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どっかの分隊長

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今こそ始まりの時


俺はグランドで整列していた。

「貴様は誰だ!!!どうしてここに来た!!!」

―――かの有名な、通過儀礼を見ながら。

そういえば昔、通過儀礼でプッツンして教官を殴ったことがあったけか。生まれが悪くて礼儀が無いうえに、無理矢理入れられたから余計にムカついてな。思いっきり殴った。―――――実は後悔していないのは秘密だ。確かそれで、死ぬまで走れと命令された。まぁ、俺はなかなかそれに従わず、教官にも多大な迷惑をかけたがな。やっと従ったときには、すでに夜だったという。

……懐かしいな。
こんな記憶も、今となればむしろ懐かしさで心が少し温まるのだから不思議なものだ。


まぁ、今そんなことはどうでも良い。おまけ、二の次、付属品。俺が言いたいのは、そんな些細な記憶ではない。問題は…

「もぐもぐ…もぐ」

隣に整列している、この女のことだ。

「もぐもぐ…」

こいつ……なんと、芋を食ってやがる。

意味が分からない。おかしいなどという次元ではない。

健康的な美形の顔を緩ませて、芋を一心不乱に食うその様は……なんというかまさしく野生の獣という感じだ。勿論女性に使う言葉ではないし、直接言うつもりは皆無だが、今は仮にも通過儀礼…もとい、教官の有り難い喝をくれる儀式の最中。その仲一人だけ芋を貪って居るのだから、心の中では愚痴らせてくれても罰は当たらないだろう。

にしても今は訓練兵になって始めての集まり。普通は緊張するもんだろう?どれだけ肝がすわわってる奴でも、この状況下で芋を食う奴はいないはずだ。
………隣の奴以外は。

「……半分いりますか?」

チラチラ見ていたからか、彼女が気づいて、芋を半分……否、4分の1を―――あれを半分とは認めない―――ちぎって渡してくる。
ハンジの時も思ったが、俺はそんなに食いしん坊に見えるのだろうか。

「いや、いらない。それより、何故今芋を食ってる?」
「蒸かした芋です。」

どうでもいい。

「……何故蒸かした芋を食っている。」
「それは何故人類が――――「言わせるか。」なん……ですと。」
「聞きたいのは、何で今、その芋を食ってるかという事だ。」
「あぁ、そうゆうことですか。最初に言ってくださいよ。この芋、あそこの台所で蒸かしてあったんです。」
「だからなんだ。」
「いや~、この儀礼が終わったら、この芋は冷めてしまいます。」
「そうだな。だからなんだ。」
「だから、今。丁度良い食べ時の今、私はこの芋を食べようとしたんです。」
「………そうか。」

ただの好奇心で聞いた事なので文句を言えない事は重々承知だ。しかし、言わせてくれ。

こいつは馬鹿か。

「私はサシャ・ブラウスです。秘密にしてくださるのなら半分あげます。」
「いい。」

そう言って4分の1渡された。素直にいらないので丁重に断っておいた。
やっぱりこいつは馬鹿なんだろう。

「貴様は誰だ!!」
「はっ!!俺は――――で、ありますッ!!」

ハゲ………もとい、キース教官が近くまで来た。ブラウン色の髪をした少年を怒鳴り散らしている。通過儀礼は大切だが、生徒に唾はとばさないであげようか、教官。
…ま、俺には関係ない。通過儀礼はとっくの昔に終えたからな。あの強烈なハゲを間近で見るのは勘弁願いたいから助かった。

というか、ヤバいのはサシャ、この状況で呑気に芋食ってるお前だろう。

「おいサシャ。もう食い終えないと…。」
「まんへふは?」
「なんでもない。」

幸せそうに芋をほおばるサシャに注意する気すら失せた。というかこの、これ以上の幸せは無いとでも言うように緩みきった顔を崩してまで言う事でもない気がする。気がするだけで、実際は言った方が良いのだろうが。

「もぐもぐ…もふ…。」
「…………。」

耐え切れず俺は目をそらした。俺は何も見てない聞いてない。

「おい……何をして居るッッ!!!」
「っ!?」

あーあ。やはりと言うべきかキースがこっちに来たようだ。



結果、サシャは飯抜き&死ぬまで走らされることになった。






「はぁ…はぁ……!!!!」
「頑張れ、あともう少しで5時間だ。」
「はぁ、はい!!!」

赤い夕暮れがもうすぐ沈んでいく午後6時。サシャと俺は走っていた。それはもう走りまくっていた。サシャが走っている理由はさっき述べたとおりだ。
それで俺の理由だが、まぁ別に罰せられた訳ではない。近くにいたからと監視役を任されただけである。それで、何で監視役の俺まで走って居るのかと言うと、〝訓練に丁度良いいや〟、という簡素かつ平凡な理由である。サシャに「一緒に走りませんか?」と誘われたっていうのも、一つの理由ではあるがな。

「……あと数秒で5時間。」

なんというか、正直巻き込まれた感は否めない。

しかし、これでも一応兵士で隊長であるが故に、まだ訓練を受けていないサシャに比べれば早く多く走れる。当然、オレの方がサシャよりも疲れないわけだ。昔、必死に訓練受けたかいがあったのだろうか。

しかし、時々くらりと妙に意識が薄れたり、めまいがしたりするのだが……まぁ、まだ大丈夫だろう。

「丁度5時間。」
「はっ……い!!!」
「休憩するか?」
「はァ…いえ!!まだ…いけます!!!」

歩けば楽なのに、と思う。しかし言わない。

「はぁ……はぁ…ぐ…。い、行きましょう!」

疲労によりどんよりとはしてきているものの、まったくもって目の輝きを失っていない彼女。恐らく相当きついであろうからだを動かして、必死に前へ前へ進んでいる。

歩けば楽なのにぃ、とか言えるか?これで。俺は無理。

「暗くなるまでだから、あと1時間程度だ。頑張れ。」
「は…い!」

先程、彼女を馬鹿と証したが訂正しよう。こいつは大馬鹿だ。……眩しいほどに、まっすぐ馬鹿だ。

「ん、ほれ。水だ。」
「…はあッ…いつ…のま…に!」
「最初から持ってた。飲め。」
「あり…がとうござ…ます!!」
「食料は無いぞ。」

ちょっとガッカリした雰囲気が伝わってきた。知らんがな。
サシャは俗に言う食いしん坊というものなのだろう。

あ、そういえば暴食といえば……どこかの文献で、ベルゼブブという暴食の悪魔が載ってた気がする。

…………。

「なぁ、ブブ。」
「ブブッ!?…え!?私…です…か!?」
「冗談だ。」

意外に反応が面白い。

「それ…にしても、…何故貴方は一緒に走って…くれるんですか?」
「お前が誘ったんだろう。」
「いや…そう、ですけど…、正直駄目元でしたし…。」
「そうか。まぁそんな事なんでもいいだろう。」
「えー!?…教えてくれないんですかぁ!?」
「言うほどの理由じゃない。」
「まぁ無理矢理聞くことじゃありませんけど…。」

「……ありがとうございます。」

…………なんで?




「おい、それで走ってるつもりかァ!!!」

それから走り続けて数分後。
ふと通りかかったキース教官が叫んできた。いつのまにか、また最初のグランドに来ていたようだ。走ると周りが見えなくなるのは仕方がないと思うんだ。

とにかく、キース教官が呼び止めたので俺達はいったん足を止めた。サシャには良い休憩になりそうだ。

「サシャ・ブラウスはまだ走ってろ。」

ならなかった。この教官、鬼畜である。

サシャは絶望した顔でまた走り出した。凄いな、俺ももう少し息が切れてきたと言うのに、彼女はまだ体力残ってたのか。これは訓練したら良い戦力になりそうだ。

「…………。」
「…………。」

まぁうん。それはそうと、この無言で男二人が見つめ合ってる状況、、、俺はどうすればいいのだろう。また走り出すべきなのだろうか。…いや、しかし命令は彼女一人の名前しか入ってなかった。ということは、まだ許可が出ていないので、動く事は出来ない。

……うん、とりあえず敬礼しておけば良いか。

「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」


…何か言えよ。頼むから。

キースは突如振り向き威圧感たっぷりに俺を見下ろしている。まぁ慣れは怖いと言うか、巨人顔負けの圧倒的威圧感をもって居る人たちに散々会ってきているおかげか、特に俺はなにも感じず見つめ返した。

「……………。」
「……………。」

何故、俺がオッサンの顔を見つめねばならない。

ちなみに目をそらすのは不敬なので、駄目だ。俺不遇すぎないか。

まぁ流石のキースもずっと無言でいるつもりは無いようで、ちょっと鼻を鳴らしてから、口を開いた。…やっとだよ、本当。

「おい、お前。何故一緒になって走っていた。」
「はい。俺は監視を言い渡されました。故に、彼女を監視するためには一緒に走るのが適切だと思ったからです。」
「…そうか。なら、監視はもう良い。アレは監視せずとも走るだろう。」

確かに。

「それより、明日の準備を手伝え。」
「準備ですか?」
「あぁ。明日、立体起動の適正を見る。おい、それを立てろ。」
「了解。」

あぁ、本当、何でおっさんと共同作業しなきゃいけないのだろうか。これならサシャと走ってたほうが…、、、あぁいや、どっちもどっちかもしれん。サシャはサシャで、どうしても女と接してる気がしないし、俺は体を動かせればそれでいいからな。

「なんだ、意外に力あるじゃないか。貴様何かやっていたのか?」

ちなみに俺はシガンシナ区出身になっている。あそこは裏の道に入れば、誰がどうゆう風に住んで居るかなんて分からないから都合が良かったらしい。
流石に何をしていたか、までは設定されてなかったが。適当に誤魔化すか。

「特には何も。」
「そうか、まぁいい。どうせ訓練で死にたいと思うほど訓練させられるんだ。」
「そうですか。」

まぁ、命令でもあるし訓練兵として居られる事に文句は無い。訓練するだけなんて、楽で良い。面倒くささもあるが、うっすら楽しさも感じ始めているのが本心だ。

…今でこそ言える事だがな。

昔、訓練兵に入れられた時、俺は楽しさなんて感じる事が出来なかった。だからこそ、その代わりに今楽しんでおいても損はないだろう。







少しだけ昔を思い出す…。

まだ俺が訓練兵でもなんでもなく、ただゴミ山に暮らしていた時のことだ。

ゴミ山は治安が悪く食い物すら少ない。そんな中で生きていくには、孤独ではいられない。裏切りにあったことだってあるし、仲間を見捨てなきゃいけない時だってある。でも、その中でできた仲間は何にも代えられない、大事なモノになるのだ。

『ねぇ君。兵士になってくれないかな?…いや、別に強制はしないよ。私の立場では到底出来ないしね。だけど―――――そういえば、ゴミ山に住んでいる子達は身分証明書がなかったね。うん、まぁ孤児だから当たり前なんだけど。それでさ、ここからが本題なんだけど、身分証明書がなければ、殺しても罪にならないって知ってるかな?』

――――――だからこそ、こんなベタな脅しに屈しなければならなかった。

突然ゴミ山に現れたこの男の兵士は、ニッコリ笑いながら平然と脅してきた。最初は全員ポカーンとしていたが、次第に意味が分かってくると怒って、それから青ざめた。

『………………。』

全員、何も言わない。言えない。いつも五月蝿い仲間達がこの時ばかりは黙った。
…いや、一人だけ喋る男の兵士が一人だけいたな。

『ふふ、悪い提案じゃないよね。』

そういいながら演技がかった仕草で手を俺の前に差し出す兵士。俺は仲間と自分を天秤にかけ、兵士の手を取ろうとした。

『……行く必要はないよ。』

ぽつり…とリーダーの人が呟く。それに合わせ、皆が武器を持って叫び始めた。

『そ、そうだよ!!私達がさ、こんな兵士なんかに負けるわけ無いじゃん!』
『あぁ、おいてめーらこいつを守るぞ!!』
『『おう!!!!』』

『……ぁ。』

だ、駄目だ!!

こいつ等に反抗するな、危険だ、やばい。こいつ等だけは駄目だ。今まで自分を支えてきてくれた勘が自分の脳に危険信号を放つ。だが、足に力が入らない。

俺は引きつる喉を必死に動かしてさけんだ。

『やめろッ!!!!』
『『!!』』
『な…なんでだよ!?こいつは、俺らから、仲間を引き抜こうとしてるんだぞ!!』
『駄目だ…そいつは駄目だ。そいつ等は駄目だ。』
『等って…あいつは一人じゃないの。』

仲間の一人の少女―――――アイナが、戸惑いながら言ってくる。でも、違うんだ。違うんだよ。
焦りと恐怖でぐちゃぐちゃになって、汗が頬を流れる。

『君は賢明だね。将来が楽しみだ。』

男の兵士が笑いながら言う。

『よし、お前等出てこい。』
『『『ハッ!』』』

10人、いや11人だったか。周りの影から人が出てきた。
ソレと同時に、仲間達の引きつった声が聞こえた。
俺達の数は14人。しかし子供でまったく戦えない女の子もいるから実質戦力は10人である。対して相手は11人は全員戦うために訓練された兵士。

勝てるはずが無い。

『こ、こっちの方が数は勝ってるんだ!!』
『そうだ、俺達は仲間を見殺しにはしない!!やっちまえ!!!』
『『『おーーーーーーーーー!!』』』

勝てる…はずが無い。
情けないことに、俺の喉は声が出なかった。俺の体は動かなかった。大事な仲間がボロボロにされている中、ただ呆然と突っ立っていた。

―――――目の前で仲間達がボロボロにされていく。

『くそッ…!!!』

動け、動けよ俺!!そう念じ、心の奥で勝てないと分かっていながらも、がむしゃらに一人の兵士に体当たりをした。

『と…とと。あぶねーなァ餓鬼んちょ。』
『ヒッ…。』

分かってた。俺はこの時、この仲間達で一番年下。まだ人生10年も生きてない時。子供ごときが体当たりした所で、どうにかなる相手ではない。
兵士はニヤニヤしながら俺を見下ろしてくる。どう苛めようか考えて居るようだった。

ただただ、怖かった。

『この子に手出すすんじゃないわよ!!!』

仲間のアイナが薪を手に、兵士を殴る。…が、剣で防がれる。

『くそっ!!』
『あー、もううざってェ!!!』

兵士が苛立ったように眉を潜めて怒鳴り、剣を振り回す。

『え――――――』

ブシュッ……!!!

突如、彼女の胸から剣が生えた。…いや違う。



剣が刺さっているんだ…





『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』




『ごふっ…!!』

…アイナの血が俺の頬にぺチャリとついた。
仲間は皆青ざめて、震えた。俺も勿論恐怖し、情けない事に泣いた。


『さて、一人死んだね。言う事聞いてくれないならもう一人殺す事になるけど。どうする?』

『――――――――――。』


なんて答えたかは忘れた。

俺は兵士になった。ならなければならなかった。



訓練兵になってからは訓練の繰り返し。訓練訓練訓練。わき目を振らず、ただただ訓練に打ち込む日々。

――――全てはアイナを殺したあいつを殺すために。

いつも疲労でぶっ倒れるまで訓練。きっとアイツは上位の兵士だろうから、上にいくために座学も学ぶ。食事なんて、一日一食で十分、睡眠なんて1時間で問題ないだろう?そんなことより時間が惜しい。教官の教えを一つももらすことなく学べ。何回も何十回も体を動かして脳で考える前に動けるようにしろ。
そうして学が無く、才能がぬきんでてる訳でもない俺でもなんとか一位になり、卒業した。

…まぁ、というわけだ。これで楽しいなんて口が裂けても言えないだろう。今思い出しても、確かにあれはやりすぎたと思う。


「おい、それはそっちだ。」
「了解。」

返事をしながらなが細い何かを運ぶ。…しかしなんというか、単調な作業だ。正直つまらない。




暇すぎて仕方が無いので、俺はまた少し昔のさっきの続きを思い出す。
調査兵団になってある程度の地位に着いた時のことだ。


あの―――――アイナを殺した男の兵士が、俺に謝罪をしてきた。

『すまなかった。』

その都合の良い言い訳も何もない、ただ一言だけの謝罪。最初顔を見たときは、腰の剣を持って首根っこをグシャリと切ってやろうかと思ったさ。

でも、まさか謝られるとは思わないだろう?

俺は到底『許す。』なんてことは言えなかった。アイナはこいつに殺されたのだ。確かに俺が優柔不断だったのも原因だろう。だが、殺された原因はこいつだ。いや…。直接殺したのはコイツではないし、確かに本当に殺す気はなかったのだろうということは理解できる。しかし…。

俺は90°に頭を下げている男の兵士の横を、黙って通り抜けた。彼女を殺された怒りの矛先をどこに向ければ良いのか俺にはわからない。アイナは「すぐ目の前に私を殺した相手が居るのに何で殺さないのか」と、怒るだろうか。殺すために死にたくなるほど学んだ技術も知識も、〝殺したい〟という意思がなければ意味がない。そして、俺は彼を殺す気にはなれなかった。

別に兵士を許した訳ではない。ただ――――無意味な気がしたのだ。

『こいつを殺した所でアイナが戻ってくる訳ではない。』『でも、アイナを殺したのはこいつなんだから殺すべき。』『でも、殺してなんになる。アイナが喜ぶ?そんなわけないだろう。彼女はもう死んだんだ。』『だからこそ、アイナを殺した奴がのうのうと生きて居るのが許せるのか?』『俺の許せる許せないはどうでもいい。』『だったら殺さないべきだろう。復讐は連鎖する。どうせアイナはもうこの世にいないんだ。だったらもういいだろう。』『でも―――――――』『今からでも間に合う。』『だからといって殺してなんになるというんだ。アイナはもしかしたらそんな事望んで無いかもしれないじゃないか。』『だったらお前、自分が殺されたとして、殺した相手が憎く無いのか。』

脳内で葛藤、、、結局答えは良く分からないまま、喜怒哀楽どれかも分からない感情だけが、モゾモゾとマムシのようにはいずっているような、最悪な気分。

『俺は、アイナは……どうすればいい。どうしたら喜ぶ。』



そんな思いを抱えながら眠り、翌日、、、、、あの兵士が死んだと報告があった。

『……え?』

死因は神経衰弱症。部屋で静かに息を引き取ったようだ。

彼は外道であったが、同時に人類に大いに役に立っていたらしい。憲兵団のほぼ半分は彼が支えていたとか。
彼は―――――悪ではなかったのか?いや、アイナを殺したのはあいつだ。でも、それは人類のためで、世界から見れば善だったのかもしれない。分からない。分からない。
怒りは矛先を相手に向ける事は無く、でも相手は死んだ。だったら殺しておけばよかった?でも、死んだんならいいじゃないか。でも、彼は、、、

……こんな、どうしよもない思いが、今も尚、胸の中のどこかに突っかかっている。



「ぃ……ぉい……おい!!」
「……ぁ、失礼しました。なんでしょうか。」

……教官の声出目が覚める。どうやら過去にすこし浸りすぎていたようだ。

「貴様、、、なんという目を………まぁ、いい。準備ご苦労。もう戻って良いぞ。」
「了解。」

教官の言葉に従い、グラウンドを抜けて、木材で作られた質素な駐屯所に入る。…今、階段上ったらギシギシ言ったぞ、おい。大丈夫かここ。今度書類に申請しておこう。
そんなことを考えながら、これまたギシギシ言う扉を開けて部屋に入った。

「ふぅ。」

久しぶりにここに来たからか、色んな思い出がフラッシュバックしてきたな。正直今思い出しても堪える。馬鹿みたいだが、まだ傷口がふさがってないようだ。…というか、それから毎日それについて悩んでいたから化膿したかもしれん。

しかしそれでも情けない事に、結局あれからずっと、自分がどうすれば良かったか分からないままだ。…俺って成長しているのか…。?


だが、まぁそれは追々考えていけば良いだろう。

なにはともあれ、訓練兵の生活は楽しみである。
 
 

 
後書き

☆キャラクター→主人公の認識☆

・ぺトラ→自分より幼いが頼りになる隊長。しかし色々頼りすぎて負い目を感じていたりする。
・エルヴィン→将来有望。しかし子供にここまでさせて精神が壊れないか心配。
・ピクシス→将来有望。飲み仲間。おじいちゃんが息子を見るみたいな目線。
・サシャ→変な人だが優しい。
・キース教官→その目は巨人見たことあるだろうな。しかし何か奥底に覗いてはいけないような闇が見えたのだが、、、正直言って恐怖した。
 
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