問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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魔王とティータイム
「こんにちは、お兄さんにお姉さん達。まずは自己紹介かな?」
少女は一輝たちが固まっている前で、にっこりと笑いながら言う。
この状況で話し掛けてきた以上、誰なのかは想像がついていたが、一輝はその歳相応の笑顔に警戒心を解き、自己紹介を始めた。
「ノーネームの寺西 一輝だ。んで、こっちの二人は」
「同じく、六実音央。」
「同じく、六実鳴央です。」
だが、メイド二人は警戒心を解いていなかった。
「で?なんとなく想像はつくけど、君は?」
「へえ、想像がつくんだ?」
「ここに来た目的と被りそうだからね。」
「そっか。私はヤシロ=フランソワ一世。“ノストラダムスの大予言”の主人公です。」
その言葉に、メイド二人は警戒を強めたが、解ききった一輝はそうでもなかった。
「どう?予想は当たった?」
「面白いぐらいにどんぴしゃだよ。えっと・・・ヤシロちゃん、でいいのかな?」
「うん、それでいいよ。」
「じゃあヤシロちゃん、席も一つ空いてるし、お茶しながら少し話さない?聞きたいこともいくつかあるし、ケーキに紅茶もあるから。」
「一輝さん!何を呑気なことを言っているのですか!」
「じゃあ、私も聞きたいことあるし、お言葉に甘えようかな。」
「なんでそっちも乗り気なのよ!」
のんびりしている二人にメイド二人が突っ込む。
音央は・・・よく魔王相手に突込みが出来たな。
「まあまあ。ペストみたいなパターンならすぐにバトルだが、今回はそうでもないみたいだし。それに、あんなふうに笑うやつにまず刀を向けるってのは無理だ。」
「それは・・・解らなくもないけど・・・」
「この様子を見てもそうですよね・・・」
一輝の横に座っているヤシロは、頬に手を当てながら「おいしー!」と足をばたつかせている。
二人も一輝の言うことに納得したようだ。
「さて、質問タイムに入ってもいいかな?」
「ハム、ムグムグ・・・うん、食べながらでよければ、だけど。」
ヤシロは唇の横にクリームをつけた状態で笑いながら許可する。
なので、一輝はそのクリームを拭ってから質問を開始する。
「本当に子供にしか見えないな・・・。まず一つ目に、神隠しのゲームを設置したのは本当にヤシロちゃんなの?」
「ありがとうっ。うん、そうだよ。」
「理由は?」
「そうだね・・・色々有るけど、一番の理由は二人に私の仲間になってもらうためかな。」
「普通に誘うんじゃだめだったのか?」
「うん。私のコミュニティに入ってもらう・・・物語になってもらうには、破滅の属性がないとだめだから。」
「破滅?そういえば白夜叉もそんなことを・・・」
「白夜叉お姉さんから聞いてるんだ?」
「たいした事は聞けてないから、説明をしてもらえると助かる。」
「そっか。じゃあ簡単に説明すると、あのゲームは誰かにクリアされても主催者側の勝利でも音央お姉さんか鳴央お姉さん、もしくは両方に破滅の属性が付く予定だったの。」
「そんなふうになってたんだ?」
「うん。プレイヤーの生贄によって開放されれば、村一つを犠牲に開放された、という形で二人に破滅の属性が、どちらかが死ぬことによって終了すれば、絶望から破滅の属性が付くはずだったの。けど・・・」
「俺が想像しなかった方法で開放してしまった?」
「そう。だから前からどんな人か興味があったんだけど・・・」
「会ってみてどうでした?」
「優しいお兄さんって感じがする!」
笑顔でそういう様は、もう何度目かわからないが魔王には見えない。
ちなみに、あの終わるタイミングを決められるルールも破滅の属性を与えるためのものだ。
自分を助けた人を殺す、そのための時間だ。
「そりゃどうも。じゃあ次に、俺の話が破滅の物語ってのは?」
ヤシロは一輝の過去話に対して『とっても悲しい、破滅の物語』と言っていた。
そこについての質問だろう。
「うーん・・・それについて答える前に、こっちからも質問いい?」
「こっちから聞いてばっかりだったな・・・どうぞ。」
「じゃあ、お兄さんはその後どうしたの?」
「その後、とは?」
「大切な人たちの埋葬をした後だよ。」
「ああ、そこか。あの後はどこから聞きつけたのか政府の人たちが来た。」
「なにをしに?」
「一つ目に、ご神体を回収しに来た。」
「ご神体?」
「ああ。大体のご神体は強力な武器だから、頭首がいなくなり、他に奥義を窮めたものがいない以上持つ権利はないって名目のもとにな。ついでに、全く同じ名目のもとに苗字を取られたから、母さんの旧性の寺西に変えた。」
「で、お兄さんは渡したの?」
「いや。ちょうど神社が倒壊してたからあんなかにあるって言ってちょろまかした。」
「うわお。」
「なんか、嫌味ったらしく言ってきてむかついたからな。」
「それで逆らったんだ?」
「そういうこと。たぶん、いまだに必死になって探してるんじゃないかな?
俺の一族のはそれだけの価値があるものだし。」
一輝の言葉に、警戒して話に参加してこないメイド二人はジト目を向け、ヤシロはこらえきれずに吹き出した。
「あはははっ。お偉いさんがありもしないものを探す・・・面白い光景だねっ。」
「笑いをこらえるのに必死だったよ。んで、二つ目は俺を保護するって名目で思い通りに動く強い陰陽師を作ろうとしてたな。」
「そっか・・・親も住むところもなくなったのを利用しに来たんだ。それはどうしたの?」
「白澤を殺した分の報酬が、三十年は遊んで暮らせるレベルのものだったから、それを見せて無視った。」
「そんなにあったんだ?」
「霊獣殺しの報酬は本当に桁が違ったな。妖怪であれに近い値段になるのは、白面金毛九尾の狐とかダイダラボッチみたいに神としても見られてるものや、是害坊みたいに国最強の称号を持つもの、あとは、神様でも殺せばそれ以上の値段になるかな。」
「神様を殺してももらえるんだ。そのあとは?」
「一週間は暗かったけど、妹が生きてるかもしれなくて、会ったときに兄がこんな状態ってのはどうなんだ?と思い、普通にすることにした。」
「そっか・・・妹さんが、か。でも、それくらいならどうにかなるかな。」
ヤシロは二つ目のケーキを食べながら自己解決する。
「私が言ったのは、家族を殺されて、その殺した相手を全て、その手で殺す。これは立派な破滅の要素だってことだよ。」
「そうなんだ?」
「うん。後はそのまま絶望して目に付く人を殺して回るーとか、善悪関係なく全ての妖怪を殺すーとかの要素があれば完璧なんだけど、それぐらいはどうにでもなるからね。」
「それで破滅の物語か。」
「そういうこと。で、物は相談なんだけど・・・皆、破滅の要素を持ってるんだし、」
一輝たち三人は、流れから次の言葉の予想が付いていた。
「私のコミュニティ、“ルインコーラー”にこない?」
「「「断る。」」」
だから、即答が出来た。
「うわお、即答だ。」
「一応、俺はヤシロちゃんを倒すぞーって息巻いてきたわけだし。」
「私たちはあのゲームについてかなりうらんでるし。」
「そちらのコミュニティに行くわけがないじゃないですか。」
ヤシロは解りやすくがっかりする。
「なら仕方ないか。質問はもう終わり?」
「うん、後はヤシロちゃんを隷属させてからでいいかな。」
「じゃあ、はじめようか。私の隷属とお兄さん達のコミュニティ参加を懸けてのギフトゲームを。」
ケーキを食べ終えたヤシロちゃんはいすから降りながら大きな本を取り出す。
「それは?」
「ノストラダムスの預言書。私の魔道書だよ。」
ヤシロが本を開くと、ページが飛び、黒い輝く契約書類となる。
『ギフトゲーム名“破滅の抜け道”
・プレイヤー一覧
・寺西 一輝
・六実 音央
・六実 鳴央
・ホストマスター側 勝利条件
・プレイヤーを破滅へと導く。
・プレイヤー側 勝利条件
一、少女を破滅から救い出す。
二、全ての破滅を退ける。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“ルインコーラー”印』
「さあ、破滅の物語を始めましょう。」
一輝たちにとっては二度目の、魔王とのゲームが始まった。
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