魔法少女と魔術少女~あかいあくまの奮闘記~
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幕間 「別世界への旅立ち -前編-」
それは、唐突に訪れた事だった。
ある日の昼下がりの事である。
私はアインツベルンの城での、第二魔法稼働実験を終えて、イリヤの運転で衛宮の家に帰り、一息ついていた所だった。
「うーん、理論的にはこれで大丈夫な筈なんだけど」
私の第二魔法は今や完成の域に達しようとしている。
無論、私一人の力ではない。
士郎にイリヤ、桜やライダーの協力が有ったからここまで来れたのだ。
「けど、魔法………か」
限定的とは言え一度は私も魔法を使った。
しかし、とうとうその限定も外されようとしている。
そう思うと、時々、自分が怖くなる。
「父様や先代達がたどり着けなかった物に、こんなにあっさり到達して良いのかしらね」
魔術師としての最終的な到達目標は根源に至る事ではあるが、かといって魔法を行使する事が容易な事という訳ではない。
それを、この極東の島国の小娘がである。
跡継ぎを考える事より以前に、自分の旦那すらまだ居ない内に、ここまで大きな事を終えてしまうとは……。
天井を見上げて、思案に更ける。
さて、もう少し休憩したら術式のチェックをしよう。
そう思った矢先に鳴り響く電話。
誰かが取ってくれるだろうと思い、聞き流す。
…………。
中々、鳴り止まない。
家主の士郎はどこぞの内紛地域で正義の味方になりに行っている。
ここ一週間ほど留守にしている為、暫く顔を見ていない。
「あっ、そう言えば」
セイバーは確か子ども達とサッカーをするって言っていたっけ?
ライダーはバイトだと言っていた。
桜はあっちの家の掃除に行くとか昨日の夜に聞いた気がする。
イリヤは送ってくれた足で藤村の家に向かった。
「参ったな、私しか居ないじゃない」
早く取れ、と急かさんばかりに鳴り響く電話。
「あー、もう仕方ないわね」
立ち上がって廊下に出る。
鳴り止まない電話を宥める為、私は受話器を取った。
「はい、衛宮ですけど」
全く、こんな昼間に一体誰よ。
ついつい不満が口を吐いて出そうだったのでグッと堪える。
「私ですわ、ミス・トオサカ」
「げ、ルヴィア」
電話の主はよりにもよって、こんな時にルヴィアだった。
私がロンドンへの留学を終えた後も、彼女はロンドンに残ると言っていた。
使用する魔術の系統が似ているからか、家の事情は抜きとして、アッチで彼女と行動する機会は少なくなかった。
と言っても、一方的に敵視されている為、電話をされても特に嬉しくない。
「ご挨拶ですわね。私が折角、こんな朝早くに電話してさしあげているのに」
言われてみれば、日本とロンドンの時差は八時間。
こっちは昼でも、あっちでは早朝だ。
だからといって、嬉しくもなんともないのだが。
「それは失礼したわ。で、なんの様かしら。私達、気安く電話でお話しする仲でもないでしょう?」
「当然ですわ。誰が貴女に電話などするものですか。それより今は一刻を争いますの。シェロを出しなさい」
シェロ?
あぁ、士郎の事か。
まだ執事が欲しいのかしら、アレだけ士郎をあげる気はないと言っというのに。
「残念ね、今は留守よ。多分、もうそろそろ帰ってきてもいい頃だけど」
士郎が出発して、今日で約一週間になる。
いつものパターンだと今日か明日中には帰ってくる筈だ。
「では帰り次第、貴女が伝えなさい。いいです事? シェロの確保が協会で決定されましたの」
決して、良好な仲ではないルヴィアからの電話だ。
普通の連絡でなかった事は予想していた。
だが、ルヴィアの口からは予想を大きく上回る事態が告げられた。
「その情報、信頼出来る物なの?」
冷静にルヴィアに質問する。
ここで取り乱しては駄目だ。
そんな事よりも、やらなければならない事がある。
「ソースは信頼出来る物ですわ。でなければ、わざわざ連絡などしません」
「―――そう」
私にはそれ以上の事が言えなかった。
こうなるかもしれないと、分かっていたのに。
アイツに頼まれていたのに、私はその責務を果たせなかった。
この世界は、こんなに儚い夢も見せてくれないのか。
―――たとえ夢物語なんだとしても、全てを救う努力を俺は止めたくない。
そう言って、士郎はあれから戦ってきた。
それは、確かに甘い考えだが、聖杯戦争の頃よりは遥かに現実を見ている。
夢を夢で終わらせない努力すら、許してくれないのか。
「情報を得たのは一昨日ですの。既に協会の手が及んでいる可能性は否定できませんわ。けど、私に出来るのはここまで……。後はミス・トオサカ、貴女に任せますわ」
「どうして、ここまでしてくれるのよ? 貴女らしく無いじゃない」
精一杯の強がりを見せる。
今、弱音を見せたら多分、私は立ち直れない。
「勘違いしないで下さいますこと? これはシェロの為ですわ」
「士郎の為?」
半分が嘘で、半分は本当だろう。
電話越しとはいえ、ルヴィアの考えている事は分かる。
私が、彼女の立場でもそう言うだろうからだ。
「シェロは馬鹿な上に甘いですわ。全てを救う正義の味方だなんて……。潔く我が家の執事をしていれば良いものでしたのに。けど、私はシェロのそういう甘い所、嫌いじゃありませんの」
「ルヴィア……」
「しっかりなさい、ミス・トオサカ。それとも貴女には何も出来ないと仰るの?」
信じらない……という事はない。
確かにルヴィアは傲慢で高圧的で、ついでに言うと生意気だ。
けど、そんな彼女は自分が認めた相手には敬意を表する人間であると私は知っている。
そして、彼女が辛く当たるのは信頼している証だという事も。
「シェロは貴女を選んだのです。なら、貴女は貴女に出来る事をなさい」
「………言われなくてもそうするわ。例え、私がどうなろうともね。それじゃあね、ルヴィア。こんな事を言われても嬉しくないだろうけど、助かったわ。ありがとう」
そう言って、私は電話を切った。
全く、ルヴィアに叱られるなんてどうかしてるわね、私。
今は落ち込む前に行動するしかない。
とは言え、事態はかなり深刻だ。
協会の手が既に向けられている以上、士郎が無事に帰ってくる保証はないだろう。
一戦交えてしまう可能性は大いにある。
こちらがセイバーとライダーという、規格外の戦力を保持しているとは言え、そう簡単に投入出来るものではない。
桜の今後の安全を確保する上で、この二人には隠れておいて貰う必用がある。
問題は、今後の事だろう。
協会に追われている士郎を助けた時点で、私は逃亡幇助をした事になり、協会に狙われる。
この極東の地は隠れ住むには最良だが、一度バレてしまえば旨味が薄い地だ。
四方を海に囲まれ、逃げるに難く、情報も入らない
しかし、残念ながら私には国外に有力な援助者もいないのが現実だ。
これ以上、エーデルフェルトを巻き込む訳にはいかないし、アインツベルンはイリヤが絶縁している為、言うならば敵も同然な状態だし。
運良く逃げた所で、それ以降の生活が全く成り立たない。
過去、協会より封印指定を受けた魔術師の多くは、その才覚を持って逃亡を成し得ている。
私が持つ全ての能力で、この状況を打破出来るもの……。
「なんだ………、あるじゃない」
そうとなれば、出来るだけ迅速に全員を召集しなければならない。
申し訳ないが、ライダーにはバイトを抜け出してもらい、ついでにセイバーを拾ってきて貰おう。
桜はあっちの家だから、呼べば直ぐに来る筈だ。
後書き
皆様、お久しぶりです。
BLADEと申します。
さてさて、魔法少女がなかなか絡まない中、なんと幕間を挟みます。
しかも前編になりました(汗)
複数話の構成にしたのには、少し理由があるのですが、ちょっと申し上げれない内容です。
本当にすみません。
ちなみに次の話は幕間じゃありません。
そろそろ、リリカルな人達にも御登場して頂きたいですしね(汗)
作品の不備な点がございましたら、御一報お願いします。
それではこの辺りで失礼します。
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