ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
PREPARATION
ユウキとの体育会系(?)デートから4日後、アインクラッド22層《森の家》においてBBQパーティーが開催された。
これはその4日前にユウキとアスナの2人で交わされた約束だったそうだが、またもや前日まで何も知らされていなかった俺は大いにいじけた。
「……ところで食材は足りんのか、この人数」
「あはは……無理かなぁ~」
(無計画に呼ぶなよ……)
集まったのはいつものメンバー+オラトリオメンバー。ユウキのギルド、スリーピングナイツ。さらにサクヤ、アリシャ、ユージーンと言った種族幹部陣とその側近。新顔としてスプリガンのロイド、その兄貴でGGO出身のルージュ(ちなみにこの時初めて知ったが、リアルではセインと同じ大学に通っているらしい)、種族はスプリガン。総計40数人というフルレイドに達しそうな大規模な人数だ。
「……食材、狩ってくる」
「ご、ごめんねー」
「お前やキリトの無茶ぶりは何時もの事だ。その代わり上手いもん作れよ」
「うん」
客に手伝わせる訳には行かない―――などと言ってキリトやクライン、ロイドを引っ提げて狩りに行こうとするが、種族幹部陣のお方達もまたこの人数に苦笑するしかなく、快く手伝ってくれる事になった。
と、言うわけで。
「頼りにしてるぞ、《紅炎刀》」
「は、はい。よろしくです」
……帰っていいか?
思わず敬語になりながら返事を返す相手はサラマンダー将軍、ユージーン。この食材狩りパーティーのリーダーだ。
その他のメンバーは3人は彼の側近、残りはユウキ、リオ。
食材狩り処かその辺の上級ダンジョンをサクッ、と片付けられそうな戦力だが、どうしてこうなった感は拭えない。
「それで、どこへ行こうか?」
「そうですね……3層上の25層……西の火山地帯に生息する《ディバイン・ホース》。クォーターのMobだけあって攻守速全てに優秀で手強くはありますが、肉は美味だとか。このパーティーの戦力的にも丁度いいかと」
「うむ、ではそこにしよう。皆もいいか?」
メンバーが頷くのを確認するとユージーン将軍は背に《魔剣グラム》を装備し、先頭に立って飛び出した。
_______________________________
「レイ、スイッチ」
「おう」
リオの掛け声で入れ替わった俺は既に準備していたスキルを発動。
突進の構えを見せていたディバイン・ホースにカウンターの斬り上げから袈裟斬り、さらに踏み込んで重心を移動させながら体を回転させもう一度袈裟斬り。最後の強攻撃で敵のHPを吹き飛ばし、戦闘を終えた。
大太刀をしまいながら左手で小太刀を抜刀し《投剣》を発動。ユージーン側近連中を囲っているディバイン・ホース3匹の内一匹を撃破する。
「こんなものかな?」
「ああ。大分集まったな」
ユージーンとコンビを組んで5匹を相手に無双しているユウキを眺めながらリオに応答する。やけに群れてポップするディバイン・ホースは旧SAOのモンスターであり、25層において少なくない命を食った。
当時、血盟騎士団の前身である『ファームユニオン』のフォアードでそれなりの地位に居た俺は最初の遭遇でパーティーメンバーを全滅させかけ、本当に偶々、傍で別のパーティーを率いていたヒースクリフの援護が無ければ危うく禁忌を破る所だった。
……そのおかげでヒースクリフが茅場だという確信を持ち、後に75層のあの瞬間に至る長いシナリオを構成することになったのだが。
―閑話休題―
その区域にいたディバイン・ホースを全滅させるとストレージも十分に埋まり、後は帰還するだけとなった。
SAO時代の記憶ではここにネームドMobはポップしないはず……。
「……だよなぁ、リオ」
「……変更されてたんだな。まあここ一応ダンジョンだし」
冷や汗を垂らしながらノーモーションで突然放たれた極太の熱線をかわす。
以前、俺の大太刀《蓮華刀・紅桜》を作成するにあたり倒した大型ボスも同じような技を使ったものだが、ある意味こっちの方が質が悪いかもしれない。
フィールドボス《インフェルノ・ホース》
「フルルッ……!!」
姿はさっきまで戦っていたディバイン・ホースの巨大版、鬣の炎増量的な感じだが、一番の特徴としてノーマルサイズ連中と―――いや、一般Mobと一線を隔す大きな違いがあった。
「っ……また!?」
戸惑ったようなユウキの声。熱線を放った後の硬直時間を狙って斬撃を打ち込むが、インフェルノ・ホースは鬣と同じ色である黒炎をまとい、ユウキを寄せ付けない。
ユージーンやその側近達も一度や二度斬撃や魔法で攻撃するが、インフェルノ・ホースは現在、それら全てをかわし、防いでいる。
異常なまでの学習能力とそれを完璧に制御する高レベルのAI
(……やっかいな)
加えてその巨体で繰り出すギャロップステップにより、岩山に囲われてるこの場では逃げ場所が殆どなかった。
辺りを見回す。
入ってきた入口にはボスと同時にポップしたディバイン・ホースの群れ。空にはどこからともなく沸いた怪鳥の群れ。つまり、万事諦めて戦えと言うこと。ならば……
「リオ、入口のディバイン・ホースを片付けろ。脱出だ」
「……向こうさんはどうする。フィールドボスって事はひょっとすると生息域に居る限り追ってくるぞ?」
「分かってる。だが、サラマンダー勢にアイテムドロップさせたら科がこっちまで及びかねん。だからこの岩山からは出さない。……俺が殿をやる。《灼焔霊衣》なら少しは持つ」
「……りょーかい」
大太刀を片手で肩に担ぎ、腰を落とす。リオがユージーン達に身振りで入口を指し、脱出の意図を表す。
ユージーンすらHPは六割に割り込みかけている中、流石に精鋭達だけあって行動は迅速かつ冷静だった。
翅を使って半ば滑空するようにインフェルノ・ホースから離れた4人は入口をこじ開けたリオの後を追おうとしてハタと気がついた。
「!?……レイ!!」
ユウキの悲鳴。俺はそれを頭の後で聞きながら苦笑していた。そんな必死になって自分を心配してくれる存在が当たり前にいる、この状況に。
(……はは。信じられないな、未だに)
咆哮をあげ、間髪入れず熱線を放つインフェルノ・ホース。だが……
(ん?こりゃあ……)
それはレイを焼き尽くす寸前、2メートル程前で角度がズレ、彼の視界端に映る岩山を溶かした。
「なんだ、『焔盾』で防げる程度なら問題ないな」
肩に担いだ大太刀の柄に左手を添え、ソードスキルを発動。
大太刀専用突進系ソードスキル《山津波》
距離を詰め、全身を回転させながら縦に敵を割るだけの超のつく単純な技だが、一定以上のバランス感覚がないと距離を詰めるときに派手に転ぶという困ったソードスキルだ。
岩のようにゴツゴツした脛から蹄まで切り裂き、返す動きで更に深く斬り込んだ。
「ヒィィィン!?」
脛を守っていた甲殻がバキッ、とヒビが入り、反撃の黒炎が俺を包もうとするが間一髪のところで身を引く。無傷とはいかず、HPが数ミリ減少、残りは8割強になった。
(……さて)
前足を折って動かずにいるインフェルノ・ホースを尻目に俺もまたその場から脱出した。
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合流地点に決めていた火山エリアへの入口ではユージーン指揮下の下、罠アイテムや任意発動出来る遅延発動魔法等が張り巡らされた簡易迎撃ポイントが敷設されていた。
「……戦うんですか?」
「足止めのつもりだったのだがな。お前が無事に帰って来れたから作戦変更だ」
「……分かりました」
ユージーンの作戦は短時間だったためか、単純なものだったが効果的に思えた。
遅延発動魔法を管理するのは側近達、彼らは準備した魔法が尽きると回復役に回る。憎悪値を管理するのは耐久力と体力が高いリオとユージーン。側近達はいい顔をしなかったが、上官の決めたことには異議を唱えなかった。
そして最後の俺とユウキがアタッカーとして敵のHPを削る。ただし、憎悪値がたまりすぎないように少しずつ。
しかし、最後にユージーンはこう締めた。
「先程の戦闘の結果、インフェルノ・ホースは高度のAIを有しているようだ。作戦が回らなかった場合は各自の判断で行動するように。個人での撤退も認める」
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5分とかからずにそいつは追ってきた。接敵までおよそ50メートル、罠が発動する。幾重もの爆轟がインフェルノ・ホースを襲い、その足を止める。
「ヒィィィン!?」
「かかれ!!」
まず最初に接敵したのはユウキ。彼女の神速高威力の斬撃は既に相手に学習されているが敵は今行動不能状態のため、それらを全て食らう。
アインクラッドのボスモンスターは総じてHPが表示されない仕様になっており、どれだけのダメージになったかは分からない。しかし、先程俺が傷つけた脛の部分に斬撃が入り込み、より大きな悲鳴が響き渡る。
「やあっ!!」
それを敏感に感じ取ったユウキはソードスキルを敢行。
上位スキル特有の激しいライトエフェクトが弾け、その威力でインフェルノ・ホースが片膝を突いた。
前のめりになったことで、弱点らしき一本の角が大太刀の攻撃範囲に入る。敵の眼前で大太刀を大上段に構え、ソードスキル発動。
「はぁっ!!」
―ビシッ!!
確かな手応えと共に一撃で角にヒビが入る。ユウキとアイコンタクトを交わし、同時に左右に散開。突如地面から吹き出した黒炎の柱を避ける。
インフェルノ・ホースは怒りに身を震わせながら自分の角にヒビを入れた俺を付け狙う。熱線や踏みつけ、黒炎による攻撃をかわし、ユウキや他の前衛陣に目を向けさせない。
リオとユージーンの容赦ない重攻撃がインフェルノ・ホースを弱らせていく。堪らず反転しようとするが、そのたびに大太刀が鼻先をかするので怒りの矛先は再びレイに向く。
イレギュラーなアルゴリズムにはイレギュラーなりの傾向がある。ならばそれを自分達がやり易いように仕向ければ良いだけの話だ。
有能な指揮官であるユージーンは『各自の判断』というセリフの裏にその方法を見つけ出せ、と言外に指示を出した。
表の言葉で部下の結束を計り、裏の言葉で知略を要求する。その類い稀な指揮能力を持つ彼もまたレイの言う『バケモノ』クラスの端くれだ。
「ぬぉぉぉぉぉっ!!」
ユージーンの大剣が紅蓮のライトエフェクトをまとう。
9連撃OSS《ヴォルカニックブレイザー》
ユウキの11連撃OSSが現れるまでALO(公式)最多の連撃数だった技だ。乱舞する大剣に圧倒され、地面に倒れ込む。死力を尽して立ち上がろうとするそいつを横目にユウキと再びアイコンタクト。
―――まるで何年もそうしてきたかのように完全に同期した動きで左右から肉薄。
「「はあぁっ!!」」
11連撃OSS《マザーズ・ロザリオ》
5連撃OSS《デットエンド》
水平切り2回、切り上げから縦切り、最後に一歩踏み込んでの突き。
試しに作った無数のOSSの中でオリジナルに匹敵すると感じるのは極少数、これはその数少ない1つだ。
厳選したもの故に威力は折り紙付き、ユウキの11連撃と合わせてボスの残存HPを削りきった。
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「あー……疲れた」
「え~?楽しかったよ?」
「…………それなら良かったけどさ」
帰り道、22層に着いてからは通常スピードでふよふよと飛んでいた。
あのバカでかい馬(?)からはディバイン・ホースから取れる肉より1ランク高位のアイテムが取れた。大分遅くなってしまったが、これを進呈することで許してもらおう。
などと考えているといつの間にかユウキが隣を飛んでいた。再会した時よりも明るい、本当の笑顔を惜しげもなく俺に向けながら。
人目が無かったら……いや、余所様の目が無かったら思わずハグの1つでもしそうになっただろうが、これ以上生暖かい視線が増えるのは御免だ。既に(主にリオからの)視線が痛い。
「よ~し。レイ、競走しよ!アスナの家まで、ゴー!」
「え?ちょ……はぁ……」
呆れか、苦笑いか。
微妙な表情を浮かべながら加速する。雪原の22層を2本の黒い線が横切って行った。
後書き
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