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どっかの分隊長

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最近の日課

結果だけいえば人類はウォールローゼまで追い込まれた。100年間何も無かった世界は、崩れ去ったのだ。まぁ、とは言えそれも少し昔の話。口減らしが行われ、パニック状態だった人々は大分落ち着きを取り戻していた。
俺も書類が有りえないほど多いこと以外は、普通の生活をしていた。…少なくとも表面上は。


「…俺は、何で…。」

昼間の癖にどんより曇った空を目に映しながら一人嘯く。勿論返しを期待しているわけではなく、ただ口から言葉がこぼれただけだ。意味も無い言葉を呪詛のように吐き出したい気分になるが、流石に不審者になるのでそれだけはやめた。
公園のベンチに座り、冷めた珈琲をずるるるるとすする。元気にはしゃいでいる子供達を見ながらまた嘆息して、そんな自分にまた嘆息した。

「…はぁ。俺は何をやってんだか。」

ここ最近日課になってしまったこの意味不明な行動に苦笑いして、ベンチから立ち上がる。珈琲を最後まで飲みきり、さて戻ろうかと思った時に…

「やっほー。」

後ろからややハスキーな声がかけられた。

「…ハンジか。」
「何その微妙に嫌そうな顔~。」

ハンジはわざとらしく悲しそうに肩をすくめた。だが、口元は笑っている。俺は人と話せた事に何故か少しだけ安心して、しかしそれは表に出さず無表情で彼に向き合う。

「ま、いいさ。それより君に伝達だよ~。」
「伝達?」
「団長が自分の所来いってさー。」

エルヴィン団長が…?

「分かった。すぐ行こう。場所はどこだ?」
「俺が案内人~。」
「…………そうか。」
「あれ、何か若干残念そう?」

俺はハンジの言葉をスルーして歩き始めた。ハンジもその隣を歩いていた。



…ふと、昔を思い出す。季節は秋。
風が涼しくなってきた頃、ハンジと会ったのは俺が分隊長に昇格してすぐのことだった。
俺はその時“分隊長の会議”に出席していたが、ミスで昇格故に度胸も自信も無い。まぁ、勿論そんな事言えるはずもなく、ただ内心ドギマギしながらそこの場にいた。

「新たに分隊長になった者だ。挨拶を。」
「まだ未熟者ですが、よろしくお願いします。」

団長に紹介を受けたので、無難に無難を重ねたようなベタな挨拶をする昔の俺。今思い返せば、もうチョイ言葉の選択肢があっただろうが…。
しかし、考えてもみて欲しい。その時俺はまだ数年前まで年齢が一桁だったのだ。その中、ごつかったり強面だったえいする分隊長の方々に囲まれての挨拶。無表情は保ったが、それでもパニクッた中で挨拶したのだから、むしろ良くやったほうではないか?
ま、そんな言い訳なんてどうでも良く、俺はそのまま指定された席に黙って座った。

「やっほ、お隣だね~。俺、ハンジ。よろしく。」

そして、そこにいたのがポニーテールの彼。またの名をハンジだった。

「宜しくお願いします。」

固いが、なんとか声を振り絞って短く社交辞令をする。気を悪くしたか…?と思ったが、ハンジはニッと笑ってくれる。それに、内心軽くホッとしたものだ。
その後、会議の時に少しだけ雑談をし、そのまま「じゃあね~。」「はい。」と言い解散。
気の良い奴だなとは思ったが、俺達の関係はただ隣の席に座って少し喋っただけ。話すのも喋るのも、もうこれっきりだと思っていた。

「おーい!」

だが、会議が終わって数日たったある日。そこらへんの道をブラブラしていたら、奴が…ハンジがいた。
何だこの奇妙な縁…。と思ったが、話しかけられているのに無視するわけにもいかない。首だけではあるが、ハンジの方を向いた。

「やっほー、お久しぶり。」
「何か御用で?」
「いやさ、後姿が見えたもんだから。あ、敬語なしで良いよ。」
「そうか。」
「うーん。君は相変わらず無愛想だね~。」

今思えば無愛想どころではないのだが、その頃、愛想を振りまくというものを知らなかった俺は、また「そうか。」とだけ返した。ハンジはそんな俺に「ほら、そうゆー所。」と笑った。

「それで、君は何してるのかな~?」
「散歩だ。」
「へー、意外。まぁ体力作りとかには良いね、散歩。よし、俺も付き合おう。」
「そうか。」
「どこ行くの?」
「決まってない。」
「あ、じゃあ俺のとっておきの場所に連れて行ってあげようかな?」
「?」
「ほら、来て。」

ハンジは手袋をしている冷たい手で俺の手をつかみ歩き出す。俺は抵抗はしなかったが、足を前に動かすのがめんどくさかったので、彼に引きづられるように歩いた。
やがて、細長い一本道を抜けて人が密集している商店街に入る。ここは良く利用するが人が多いのだ。故にあまり早く歩けないし、散歩や移動にはむいていない。ここを抜けるならば、どこかで遠回りしたほうがよっぽど早い筈なのだが…ハンジは上手い事人を掻き分けスイスイと進んで行っていた。俺も手をつないでいたので、いつもより大分早くぬけられた。流石、隊長。人混みになれているのか。

「ふー、人がたくさんいたねー。」
「あぁ。」
「でも大丈夫。次は誰も人がいないから~。」
「―――え。」

そう言って連れてかれた先は森だった。

「こんな所に何かあるのか?」
「ふふふ~、それがあるんだよ~。」
「そうか。」
「反応薄っ!」

「ちょっと泣きそう~。」と笑いながらハンジが言った。泣きそうなら、それ相応の表情をして欲しいものだ。笑った表情から変わらないのはどうかと思う。

やがて森をぬけると、少しあけたスペースに出た。

「じゃじゃじゃ~ん、ここでーす!」
「……湖?」

小さな魚が透明な水の中で優雅に泳いでる。

「そ、…ま、正確にはちょっと違うんだけどね。ほら、こっちおいで~。」
「あぁ。」

軽く返事をし、湖のそばに座ったハンジの横に座る。そして、目の前にあった湖に少し興味がわき、のぞきこんだ。純度が高そうな綺麗な水で、日光をあびてキラキラしている。

「―――――――え。」

あるモノを見て、俺は内心驚いた。

「――――――墓…?」

何故か、湖の中に墓があった。四角い墓標が、水の波にのってゆらゆらゆれている。

「………。」

ヒュルルルルルと秋の風が頬をなぞった。

「そ。正真正銘のお墓だよ。」
「そうか。」

何故水の中にお墓を立てたし……!!

ハンジは、湖の前―――いや。お墓の前でパンパンッと手を合わした。俺もならって彼の真似をする。少しの間俺達は黙寿していたが、やがてハンジがバッと起き上がり「はい、終わり~」と笑った。

「お疲れ~。いや~、ありがとね。一人じゃつまんないと思ってたから助かったよ。」
「まさか、そのために。」
「ごめんごめん。でも綺麗でしょ?ある意味取って置きの場所さ。」
「……そうか。」

利用された気がするが、まぁ別に悪い気分ではない。

「ここは、誰の墓だ?」

何となく気になって、聞いてみる。

「あぁ、言ってなかったっけ。――――――巨人の墓だよ。」
「え。」
「何故って顔してるね。うん、まぁやってる事の異常性くらいは知ってるさ。」
「そう、か。」
「でも、ある日気づいちゃったんだよ。巨人の手が軽い事に。」
「あ?」
「巨人って大きいのに、それに重さがとも合わないんだよ。そこから気になちゃってさ。変人扱いされるけど、巨人を別の方向から見ると、また別の何かが見えてくるかも知れない。そう思って彼等を観察してたら、いつしかお墓まで立てちゃった。」

笑いながらも、一本の芯の通った目をこちらに向けてくる。それを、俺は濁った目で見つめた。

「うーん、まだピンときてないようだ。そこで、ちょっと実験の話をしても良いかな。」
「あぁ。」
「良かった。それでね、まず最初に―――



――――――――で、こう思うわけだよ。これはいけるって。ん?返事がないケド大丈夫?」

コイツの研究の話はこれから絶対に聞かないと心に決めた。




「ん?何で苦い顔になってるのさ?眉間にしわよってるよ。」
「別に。」

出会った頃を思い出していたら、ハンジに笑いながら指摘される。俺は眉間を拳でぐりぐりやってほぐしながら、歩行速度を速めた。

「にしても、団長自ら呼び出すなんて珍しいね~。何の用だろう?もぐもぐ。」

いつのまにか、たい焼きを買って食べているハンジが笑いながら話しかけて来た。じゃっかん右頬をストレートで殴りたくなったが、聞かれているのに答えないほど天邪鬼でもなし。それに、俺も少し喋りたい気分だったのでそれに答える。

「? ハンジは聞いてないのか?」
「うーん、聞いてない。何か重要な事な雰囲気はあったけど。」
「ふーん。」
「ま。あくまで俺は、ただ伝達を頼まれただけだからねー。」
「そうか。」

ハンジがほくほくと美味しそうにたい焼きを食べ始める。その際、食べかすが彼の頬についていたので、俺は教えてやろうと自分の頬をたたく。すると彼は何かを察したようで、たい焼きを半分にわりこちらにくれた。旨いが、何故だか俺が食いしん坊のようで少し納得いかない。

「ハンジに直接行ってこいと言われたんだよな。」
「え、うんそうだよ。まぁたまたま近くにいたからだろうケドねー。」
「……に、しては変な話だよな。」
「そうかな?」

「あぁ…。」と腕を組みながら相槌を打つ。

「だって――――――――」

―――――――世界が、ぐるぐるぐるぐるぐる。

「――――!? 大丈夫!?」
「あ………あ、あぁ。」

…あれ。…びっくりした。
急に目の前が真っ暗になったと思ったら、ハンジが駆け寄ってきて支えてくれていた。……ちょっと色々と疲れが溜まっていたみたいだな。

「問題ない。ただのめまいだ。」
「………そ?」

いぶかしげに見るも、本人がそういってるなら大丈夫かと思ったのか何も言わずに離してくれた。……そうゆうサッパリした所は彼の長所だと思う。巨人の話は長すぎるが、それ以外は基本的に良い奴なのだ。

「最近、書類が多いから少し寝不足なんだよ。お前もだろ?」
「うーん。でもまぁ、俺は研究員としての書類たくさんやってるから、必然的にそうゆう書類は副隊長か、別の隊にまわされるんだよねー。」
「そうか。」

俺は歩行速度を更に速めた。ハンジは「何でさっきからどんどん先行くのっ!?」と言いながらも、ちゃっかりついてきた。流石は隊長である。俺もだが。





「ハンジ、ご苦労。」

…相変わらずカリスマオーラを放ちながら言葉を言う人だ。

「いえい~え、団長のご命令だとあらば。」

調査兵団本部へついた俺達は、さっそくエルヴィン団長に会っていた。というか、ここにいるなら案内も何もいらなかったのだが。まさか迷子になるとでも思ってたのだろうか。
若干、不服に思いながらも、俺は一歩前に出て話し始める。

「団長、それで御用とは。」
「あぁ。お前に極秘の命令がある。」

極秘とな…?
初めて出されたそれにビックリすると同時に納得した。先程ハンジと話して居るときにも思ったが、隊長が使い走りさせられることはまず無い。分隊長は案外地位が高いのだ。だからこそハンジが来たことに疑問を思ったが、極秘任務ならココに来たことすら知られるべきではない。だから、信用度の高い隊長に任せるのは、なるほど道理だ。

「あ、じゃあ俺はここにいないほうがいいよね?」

空気を呼んだハンジがドアを開けて、出ようとする。

「いや。お前も一緒に聞け。君達、珈琲いるか?」
「あ、もらうもらう。」
「俺は結構です。」

そのまま話の流れとして団長にうながされ、俺達はソファに座った。茶色い質のよさそうなソファで思わずうもれそうだ。周りをぐるりと見回してみると、絢爛豪華というほどでもないが中々高級な家具がそろい、部屋にセンスの良さがにじみ出ていた。

「それで、本題だ。極秘命令だが、、、」

団長が手をひざの上で組んで前置きする。

「やる事はそう難しくない。まぁ、長期になりそうだがな。」
「どのくらい?」

ハンジが聞く。どうでもいいが敬語使え。

「そうだな。……役3年てっところか。」

な…長っ。三年って…。だがしかし、命令なら従わなければならない。

「それで、何をするんですか。」
「なに、気負わずとも簡単な事だ。

訓練兵をやり直せ。」

「「…………え。」」

不本意ながらハンジと俺の声がハモッた。だがそんな事より、

――――訓練兵をやり直せ……だと?

………正直言おう…、喜んで。

「了解しました。」
「え!?」
「そうか。君ならそういってくれると思ってた。」

団長と俺の意思が疎通した時、何故か当事者でもないハンジがあわてていた。

「ちょ、ちょい待って!?」
「なんだ。」
「え、何で普通に納得しちゃうのさ。訓令兵をやり直すんだよ?何でとか色々あるでしょ。」
「命令ならば、それまでだ。」
「え、いやでも…。団長。」

良く分からないが何かが納得いかなかったのか、ハンジは団長に問いただす。

「団長。彼は無愛想だけど、それでも仕事はキッチリやってたと思うよ。」
「? 何か誤解しているようだな。別に彼が隊長失格と言っている訳ではない。」

むしろ、そうであって欲しかった…と、ここで俺は言ってもいいだろうか。
正直言うと、隊長めんどくさい。訓練兵に戻れるなら、それはもう嬉しいとしか言いようがないのだ。マジでそうならないかな。

「俺も詳しくは聞かされていないが、ちょっと上さんと訓練兵で問題があったらしくてな。それの責任を通常ならば教官にとらせるものなのだが、生憎教官はあまり地位が高くない。」
「つまり、もっと上の立場の者が責任者として必要だったということですか?」
「その通り。だから、これからこういった立場のものを今期から一人ずつ入れていく事にした。」
「でも、だったら壁外調査団の隊長が入るのはおかしくない?」
「あぁ。だが訓練兵の基準としてあまり年齢が高いとおかしいんだ。それで大半の偉い人は除外される。それと色々な事情をかんがみるに、君が一番だと判断したんだ。」

つまり、責任が回りに回って無関係の俺の所に来たということか。馬鹿馬鹿しい…と言いたいところだが、訓練兵は当たり前だが一番生存率が高い。だからむしろソレは感謝しよう。
しかし、もし誰かが問題行動起こしたら……。おそらく、俺の首が飛ぶ。

「とりあえず、この任務にはいくつかの条件と権利がある。」

「まず一つ目。」と団長は指をピンッと一本立てた。

「分隊長の立場がばれないようにする事。ばれたら失敗とみなし即座に帰還してもらう。」

分隊長は結構人に顔が知られている。故に、これは少し難しいかもしれないが…。まぁ、何とかなるだろう。何とかするしかない。

「二つ目、自身が問題行動を起こさない事。104期生に上の人に関わる問題行動を起こさせない事。起こした場合立場は無いと思え。
尚、もし104期生の誰かが問題を起こそうとしてたら、最悪の場合殺傷許可をやる。だがまぁ、最悪だからなるべくやめてくれ。」

物騒だな。

「三つ目、怪しいと思う奴にも殺傷許可をやる。勿論、これも最悪の場合のみだ。なるべく証拠を確認して本部に連絡をしてくれ。」

これ、何気に意外にヤバイ任務じゃないか?首が飛ぶ確率は低くなりそうだが首を飛ばす可能性がかなりでてきたぞ。殺傷許可出ちゃったよ。やばいよ。
…まぁ最悪の場合となっているから、多分大丈夫だろう。うん。

「では、頑張ってくれ。成功を祈ってる。」
「了解。」
「で、何で俺はここに残ったの~?」
「君には、彼の補助を頼みたい。」
「補助?具体的には?」
「特にこちらからは指示しない。好きなようにやってくれ。」
「了解~。」

一人でないだけ心強いが…ハンジか。まぁ、やる時にはやる奴だから大丈夫だろう。そして俺は何様だ。

調査兵団本部から出ると、夜だった。俺はこれから来る極秘任務に少々不安になりながらも、団長とハンジと別れ部屋に戻った。必需品しかない質素な部屋だ。そこに少し古ぼけた布団をひいて横になる。寝ようと思い、軽く目をつぶった。



『エレン、ミサカ…元気……で…。』
―――――――ぐしゃっ。

「あぁ。」

まぁやはりというか、寝れなかった。手に嫌な感覚が戻る。それを必死に振り払いながら、気だるい身体を起こして近場に会った喫茶店で珈琲を買い、そしてその足で例の公園へ向かった。

―――これが、いつもの俺の日課だ。
 
 

 
後書き



Zzzzz (*´﹃`*); 
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