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弱者の足掻き

作者:七織
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四話 「邂逅」

 
前書き
主人公の原作知識ですが、アニメはほとんどゼロで漫画のみ。
漫画も全部じゃなく、まだ明確に決めてませんが最高でもペイン編くらいまで。
なので第四次については詳しく知らず、穢土天の白復活とか知りません。 

 
———チャリン

鎖の音が静かに響く。
一歩、ただ一歩と歩くごとに首元から軽い金属音が響く。
何度となく歩き、既に足の間隔は薄れ、地を踏むごとに届く衝撃だけが歩いていることを自分に感じせる。

———チャリン

首輪に繋がる短い鎖が前進に合わせ動き、近いはずのその音がどこか遠くの物の様に聞こえる。
定期的になるその音で、まだ自分は動いているのだと理解する。

————チャリン

程々に早い朝の時間帯。そもそも人通りが少ないこの道は、今の時間誰も見当たらない。
何も動くものが無い空間で自分だけが動いている。それが酷く場違いで、まるで、世界から弾かれてしまったかのようで。
そもそも自分などいらないのだと、世界から告げられているような錯覚まで覚えてしまう。

————チャリン

響く音が煩い。歩く足がイタイ。それでも前へ、前へと足が止まらないのだ。
寒さが、砂利の道が、そして自分の存在を理解出来ぬ自分自身が、そのイタミを薄れさせている。
何れ戻らなければいけないことは分かっている。だけど、少しでも世界に動きが欲しくて、少しでも人がいる方に行きたくて。
少しでも———自分を見てもらいたくて足が止まらないのだ

————『今まで騙していたのか!?』
————『違うの、そんな気は無くて……!!』

どうして自分を見てもらいたいのかなど分からない。だけど、辛いのに、寒いのに、足は前へと進む。

————『無理だ。悩んだ。悩んで悩んで悩んで……』
————『……! あなた、何を持っ……て………』
————『……済まない。だが、あの子の後直ぐに私も行く』
————『……どうしたの? おとうさん、おかあさん』

酷く遅いけれど、けれども確かに少しずつ、意識に反して体は前へと進んでいって

————『おかあさん? ねえ、おかあさん、おかあさん……。——っイタイ! ……おとう…さん……?』
————『————だなんて……。ゴメンな、お前は悪くないのに』

視界に移る、人が多く通る道は段々近くなってきて。

————『———が、ぁ』
————『……あ、あ………あああああああああああああああああああああああ!!』
————『……ゴメン、な。だけど……お前の中の——は……あっちゃ、ならないんだ。その——、は……争いを……呼ぶ』

人に、自分が見てもらえるのだと思って———

————『生きてちゃ、さ……いけないん……だよ。●●』

———足が止まった。
まだ道までは随分とあるのに、足が動かない。 今まで、どうやって歩いていたのか分からなくなってしまった。
止まった性でとうに感覚が薄れた足は、まっすぐに立つことも上手く出来ずよろめき、道端に寄って壁を背に崩れる。

————チャリン

前に進むのを知らせていた音なのに、今は壁に繋がれた音の様に聞こえてしまう自分が分からない。
人に見て【認めて】もらえる。なんて、なんてありえないことを事を自分は思っていたのだろう。

「……アハ」

余りに可笑しくて、何が可笑しいのか分からなくて、自然と笑ってしまう。
ああ。どうせなら自分の名前の様に、深く積もる雪の様に、埋まってしまえばいいのに。

————————

もう鳴らない鎖の音を思いながら、そう思った。










「おじさん、ホントにこれやるの」
「ああ、やれ。お前なら出来るって。何かやらかしてどうせもうここ来ねぇんだ、問題ねえ。存分に好きにやってこい」
「……それでいいんですか?」
「いいんだって。だから好きにやって、いっそ嫌われるぐらいの事でもしてこい。んで、気に入ったもんでもあったら手に入れて来い。変なもんでもまあ、そんときゃ……金はお前の親の使うから文句言わねぇよ」

目が覚めての朝。昨日言われた仕事をするというのでその準備。といっても、こっちよりも先に起きていたおっさんが既に用意していたらしく、バックを背負えばそれで終了だ。そう、それは問題ない。

(にしても、ガキに交渉事やらせるってどういう了見だオイ)

問題なのはその内容だ。二手に分かれて村を回り、特産でも名物でも掘り出し物でも何でもいいから手に入れてこいって何だよ。しかもなかったり、金で駄目ならバックの中のもん物々交換でして来いって……ガキにやらせることか、これ? 商人って、こんなものなのだろうか……。

「んで、後あれだ。出来るんだろ」
「……はーい」

言われ、めんどくさいが両手を合わせ印を組む。
既に練ったチャクラが印を組むことによって変換され、その結果を表す。

————“変化の術”

ボン、という音ともに自分の体が変わる。軽く見渡し、変な所がないかを見やる。にしても、どんな理屈で背丈まで変わるんだこれ? ちゃんと全体に感覚あるし。

「おお、ホントに変わるんだな。便利なこった」
「まあ、便利は便利だと思います。高いとこの物とかも普通に取れますし」
「俺も使いてーなオイ。ま、それなら問題はなさそうじゃねーか」

確かに、見渡したところさほど問題はない。パッと見十七八、多くとも二十ちょいってとこの男に変われている。
中身が体に合ってないせいか、チャクラのもとになる精神エネルギーと身体エネルギーの片方、精神エネルギーの割合が高かった。そのためかチャクラコントロールの難易度が高く、それをなんとかするためにひたすら頑張った。なのでこれ位の術ならミスなどロクにしない。
効率や割合ってほんと大事。変化で腕がダルッダルになったのを見たときはかなりキモかった。

「んじゃ、行くか」
「了解です」

そういい、部屋を出ていこうとするおっさんについて部屋を出ようとする
そうしたら、ああそうそう、とおっさんが何かを渡してきた。
見れば包みに入った握り飯。どうやら、やや遅い朝飯の様なものらしい。後で食うべ、といそいそとバッグに入れている俺を見て、おっさんが口を開いた。

「……どうせなら、もうちょい男前に化けりゃ良かったんじゃねぇのか?」

……前の俺の顔だよこん畜生。なんも考えずに化けるとこれになんだ、握り飯ぶつけんぞ。





(……なんもねぇな。つか雪降ってきたな)

歩いて既に一時間以上。へたしたら二時間は経っている。それだけなのに未だ収穫はほぼゼロである。

(そこらの店で売ってた饅頭とかは買ったが……土産レベルだよな、あれ。売っぱらったやつもロクな値段にならなかったし……どうすんべ)

途中で明らかに怪しい骨董や変なおもちゃみたいのがあったにはあったので、何もみつからなかったらそれを買っていこうと心に決めながら握り飯を食う。せっかくだ、その際はうんと安くふっかけてみよう。
握り飯は程よい塩気にやや硬く握られた米がうまい。沢庵付きとは実に分かってるものだ。
小さい子供なのでホカホカじゃなく、時間が経って少し冷め気味なのもいい。
三つの内二つ目に手を伸ばしながら辺りを見渡すと、分かれ道に目が止まる。

(こっちの方が……狭いな。裏道とか、そんな感じの道行った方が掘り出し物とかありそうだし、狭い方がいいか)

まだおっさんに言われた時間までは結構あるのでそっちに足を向ける。狭い、と言っても人通りが少ないだけで広さ的にはそこまで狭いわけではない。
そんな道を歩き、今は関係のない事を考えながら見えてくるものをボケーと目に移していく。
歩く人、お茶屋、饅頭売ってる土産屋……

(取り敢えず、波の国に着くまでは教本と巻物の修読、それと螺旋丸とか木登り系のチャクラコントロールでいいよな……そういや、固定→放出の順だったっけか)

中から音が聞こえるボロ屋、ゴミ捨て場、続く家……

(場所取る術の練習は出来んし……つーかそもそも、そんな術はまだ使えないな。投擲練習とか出来ないのが辛い)

こじんまりとした服屋、生活音が響く喧嘩中なのが分かる家、店の裏口……

(……そういえば、俺ってどの位の強さに成れんだろ。原作から離れた際、俺に倒せるやつとかいるのか? ……親から見て、才能的には中忍ちょいってとこか。……無理過ぎるな、それ。補正のかからない中忍レベルとかじゃキツ過ぎだろ……)

続く家、ゴミ捨て場、膝を抱いて座り込む汚れた薄着の人生に疲れたような子供……

(……毒での周囲一帯毒煙とかが有効なら助かるんだが……ばれたら後がなぁ。誰か助けてくれる人とか……いねぇよな。才能あって強い奴……って、今のちょっと待て———い!!)

急ストップし、最後に見えたものをもう一度見る。余りにも自然に流しかけたぞおい。
数歩戻って振り返れば、そこにはやはり座り込んだ子供がいる。
よく見てみれば先ほどは気づかなかったが、首には鎖のついた首輪がつけられている。
それをよく見ようと一歩近づいた音にでも気づいたのか、座り込んだ子供が顔を上げる。
見れば年は大凡五つほどと言ったところだろう。所々顔に汚れがついているが、その中に幼さが見て取れる。

(男……いや女か。いやでも男にも……分かんね。
首輪となると虐待? だが、ここまで露骨にするか普通。後は人買いや誘拐だが……ガキが逃げられるか?
汚れはあってもパッと見痣なんかはないとすると……親でも亡くしたか。とすると、あったかも知れない俺の未来の一つの姿ともいえるか)

服や顔の汚れ、その気力や見た感じの衰弱具合から少なくとも親が死んでからある程度の日数は経っているだろう。
首輪をつけている理由など、想像したくはない。
それにしても、この年頃の子どもはこんなに性別が分かりづらかったか?

あったかもしれない可能性の一つを握り飯を食べながら眼に焼き付けていると、なぜか違和感を覚えた。
どこかで見たような、有ったような、何かに重なる様な違和感。
だが、その違和感が何か分かる前にその子供がこちらに視線を向けているのに気づく。
いや、正確に言うと握り飯の方にだろうか。

(今思えば、目の前で飯食ってるってのも結構外道だな。まあ、知ったこっちゃねえが……自己満足でも満たすかね)

あったかも知れない自分の可能性と思ったからか、もう少し近づいて片膝を立てた姿勢を取る。
結局のところ誰を犠牲にしてもと思いながらも、まだ一人として殺したことがない自分はそこまで徹しきれないのだろう。
いや、そもそもからしてここで子供に少しの飯を与えたからといって自分の生き死にに関わらないからだろう。

「食うか?」

三つ目の握り飯を出しながら、子供に問う。
顔を上げた子供の顔が先ほど以上に良く見え、その眼に生気がない。やはり何かが引っかかる様な気がする。
出された握り飯に少し視線を移し、その子供はこっちの眼を見ながら口を開く。

「……いいの?」
「ああ。食え食え。一個くらい構わん。そんな死んだ目してないで食って元気出せ」
「……ありがとう、おにいちゃん」

おにいちゃん。その一言にまた引っかかりを覚える。
そんな事を思っていると子供が握り飯を受け取り、生気の無かった顔を僅かに綻ばせながら両手で覆うように持つ。
その顔に再度引っかかるが、単純に罪悪感みたいなものだろうと思いつく。

……自分はこれ以上この子供に関わる気などない。たとえ少し腹を満たしたとしても、結局この子供はいずれ死ぬだろう。
ただ、少しだけ苦しみが長くなるだけ。
何の意味もなく、誰からも悲しまれず、雪の中ただ死んでいく。ならばやはりこれは自己満足だろう。
それがきっと、俺にもあった可能性なのだろう。
あったかも知れない俺を助けるふりをして、自己満足を満たすだけの行為。
そんなことを思いながら無表情に子供の顔を見ていると、まっすぐに見返しながら子供が口を開いた。

「おにいちゃんも」

———何故、だろうか。
その口を開かせちゃいけない気がした。
言葉を言わせちゃいけない気がした。
どうしようもないほどの事が起こる様な、絶対的に何かがずれる様な違和感。
自分が否定されるような、世界が否定されるような。まるで、底なし沼へと踏み出すような悪寒。
突然ヴゥンとノイズが走る。だが、その予感をどうと思う間もなく、何か対処ができるわけでもなく、子供の口から言葉は出ていた。

朗らかに、優しげに……どこか楽しげに、子供は言った。




「僕と同じ目をしてるね」





————ズキン

頭の中のノイズが、痛みに変わっていた。













(—————っ!!!! こいつまさか!?)

その言葉で理解する。この構図で思い出す。
そして違和感の正体にやっと気づく。

(白、だとっ!? 原作キャラじゃねぇか! なんで気付けなかった!!)

それが、既視感(デジャヴ)と呼ばれるものだと。

元々無理な相談なのだ。描写が少なかった時代の容姿など、記憶には薄い。
覚えているのは僅かな台詞のみ。それで気づけという方が無理な話。だが、それでも呪ってしまう。
気づいてから見ればどうしようもなく記憶にある情報と合致する。
水の国。雪降る村。両親の死亡。生気を無くした目。中性的な整った顔。
それらがどうしようもなく心の平穏を乱す。

————ズキンズキン

頭のノイズは既に痛みにまで至り、“自分”を犯す危険性のシグナルを放っている。

(くそ、ミスった! 自分から近づくなんざ俺は馬鹿か!?)

急ぎこの場を去らなければならない。
自分から大きな変化を生むようなことなど、自殺行為だ。
その思いのまま、内心の動揺を隠しながらゆっくりと立ち上がる。
ここで大げさに動き、記憶に留まるような馬鹿な行為は侵さない。
出来るだけ印象に残らないように去らなければならない。

(こいつは再不斬に出会う未来がほぼ確定している。ここで変な印象を残すなんざ愚行だ。くそ、なんで飯なんか与えちまった!!)

その思いのままに体の向きを変え一歩踏み出し、

(こいつは再不斬につき、そして主人公達と出会う。たしかそれは原作始まって直ぐだったはず。そこから変えるつもりか俺は! こいつはそこで死———)


————ゲンサクガハジマッテ、スグニシヌ?


踏み出そうとした足が止まった。

———今、俺は何を考えた。

白は原作が始まって直ぐに死ぬ。これは確かな記憶だ。
自分を認めてくれた再不斬に道具として付き従い、その身を守るために死ぬ。
その全てを肯定し、尽くし、最後の最後まで自分と言う存在を殺し自分を救ってくれた存在の為に動く。
ああ、なんて————なんて、都合がいいんだ。

————ズキン

頭が痛みを訴えるが、それを無視して思考を高速で巡らせる。

(白が再不斬について行ったのは自分を認め、必要としてくれたから。別段、特定個人であったからではない)

そう、再不斬でなければいけない、という訳ではない。

(再不斬はどうだ? 水の国でのクーデター……野心からの行動だったはず。なら、白は必須条件ではない。原作においても成功ではなく失敗……なら、さほど問題はないはず。当時の白の役職を考えれば、失敗で死ぬ可能性も恐らく低い)

白は当時確か追い忍部隊。直接的な協力は恐らく割合が少なく、逃走の際のバックアップなどの可能性が高い。なら、一度は再不斬自身で何とかしたはずとも思える。ならばこちらも何とかなる。

(そもそも再不斬も白と同時期に死ぬ。後に残る奴じゃないなら、こっちもなんとかなる。したことはカカシ班との戦闘にガトー殺害。抜け忍対策でガトーに身を寄せるのはほぼ確実。ガトー殺害に関しては、いざとなれば俺がやればいい)

いくら補正があったとはいえ下忍になったばかりの未覚醒ナルトにやられたのが護衛。なら、いくらでもなんとかなる。

(白がやったことと言えば、ナルトに言った台詞。台詞自体は別にどうとでもなる。殺す覚悟についてもあるが、実際に殺したわけじゃない。気になるが、何とかなる。難しい、だが———)

流石にあれがナルト初の殺害なら変えられない。だが、あくまでも未遂。なら、なんとかなる。
ここまで考え、なんとかなるだろうといった考えが目立つのが笑える。
確かに、ずれても何とかなるだろうと思えているのは確かだ。だが、それでも普通なら手を出そうとも思えないだろう。
だがそれでも、そう、それでも魅力的なのだ。

(———白の実力、それがどうしようもなく欲しい! 原作において天才と言われていた実力。卓越した戦略眼を始めとした才能。写輪眼でも盗めない血継限界。そしてなによりも、その従順さが!!)

こいつを見つける前、自分は何を考えていた。
自分を助けてくれる人材を、強く優秀な人材を求めていたじゃないか。
そしてそれに合致する最高の人材がいるじゃないか。
原作開始後すぐに死に、以後関わらない奴が。
十代ちょっとで追い忍部隊とやらに入り、鬼人再不斬に天才と言わしめたやつが。
そしてなによりも、未来を知る俺の行動に、考えられる限り唯一従順に付き従ってくれるだろう最高の人材【道具】が!
今、目の前にいる!!

気付けば、足のつま先は子供———白の方へと向いていた。
一歩、近づく。

(元から俺というイレギュラーのせいで歪むのは分かっていたはずだ。そして修正できる可能性が極端に低いことも。
なら、ここで敢えて修正可能な変化をワザと生み、歪みを修正できる道具を手に入れるのが吉!!)

————ズキンズキン

頭の痛みは治まらない。
むしろ、近づこうとするごとに痛みが強くなっている気もする。
理性は白を手に入れることを肯定している。
死を恐れる本能も肯定している。
だが、自分が自分であることを求める何かが。
決定的な変化を生む自分を否定する自分が、痛みを発している。
だが、その全てを無視し、不思議そうにこちらを見ている白に口を開く。

「少年。同じ目とはどういうことだ?」

どこか楽しそうにしながら白は返答を口にする。

「誰からも必要とされない。そんな僕と同じ気がしたんだ」

その言葉で再度気づく。ああ、ホントに似ているじゃないか。なんて皮肉だこれは。
その思いのままに、言葉を出す。

「そうか、なら————」

一瞬、迷う。
その言葉を出していいのか。
だが、既に心は決まっている。
頭の痛みなど無視すればいい。
倫理や道徳など、無視すればいいのだ。

きっと、この時口を閉ざしていれば別の道があったのだろう。
もしかしたら歪みなど生まれず原作通りの未来があったのかもしれない。
だが、もう遅い。
既に分水嶺は分かたれ、決めたのだ。

「————必要と、されたいか?」

決定的な言葉を口に出す。
それを受け、白は不思議なものを見る様にこちらを見る。

「俺に、ついてくるか?」
「……僕、何もないよ」
「それでもいい」
「……僕、おとうさんを死なせちゃったよ」
「どうでもいい」
「……僕、血継なんとかって変な力があるよ」
「それでいい。いや、むしろそれがいい。俺だって似たようなこと出来る」

そう言い、一度変化を解いて見せてからもう一度変化する。
実際は白のそれとは別物。だが、何も知らない子供からすれば違いなどわからない。

「もう一度言うぞ」

手を伸ばしながら再度問う。

「俺に、ついてくるか?」

もう、頭の痛みは消えていた。

「俺の為にその力を使い、俺の為に生き、その全てを俺の為に使えるか?」

伸ばされた手を、真っ直ぐに見つめるこちらの目を呆然と見つめていた白は頷き、立ち上がる。
伸ばした手は、掴まれた。
その手を引き寄せ、頭を撫でながら呪いのように言う。

「今日から、お前の命は俺のものだ」
(屑……何だろうな俺は)

そんな思いも知らぬまま、白が嬉しそうに頷きながらはいと言う。
これで勧誘成功である。
さて、この後は白の服を買い、途中にあった店で変な物買いながら集合場所に戻ればいい。
汚れもその際に落とせばいい。
取り敢えず、一番の問題としては……

(おっさんに、何て説明すっか)
「ま、なんとかなるよな、白」
「あ、それ僕の名前ですか?」
「え?」

ポンポンと頭を叩きながら言った言葉の返答に固まる。
あれ、白って元々の名前じゃなかったの? 
再不斬命名だったんだあれ。ミスった。













「いやさ、確かに好きなもん拾って来いっていったさ。だけどよ、これは流石に想像してなかったぞおい」
(俺だって思ってなかったわボケ)

集合場所の宿屋。俺とおっさんは部屋の中で買った饅頭食いながら話をしていた。

あの後、結局白の名前は白になった。
そして戻る途中で服を買い、買うと決めていた骨董品等は安値をふっかけ微妙な値段で交渉成立。
正直、店の人には嫌われた自信があるね。
宿に戻った時はまだおっさんが戻ってなかったので白を風呂へと送り出し、白が着替えて戻って来たところでおっさん登場。
固まっていたおっさんに事情を話し、今に至る。

「まあ、色々ありまして。白の面倒は僕が見ますので許して下さい。あ、こしあん美味しい」
「そんくらい当たり前だ。まあ、ああ言った手前今回は許すが金はお前の親の使うし次はねえぞ。粒あんの方がうめぇって馬鹿野郎」
「分かりました。まあ白にも色々手伝わせますから。後、いつまで変化してればいいんですか。粒残ってるとか怠慢じゃないですか」
「そうかい。まあ、波の国着いたら手伝うもんあるか分からんがな。
後、今は別にいいが変化は商売手伝う時はずっとしてろ。こしあんの方なんか全部潰すだけだろ。舐めたこと言ってんなよ」
「あ、両方とも美味しい」
「「……」」

白の一言に黙り込む大人二人。いや、変化してるからで大人は一人だけか。
とりあえず、変化を解く。

「……前から思ってたけど、さっきの方がなんかしっくりくるぞ。中身老けすぎだ」
「……そうですか。あ、お茶いただきます」
「……俺も貰うぞ」

ふう、と一息ついたところでおっさんが話を進める。

「とりあえず、白……だったか? はお前が面倒見る。白もそれでいいか?」
「はい」

にこにことしながら返事をする白。うーむ、なんか心洗われるものがある。

「とりあえずそれはそれでいいとして」

あ、いいんだ。おっさん意外と懐広いな。見直したぞ。

「とりあえず買ってきたもの見せろ」
「あ、分かりました」

取り敢えず見せる。
わけわからん皿だったり変な像とかを見せたらチョップくらった。イテェ。

「変なもん買ってんじゃねえよボケ」
「そっちはどうなんですか」
「おう、見ろ」

見たら変な壺とか天秤みたいなもんがあった。
グーで向かってったらチョキで腹突かれた。イテェ。

「ぐふ、痛い」
「ま、こんなもんだろ。元々そんな期待してなかったし。さっさと荷物纏めて昼飯食って村出るぞ」
「なら最初っから……」
「いいんだよ俺は」
「あの……大丈夫ですかイツキさん?」

腹を抑える自分を心配そうに白が見てくる。その優しさが染みるね。
見ればおっさんは既に荷物を纏めバックが足元に置かれている。
懐広いってのは前言撤回だこの野郎。白を見習え。

「ほれ、腹抱えてないでお前もさっさと準備しろ」

……いつかボコす。そう誓った。

 
 

 
後書き
キャラクターオフィシャルデータBOOK臨の書(2002年)抜粋

・うずまきナルト
総合能力 ●●
潜在能力 ●●●●●
運     ●●●●

・うちはサスケ
総合能力 ●●●
潜在能力 ●●●●●
運     ●●

・はたけカカシ
総合能力 ●●●●●
潜在能力 ●●●●
運     ●●●

・桃地再不斬
総合能力 ●●●●●
潜在能力 ●●●
運     ●

・白(十五歳)
総合能力 ●●●●
潜在能力 ●●●●●
運     ●

……え、何この主人公並な能力?
白は公式でマジもんな天才です。ナルトの主人公補正に負けただけで。運が最低なのが悪かったんや。
総合能力は変わるとして、潜在能力はつまり才能で変化しないはず。つまり白は素質だけならカカシ以上。なんでこいつ負けたん?

 
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