーランはすぐにこの場を離れ、いち早く解放場を目指した。
ここで終わるわけにはいかない。
もう、視界には見えているのだから。
●
解放場を甲板に背負うドレイク級戦闘艦・駆翔天の操作室は、これまでになく慌てていた。
ここに日来の長が向かっているとの連絡を受け、更には黄森の天桜学勢院覇王会会長から映画面|《モニター》越し指示を受けている。
『今すぐに解放を始めろ。いいな、なんとしても日来長を近付けさせるな』
指示を受けているのは黄森の社交院の者だ。
指示を出しているのは学勢、指示を受けているのは社交員という納得のいかないものだが、今のご時世珍しくもない。
個人の感情的問題であり、天桜の長の両親には世話になった身なので苛立つ程でもない。
「しかし今の社交院には実力者はいない。覇王会を借りてもいいのか」
『構わない。もし借りるのならば二人に例え殺しても構わないと伝えておけ』
「お話中失礼します」
「どうした」
まだ若い社交員が会話の中に和って入ってきた。
若い社交員は間を開けずに伝える。
「日来長が解放場へと向かうなかで、辰ノ大花の騎神が一機、日来長を手助けしたようです。どうしますか、まさかと思いますが辰ノ大花が裏切ったのではないかと」
「筋書きにあったな」
『ふん、たかが筋書きだ、油断はするな。辰ノ大花が裏切ったところで解放が始まってしまえばこちらのものだ。お前達は常に脱出の用意をしていろ』
「そういうことだ。ほら行け」
「了解」
言い、下がった。
足音が響くなかで、着々と解放の準備が整っていく。
数人の者達が解放場の点検を行っており、
「燃料パイプ異常無し。それに関連する以上も見られません」
「解放による本艦へのダメージは小。極小さいものと考えられます」
「解放対象の宇天長は脈拍は上がっているものの、それらの変化は無し」
「解放場の異常無し、オールグリーン」
「システムに一切の異常見られません。解放場、動けます」
「ドッキングシステムにも問題無し。操作可能です」
「全項目共オールグリーン。指示を!」
仰がれ、天桜の長から指示を受けていた社交員が天桜の長からどうするか映画面を見る。
『いけ』
指示は出た。
だから皆にも指示を出す。
「これより、宇天長の解放を始める! 解放場を起動させろ!」
「解放場起動開始」
数秒後。
「解放場起動成功」
「解放……開始――!」
呼応するように、駆翔天が一度大きく揺れた。
揺れは解放場による宇天の長を解放することを伝えるものであり、操作室にいた皆は誰もが甲板のある上を見た。
天井しか見えないが、甲板には解放場がある。
「解放場、予備動作に入りました。解放へと掛かる時間は二分から三分と考えられます」
ゆえに最大三分は日来の長を足止めすれば、後は黄森の描いた通りの結末となる。
黄森はこの時間が勝負なのだ。
そのため、これまで温存してきた戦闘艦を発進させ、今辰ノ大花にある全勢力を日来の長の足止めのために回した。
これが本当の勝負の時間だ。
後書き
解放場が動き始めた!
残された時間は後僅かだが、間に合うのかセーラン君。
今回は天桜学勢院覇王会会長が声のみの出演となり、まだまだ姿は現しません。
ラスボスは最後まで姿を見せないのが鉄則さ!
と個人的な思いを。
後は解放場へと辿り着き、奏鳴を救出すれば物語は完となるわけですが。まだまだ終わりませんよ。
色々ぶち込んでみたりしていますので、最後までお楽しみあれ。
物語の流れは出来ているのですが、文字にするとスピードが超絶ダウン。
なかなか難しいものですな。
そして今回は短めにここまで。
ではでは。
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