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銀色の魔法少女

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第四十八話  闇が晴れるとき 

 side ALL

「あれ?」

 ユーノが目を細め、闇の書を観察する。

「どうした?」

 それにつられてクロノも彼女を見つめる。

「あれは?」

 少しして、彼も彼女の異変に気がつく。

 闇の書からにじみ出ている闇に、僅かながら光が混じり始めている。

「これは、もしかして」

 ユーノがとある結論に達したその時だった。



       『あー、こんにちわ、そこにいる子の保護者八神はやてです』



 幼い子供の、なのはたちと同じくらいの歳の少女の声が周囲に響く。

「はやてちゃん!」

『その声はすずかちゃん! なんでこんなとこにおんの!?』

「えっとね、いろいろあって闇の書さんを止めるために来たの」

『そうなんや、だったらお願いしたいんやけど、どうにかしてこの子止めてくれる? そっちにもなんか切り札があるのは感じるけど、こっちでも内側からサポートするから!』

 彼女の声が途絶えると、闇の書の体に白い鎖が巻き付き始める

「これは……」

 彼女が引きちぎろうと力を込めるも、ビクともしない。

「やっぱり、闇の書の主が覚醒後に目覚めている、これなら……、クリムさん!」

 それを聞いて、ユーノはクリムに確認する。

「ええ、作戦を二段階短縮できそうですね、『なのはさん、フェイトさん、それにすずか!』」

 クリムは三人に念話で話しかける。

『今がチャンスです、二人のプログラムを打ち込んだ後、全力で彼女を叩きのめしてください!』

 本来ならば、闇の書の動きを封じる、プログラムを打ち込む、闇の書の主を目覚めさせる、といった具合に段階を経て、最後に実力行使で闇の書を停止させる予定であった。

 しかし、闇の書の主であるはやてが既に目覚め、闇の書の動きを封じてくれている。

「はい!」「了解なの!」

 二人は自らのデバイスを掲げ、告げる。

「「プログラム『ニヴルヘイム』ロード!」」

 デバイスから発せられた光が、彼女たちを包む。

 そして、光がおさまった彼女たちが目にしたのは、変化した相棒の姿だった。

「え!」「これって……」

 バルディッシュは金色の輝くザンバーフォーム。

 レイジングハートは銀色に輝くエクセリオンモード。

 共に色彩が変化していることを除けば、デバイスを強化するまで使わないように言われていた形態だった。

『効果は一時間、その間なら副次効果であなたたちも強化されるわ、だから気にせず全力を出しなさい』

 それを聞いて、二人は闇の書に向き直る。

「それじゃあ、いくよレイジングハート」

『All right my master』

「バルディッシュ、私たちも負けてられないよ」

『Sir』

 機械音が響き、幾本もの空のカートリッジが宙を舞う。

 二人は闇の書に狙いを定めるが、黙って見ている彼女ではなかった。

「させは、しない……」

 地面が揺れ、ひび割れ、中から幾本もの触手が姿を現す。

 それらの半数が直接二人に襲いかかり、もう半数はその先端から魔力砲を放つ。

 けれど、そのいずれも彼女たちに届くことはなかった。

「は、させるかよ! ベイオット!」

『了解です、アーチャーモード、起動!』

 カートリッジをいくつか消費し、ベイオットは姿を変える。

 特徴的だった盾と剣は消え、代りに銃身にボウガンのような装置が追加される。

 最も変化が現れたのはベイオットが二機増え、刃が両手持ちでそれを構えていることだった。

「乱れ打ちだ!」

 目にも止まらぬ速さで光の玄が伸びちじみを繰り返し、数え切れぬ程の矢を放つ。

 それらは触手を容赦なく切り刻み、光をただの魔力へと還していく。

 そして、彼が作った隙をなのはたちは無駄にはしなかった。

「エクセリオン、バスタぁぁぁぁーーーーーーーーー!!」

「プラズマ、スマッシャァァァァーーーーーーーーー!!」

 二人の強力な一撃が、闇の書を包み込む。

「氷の壁よ……」

 闇の書は自らの周囲に氷の防護壁を生み出すが、すぐに崩れ出す。

 そもそも、これは凍結魔法用の対抗手段、通常魔法には効果が薄いのだったが、彼女には他に手段がなかった。

「あ、あああああ、ああああああ!!」

 遂に壁は崩れ、二色の光が彼女を包む。

 装甲を突破し、彼女の内部にあるプログラムを植え付ける。

 それは、闇の書の闇、防御プログラムを一時的に凍結させるプログラム。

 防御プログラムの進行を永遠に妨害し、その機能を発揮させなくする効果を持った術式。

 たとえ治すことができなくても、防御プログラムの妨害する程度のことならフィリーネとクリムには容易かった。

 そして、彼女たちの攻撃はまだ終わらない。

『すずか! 今です!』

 上空、闇の書の真上へと移動したすずかに、クリムが合図を送る。

「遼ちゃん、力を貸して……」

 その願いに応えるように、エアがカートリッジを消費し、その刀身を回転し始める。

「はやてちゃん、今助けるからね!」

 彼女はエアを握る腕を引き、叫ぶ。

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 彼女が腕を突き出すと、レイの放った最高出力以上の天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)が闇の書へと襲いかかる。

 妨害プログラムによってその機能を著しく低下された彼女に、それを防ぐほどの力はなく、暴力的なその嵐に飲み込まれていった。









「はやてちゃん!」

 嵐が過ぎ、瓦礫だらけとなったその場所へ、すずかは降り立つ。

「すずかちゃん、ほんまおおきにな」

 闇の書、いや、リインフォースに車椅子を押されているはやてが彼女たちを迎える。

「早速で悪いんだが、君たちには軌道上で待機している僕らの船へ同行してもらうよ」

「まあ、それも仕方ないことやし、ええよ、……あ、その前にうちの家族を復活させてもええかな?」

 彼女たちは語り合う。

 その片隅で遼を抱いたクリムがそっと、彼女の頭を撫でる。

「やっと終わりましたよ、遼」

 



 新暦65年12月10日。

 こうして闇の書事件は幕を閉じ、リインフォースとの別れが来るまで何事もなく平和に過ごすことができた彼女らであったが、その中に、戦場 遼の姿はなかった。
 
 
 

 
後書き

 
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