問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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千切り
「何かやりたいのはある?」
一輝は隣にいるスレイブにたずねる。
「では・・・あれがいいです。」
先ほどの食べ物から、自分の意見をちゃんと言うようになったスレイブは、ある露店を指差す。
「なになに・・・“キャベツの千切り”?」
その露店には、確かにそう書いてあった。
「えっと、“参加資格、切断系のギフトを持っていること。”これは大丈夫だな。」
「はい、私自身が剣のギフトですから。」
「・・・“勝利条件、その場で早く、綺麗な千切りを作ったもの。判定は店主が行う。”」
「はい。」
「“一位と二位には商品として焼きそばなどを贈呈、九位と十位にはその代金を支払ってもらう。”・・・まだ何か食べたいの?」
「違います!」
一輝が無神経なことを言うと、スレイブが必死で否定してくる。
「じゃあどうして?」
「これなら、マスターを待たせずにすみますから。」
一輝は一瞬黙る。
《まだ俺のことを優先か・・・》
だが、それでも自分の意見を言うようになっただけましである。
「じゃあ、すいませーん!二人参加でお願いしまーす!」
「え?」
「二名様参加でーす!」
スレイブから疑問の声が上がるが、参加のエントリーは終わってしまう。
「ん?何か問題があった?」
「いえ、その・・・てっきりマスターが私を使うものだと・・・」
「それ、楽しいの?」
「はい。私は剣ですから、自分が認めた主に使われていることが喜びなのです。」
「そっか。でも、たまにはこういうのもたまにはいいでしょ。」
「はぁ・・・」
一輝の目的も有るので、少し強引にでも参加させる。
「あ、それともう一個。」
「なんでしょう?」
「やるからには一位を目指すこと。」
「ですが、」
「勝ちを目指せないような剣を、使いたいとは思わないぞ。」
一輝が言うと、スレイブの目に火がつく。
やる気を起こすのは割りと簡単だった。
「では、十人そろいましたので、はじめたいと思います。参加者の皆さんはこちらに並んでください。」
一輝たちが最後だったようで、ゲームが始まる。
「では、お手元の“契約書類”にサインをしてください。」
一輝たちの手元に、羊皮紙が現れる。
『ギフトゲーム名“千切り”
・ルール説明
・店主の掛け声でゲームを開始する。
・二玉のキャベツを、より早く、より綺麗に千切りする。
・上位二人には、キャベツ十玉分ずつの焼きそばを贈呈。
・下位二人は、上位二人分の代金を支払う。
・順位はポイント制とし、早さが早いものから10ポイント、千切りが綺麗なものから10ポイント、合計最大20ポイントを付けるものとする。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ ”はギフトゲームに参加します。
“六本傷”印』
一輝はルールを読むと、空欄になっているところにコミュニティの名前と自分の名前を記入する。
全員が記入を終えると“契約書類”は店主の手に集まる。
「では、皆さん!準備をしてください!」
その声とともに、参加者は包丁などの刃物を取り出していくが・・・
「おや?ノーネームの御二人はいいのですか?」
一輝たちが何もしないのを見て、店主が聞いてくる。
見物している人たちと、参加者のうち二人が「ノーネームには包丁すらないのか。」と笑っているが、一輝はそれを無視し、スレイブに我慢するよう言う。
「もう既に準備は終わっていますよ。」
「刃はここにある。問題ない。」
二人が淡々と言うと、笑っていたやつらも黙り、店主の声を待つ。
「えー、では、全員準備が出来たようなので、始めたいと思います!
始め!!」
店主の開始の合図で八人の参加者は一玉目を半分に切る。
が、一輝とスレイブは違う行動をしていた。
二人は集中した表情で二玉とも持ち、上に投げた。
そして、一輝は右手を、手のひらが前を向くように上げ、スレイブは両手を虎爪の形にして、待つ。
そして・・・キャベツが落ちてくると同時に・・・
「ウインドカット!」
「虎爪!」
一輝は腕を横に動かし、風の刃で一瞬で全部千切りに、スレイブはその指で切り刻み、一瞬で千切りを作った。
「「終わった。」」
「・・・の、ノーネームの寺西一輝、スレイブ、二名の千切りが終了しました。」
会場が固まった。
まだ誰も、半玉すら終わらせていないなか、この二人は二玉全てを終えたのだ。
「では、二人とも同時だったため、速さのポイントは両名に10ポイントずつ入ります。次の人が終わるまで時間が有るので、先に審査をしてしまいます。」
店主が最初に帰ってきてそう言うと、他の人も動き出す。
観客は「早いだけだ。雑に決まってる。」と言っているが・・・
「これは・・・あなた方、料理の経験は?」
「経験って言うほどはありません。」
「私も、マスターと同じです。」
一輝はもといた世界で本当にテキトーに作るか、外食で食事を済ませていたため、特に料理をしていたというわけではない。
スレイブについても、ノーネームに来てからメイドの仕事で作ったのが料理初体験のため、最近始めたばかりである。
「それでここまで・・・御二人とも、六本傷で厨房に入りませんか?」
「スイマセン、お断りさせていただきます。」
「では、私も断らせていただきます。」
「そうですか・・・残念です。私は六本傷で副料理長をさせてもらっています。もし気が向いたら、いつでも言ってください。」
本当にがっかりとした表情を浮かべている店主に、観客は言葉を失う。
その後、千切りを終えた選手は、最初の二人のインパクトが高すぎて、凄く居づらそうにしていた。
「では、結果を発表します。一位は、ノーネーム、スレイブ!20ポイントです!」
ノーネームが満点を出したことに、観客から驚愕の声が上がる。
「二位は、ノーネーム、寺西一輝!19ポイントです!」
結果として、上位二つをノーネームが取ることになり、さらには店主があそこまでの反応をしたので、他の参加者も、観客も何もいえなくなる。
ゆえに、その場で声を出していたのは、観客の中にいたノーネームの子供達だけだ。
「残りの順位はこのようになりました。ベッチオさんとエンリーコさんは、料金を支払っていってください。」
よりにもよって一輝たちを笑った二人が料金を支払っていくことになり、その二人は支払うとその場を走り去っていった。
コミュニティに帰ったら盛大に笑われることだろう。
「いや~すっきりした!」
「はい。特にあの二人が支払っていったということが。」
その光景に二人はとっても満足していた。
「では、焼きそばが出来るまでしばらくお待ちください。」
店主はその言葉とともに、調理を開始する。
「一輝さんにスレイブさん、今の何!?」
「どうやて切ったの?」
「皆相変わらず元気だな。一回落ち着け。」
スレイブが困っているので、とりあえず落ち着かせる。
「俺がやったのはカマイタチで切っただけだよ。思いっきり力技だからコントロールが難しいんだけど。」
「私は剣だから、ただ自分の指で切った。」
「へ~。だから包丁でやってるときやりにくそうにしてたんですか?」
「ああ。刃物が刃物を使うことがな。どうしても違和感が拭いきれない。」
そうやって子供達と話していると、焼きそばが届いた。
「はいよ!自信の一品召し上がれ!」
「ありがとうございます。にしても・・・凄い量ですね。」
「ま、子供達にも手伝ってもらうんだな。あと、これはあんな失礼なやつらがいたことへの侘びだ。」
というと、店主はコロッケを大量に渡してくる。
「いいですよ!あいつらが悪いだけで、店主さんは関係ないんだし、」
「いや、このゲームの主催者は俺だ。この責任の一部は俺にある。」
「・・・解りました。では、遠慮なく。」
一輝はそれを受け取ることにした。
「後、店主さんじゃなく、名前で呼んでくれ。これからも会うことになりそうだしな。」
「同盟のこと?」
「ああ。その関係で、会う可能性はあるだろ?」
「戦う側と後方側・・・可能性は低いけど、あることにはあるか。」
「そういうこった。俺はボノ。これからよろしく。」
「ああ、よろしく。」
握手をすると、ボノは露店のほうに戻っていく。
「さて、焼きそば食べたいやついるか?」
一輝の質問に、子供全員が手を上げる。
「一人で一パック食うと晩飯が食えなくて怒られそうだし・・・二人で一パックな。箸はこっから持ってけ。」
子供達が持っていくが、それでもかなり余る。
「では、私たちもいただきましょう。」
「だな。「いただきます。」」
二人は同時に一口目を食べ、
「「美味しい・・・」」
そのまま一気に一パックを食べきった。
「いや~うまかった。」
「はい。あの人はかなりの腕前ですね。」
だが、それがまだ大量にある。
一輝はこの現実から軽く目をそらし、スレイブの口元を拭っていた。
《こういうところは見た目の年齢と合致するんだよな・・・》
「あ、ありがとうございます。」
「いいよ、これくらい。」
スレイブは顔を真っ赤にして一輝にお礼を言う。
そのまま無言の状態に入り、気まずくなったところで助けが入った。
「あら、一輝君じゃない。」
「よう、飛鳥。それに耀も。ゲームのほうはどうだったんだ?」
「ガロロさんのせいで中途半端。」
耀は少しご立腹だった。
そして、そのまま視線を一輝の横、スレイブがいるのとは逆に向け、
「それは?」
「ん?ああ。さっき参加したゲームの賞品。かなり美味しいけど、食べる?」
「食べる!!」
耀は早速一つ目を幸せそうな顔で食べだす。
「飛鳥も食べたら?ホント、信じられないくらい美味しいぞ。なあ?」
「ええ。食べないのは、もったいないです。」
「そうね・・・じゃあいただくわ。」
「残り全部どうぞ。」
一輝は二パックだけ取ると、残りを全て二人に押し付け、スレイブとともに次の露店へと目指していった。
背後から聞こえてくる、飛鳥の声を無視して。
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