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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手、変態に出会う

「「「「ムシャクシャしてやった。反省はしていません」」」」
「黙らっしゃい!というか、せめて反省しなさい!!」

 皆で決めていた台詞を言ったら、黒ウサギさんのハリセンで思いっきり叩かれた。痛い・・・

 黒ウサギさんがここまで怒っているのには、もちろん理由がある。
 それは、僕たち三人があのクズタイガーにギフトゲームを挑んだことだ。

「というか、何で奏さんまでそちら側なのですか!?貴方は止める側でしょう!」
「いや、今冷静になって考えてみればそうなんだけど・・・あの状況では無理です。さすがにイラッと来たし、その賞品に納得してしまいます」
「確かにその気持ちは分かりますが・・・でも、この賞品で得られるのはただの自己満足です。彼らの罪は、時間さえかければ必ず暴かれるのですから」

 うん、その自覚はある。
 だって、彼らが認める罪とは、彼らが女性や子供を人質を取って旗印をかけたゲームを強制していたこと。そして、その人たちを、既に殺していることだ。
 さらに言うなら、バレないようにとその死体を部下に食わせていた。本当に、クズのやることだ。

「確かに、黒ウサギの言うとおり時間さえかければ全て暴くことが出来るわ。でも、それはあくまでも時間をかければ、の話よ。あんな外道のためにそんな時間はかけたくないの」

 それに、箱庭の法律は箱庭でのみ通用するものだ。そんな悠長なことをしていれば、裁く前に箱庭の外に逃げられてしまう。
 あんなクズが裁かれず、悠々と生きているなど許せるはずもない。

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々なんかより、」

 なんかって言った!?今なんかって言った!?道徳は大切だよ!

「あの外道が私の視界に入るところで野放しにされていることが許せないの。ここで逃がしたら、いつか報復しに来るに決まっているもの」
「それに、また新しい被害者が出るはず。これ以上、子供が殺されるのは避けたいんだ」

 まだ未来がある子供達が殺されるなんて、あっていいわけがない。
 まあ、僕もまだ子供なんだろうけど・・・高校に入ったばっかりだし。

「黒ウサギ、僕もガルドを逃がしたくないって思ってるんだ。これでも僕はコミュニティのリーダーだし、ノーネームには子供もたくさんいる。彼のような悪人を野放しにしておけない」

 ジン君も同意見であることを示したことで、黒ウサギも諦めたように頷いた。

「はぁ~・・・まあいいでしょう。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし、“フォレス・ガロ”程度であれば十六夜さん一人でも、」

 うん、僕も彼一人で行けると思うよ?でも、彼らは問題児で独自の価値観を持っているわけで・・・

「念のために言っておくが黒ウサギ、俺は参加しねえぞ?」
「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」
「やっぱりこうなったか・・・まあ、僕も飛鳥さんと同意見だけど」

 まあ、この場でこの意見を言う僕も黒ウサギさんには悪いな、と思う。
 でも、フン、と鼻を鳴らしてる二人ほどじゃないと思うんだ。

「だ、駄目ですよ御二人とも!御二人はコミュニティの仲間なんですから、協力していただかないと」

 やっぱり、僕のことを忘れるくらいに二人の態度が気になってる。
 まあ、予想はついてたんだけど・・・悲しいものがあるな、これ。無視されてるみたいで・・・

「奏さん?どうかしましたか?先ほどから心ここにあらず、という様子ですが・・・」
「あ、大丈夫。大丈夫だから気にしないで。で、話は終わったの?」
「はい。今から皆さんのギフトを鑑定していただくために“サウザンドアイズ”というコミュニティに向かうところです」
「うん、分かった。話聞いてなくてごめんね?」
「いえ、どうぞお気になさらず。あの問題児様がたのようにだけは、決してならないで下されば、それで・・・」

 なんだろう、まだ一日もたってないのに黒ウサギさんが一か月分くらい苦労したように見える・・・

「うん、朱に交わっても赤く染まらないよう、頑張るよ」

 そう言いながら、勝手に進んでいく問題児達を指差す。

「あ、皆さん!勝手に行かないでください!そちらではありません!!」

 黒ウサギさんが何とか三人を連れてくる。今度こそ目的地に向かえるかな?

「もう!なんで貴方達は勝手に進んでいくのですか!」
「「「だって、そこに道があるから」」」

 そんな山みたいな理由で!?

「はぁ・・・もういいです、諦めました。では、サウザンドアイズに向かいましょう」

 黒ウサギさんはそう言いながら僕たちを先導していく。
 さて、サウザンドアイズに向かいながら道脇を見ると、そこには街路樹が植えられていた。異世界でも街路樹って植えてるんだな。

「にしても、きれいな桜だな~。僕のいた世界では、咲くまでもう少しかかりそうだったけど」
「いえ、少し花弁の形が違うわ。それに、もう真夏じゃない」
「いや、まだ初夏になったばかりだ、気合の入った桜が残っててもおかしくないだろ」
「・・・?今は秋だったと思うけど」

 あら?何故全員の意見が食い違うんだ?一人くらいなら勘違いで片付けるんだけど。
 そんなことを考えていると、黒ウサギさんが笑いながら説明してくれた。

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのです。なので、時代以外にも歴史や文化、生態系など違う箇所が多々見つかるはずです」
「へぇ、パラレルワールドってやつか?」
「近いですが、正解ではありませんね。正しくは立体交差世界論とうのですが、」
「奏、ちょっといい?」

 黒ウサギさんが説明している途中で、春日部さんが後ろから小声で話しかけてきた。
 なんだか、召喚された世界のことを聞いた辺りから思案顔だったんだけど、どうかしたのかな?

「うん、いいけど。どうしたの?」
「ちょっと気になることがあったから、確認しようと思って」
「それって、湖で言ってた勘違いのこと?」
「うん、それ。じゃあ、いい?」
「どうぞ」

 さて、一体どんな質問が来るのかな?

「奏って、もといた世界で『奇跡の歌い手』って呼ばれてなかった?」
「・・・はい?」

 いや、呼ばれてたけど・・・なんで春日部さんが知ってるの?

「呼ばれてないなら、それでいいんだけど、」
「あ、いや。呼ばれてたよ。でも、なんで春日部さんが」

 その呼び方を知ってるの?そう聞こうとしたら、

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」
「きゃあーーーーー・・・・!」
「何があった!?」

 ちょっとそれどころじゃなくなった。
 僕と春日部さんは二人で水路のほうへと歩いていき、和服の幼い少女に抱きつかれて水路に落ちている黒ウサギを見た。

「し、白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 ・・・あれ?勘違いじゃなければ少女がおっさんっぽいことを言いながら黒ウサギさんにセクハラしてるぞ・・・それに、今黒ウサギ白夜叉“様”ってよんだよな・・・こんなのが結構偉い立場だったりするのか?

「離れてください!」

 あ、白夜叉・・・さん投げられた。
 で、その先では何か逆廻君が足を構えてるし・・・まさか・・・

「てい」
「ゴバァ!お、おんし、飛んできた美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 蹴ったー!何のためらいもなく蹴ったー!
 それと白夜叉さん!確かに美少女なのは認めるけど、自分で言うのはどうかと思うよ!

「さて・・・大丈夫、黒ウサギさん?」
「はい・・・ありがとうございます奏さん・・・」

 黒ウサギさんに手を差し出すと、それをつかんで水路から上がってきた。
 どう聞いても元気がない声だな・・・多分、これからも苦労していくんだろうな。

「はい、タオル。なんというか・・・頑張って」
「はい・・・頑張ります・・・」
 
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