問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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破滅の抜け道 ①
「じゃあまずは・・・この子からかな?」
ヤシロの持つ魔道書のページが一枚飛び、紙を中心に魔方陣を描く。
「そんな風に召喚するんだ?」
「うん。破滅の物語って暗い子が多いから、この中に引きこもってるんだ。」
そんなやり取りをしている間にも召喚は完了した。
出てきたのは黒い少女に真っ黒な羽が生え、顔にはギラギラと輝く複眼が二つだけ。
黒い長髪は触手のようにうごめき、腕の代わりに虫の足が六本。頭からは触覚が二本生えている。
「キモッ!」
「何なのよ、あれは!」
「人と蛾を足して二で割った・・・といったところでしょうか?」
三人の感想はこうだった。一見冷静そうに見える鳴央だが、実際にはものすごい震えているのでそうでもないだろう。
「まさかとは思うけど・・・破滅の物語って全部あんな感じなのか?」
黒い羽で飛び回っている蛾人間(?)を指差しながら一輝は問う。
「それはさすがにないよ。あんな感じの子もまだいるけど。」
「あんなのがまだいるの・・・?」
音央が露骨にいやそうにする。
「うんっ。あの子は三つのロアを足してあんな感じになってるけど、他の子は単体であんな感じかな。」
「三つと言いました?」
「そうだよ。倒せたらなにを足したのか教えてあげるねっ。」
魔王とのゲームだというのに呑気に話をしている。
気楽過ぎるだろ・・・
「さて、二人はあれと戦える?」
「「無理。」です。」
「だよな・・・行ってきます。」
一輝は足元に水を送り、蛾人間のほうに飛んでいく。
「えっと・・・こんにちは?」
「――――ッ!!」
「おわっ!!」
一輝が挨拶をすると、回答として触覚の間から電撃を放ってきた。
「少しぐらいはしゃべってくれませんかね!」
一輝の言うことを無視して電撃を放ち続けてくる蛾人間に、一輝は電撃を操って盾にし、攻撃を防ぐ。
「――――ッ!?」
「隙あり!」
蛾人間が驚いたので、一輝はためた電撃を撃って蛾人間の動きを止め、
「これで終わりっと。」
ただの日本刀で一刀両断にして倒した。
「へえ・・・一応、由緒正しいロアを中心にしてたんだけど役不足だったみたいだね。」
「まあ、相性が最悪だったのもあるけどね。で?あれはなに?」
一輝はバトル開始前に言っていた正体について聞く。
「『モスマン』と『飛行する魔女』、『サンダーバード』だよ。」
「それであんな見た目になったのね・・・」
「実際に人と蛾が混ざっていた、というわけですか・・・」
「ってか、サンダーバードの要素が電撃しかねえ・・・」
他の二体は見た目に出ていたが、攻撃には出ていなかったので問題ないだろう。
「さて、次はこの子にしようかな?」
魔方陣が展開し、新しい破滅が出てこようとする。
次に出てきたのは・・・
「さっきよりはマシだが・・・」
「それでもやっぱり・・・」
「気持ち悪いですね・・・」
三人がこんな感想を漏らすのは、人くらいの大きさで全身が毛に覆われており、背中にトゲ、鋭利な爪、赤い目を持つトカゲ。これは、一輝にも正体がわかった。
「『チュパカブラ』の群れかな?」
「正解だよ、お兄さん。南米あたりで目撃されてる未確認生命体だね。」
「なんだか・・・外国の化物ってわかりやすいのが多いのね・・・」
「日本だと、地味なのに強い、というのが多いですから・・・」
一輝の妖怪たちは強いやつらもいるが、数としては弱いやつのほうが圧倒的に多い。
「で?また俺が行く?」
「そうして欲しいんだけど・・・それをやってると出番がなくなりそうね。」
「ですね。というわけなので私が行きます。」
今回は鳴央が行くようだ。
「多対一でいいんだ?」
「全員に活躍の場は与えないとね。本当に危なくなったら行くけど。」
いまだに敵同士でありながら呑気に話す二人である。
もう少し警戒心を持てよ、お互いに。
「『奈落の穴』」
鳴央は自分の周りに小さな黒い玉をいくつか作り、半分ほどチュパカブラに向ける。
バカみたいに真正面から突っ込んできたやつらは消え、それを見たやつらは攻撃できずにその場に残る。
「これは・・・また相性が悪かったかな?」
「みたいだね。あの子達は特殊な攻撃とか出来ないから。」
相手が警戒していてはどうしようもないと判断したのか、群れの周りに黒い玉を大量発生させ、動きを止めていた。
そしてそのまま、『奈落の穴』の輪を小さくしていき、チュパカブラは全て消えた。
「ふう・・・終わりました。」
「お疲れ様。いやあ~圧倒的だったな。」
「そうね。まったくあせらずに対処する姿は綺麗だったし。」
破滅陣営、二体とも惨敗である。
「お兄さんも鳴央お姉さんも強いね!私の物語がここまで圧倒されるとは思ってなかったよ。」
「このまま、何の問題もなく行けると楽でいいんだがな。」
「ですね。ところで、一つ質問いいですか?」
「ん?内容によるかな。どんなこと?」
鳴央は今チュパカブラたちとやって何かに気がついたのだろう。それについてきいた。
「あなたの仲間・・・物語たちは、自我をもっているのですか?」
「いや、それぐらいはあるだろ。なあ?」
「ええ。じゃないとあんなふうに警戒するわけがないし。」
鳴央の質問に対し、一輝と音央は否定的発言をする。
だが、ヤシロの回答はどちらでもあり、どちらでもなかった。
「うーん・・・持ってはいるけど、持ってないって感じかな。皆破滅の属性が強いからその辺曖昧なんだよね~。」
「そうですか。だからあんなふうに消えるときにもおとなしかったのですか?」
「うん、そうだよ。中には強い自我をもってる子もいるけど、基本あんな感じ。」
一輝と音央は一切納得していないが、鳴央は納得したようで話が終わった。
「よくわからないけど・・・まあいいわ。次は私の番ね。」
「順番せいになったんだ。」
「そういうわけじゃないけど、一回ずつぐらいは一人でやってもらおうかと。」
この後は全員でかかっていく気なので、一対一(?)はラストだ。ラストの予定だ。
「じゃあ、面白そうだし、この子にしようかな。」
魔方陣が展開し、輝くが・・・
「・・・え?どこにいるのよ?」
何も出てこなかった。
「ヤシロちゃん、失敗?それともサボタージュ?」
「ちゃんといるよ。」
「目に見えないくらい小さいとか?それとも・・・」
ドドドドドドドドドドド!!
一輝の言葉の途中で大きな音とともに地面が揺れ、ヤシロはそのまま立ち、音央は羽を生やして飛んだ。
「きゃっ!」
「おっと。」
一輝はバランスを崩しながらも、倒れそうになる鳴央を支える。
「あ、ありがとうございます。」
「無理に立とうとするなよ。まだ続きそうだから。それより・・・」
一輝は頬を赤く染めている鳴央を支えながら、地面を見る。
「地下にいるってことであってる?」
「うん。そろそろ出てくるんじゃないかな?」
ヤシロの言うとおりだったようで、地面の一部が盛り上がり、怪物が出てくる。
「ちょ、なによあれ!!」
音央の指差す前で、さらに三体の怪物が出てくる。
それは、口には鋭利な牙がびっしりと生え、赤くてブヨブヨした巨大な・・・ミミズだった。
「あんな気持ち悪いの、嫌よ!」
「それは全員同じだな。やるって言った以上、頑張りましょう。」
「代わってあげようって気は無いの!?」
「無いな。」
「ありません。」
「何でよ!!」
「「気持ち悪いから。」」
即答である。
間違いなく、あんなのと戦おうという人はいないだろうから、こうなって当然だろう。
「ああもう、分かったわよ!やればいいんでしょう、やれば!」
音央はやけくそ気味に飛び掛っていく。
「そうそう、あれ、モンゴリアンデスワームっていうから。」
「そんなことどうでもいいわよ!!茨の檻!!」
音央は怒りのままに茨の鞭を放つが・・・
「ブヲオオオオオオ!!」
気持ち悪い雄たけびとともに口から火を放ち、焼ききってしまう。
「うそっ!」
「ブヲオオオオオオ!!」
「ブヲオオオオオオ!!」
音央が驚いているすきに、残りのやつらが電撃と毒を放つ。
「マズッ!」
音央は反応しきれず、目を瞑り衝撃に耐えようとするが・・・
「・・・あれ?なんで・・・」
いつまでたっても衝撃がこず、むしろ何かに支えられている。
気になって目を開けると・・・
「一応聞いとくけど、なんとも無い?」
「!!、!?」
音央の目の前に一輝の顔があり、自分はお姫様抱っこで抱えられていた。
一瞬で音央の顔が赤くなる。
「あ、ありがとう・・・」
「羽、溶けたみたいだから当分出ないぞ。おとなしくしてるように。」
「それはいいけど・・・は、早く下ろして!」
「下が毒まみれだからむり。そういうわけだから、少しおとなしく・・・」
といいながら一輝が音央の顔を見ようとするが・・・
「こっち見んな!スリーピングビューティー!」
「イテエ!地味にイテエ!」
音央の茨で顔をぐるぐる巻きにされ、見えないようにされた。
「これ外せ!何も見えん!」
「いいのよ、見えなくて!」
「バランス取れなくて落ちるから!毒の中に落ちるから!」
「・・・絶対にこっち見ないでよ・・・」
音央はしぶしぶといった様子で茨を解き、一輝は躊躇い無く音央のほうを見る。
「って、みんなって言ったでしょう!」
「気になったからな。にしても、オマエ・・・顔赤くね?熱でもあるか?」
「無いわよ!」
そんな感じでラブコメをしている間に、毒はきえ、それで死んだらしいモンゴリアンデスワームの死体が転がっていた。
自滅である。バカだろ・・・
「ふう・・・終わった。」
「早く下ろしなさい!」
「はいはい。」
一輝はさっさと下に降り、音央を下ろす。
「お二人とも、お疲れ様でした。」
「俺は音央から受けたダメージしかねえよ。何で仲間から攻撃受けてんだよ・・・」
「うっさい!あんたが悪い!」
「ええ・・・」
一輝はなぜ自分が悪いのか分からず、納得できないようだ。
女三人は納得しているようだから、聞くことも出来ない。
「まさかラブコメしながら倒すとは、思って無かったよ。」
「ラブコメしてないわよ!」
音央は主張するが、この場では無意味だろう。
「さて・・・ここからは同時に何体も召喚してもいいのかな?」
「こっちに合わせてくれてありがとう。もういいよ。」
音央はたいした活躍が出来ていないが、この後してくれることだろう。
「じゃあ、いっきにいくよ?」
ヤシロの周りで魔方陣が大量にに発生し、その場を破滅が満たした。
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