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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第五十一章 その場所へ想い走らせたならば《2》

 
前書き
 結界デストロイ。
 いざ、解放場へと。 

 
 西貿易区域の結界が壊れた。
 これが意味することとは、日来の者達が宇天の長の元へと行けるということだ。
 だから指揮を取っていた黄森と辰ノ大花の隊隊長によって、大半の社交員、学勢は今行っている戦闘を放棄し西貿易区域へと向かった。
 敵がいなくなったため、残りの敵を日来勢は押し進んで行き、間を縫って行ける者は行き、西貿易区域へ向かう敵を凪ぎ払う。
 結界が消えたとしても、日来の長が解放場へ辿り着かなければ意味が無い。
 ゆえに日来の者達は皆、まだ抗いを続けていた。
 目の前の結界が消えると同時に、手にしていた短刀が消え、間近にいたルヴォルフはどういうことかと思っていた。
 だが、今は考えている場合ではないと思うようにした。
『こちら、東側で結界の破壊を担当していた組だ』
 セーランの顔の横。
 一つの映画面|《モニター》が表示された。
 移るのは登吊・鷹代だ。
『結界を破壊出来たようだが、しかし、結界を壊したあれはなんだ。アマテラス系加護にはそのような系術、加護は無かった筈だが』
「ちっと辰ノ大花の人に貰ってね。使わせてもらったんだわ」
『辰ノ大花の者に?』
 疑問に思う鷹代。
 と、新たに映画面が表示された。
 今度の映画目に映るのはレヴァーシンクだ。
『皆、報告だ。いきなりだけど、一部の辰ノ大花の者達が宇天長の救出し協力してくれるようになった』
 から始まる言葉。
 それをセーランは疑問で返した 
「辰ノ大花の者達が? なんで」
『詳しく話せすと長くなるから簡単に言うと、辰ノ大花の人達は家族を守るか、それとも宇天長を守るかのどちらかを迫られていたんだ。それでも宇天長を守ろうと立ち上がった者達から、そう伝えられたんだ』
「今頃になって、て気もするが。まあ、あっちにも立場ってもんがあるからな。仕方ねえか」
『しかし急だな。信用出来るのか』
「鷹代さんもいたんだね」
 頷くことで返事とする。
『大丈夫。これはネフィアが相手をしていた騎神の操縦者からと、マギトの相手だった騎神の操縦者が言っていた。今のマギトはちょっと休んでるけど、ネフィアの方はそのまま援護に行けるよ』
 セーランはそれを聞いて、
「そうか、分かった。なら一足先に行って来るわ」
『気を付けてね。必ず、宇天隊長が待ち構えている筈だから』
「心配無いさ。もう手を抜かれるようには戦わないからさ」
『頼んだよ』
 言って、映画面は消えた。
 皆は指示が出るのを待っており、準備は既に終えていた。
 横に表示されている映画面に移る鷹代は、
『では、こちらも指示が出次第、解放場へと向かう』
 彼方も準備は終えているようだ。
 結界の無い西貿易区域はまだ静かだった。
 それは安心とも取れるし、不気味とも取れる。
 どちらにせよ行かなければならないのだから、同じことだが。
 西貿易区域の地面はコンクリートで出来ており、土との境目は明らかだった。
 先陣を切るように、西貿易区域との境界線上に立ち、青空を見上げた。
 辰ノ大花を象徴とする青が、空には広がっていた。
 空には白の雲が飾られ、大気によって流れていく。
 のどかだった。
 ここで大きく深呼吸をし、新鮮か空気を肺へと送り込んだ。
 呼吸の動作から正面へと向き、
「これから宇天長救出の最終章に入る!
 これが! 初めての日来による救いだ!」
 叫び、続くのは、

「続けえええ――――!」

 雄叫びと共に、皆一斉に駆け出した。
 誰もが前へと進み、遅れないようにと足を動かす。
 土の地面からコンクールの地面へと変わり、足音が変化する。
 西貿易区域には、まだ浮上していないワイバーン級戦闘艦などが幾つもあり、またそのなかには輸送用航空船も見られた。
 なかでも一際大きい戦闘艦。
 全長二キロを越す船、艦に与えられるハイドレイク級の名を冠する戦闘艦が一艦見られる。
 幅七十メートルはあるその戦闘艦の甲板上に、一段上がった解放場が設置されていた。
 上から見れば円の形をなしており、中央に解放対象を置くタイプだ。
 離れていても分かる白の解放場には、ぼやけて見えないがあそこに宇天の長はいる筈だと誰もが思った。
 目に見えていても西貿易区域は南から北に十五キロ伸びており、幅は十キロである。全長からみれば日来とほぼ同格という破格のサイズだ。
 しかし世界から見れば、それは標準サイズなのだ。
 むしろ航空船からみて日来は巨大なだけに過ぎず、世界はそれよりも大きい。
 崩壊世界とは違う、新たな世界。
 それこそが創生世界なのだ。
 巨大な世界に対して、彼らの存在とはあまりにも小さいものだ。
 されど、どれ程小さかろうとも日来勢は進むことを止めなかった。
 それが、自身の選んだ道なのだ。



 南から西貿易区域のほぼ中央にある解放場に向かって、北上する学勢の群れ。
 長であるセーランが先行し、後ろから皆が付いて行く形だ。
 セーランは流魔操作により流魔線を近くの船や艦に繋げ、空中を移動していた。
 一度高く飛び上がり、後ろを向く。
「俺達が侵入して来たのは明白だ。解放開始されるまえに俺は先に行ってるぜ」
「「了解!!」」
 返事を聞いてから、身体を反転させて行った。
 流魔線を近くの戦闘艦の外装甲へと繋げ、一気に縮ませることで推進力を得て、行く。
 たった一本の流魔線を頼りにしているが、空中制御は訓練してある。
 ものにするのに一年と半年近く掛かり、始めは縮める流魔線に引っ張られるような形であったことを思い出す。
 しかし、今のセーランは片手のみで流魔線を操っており、足を前に、背中を後ろにした形だ。
 左手から流魔線は出ており、縮ませる際には左手が前へ引っ張られる形となる。
 セーランはその左手を後ろへ回し腰に当て、股から流魔線を出すことによって左手が引っ張られるのを防いでいる。
 繋いだ流魔線を解き、戦闘艦を飛び越す形で行った。
 そしてまた新たな戦闘艦へと、流魔線を繋げて空中を移動した。

『少し、聞いてくれ』

 移動するなかで、前の八頭という者が言っていたことを思い出す。
 えらく真剣な表情で、こちらに話し掛けてきたのを。

『辰ノ大花の者達は誰もが、家族を守るか、委伊達家を助けるかの二択のどちらかを決められるわけじゃない。
 一部の者達は委伊達家を救うために動き、一部の者は家族を守るために黄森に下った。だがな、まだどちらを選べていない者も大勢いる。このなかで、俺達は如何に委伊達家救出に、迷っている者達を導けるかが重要だ』

 風を割り、行くなかで脳裏で再生される。

『勿論、彼らにも意思がある。家族を守りたいならばそうしてほしい。この二択のうち、どらかを選ぶことは辰ノ大花の者にとっては身を引き裂かれるような思いなんだ。だから、どうか――』

 どうか、

『他人任せだと言われてもいい。
 だから、俺達、辰ノ大花から……委伊達・奏鳴を奪ってくれ!』

 これを聞いた時は驚いた。

『委伊達・奏鳴を奪い、苦しみの二択を一択にしてくれ! それだけで辰ノ大花が救われる。
 親しき者は駄目だった。だからこそ、今度は第三者のお前に託す!』

 はっきりとそう言われ、

『奪っていけ、愛しているのならば。委伊達・奏鳴がまだ見ぬ世界へと連れていき、導いてやってくれ。
 あいつは、奏鳴は、誰よりも救いを求めている。だが委伊達家としての立場が、あいつの自由を奪っている。本当に頼むぞ、既に奏鳴の精神はボロボロだ。
 もう救ってやってくれ……。お前の愛が本物ならば、一途な奏鳴にその想いは届く筈だ!』

 宙を行き、流れるように進むなかで黄森と辰ノ大花の者達を見た。
 西貿易区域に待機していたのと、他所から増援として来た者達だ。
 黄森の者達がセーランに長銃の銃口を向け、標準を合わせているが。セーランの後に続く学勢、正確には身体能力の高い獣人のルヴォルフによって阻まれた。
 遅れて日来学勢による波が押し寄せて来て、黄森と辰ノ大花の者達はそちらの方へ気を取られた。
 見計らい、一気に解放場との距離を縮める。
 背後から新たな戦場の音が聴こえるが、振り向きはしない。
 セーラン自身は解放場へ行くことが使命であり、彼らはセーランを解放場へ行かせることが使命だからだ。
 見捨てるのではなく、役目を果たしに行くのだ。
 まるでバリケードのように置かれた船と艦の間を行きながら、着々とその距離を縮めていった。
 もう背後からの戦場の音が小さくなっており、距離が離れていることを示していた。
 戦闘艦にも長銃を構えた小数の者達がいたが、標準を合わせる暇も無くセーランは遠くに行ってしまった。
 標準をなんとか合わそうにも、不規則な動きを取り入れているため狙いが付かず、やたらめったらと乱雑に射つしかなかった。
 数打ちゃ当たると言うが、そんなことは起きなかった。
 だからもう、解放場との距離はかなり縮まっており、このまま行けば余裕で辿り着く。
 行くセーランは迷い無く進み、見える解放場を一瞬視界に入れた。
 その瞬間だ。
 真上から雷が落ちてきた。
 急な落雷。
 空は青く、黒い雲など見当たらない。
 雷鳴すらも聴こえないのに、雷が急に落ちてきた。
 それもセーランの真上。
 彼を狙って落ちてきた、と言っても過言ではない。
 即座の判断により回避を行っていたセーランは、すぐそこにあった戦闘艦の甲板上を見た。
 あの場所に、見たことのある者を見付けたからだ。
 別の戦闘艦の甲板上へと着地し、目を凝らして見る。
「これはこれは、久しいねえ」
 漏れる言葉。
 セーランの目には、宇天学勢院覇王会隊長である草野芽・実之芽だ。
 雷をまとった実之芽が、甲板上にセーランの方を向いて立っていた。
 先程の落雷とは違い、彼女からは雷が走る音が聴こえ、静電気からか微かに髪の毛が逆立っていた。
 威圧に似たものを感じながら、
「最初から神化系術とは容赦無いなあ、おい」
「やっぱり来ると思ったわ。結界の壊したのは貴方ね」
「正確には短刀が、だけどな」
「どちらでもいいわ、今はね」
 鼻で笑い、セーランは辺りを確認する。
 船、艦の影に隠れて幾人かの者達が潜んでいる。
 襲っては来ない。
 宇天の隊長がそのように指示を出したのか、ただ単に近付かないだけか。
 解放場との距離はまだある。
 全長十五キロもある西貿易区域のほぼ中央に解放場はあり、半分の七.五キロ辺りにある。
 今、セーランがいる場所は中央から二キロ離れたところだ。
 逃げ切るのは無理だ。
 背後から雷撃を叩き込まれて終わる。
 以前の雷が群れが波となしたものが来たら、回避するには今の自分には無理だ。
「奥の手はあまり使いたくはないんだけどな。どうしてもって時には、まあ、使うしかないんだけども」
「何を言っているのかしら」
「こっちの話しだ、気にすんな。なあ、一つ聞きたいんだけども、いいかね?」
「答えられるようなことならね」
 実之芽は至って冷静だった。
 冷静過ぎる程に。
 違和感を覚えながらも、一つ、実之芽に問う。
「お前が結界の発動者なのか」
「ええ、結界を発動したのは私よ。それがどうしたの?」
「別にどうもしないけどさ。やっぱりかってね」
「でもまさかね、結界を壊すことが出来るなんて。かなり強力なものだったのよ、あれ」
「お陰様でね」
 会話は途切れ、しばしの沈黙。
 戦場の声が聞こえるなかで、時を見計らいセーランを再び口を開く。
「通しては……くれないよな?」
「答えるまでもないわ」
「なら、やるしかねえか」
「勝てるのかしら、一度負けた相手に」
「だったら一度勝った奴とまた戦ったても勝てんのか」
 結果。
「これから証明してあげるわ」
「絶対に勝つ。……俺は行くぜ」
 次の瞬間。
 双方は自身のいた戦闘艦の甲板を強く蹴り、宙で互いの攻撃を交えた。
 セーランは左手を流魔で覆った打撃。
 実之芽は雷をまとった右手の打撃。
 ぶつかると、一瞬にして激しい光と音と共に戦闘が開始された。
 光のなかからセーランは出てきて、流魔線を戦闘艦へと繋げた。
「食らいなさい!」
 宙にいた実之眼は人差し指を空に上げ、こう叫んだ。
「雷下!」
 するとセーラン目掛けて、晴れ渡る空から雷が落ちてきた。
 一瞬空に閃光が走り、後から来たのだ。
 流魔の雷が落ちてくる。
「嫌だねえ、その系術は」
 言いながら流魔線を縮めて避け、その流魔線を離し、新たな流魔線を別の戦闘艦へと繋げる。
 流れを止めずに続けて行き、
「ほらよっと」
 一度流魔線を離し、流魔操作によって一本の太い棒を創り出す。
 創り出した棒を握り、実之芽に向かって放った。
「そんなもの、目隠しにもならないわね」
 と、言うが。
 太い棒はある距離から割れ、十数本の細い棒となった。
 しかし、それだけでは足りなかった。
「甘いわ。いくら数を増やしても、御雷神|《タケミカヅチ》の前では意味をなさない」
 手を前に出し、掌から雷撃を放った。
 正確には、雷撃と言うよりもビーム状に近い。
 十数本と雷撃はぶつかった。
 勝ったのは雷撃だ。
 穿つ形で棒を粉砕するように貫き、行く雷撃が目指すのは宙にいるセーランだ。
 速度が速い。
 避けることは無理だと判断したセーランは目の前、腕を出して流魔を終結させた。
 内部流魔を惜しんでいる余裕は無い。
 出した手の前に、流魔が集結したため薄く青に染まり、一気に流魔は濃度を上げ物質となった。
 完成したのは盾。
 普通の盾ではない。
 掌サイズの、小さい盾だった。
 防御するには心許ない容姿だが、防ぐには充分だった。
 高密度の流魔を圧縮した盾は、あらゆる攻撃を防ぐことが出来る。
 結果、盾に雷撃が当たると、盾が砕け散り、貫かれる前に雷撃を外へと逸らした。
 逸らされた雷撃は停泊していた戦闘艦へぶつかり、爆発を起こし消えていった。
 盾は雷撃を受けた衝撃によりひびが入り、全体の崩壊へと繋がった。
 砕け、塵となす盾。
 セーランは雷撃を受けずに済んだ棒が、戦闘艦の外装甲に突き刺さっているのを見て、新たに棒を創り出し、放った。
 これもまた十数本へ割れて、真っ直ぐに行く。
「何をやっているのか分からないけど、無駄に内部流魔は消費するものではないわ」
「無駄かどうかはそのうち分かるさ」
 棒は実之芽に向かい、実之芽は今いる位置から別の戦闘艦の甲板へ飛び移り、誰もいない空間を棒は通り過ぎて向こう側にある戦闘艦へと突き刺さる。
 甲板に着地しようと、落下の軌道に入った時だ。
 実之芽は着地する甲板状に映る、無数の影を見た。
 上から何か来る。
 見上げたら目に映るものは、
「また流魔操作で創られた棒……それも群れで」
 垂直に立って、重力に従って落ちてくる。
 百はいっているだろう。
 だが焦る必要は無い。
 幾ら数で押そうとしようも、この力の前には無意味だ。
 雷は上から来るのだから。
 雷光が空に走り、雷鳴が鳴る。
 起こるのは雷だ。
 打ち付けるように雷が蒼天より来たり、無数の棒を打ち砕いた。
 そのまま実之芽の元へと落ち、大きな冷たい音を響かせた。
 激しい雷光にセーランは目を細め、期を伺ったように光のなかから実之芽が拳を握り締め現れた。
 双腕に雷を集中させて、打撃を行う用意をしながら。
 逆光のせいで姿が見えない。
 危険だ。
 判断し、背後へ流魔線を伸ばし、縮めて待避した。
 予想通りの行動に実之芽は、
「雷線!」
 左腕を伸ばし、拳から雷が放たれた。
 一直線にセーラン目掛けて。
 雷は雷光の残光に同化し、視覚からは姿を捕らえることは困難。
 判断出来ず、正面から、眼前に迫るまでセーランは反応出来ずに雷撃を受けた。
 雷鳴が鳴り、衝撃で後ろへと吹き飛ばされる。
 流魔線を繋げた戦闘艦の外装甲に背中から当たり、地面へと落ちる。
 痺れを感じながら、落ちる身を守るために流魔操作によってクッションをつくる。
 長方形のクッションに身体は落ち、弾む勢いを利用して地面へと足を着く。
 着地した瞬間。
 クッションが破裂した。
 セーランが行った行為ではない。
「面倒だよ……本当に!」
「それは結構なことね」
 落下してきた実之芽の右拳によって、打撃されたクッションが衝撃を吸収出来ずに破裂したのだ。
 破裂の際に起きた風を受け、正面にこちらを向いて立つ実之芽を見た。
 直視し、視線を外してはくれないようだ。
 無数の棒は先程の雷撃でやられたが、幾つかは欠けながらも甲板上に突き刺さっている。
 しかし実之芽は無傷で、特に異常は見られなかった。
 一吐きし、熱を吐き出すセーラン。
「お前は宇天長は救いに行かないのな」
「無駄話しには付き合ってられないわ」
 無視し、実之芽は踏み込み、打撃を放つ。
 雷をまとった拳は、セーランへと向けられた。
 避けなければ当たる。だが、あえてセーランは動かなかった。
 動かず、放たれた拳を受け止めた。
 左手でがっちりと掴んで。
「何がだ、何が無駄話しなんだ」
「貴方と話す意味は無い。そう言ってるのよ、それも分からないの?」
「分からないね。だから俺は話し始める」
 掴んだまま。
 離そうと彼方は雷を流してくるが構わない。今はそれに構っている暇は無い。
 大体、流魔操作によって身体の表面に膜をつくってしまえば、膜に雷は流れるのだから痛くもかゆくもない。
 雷は表面を走る。内部には浸透しない。
 セーランは握る力を維持しながら、息を吸い、話し始める。
「俺はあいつの元に行く。その前にお前が立ちはだかるっていうんだったら、お前を倒して行く。……なあ、この戦いになんて意味無いだろ」
「何が意味が無いの」
「自身らの長を殺すために、救いに来るものを阻んである。何故そんなに殺したい。幾年も辰ノ大花を治めてきた家系の者を、何故そんなにも殺したい」
「話す必要は無いわ」
「なら、別にいいさ。もうあいつとは最後だ。悔いの残らないようにするといい」
 セーランは握っていた手を離し、瞬間。
 相手が反撃してくる前に行動した。
 腹部への打撃。
 拳による打撃が、距離を離そうとした実之芽の腹部へと当たった。
 息が漏れる音が実之芽の口から出て、彼女は背後へと数歩後退りした。
 腹部を押さえながら、睨むように顔を上げた。
 平然と彼女を見るセーランは、何処か冷たいような雰囲気がした。
 馬鹿なセーランではなく、何かを背負って生きる者の、誰も自分のことは解ってくれないのだと、思い込んだ表情に似ていた。
「あいつは奪っていく。この辰ノ大花からな」
「何を言って――」
 言葉を紡ぐ前に、
「どうせお前達は宇天長を消したいんだろ? だったら奪ってやる。同じことだ。辰ノ大花から委伊達家は消える。喜ばしいことだろ、そんなにも消したかった委伊達家が消えるんだからさ」
「辰ノ大花を愚弄する気なの!」
「救えない奴らなりの示し方ってもんがあるだろうがよ。だけどな、裏で宇天長の救出に動き出している者達もいるんだよ。殆どの奴らは恥を捨て去って“助けてくれ”と言っては来なかったけどな、少ないけどいたんだよ。そんな奴らがな」
 開いた距離を縮ませるように、一歩を踏み込むセーラン。
 来るセーランに対し、雷撃を放つ実之芽だが。放った雷撃はセーランには当たらなかった。
 何故、と疑問に思い、分からなかったからなのか、わけも分からず後退りをした自分に気付く。
 不利になったわけではない。
 どちらかと言えば、自身の方が有利ではないのかと思っている。
 おかしい。明らかにおかしい。
 なんで、こんなにも足の震えが止まらない。
 目の前にいるのは、前に倒した日来の長だ。
 何も変わっていない。
 何処も、見た目も、力も。
 何一つ変わっていない相手に、何故にこんなにも身体が震える。
 分からなかった。
 目に映る日来の長を、恐怖を秘めたような表情で見た。
 身動き一つ取れずに。 
 

 
後書き
 実之芽ちゃんが立ちはだかった。
 ここぞと言う時の彼女ですな。
 最初から御雷神|《タケミカヅチ》を発動しているという、情け容赦無く戦いは始まった。
 一方のセーラン君は流魔操作しか使える系術が無いのよねえ、残念です……今はね。
 系術が全てというわけではありませんが、系術=力のような感じですので強い系術は強者の証と言ったところですかね。
 話しは変わり、本文中で西貿易区域はジズ級連結式超大型航空船・日来と同格のサイズとありましたね。
 世界にとってはそのサイズは標準だと、世界が大きいことを地味に主張してたりしてました。
 世界が巨大なら戦闘艦の大きさにも説明が少しは付きますし。
 他国を攻める際、ちまちまと小さい範囲を攻撃するより、一気に広い範囲を制圧した方が効率的ですよね。
 押さえ込んだから、後でその範囲を潰しに掛かればオッケーですしね。
 神葬世界で戦闘の主流は制圧戦なのです。
 馬鹿でかいだけで相手を震え上がらせることができ、見かけ倒しというトリッキーな戦術も取れます。
 なので全長十キロを越すラグナロク級戦闘艦は、まさしく終焉の名を冠するのに相応しかったのです。
 ならそれを越す日来は何もんなんだという話しですがね。
 ただでかければそれだけで世界は注目する、という点に注目したのです。
 それだけで世界に自分達の行動が知られ、世界になんらかの変化を生ませることが出来るかもしれないと考えたわけです。
 いやはや、思って実現させちゃうとは凄いものです。
 夢もそうやって実現するのですかね。 
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