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弱者の足掻き

作者:七織
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五話 「才能の差」

 
前書き
主人公はアニメ知識がほぼないことを言いましたが、アニメの設定を使わないというわけではありません。
原作の設定は覚えている限りで守ります。ですがアニメの設定に関しては使ったり使わなかったで行きます。何せ、アニメと原作で違ったりするところありますし。
なのでアニメの設定は気に入ったり使えそうなのがあれば使って、そうでなければ使わない方向です。

……アニメ版の白って、教えられてないのに水を手で集めて浮かべてましたよね。才能ってすげー。 

 
波打つ水が風情を思わせる。
与えられる力に対し小さく振動し、表面を僅かに振るわせながら動く出していく。
その動きは時間と共に少しずつ大きくなって行き、僅かな間に小さな渦を巻くように流れが生まれる。
時折乱れた力の影響を受けチャプン、と小さな音とともに小さな飛沫が上がりまた渦に呑まれる。

「これでいいんですかイツキさん?」

小さな膜一つ隔てた先で起こるその渦は綺麗な真円を描くものではなく、その制御の拙さを思わせる様に歪さを残している。
その歪を受け、膜が所々から伸びては縮み伸びては縮みを繰り返しそれ全体を小さく揺らす。

「? ……すみません、どこか間違っているんでしょうか……」

揺らされたそれは、落とさないために掴んでいる小さな手の中でその動きを制限され水の運動へと変わって行く。
小さく、日の光を浴びているのか疑いたくなるようになめらかで白く柔らかい手に包まれたそれは一見なんの力も加えられていないようにも見え、ひとりでに動いているかのようなそれは生き物のようにも思えてしまう。
とても細く、力をかけたら折れてしまいそうに思える指はとても柔らかそうで、白く透き通るように思えながら薄い肌色を伴った肌はそれの弾力を受けながらも覆い、切り整えられ光を僅かに反射し透明感を持つ爪が健康的な自己主張をする。

「あの……やっぱり間違っているんでしょうか? ……ごめんなさい……」

小さな生き物を両手で柔らかく持つ子供。
それも中性的な顔立ちを持ち、ある種の“美しさ”を既に持ちながら幼さを同居させる顔立ちの子ども。
病気を連想させるのではなく儚さを思わせる様な白い肌に桜色の唇。寒さに少し濃い桃色を浮かび上がらせる頬。柔らかい眼差しに長めのまつげを持った子供。
その二つは一つの絵の様。カメラが手の内にあれば思わずシャッターを切るだろう。

「ごめんなさい。 直ぐ教えられたとおりにやります」

雪の道を歩き、白い背景を背に映るそれはまるで———

「直ぐにちゃんとやります。 だから―――」
「何か言えボケ!!」

———美しい幻sゲボあfgbヴぁfっふぁf!?

気が付いた時には腹部に鋭い衝撃。
その衝撃の突き抜けるまま雪の上にダイブする。否、させられた。

ゴロゴロゴロゴロ。

痛みのままに雪の上を転がってしまう。意外に雪が薄いせいで転がるたびに地味に痛い。

「————カ、ハッ。……あ。……か……ぁ」
(————〜〜〜っ!? 痛いよこれ!? ちょ、息が……)

一切意識していなかったところに入ってきた衝撃で息が上手く出来ない。
必死で呼吸の仕方を思い出して行う。

ひっひっふー、ひっひっふー。
………

(ってこれラマーズじゃねぇか!! ……鳩尾入ったってこれ絶対。ってか)
「……何、すんだ、おっさんこの野郎!! つーかなんでいるんだよ!!」

なんとか呼吸を持ち直し叫ぶ。
いつのまにか現れたおっさんは中腰の姿勢で突き出した拳をそのままにハア〜と息を吐いている。
やばい、蹴り飛ばしたい。若干視界が滲んで見える。

「誰がおっさんだこら。殴るぞ」
「もう殴ってんだろおっさ……あ、はいすみません。カッコいいお兄さんですから拳を構えないで下さい」

もう一発と脇を引き締め構えたので慌てて訂正する。
子供相手に容赦がなさ過ぎるだろおい。

「……前々から取り繕ってる感あったが、切れると素が出んなお前。変に仰々しいよりあってるぞそれ。……まあいい。白が何かいってんだから聞いてやれ。それと飯だから来い」
「わかりました。直ぐに行きます」

多分ね。

そんなことを思っていると用件が終わったのか背を向けておっさんはさっていった。
それを見送り未だ痛む腹部をさすりながら白【現実】の方を向く。
見ればやや涙目な気がする。あれか、あんまり無視されるから色々と思ってトラウマ的な所だったのかこれは。
そんなことを思いながら口を開く。

「で、だ。白よ」
「あ、は、はいイツキさん! なんでしょうか!」

無視されていたのに反応されるのが嬉しいのだろう。犬みたいな反応である。尻尾があればぶんぶんと振れているだろう。
そんな白に対し言う事は一言。

「才能って、残酷よね」
「? はい?」

思わず現実から目を背け、凝った言い方の情景描写に逃げていた理由のブツ————白の手の中にある水風船に目を向ける。

(いや、なんで出来るのホント。泣くよ? 一桁だけど中身も考慮すると余裕で二十歳越えてる俺が泣くよ?)

というか泣きたい。
そんな思いを堪えながら白の頭に手を乗せる。

白にイツキがチャクラコントロールなどを教え始めてまだ二日程度である。
聞いたところ術など一つも知らず、基本となるチャクラの練り方やその意識の仕方なども教えられなかったとのこと。
まあ、それはいい。血継限界だったからそれを隠していれば親は教えてないのは当然だから別によかった。
ならこれから教えればいいと、イオリのおっさんの目に止まらないように教え始めたのが最初に会った日のこと。
なのに、

(なんで水がもう回るのこの子? 馬鹿なの?アホなの?)

A.天才だから。

空いているもう片方の手に自分の分の水風船を握り、チャクラを流し始める。
握られたそれは中の水が渦を巻き、外側へと向かう力が掛けられた分とゴムの膜を所々伸び縮みさせる。
その伸縮と渦の巻き加減、目の前にいる相手とほぼ同じである。

訓練をしてきた日数。
俺=数年・白=数日。
俺=白・年=日。
つまり白≠馬鹿、白=天才。俺=馬鹿でQ.E.D。
ハハ、笑えるぞおい。

「笑えねぇからそれ!」
「!? すみません!」
「ああ、いやあれだ……白は何も可笑しくないぞ。良く出来たな上出来だ。このまま水風船が割れるようになるまで頑張れ。割れたら俺は泣く位嬉しいぞ。ただ無理はするな」

そういって頭を撫でる。
初めて会った時はごわごわだったが、あれから考えるとありえないくらいさらっさらになっていてこの先どうなるかが楽しみだ。このままなら一週間後には半端ないさらさらになっているはずである。とても撫でてみたい。
白は撫でられて嬉しいのか、もはや振られているしっぽが見えそうなぐらいだ。

……才能の差を悲観してもしょうがないのだろう。
なにせこっちは原作になどいないイレギュラーなモブキャラ。かたや相手は天才呼ばわりされた上に純正の血継限界持った原作キャラ。そもそも前提が違う。
まあ、今の所あくまでもチャクラコントロールの一つが一緒なだけで他のを比べれば自分の方が上のもあるだろう。そもそも白はまだ術が零なのでそこでも大きな差が有る。
恐らくだが、今回同じくらいなのは才能のほかにチャクラの保有量も関係あるのだろう。
水が回せるだけのチャクラ量になったのが自分は最近だが、白にとっては既にそうであっただけ。技術云々の前段階だろう。
まあ、直ぐに他のも抜かれるだろうけどね!
あんまり直ぐだと嫌だから、コツとかまだ教えないけどね!
………

「まあ、あれだ。これからも色々教えていくし、親父たちの本とか巻物とかも見せてぐから精一杯学べ」
「はい。頑張ります」




「俺の為に、学べ。俺の為に、力をつけろ」

それに白は笑顔ですぐさま答えた。







「はい!」
















「ア゛〜〜〜〜〜〜……。やばいってこ、れ……ゥプ」
「あの……大丈夫ですか?」
「あ、ちょ……揺らさないで頼むから」
「す、すみません!」
「こっち向いてんじゃねぇ。お前が向くのは反対だボケ。俺の方向くな」

それが大人の言う事かオイ。
そう言っておっさんに殴りかかりたいが、それをしたらオーバーリミットで違う意味でブレイクしそうなので堪え、体を小さくして横になる。
なんか昼ごろにそれらしく振舞えた気がするが、きっと気のせいなのだろう。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜………死にたい。いや、絶対に死にたくないけど死にたい」
「水飲みますか?」
「くれ」
「はい」
「助かる。よっこいせっと」

何とか起き上がり、白から渡された水筒に口をつける。

「……ふぅ。少し楽にな……ってないな。やっぱ寝る」
「分かりました。……それにしても大変ですね」
「まったくだよ。まさかさ……」

遠くに視線を移しながら、嘆くように言った。

「自分がこんなに———船酔い、するなんて……ぅぷ」

視界に広がる広大な海を眺めながら、その言葉はどうしようもなく気力がなかった。



水の国は四方を海に囲まれた島国である。
そして目指す波の国は木の葉隠れがある火の国の南方。必然的に海を移動しなければならない。
そのための船の上にいるのが今現在である。
だがしかし、規定事項でわかっていたはずのことであったのだが一つ、予期しない事態がイツキを襲った。
それが、本人さえ知らなかった船酔いである。

正直、最初は大したことがないと思っていた。
この世界では初めての水面に浮かぶ揺れる地面。
自分たち三人に、船頭である元気のよさそうなおじさんを入れて四人が乗ってまだ余裕のある、少し大きめな木でできた船。
海を進む船に揺られ、最初に異常を感じたのは乗って二十分ほどたってから。

船の揺れの様に、体の中で揺れるような感覚があった。
どこか収まりがつかないような、いつもなら平らなものが少し斜めになったままのような奇妙な感覚。
いつもなら普通に感じられ、実感を持つというのも不思議だと思える様に普通に見えていた景色が普通に見えなくなった。
自分で見ているのには違いないのに、どこか客観的と言うか、一歩離れているところから見ているような見え方。
自分で見ているのに、“見ている自分”、を通してみているような景色。
そして、それを明らかにおかしいと思った時にはもう遅かった。
喉元の奥に何かがあるかのような感覚に、脳がマヒしているような浮ついた倦怠感。
揺れる床に合わせる様に揺れる頭の中と動く胃に、思わず口元に手を持っていった。
そしてやっと気づいたのである。

自分が、前世でも経験したことのない船酔いになったk——あ、無理。

「うあ、あ、……うう……んぐ。はあ……はあ……」
「お客さん、頼みますから吐くのなら船の外にして下さいよ。掃除するの大変なんですから」
「そうしろよ。間違ってもこっち向いて吐くな」

殴りたい。
船を動かしてる船頭のおじさんは分かる。商売道具だし、自分の船だろうからそれは当然の言葉だろう。
だがおっさん、テメーは駄目だ。仮にでも保護者なんだから少しは心配しろ。
いや、俺も多分こっち向くなって言いそうだけどね。

(……今は遠き前世の友人Aよ。あの時は軽く見てゴメン。正直これかなりきついわ。もう馬鹿にしない)

乗り物に弱かったAよ。もしまた会う機会があったら、土下座して謝ってもいいとすら今は思ってる。

「……すまん白。水くれ」
「はい、どうぞ。……大丈夫ですか?」
「……正直ヤバい。船酔い舐めてた」
「……」

そう言うと、白は無言で背中をさすってくれた。一体どれくらい出来た子なのだろうかと感動してしまう。
何とか持ちこたえているが、正直に言うと既に何度か危なかった。
息が詰まるようにして腹から何かがせりあがってくる感覚を、何とか飲みこんでいる。
飲み込んで最悪の状態を防いでいるのは良いが、その度に鼻に変な臭いが残り、喉がひりひりしてしょうがない。
それを消すためにも、白から受け取った水筒から水を含みうがいをして吐き出し、今度は少し水を飲む。
うん———臭い消えねぇやこれ。

「おじさん。後、どれくらいで、つくんですか?」
「う〜ん、そうだねぇ。波も比較的穏やかだし、大体一時間半くらいのはずだから、後二十分掛かるか掛からないかくらいだろうねぇ。だから我慢してね」

ああ、そういえばこの世界にはエンジンがないんだ。だから着くのに時間が掛かって揺れも大きいのだろう。酔いが強いのはそのせいなのだろうか。
だが、後二十分くらいならなんとかリバースしなくて済みそうだ。

「多分、それくらいなら大丈夫だと思います」
「そりゃ良かった」
「何とか我慢しろよ。次は適当に酔いに効きそうなもんやるからよ。絶対にこっち向いて吐くな」

へいへい。
横になりながらその言葉を聞き流す。
まあ、商人の経験があるおっさんが言ってんだ、酔い止めは一応期待しときますかね。
……って、

「つ、ぎ?」
「一回で終わるなんざいつ言った。少なくとも後二回は船のるぞ。それも今回より長くだ。島国舐めるな」

マジですかそれ。

「あの、イオリさん。もっともっと減らすことって出来ないんでしょうか?」
「……それは無理だ白。行く先が行く先だからな。二回ってのも最低で陸路を歩く場合だ。可能な限り船を使えばもっと増える。ま、出来る限り減らすようにはするがな」

すみません、正直舐めてました。
二回ともかは知らないが、少なくともこれより長いのがまだある。確実にリバースする自信がある。
暫くの間、飯は少なめに食べるのを心がけよう。

そんな思いの中、心配そうに見てくれる白だけが唯一の気休めだった。

「……う」

あ、やば。
都合何回目かに喉元の熱さを感じながら、自分が思ったことはただ一つ。


……もう、ゴールしてもいいよね?













「またのお越しを〜」

船のヘリに足をかけ、手を振るおじさんが遠くに見える。
そんな中、イツキは揺れない地面を歩きながら感激していた。

(吐かなかった、吐かなかったよ俺!)

そんな思いが自分の中を巡る。
非常に危なくリバース一歩手前。それこそ何かが起こる直前の合図なのか、首からの上の温度が一気に下がるような感覚があったがなんとか耐えきった。
いや、正直あれだね。誰か(白)が見てる前では吐きたくないので助かった。

「それじゃ宿探すとするぞ。一人限界の奴がいるし。いや、乗ってもいいんだがね俺としては」

殺す気か己は。
だが結構ヤバいので休むというのは有り難い。

「この調子だと、着くのに大体後三日か四日。早くても二日ってとこだなこりゃ。ま、しょうがねぇか」

……面目ない。

「大丈夫ですかイツキさん」
「ああ、もう大丈夫だ。気分も良くなってきた。……白は大丈夫なのか?」
「はい。心配してくれてありがとうございます」

こちらの言葉に柔らかく白が微笑む。
自分より年下の白が一切問題ないのに、自分はこの体たらく。
ああ、その笑顔がまぶしい。

「何してるお前ら、さっさと動け。明日早くから乗るんだ、早いとこ見つけねぇと村見る時間が無くなんだろ」
「村回るんですかおっさ……イオリさん」

危ない危ない、つい言ってしまうところだった。

「言い直せてるつもりかオイ。……まあいい、変に仰々しく取り繕ってんのよりましだ。好きにおっさんとでも言え。代わりにこっちはお前のこと呼ぶときはクソガキとでも呼んでやらぁ。わかったかガキ」
「わかりましたよおっさん」

精一杯皮肉らしく言ってやる。
そんな横で白が少し困った顔をしているがそれでいい。
白、お前はこんな風にならずにまっすぐ育てよ。それこそ原作位純情に。
そうでなきゃ使えないからさ。

「で、だ。村は回る。何せ島には色々変な風習があるらしくてな。そりゃあオメェ、面白そうなもんがありそうだろうが。値打ちの物があるかもしれねぇだろ」
「あー、そう言えばそんなこと聞いたことがありますね」

遠出したことがないので聞いたことがあるどまりだったが。
なんでも、本島を隔てた大小の島にはそれぞれ異なる風習があるとか。

「そんなわけだからさっさと行くぞ。ボケっとしてんな」
「はーい」

まあ、面白そうだから行くとするか。



そうしてイツキと白は前を歩くイオリの元へと小走りで駆けて行った。
何があるのか、少しながらの楽しみを胸に。
そんな中彼ら。否、イツキは忘れてしまった。

翌日に、長い船旅があるということを。










「あ〜……そういやなんだったか」
「何がですか」
「あれだ、何か買おうと思ってたはずなんだが、何だったか……」
「忘れてるんなら大したもんじゃないんじゃないですか」
「ま、それもそうだな」

そしてイオリも酔い止めを忘れていた。
地獄を見るまであと一日。彼らは、気づくことが出来るのか。
 
 

 
後書き
乗り物酔いってつらいですよね。なったことある人はわかると思いますけど。
前に海釣り行って船に乗った時とか、もうほんと、釣りとかどうでもよくなって寝てましたし。
吐いちゃえば楽になりますけど嫌ですし。人が近くにいるときとか無理してでもこらえてしまう。
小さいころの遠出の思い出とか、車の中の印象が強すぎてよく覚えてない。
車を運転すれば酔わなくなるとか母親が言ってたけど、教習中に普通に酔いましたし。あれか、諦めたほうがいいのかこれは。
 
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