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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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『祭』 正午~夕方

お昼過ぎになってお客さんの入りもようやくひと段落してきました。一夏さんがお友達を迎えに行っているので教室にいないというのもあるかもしれません。
ちなみに私はクロエのために先に休憩時間を使ったので午後はほとんど教室です。なんか途中で『こんな装備やだ』とか言って通信が入ってきましたけどすぐ切れました。大丈夫なんでしょうか。

「ようやくひと段落と言ったところでしょうか?」

 お客さんの入りが切れた時に私と同じ和服姿のセシリアさんが話しかけてきました。セシリアさんは最初こそ乗り気でなかったものの、今ではシャルロットさん共々教室内で一番うまく接客をこなしています。着こなしも綺麗ですし、さすが英国貴族です。

「あのー、今よろしいでしょうか?」

「あ、はい。いらっしゃいませお嬢様」

 入り口からの声にセシリアさんが笑顔で振り向く。金色に近い黄色のロングヘアーでスーツ姿の女性、明らかにIS企業関連の人でしょう。女性は教室内を一瞥して不思議そうに首を傾げる。

「こちらに織斑一夏さんはいらっしゃいますか?」

「ああ、申し訳ありません。彼は今休憩中でして……何か御用ですか?」

「そうですか。いつごろお戻りになられるか分かりますか?」

「そうですわね……後30分くらいではないでしょうか」

「ありがとうございます。あ、申し遅れました。私こういうものです。彼が戻られたらこちらを渡しておいてもらえますでしょうか?」

 女性はそういうと胸ポケットから名刺を取り出して2枚ずつ私とセシリアさんに渡してきました。IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当、巻紙礼子……やっぱり。

「はあ、それは構いませんが……」

「こういうことは学園に許可を取ってからの方がよろしいですわよ」

「わざわざありがとうございます。お仕事のお邪魔をして申し訳ありませんでした」

 巻紙さんはそう言って一礼すると教室を去っていきました。私は溜息をついてポケットにたまった複数の名刺を取り出してセシリアさんに尋ねる。

「これで何人目でしたっけ」

「この30分で5人目ですわね。日本の『五菱重工』と先ほどの『みつるぎ』、アメリカの『シャムロックI.G』、スウェーデンの『スヴェディック・アェロ』、それと……フランスの『デュノア』」

「デュノア社が来たときは本当にびっくりしましたけど……」

「シャルロットさんが休憩に入っていてくれて助かりましたわ」

 そういう可能性も考えなかったわけではありません。しかしシャルロットさんを男性として送り込んでいる上に同クラスの1組。下手な接触はしないと思っていたのですが、まさかデュノア社の……しかもジャンヌ・ヴェルヌ代表が来るとは本当に予想外でした。あの時は流石のセシリアさんも顔が引きつっていましたよ。

「まあ一夏さんには有名税として諦めてもらうしかありませんわね」

「ですね」

 そう言って私とセシリアさんは軽く笑って仕事に戻ります。

「すいませーん、これお代わりでー」

「はーい、ただいま……って会長さん!?」

「わお、今気付いたの? 一夏君を迎えに来たんだけどねー。休憩中だったからこのまま待っちゃおうかなって」

 呼ばれた席に行くと何故か私と同じ格好をした楯無会長が座っていました。そして開かれた扇子には『純情乙女』と……男の人を待つ健気な女性って意味なんでしょうけど一夏さんが拉致されるヴィジョンしか見えません。

「その恰好ならまず接客を手伝ってもらえないでしょうか」

「えー、いやよ」

「というよりお仕事はいいんですか? 確か劇もやるって」

「大丈夫大丈夫。虚ちゃんに任せておけば心配ないから」

 全力で仕事放棄していますね。この学園これでいいんですか? まともに仕事しているの虚さんだけの気がしますけど。まあ注文してくれている分にはお客さんなので無理にお帰りいただくわけにも行かないです。

「あ、そうそう。さっきの人の名刺、見せてー。ふーん『みつるぎ』か。あそこの装備は中々いいのよねー。後で私も連絡してみよっかなー。はいありがとう」

「え? ってあ! わ!」

 いつの間にか楯無会長の手には先ほどの巻紙さんの名刺があって私のポケットの名刺がありません。いつ抜いたんですか。
そして一瞬で目を通すと私に投げ返してきました。一連の動作が自然すぎて私は驚きの言葉しか出てきません。
 その後一夏さんが戻ってくるまで私が楯無会長の相手をする羽目になりました。一夏さんが帰ってきたときは心底ほっとしたものです。帰ってきた一夏さんが「げぇ! 楯無さん!?」と言って逃げようとしていましたけど楯無会長が「どこに行く気だぁ?」って回り込んでいました。
 一夏さんがひとしきり弄られた後、生徒会の今後の予定を伝えて楯無会長は教室を後にしました。ぐったりした一夏さんに私は水を差しだしつつ話しかけます。

「お疲れ様です。色々と大変ですね」

「ああ、ありがとうカルラ。いや、会長はもうどうにもならんだろ」

「そうですね。あ、後これ。預かってます」

「へ? うえ、またかよ。さっきも『みつるぎ』ってとこの人に捕まってたんだよなー」

 私が預かっていた名刺を渡すと一夏さんは露骨に嫌な顔をしました。休憩中でも休まる暇はないようです。

「あれ、一夏戻ってたんだ」

「うわああああああああああああ!」

「うお! どうした」

「どうしたの!?」

 いつの間に休憩から戻っていたのかシャルロットさんが立っていました。私は慌てて一夏さんの手から名刺を奪い取って自分のポケットに突っこむことでシャルロットさんに見せないようにします。

「な、何でもありません。何でも……あ、あははは」

「いや、何でもないってことないだろ。てか、何で名刺取っていったんだ?」

「え、あ、いやー……豪州(ウチ)のも混ざってるんで迷惑かなーって……」

「なんだそんなことか。一件二件増えたって変わらないから見せてくれよ」

「そ、そうですか?」

 ああ、一夏さんのこの優しさがつらい! 私はポケットの中を慎重に弄ってデュノア社の名刺だけ取り除いてポケットの中に残すとその他を一夏さんに渡します。

「わ、また増えたね。これ全部IS関係の企業?」

「ああ、一応見るようにはしてはいるんだが意味ないんだよな……」

「『白式』は後付装備つけられないもんね」

「俺もそう言ってるんだけどなあ」

 シャルロットさんが興味深そうに一夏さんの手元を覗き込んでいます。

「こら、何を遊んでいる。あとシャルロット、一夏に近い。離れろ」

「そうですわよ二人とも。戻ってきたのなら働いてくださいませ」

「ああ、ごめんラウラ、セシリア」

 これまたいつの間に来たのかラウラさんとセシリアさんが立っていました。二人の中尉に一夏さんが離れたのでシャルロットさんは少し不満そうです。

「シャルロットは箒と休憩を交代、一夏は接客のはずだ」

「う、うん。じゃあ行こう一夏」

「お、おう」

 ラウラさんの言葉に二人は厨房側に入っていき、ラウラさんとセシリアさんはそれぞれ接客に戻っていきます。箒さんがシャルロットさんと仕事を交代したようで私の所にやってきました。あー、やっぱり箒さんは和服似合いますよね。

「では休憩に行ってくる」

「はい、いってらっしゃい」

「うむ……ところでカルラ……」

 箒さんが目を伏せがちに少しだけ顔を赤らめて聞いてきます。

「ここで……食事を済ませてしまうというのはありだと思うか?」

「はい? まあそれは構わないと思ますよ?」

「その……だな……誰かを指名するというのもありだと思うか……?」

「は? あー、あーあー!」

 顔を赤くしてるのはそういうことですか。

「とりあえず座ります?」

「あ、ああ」

 私が椅子を引いて箒さんを席に座らせます。

「一夏さーん! 5番テーブルお願いしまーす!」

「な……カルラ! そんないきな……」

「おーう! って箒?」

 一夏さんがすぐ来てしまったせいで箒さんは私に言おうとした文句をひっこめざるを得ませんでした。

「休憩に行ったんじゃないのか?」

「ふ、ふん。ここで食事をすることにしたのだ。悪いか?」

「いや、別に悪くはねえよ」

「一夏さん、お客さんですよ」

「あ、ああ。ゴホン。ではお嬢様、こちらがメニューになります」

「お、お嬢様か……悪くないな……」

 顔を真っ赤にしてメニューで顔を隠す箒さんを不思議に見る一夏さん。ここは二人きりにしてあげましょう。そう考えると私はクールに去る……

「ちょっと箒さんそれはずるいですわよ!」

「そうだよ一夏! 僕もあとで接客してほしいなあ」

「私の嫁と同席など許さん!」

 この場からクールに去りたい!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


第4アリーナ特設ステージ。

生徒会の出し物は「観客参加型演劇」。名前の通り演劇に観客も参加できる……ものではなく、『灰被り姫(シンデレラ)』となって王子=一夏さんの被っている冠を奪えば一夏さんと同居する権利が与えられるというもの。
そして私は何故か白地に銀糸のあしらいのシンデレラ用のドレスを身に着けられ、特設ステージの裏にいます。そして近くには同じ格好をした箒さん、鈴さん、セシリアさん、ラウラさん、シャルロットさん。
 まあ簡単に言うと……楯無会長に拉致されました。拉致されたのは一夏さんじゃなくて私だという罠!
 ステージの表舞台では一夏さんが王子様役の格好で立っていて、ナレーターは楯無会長。

『王子の冠に隠された軍事機密を手に入れるため、乙女たちの狂宴が始まる! 舞踏会、ここに開幕!』

「はあぁ!?」

 一夏さんが困惑の声を上げると当時に箒さんが刀、鈴さんが飛刀、セシリアさんがスナイパーライフル、シャルロットさんが防弾シールド、ラウラさんがサバイバルナイフを構えてステージに飛び出していきました。そして始まる剣戟と銃声の嵐……はあ。

「帰ろう」

 賞品の段階で私は既に参加する気が無くなっています。むしろこれに参加しなかったら今までの誤解全部解けるんじゃない? って考えているほどです。
 というわけで私は早々に舞台を降りると更衣室に戻ります。まあこういう衣装は好きです。お姫様の衣装ですし、憧れもありました。ただこんな状況は望んでいません!
 ふ、と横を見ると全身鏡が目に入りました。そこにはドレス姿の私がいて……くるっとターンしてみたりなんかして……
 私のターンでドレスのスカートの裾が少しだけ浮かび上がる。ドレスも銀糸を使っているだけあって更衣室の明かりを反射してすごくきれいに見えます。スカートの両端を持ち上げて少しだけ腰を落としてお嬢様風の格好をしてみるけど……

「んー、似合わない!」

 正直滑稽なだけ。セシリアさんかシャルロットさん辺りならまだ様になるんでしょうけど私がやっても微妙です。私自身が衣装負けしています。
 そんな考えに一度だけ溜息をつくとドレスを脱ぐ準備を……これどうやって脱ぐんでしょう。無理やり着せられたから全然着せられ方覚えてないんですよね。多分背中に紐が見えるからこれを解けばいいんでしょうけど……

「ふん……むむむむむむむむ、むぅ!?」

 と、届かない……コルセットがきつくて手が回らない……なにこの息が詰まらない程度に絶妙で手が回らない締め加減のコルセット!
 また溜息をつくと私は近くの椅子に腰を下ろします。流石に破いてしまうわけにも行きませんし、誰かくるのを待ちましょう。
 そんなことを考えているとアリーナの方から大きな歓声と地鳴りが聞こえてきました。どうやら一般生徒の参加が始まったらしい。
やっぱり行かなくてよかった。参加人数は学園のほぼ全ての女子生徒。正直その中をもみくちゃにされて無事でいられる自信はありません。

―IS反応を確認、警戒態勢―

「え?」

 『デザート・ストーム』からの警告音に思わず声を漏らす。位置は……反対側の更衣室? でも……この、IS反応は!

―データ照合完了、『アラクネ』―

 やっぱり福音の時のIS! なんで学園内に!? とにかく先生に連絡を……

―広範囲ジャミングを確認、連絡不可、『アラクネ』ロスト―

 よからぬことを考えているのは確かみたいですね。私はドレス姿のまま更衣室を出て反対側の更衣室に向かう。まだ一般の生徒も大勢いますし、せめて何が起きているのか確認だけでもしておきましょう。
 反対側の更衣室の前に辿り着くけど扉が開きません。

―システムロックを確認、開錠不可―

 開錠不可って……それってどういう……
 その瞬間更衣室の中から炸裂音が響き渡りました。続いて銃声と破壊音が分厚い扉越しに廊下に響き渡る。私はそれを聞いた瞬間ISを緊急展開。ドレスが量子化しISスーツに包まれ、一瞬後にISの装甲が身を包んでくれる。
 何が起こっているか分からない。でも何か起こっているのは確か。なら……

―『イェーガン』展開―

 ヒートランスを展開すると先端を扉の上部に押し付け、出力最大で一気に扉を溶断する!
 真っ白な炎と共に鉄の扉が押し付けた部分からゆっくりと解け始める。そのままヒートランスを横に、下に、上に、最後に横に四角になぞる。真っ赤に赤熱した扉を思いきり蹴る、蹴る、蹴る!
 3回蹴ると扉は耐え切れずに内側に吹き飛んで道を開いた。
 中に入ると天井の照明は落ちていて非常電源に切り替わっており、更衣室内は薄青く光っている。その中心にいたのは黒と黄色に塗装された8本の装甲脚を持つ蜘蛛のようなフルフェイスのIS『アラクネ』と……





床に倒れ伏して血を口の端から流す一夏さんがいた……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「織斑先生、高速で接近する所属不明ISを確認しました」

「やはり来るか……情報通りだな」

「は?」

「いや、なんでもない」

 IS学園の管制室で麻耶の言葉に千冬が静かに返す。元々英国のウィンザーとセシリアからこんなことを相談できるのは自分だけだということで相談を受けていた。千冬にとっては至極迷惑な話だ。だがそのお蔭で対策も取れる。

「第4アリーナの不調は?」

「は、はい。そちらは楯無生徒会長が回ってくれるそうです」

「そうか、では我々はこちらに集中しよう」

「はい」

 既にIS学園から数キロ沖に出た上空にはIS2機が待機している。しかしどちらもIS学園に存在するISではない。空と同色に彩られ溶け込みそうな色のISはロシアの第2世代型『ヴォールク』。操縦者、ラリサ・アレクサンドロヴナ・トルスタヤ。
 そして隣に飛んでいるのはフランスの第2世代型『ラファール・リヴァイブ』によく似た橙色のIS『ゼル・ゼム』。操縦者、ジャンヌ・ヴェルヌ。

『本当にいいんですね?』

「ああ、構わない」

 ラリサからの問いかけに千冬は答える。その答えに満足したのかラリサは右手と左手で種類の違うアサルトカノンを呼び出してだらりと腕を下げた。ジャンヌはそれを見て長大なスナイパーライフルを呼び出す。

『それにしても弟を交渉材料として使うのはどうかと思いますよ』

「お前らごときで籠絡できるほど私の弟は安くない」

『それさえ守ってもらえるなら私は問題ありません。後はこちらの問題ですから』

 ジャンヌの言葉に千冬は少しだけ不機嫌そうに、しかしいつもと変わらないように答える。この二人が協力しているのは、二人の協力で学園に接近する脅威の迎撃に成功した場合、『織斑一夏との交渉の席を用意する』という条件を提示されたからである。今の世界で唯一ISの使える織斑一夏はどこの国も喉から手が出るほど欲しい人材だ。だがIS学園にいる以上公に手出しは出来ない。こういう外の人物を受け入れているときにしか交渉が出来ないのであるが、その時間外で交渉できるのであればその他大勢と違って相手に残る印象は大きい。
 だからこそ二人は他国のISの前に自国のISを晒すという大きなリスクを負って協力している。
 画面上には二人に急速に接近しつつあるISが映し出されていた。射程距離に入る前にラリサの言葉が通信で響く。

『所属不明のISに告げる。そちらはIS学園の侵犯領域内に接近中だ。こちらの指示に従い直ちに転身せよ。さもなくば撃墜する』

 お決まりの定型文のような台詞。そして相手も決まっていたかのように応答はない。もちろん接近速度もゆるまない。

『どうやらやる気のようですね』

『ああ。ジャンヌ、援護しろ』

『了解』

『『ヴォールク』、『ゼル・ゼム』はこれより迎撃行動に入る』

「承認した。迎撃を許可する」

 千冬の言葉で二人が動き出す。ラリサは前に、ジャンヌは上昇し太陽の光の中に入り込んだ。

『交戦』

 前に出ているラリサよりも先に、上空のジャンヌがスナイパーライフルで射撃を行った。スナイパーライフルと呼ぶには多い弾数、その数5。一発一発が全て急所に向かうその的確な射撃を『敵』が簡単にすり抜ける。

『交戦!』

 接近してきた『敵』に対してラリサが下げていた両腕を『敵』に向け、アサルトカノンの引き金を引いた。最初から全力、フルオートの射撃がラリサの正面に逃げ場のない弾丸の壁を作り出す。だが『敵』はその射撃を避けて見せた。IS一機分の隙間を潜り抜け、直撃する弾丸は致命傷にならない位置の装甲で見事に受け流している。その弾丸の雨を潜り抜けながら『敵』の背中から小型の飛翔体が射出された。

『ビット!』

『分かってる』

 ラリサが瞬時にその物体を見切りジャンヌに伝え、ジャンヌは接近してくる飛翔体、BT兵器にスナイパーライフルの照準を合わせる。しかし引き金を引くよりも早くレーザーが発射され、それを見たジャンヌは無理に迎撃せず機体を自由落下させることで回避した。今まで自分のいた位置にレーザーが通過するのを確認してから再度『敵』にスナイパーライフルを構えようとして……

『っ!』

 わずかに感じた悪寒にジャンヌは右側のブースターを全開にすることで体を横にずらした。その一瞬後に、先ほどのように4本のレーザーがジャンヌのすぐ右、今までいた場所を貫く。

『ラリサ、今相手は撃った?』

『いや、一度撃ったレーザーが曲がったな』

『そう』

 元々BT兵器の最高同調状態では理論上レーザーの偏向射撃が可能と言うデータは二人とも知っている。それを相手が使ってくるならそれを頭に入れておけばいいだけの話だ。
 データではIS学園にいる英国代表候補生が最もBT兵器の適性は高いはずだが、そんなことは今はどうでもいい。ジャンヌはスナイパーライフルを量子化すると同時に右手にトンファー状の近接武器、左手にマシンピストルを展開する。

『前に出ます』

『了解、援護する』

 その言葉と共に前衛と後衛が入れ替わる。ジャンヌが上空から左手のマシンピストルを連射しながら右手のトンファーを回転させ一気に接近。ラリサは先ほどとは違う75口径の大型アサルトカノンを展開して両手でそれを構えて『敵』に撃ち込んだ。
 『敵』のいた空が一瞬にして爆炎と煙に包まれる。しかし二人は攻撃をやめない。『敵』のIS反応は消えていない。ならまだ『敵』は健在だ。
 ジャンヌがマシンピストルを放り投げ左手にもトンファーを展開、瞬時加速を発動させ爆炎の中に突入する。それとほぼ同時にラリサはアサルトカノンを収納し、瞬時加速を行いつつ自身の倍近い刀身のある剣を展開。同時に瞬時加速を発動させ『敵』に向かって横薙ぎに振り抜いた。
 二人は自分の武器に確かな手ごたえを感じる。しかし……

『『な!』』

次の瞬間にはその手ごたえが破砕音とともに消え去った。ジャンヌの攻撃に使用した右側のトンファーは根元から吹き飛ばされており、ラリサの巨大な剣は中ほどから先が無くなっていた。そして『敵』の両手にはそれぞれの武器の破壊された部分が握られている。
 二人が驚愕の声を上げると同時にそれぞれが反対方向に弾き飛ばされた。どうやら腹部に蹴りを食らったというのだけは分かった。
 そして二人が体勢を立て直す一瞬の隙をついて『敵』は再度IS学園に向けて飛翔を再開していた。

『なんなんだ……あいつ』

『あれが……亡国機業(ファントムタスク)』

 二人はそれだけ呟くとお互い顔を見合わせ一度頷くと『敵』の後を追うために移動を開始した。

「お、織斑先生……」

 その一部始終を見ていた麻耶が恐る恐る千冬の指示を仰ぐ。千冬は数秒の沈黙の後に指示を出した。

「校内全域に非常事態宣言を。それから待機させていた教師陣を直ちに出撃。専用機持ちの生徒にも連絡の取れる者から応援要請を」

「は、はい!」

「しかしあの技は……」

『敵』が見せた武器破壊。あれを千冬はよく知っている。いや、よく知っているどころではない。あれは自分が編み出した技だ。そしてあの技は誰にも伝えていない。弟の一夏にさえも。

「まさか……」

 千冬の呟きは管制室のけたたましい警告音に掻き消され麻耶に聞こえることはなかった。
 
 

 
後書き
自分で決めた締切から3日オーバー、お待たせしました。
ようやく納得のいくものが書けたので更新です。


誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます 。  
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