ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
八十話:ラインハット城下町
新たに仲間になったピエールを加え、四名(ピエールとスラ風号は一心同体として一名とカウントします)でラインハットの城下町に入ります。
どことなく、ピリピリした空気が漂ってはいるんですが。
「なんか。思ったより……普通?」
「……そんな気もするな」
ゲームのイメージだともっと荒んでて、物乞いに身を落としてしまった母子とかいたと思うんですが。
町の人は質素ながらもきちんとした服装に身を包み、厳しい表情に速足で行き交っています。
極限まで搾り取られているというよりは、生かさず殺さずと言ったほうがいいような。
ある意味、より効率良く搾り取られてはいるんだろうけど。
少なくとも、飢え死にするようなことは無さそう。
「……今から地下道に入ると、遅くなるな。城は、明日か」
「そうだね。宿を取ったら、町で話でも聞いてみようか」
「そうだな」
というわけで、まずは宿に向かい。
「いらっしゃい。今時この国に、旅人とは珍しいね。四名か。一部屋でいいのかい?」
一部屋か。
いいんじゃないかね、もうそれで。
と思って仲間を見回すと、なぜか漂う緊張感。
ヘンリーはピエールに視線を向け、ピエールはなんか一人で葛藤してます。
「一部屋……いや、無いだろ……でも二部屋だと、部屋割りが……」
「主を守るには、やはり同室が……いや、女人たるドーラ様と同室などと……!ここは部屋の外で見張りに付き、仮眠で済ませるべきでは……」
うん、なんか面倒くさそう。
でも最初が肝心だからね、ヘンリーはひとまず置いといて、ピエールの意思はきちんと確認しておくか。
「ピエールは、私と同室だとまずいの?」
たぶん、男性ではあるんだろうが。
スライムナイトから見て人間の女性って、どうなの?
そういう対象足り得るの?
「は。主であるドーラ様に、不埒な想いなど抱くはずもありませぬが。種族の壁もありますゆえ、間違いなども、起こりようもありませぬが」
「そうなんだ。スライムナイトと人間のカップルっていうのは、無いんだ」
「種族を越えた愛情で結ばれた夫婦というものは、存在せぬことも無いようですが。拙者がドーラ様に抱きますのは、あくまでも尊敬、忠義の念でありますゆえ。男女の愛が存在せぬうちに、邪な感情が起こるようなことはあり得ませぬゆえ、その点はご心配要りませぬ」
ふむ。
愛しちゃったら仕方ないけど、愛が無い限りは、完全に対象外であると。
「なら大丈夫だよね、別に」
「しかし。臣下であり、他種族とは言え一応は男である拙者が、ドーラ様と同室とは」
「言ったでしょ。普通に仲間として、一緒に頑張ろうって。そういう遠慮はいらない」
「ドーラ様……!」
なんだか、感激に打ち震えてるピエール。
大袈裟だが、まあいいか。
「それじゃ一部屋で」
「あいや待たれよ!」
感激状態から急に戻ってきて、ビシリと制止するピエール。
「なに?」
「拙者はともかく、ヘンリー殿は!完全に同種族の、男ではありませぬか!……はっ!お二人はもしや、夫婦か恋人のようなご関係に」
「違います」
「で、ありましょうな」
もしもそうだったら、一部屋とか無いよね。
部屋が埋まってるとか、なんか事情が無い限り。
「未婚の若い男女が、それも拙者の大切な主たるドーラ様が、恋人でも何でも無い、同族の男と同室などと!承服致しかねます!」
ああ、保護者だ。
ここにも、保護者がいた。
……まあ、どうしても一緒がいいというわけでは無いし。
それなら、それで。
「じゃあ、二部屋で。私とスラリン、ヘンリーとピエールでいいかな?」
「いや、待て!」
今度はヘンリーの制止が入りました。
なんなんだ、もう。
「なに?」
「昨日の今日で、お前を一人に出来るわけ無いだろ」
まあ、確かに。
少々の不安は、あるんですけど。
「大丈夫だって。この町には昔の知り合いはいないし、スラリンが一緒なんだから」
「そういう油断がだな」
「ヘンリー殿。昨日の今日とは?」
ピエールの問いに、昨日の変態ストーカー事件のあらましを語るヘンリー。
「なんと!そのような事情であれば、確かにドーラ様をお一人にする訳には参りませぬ。ならば、拙者とドーラ様が二人で」
「何でだよ!」
「申したでありましょう、同族の若い男女で間違いでもあれば」
「今まで何も無かったのにか?お前だって、愛があれば危ないんだろ」
「これは聞き捨てなりませぬな!拙者の忠義を、疑うと申されるか!」
「可能性の話だろ」
ああ、面倒くさい。
「二人とも、ちょっと」
「二部屋に分けるなら、俺がドーラと組む」
「話を聞いて居られたのか!一番あり得ぬ組み合わせではありませぬか!」
「ドーラは十年間、ずっと俺が守ってきたんだ。今さら譲る気は無い」
「ぐっ……拙者とて、十年間ドーラ様を想い、腕を磨き続けて参った!想いの深さでは、負けはしませぬ!」
「やっぱり想ってるんじゃねえか。危ないだろ、やっぱ」
「そのような不埒な想いと一緒にしないで頂きたい!」
「いいから二人ともちょっと黙ろうか」
あ、思ったより怖い声出た。
私の低く冷たい声に、二人がビクッとして言い争いを止め、そろそろとこちらの様子を窺います。
「これは、二択です。私がスラリンと組んで二部屋に分かれるか、全員で一部屋を取るか。それ以外の選択肢は、無い!ヘンリーともピエールとも、二人部屋にはならない!さあ、どっちにする」
どちらも選ばないならもういい、ここで解散だ。
私はスラリンとふたりで、この先も頑張る。
という意志を込めた私の強く冷たい視線に、ヘンリーとピエールが顔を見合わせ。
「……一部屋で……」
「承知にござる……」
「よし。じゃあ、一部屋!四名、お願いします!」
「は、はい。毎度」
呆気に取られて成り行きを見守ってた宿のご主人が、私の急なフリにもきっちり仕事を果たし、部屋の鍵を渡してくれます。
うん、プロだね、彼は!
部屋に入って荷物を下ろし、鎧を外して身軽になって、念のため武器を目立たないように身に付けた状態で、再び町に出ます。
ヘンリーが余計な情報提供をしてくれたせいか、ピエールの警戒感が半端無いことになってるのですが。
「……ピエール。怪しまれるからさ、そこまですると。やめようか」
抜刀こそしてないものの、武器に手をかけて、いつでも斬りかかれるような状態で。
周囲に睨みを利かせるとか、目立って仕方ない。
「はっ!申し訳もありませぬ!拙者が未熟ゆえに、そのように目立ってしまっていたとは!少々、控えます」
「うん。そうして」
なんだろう、これに比べたらヘンリーとか、可愛いもんだったよね。
やたら手とか繋いでこようとする以外は、ぱっと見は普通の態度だったし。
十年の積み重ねの成果かもしれないが。
……十年、妨害され続けてるんだよなあ……。男性との接触を。
私の脇がいまいち甘いのって、コイツに守られ過ぎてるせいじゃないだろうか。
と、ピエールが威圧感を抑え、私が視線と意識を遠くに飛ばした瞬間。
「そこのお嬢さん。この町は、初めてですか?案内は、必要ではないですか?」
ああ、またか。
ていうかこれだけイケメンやら魔物やら、強そうな面々に囲まれてるのに声かけてくるとか、どんな猛者だ。
なんだか嫌な既視感を感じるが、とりあえず顔を拝んでおくか。
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