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銀色の魔法少女

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第四十七話 夢の終わり

 side はやて

 さわやかな風が、水分を含んだじめじめしたものに変わる。

 先程まで晴天だった空は嘘のように雨雲に覆われ、数え切れないほどの雨粒を落とす。

 私はそんな中一人、傘を持って立ち呆けている。

「…………ちょっと、寒いなぁ」

 顔をくすぐる風も、この手に当たる雫も、現実と変わらないくらいの刺激を私に与えてくれる。

 けど、本当じゃない。

 本当の私は脚が動かなくて、両親もいなくて、つい最近まで一人ぼっちだったはず。

 最後に覚えているのはシグナムたちが仮面をかぶった人達に、闇の書に食べさせられるところ。

 けど、シグナムたちもここにいる。

 闇の書は、ない。

 都合の悪い部分は全てなかったことになり、不自然なまでに幸せな世界が出来上がった。

 そう、まるで――

「まるで、夢のよう」

「……遼ちゃん」

 振り返ると、そこには同じように傘をさした遼ちゃんがいた。

「本当はわかっていたでしょ? ここは闇の書の作った夢の中、現実のあなたは今眠ってるの」

 彼女がそう言うと、私と彼女の間に液晶画面のようなものが現れて、変わり果てた街と一人の女性を映し出す。

「この人、見たことある?」

 銀色の髪に紅い瞳の彼女を、私は知っていた。

「うん、なんかようわからんけど、知識はあるみたいや」

 意識すると、彼女に関する知識がスラスラと頭の中に湧き出てくる。

「うん、ちゃんとマスターとしての知識は引き継がれているみたいだね」

「そうみたいやけど、どうして今までわからなかったのやろう?」

 こんな能力があるのなら、この世界の正体にももっと早く気づけたはずなのに。

「それはね、今私がこの世界に細工をしているから、この雨が降っている間はあなたはちゃんとしたマスターとしての権限を使えるよ」

「そうなんや、でも、そんなことができる遼ちゃんは何者なん?」

「さあ、私としては普通の女の子のつもりなのだけど?」

「こんなことが出来る女の子はいいひんよ」

 たった今、闇の書のことを理解した私だからこそわかる。

 周りが敵だらけだった歴代の持ち主が不幸だったのか、それとも友達に恵まれた私が幸運だったのかはわからない。
 
 彼女は過去をさかのぼっても誰もやれなかった、やろうとしなかったことをやったのだと。

「まあ、私がやったのは至極単純なことだよ」

 彼女が手を握り、そして開くと銀色に輝く光の球が現れる。

「リンカーコアに細工をして、私がやられた時に意識だけでもここに来れれるように道を作った、……本当はこうなる前に終わらせるつもりだったけど、現実はやっぱり思った通りにはいかないのね」

 そう言って苦笑いを浮かべる彼女。

 その表情には、どこか吹っ切れたような清々しさを感じた。

「遼ちゃん、な「おっと、どうやらおしゃべりはここまでみたいだね」」

 そう言って彼女は空を指差す。

 曇天だった空に、僅かながらも光が差し込み始めていた。

「もうすぐ、はやての権限と共に、私も消える、たぶん記憶を失っていつも通りの戦場 遼を演じることになると思う」

 その前に、と彼女は別の方向を指差す。

 そこにあったのは扉だった。

 平原には似つかわしくない不自然すぎる白い扉。

 壁も屋根もなく、ただ扉だけがそこにある。

「はやてがもしこの世界の中にいたいのなら、このままここで雨が止むのを待つといいよ、けど、そうでないのなら――」

 それ以上、私は彼女の話を聞かなかった。

 傘を捨て、扉のところまで走る。

『やっぱり、そっちを選ぶよね』

 彼女の声が、頭の中に響く。

『うん、夢は夢や、いつかは覚めてまう、そんなのより私は――』

 力強く、ドアノブを握りしめて、

「『現実(いま)を選ぶ!』」

 扉を、開いた。







 side 遼

「うん、やっぱりそうだよね」

 私は彼女がいなくなって、崩壊し始めた世界にいた。

 空は割れ、地面は崩れ、もうすぐここがなくなるのは目に見えていた。

 私も早く脱出しない、と巻き込まれて脳死状態になりかねない。

「でもその前に」

 私は振り返って、”それ”を見つめる。

 ハヤテが通っていった白い扉とは違い、真っ黒に塗り固められた扉。

「彼女から呼んでくれるなら話が早い、ちゃっちゃとやることやらないとね」

 その扉に吸い込まれるように、その中へと消えていった。






 side はやて

「……ここは?」

 目を覚ますと、不思議なところにいた。

 周りは黒い雲に覆われたように何も見えなくて、足元にある魔法陣が照らしてくれなければ、自分の姿も見失っていたかもしれない。

 そして、下を見たときに気づく。

 毎日使っているためか、所々気づついた私の車椅子。

 それが、ここが現実だと教えてくれた。

「お目覚めになられてしまいましたか、主はやて」

 顔を上げると、そこには薄ら輝く女の人、私の五人目の家族がそこにいた。

「うん、ちょっと残念やったけど、外が大変なことになってるのに私だけお寝坊さんなんて、神様が許しても私が許さへんよ」

「……やはり、全て知ってしまわれたのですね」

 彼女はそう、悲しげに私を見つめる。

「そうや、だから私に協力して、『リインフォース』」

「リイン、フォース?」

 彼女が、リインフォースが訳がわからないといった顔で私を見つめる。

「そや、祝福の風・リインフォース、もう闇の書とか呪いの魔道書なんかじゃない、今からあなたはリインフォースや、誰が何といようと異論は認めへん!」

「主……」

「ほら、リインフォースも手伝って、今から防御プログラムの暴走を止めなあかんからな、忙しくなるで」

「しかし、今の状態では管理者権限の使用は「大丈夫や」、え?」

 目が覚めた時から感じていた、たくさんの暖かな気配。

 リンカーコアを蒐集して手に入れた広範囲の探査能力でわかる。

 その中に突出して強い人が二つ。

 そして、その二つを防御プログラムは危険視している。

「たぶんやけど、この人らなら止められると思う、だから」

 私の真下にある魔法陣が、輝きを強める。

「その手助けになることを、精一杯頑張ろうか!」 
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