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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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24話

旧市街西側にある商店街には非合法な商品を扱う違法店が軒を連ねる。営業許可を取っているのかどうなのか。
とはいえどれも外から見れば寂れた古い店にしか見えず儲かっているようには見えなかった。
その一つにテスタメンツの溜まり場になっているトリニティという店に入る地下へ続く階段があった。
階段は汚らしく導力灯もないため薄暗い。ほかと変わらず外側からは寂れた印象を受けたが、扉一枚隔てた内部に入ってみると内壁はコンクリート打ちっ放しのままであったが、清掃が行き届き不快感を与えず、黒を基調とした落ち着いた雰囲気が店内に広がっていた。
カウンターといくつかのテーブルとビリヤード台があるだけだが、そこそこの広さもあり市内にあっても良いほどの洒落た酒場だった。

「良い雰囲気ね」

「おっ、ビリヤードじゃねえか、プールバーってやつだな。良い趣味してんな。これで酒も美味けりゃ良い遊び場になるな」

あまりこういう店には縁のないロイドとティオはランディやエリィと違って寂れた旧市街には似つかわしくないほど小奇麗でちゃんとした店だなと思うだけでこの立地で客が来るのだろうかと余計な心配をしてしまった。
入り口で店内の様子を観察しているとビリヤード台でなにやら作業していた連中、ワジに付き従っていた禿の大男と店にいた不良少年たち全員がこちらに気付いて武器を持って駆けつけてきた。

「何の用だ」

問いかけた巨漢の男の周りには棒状の武器、急いでいたので手近な武器としてビリヤードで使うキューや作っていたいろんな粉末を混ぜた小瓶をスリングショットで打ち出そうと向けてきたテスタメンツのメンバーが敵意を向けてくる。

「警察の犬が何のようだ。返答次第じゃただじゃおかないぞ!」

敵意を向けてくるのは想定通り。とにかく冷静に受け流して話せるように持ち込むことに。

「営業中みたいだから邪魔させてもらうよ。ちょっと話を聞きたいのだけど」

「何をぬけぬけと」

「飲み物の注文よろしいかしら?喉が渇いてしまって。その間ぐらい、穏やかに、お話を聞かせてもらえないかしら?」

さっきの借りを返すと息巻く不良たちをエリィが戦う気はないと軽くいなすと戦う意思はないと見抜いた禿の男はメンバーを抑えようと制止する。

「ここは聖域だ。雑音を立てるな。全てはワジ次第だ。ワジ、どうする?」

ロイドたちはテスタメンツと睨み合っている間ずっと球を突く音が聞こえていたので、その音の方向を、禿の男が振り返った後ろのビリヤード台を見ると一人ゲームをしているテスタメンツのヘッド、ワジがいた。

「良いんじゃない。アッバス、通しちゃって」

その気のない一言だけで殺気立った不良たちの殺意は消え包囲を解いてさっと道を開けた。
その様子は教主の言葉に絶対服従する信徒のようで本当に宗教かぶれで妙な感じだった。
その間を通り、なんとか戦わずに済み、リーダーと直接話せるので第一段階通過だと息を吐きつつワジのいるビリヤード台に近付く。

「で?何しに来たの?腰抜けの警察の犬はお呼びじゃないって言ったんだけどな」

面倒臭そうなワジはロイドたちを見もせず、気にせず球を突いて見事ポケットに入れていた。

「こっちには用がある。捜査に協力して欲しい」

「ふーん。バイパーとの決着なら止めるつもりはないよ。住民には迷惑だろうけど我慢して貰うしかないよ」

「別に君たちの争いを止めに来たわけじゃない。本気で潰し合おうとしている理由を聞きに来た」

その言葉を聞いてこれまで正確無比なショットでポケットしていたワジが初めて外し、こちらを向いた。

「その様子だと何かあるみたいじゃねえか」

どうやらロイドの推測が当たったようだなと得意気な笑みを浮かべるランディの言葉を無視してワジはキューを置くとロイドに詰め寄った。

「それ知ってどうするの?君たちが何かしてくれるわけ?」

ワジの苛立たしげな冷たい視線が、そして店内の視線全てがロイドに集中する。それを真っ向から受け止め答えるロイド。

「理由を知っても君たちに協力できるとは限らない。遊撃士じゃないから加勢するわけにはいかない」

「お話にならないね。見返りなしに情報だけ引き出すつもりかい?取引にならないよ」

興味をなくして、リャン、君の番だよと言ってゲームに戻ろうとするワジ。

「いや、見返りならあるよ」

「え」

「捜査官の仕事は闇に埋もれた真実を明らかにして人と社会に光をもたらすこと。俺はそう教えられた。もし君たちが、ほんの少しでも疑念という闇を抱えてるのならそれを晴らす手伝いはできると思う。それが俺たちが提供出来る見返りだ」

ただ話が聞きたいというだけなら協力しないだろうということは分かっていた。こちらが取引に使える手札はほとんどないと言って良い。
両グループから話を聞くためにも加勢するわけにはいかない。遊撃士のように両方相手にしても負けず、仲裁出来る力もない。
真実を明らかにすることだけが、警察の捜査官として立場と意思が合致する唯一取引に使える手札だった。
だから抗争の理由に疑念があることに賭けたのだ。
ロイドとしては仲裁のための方針通り、自分たちが取れる唯一にして最大の手段を提示して話が聞けるように交渉しただけで、もちろんいつもの癖で全力で真剣になると兄貴ならばこう言うだろうとそれが物凄く臭い台詞になってると気付かないまま相手に伝えただけなのだが。
それを聞いたワジは大笑いした。

「いいね!すごくいい!そんなクサイ台詞そうそう聞けないよ!ロイドって言ったっけ!?いや~、気に入っちゃったよ。アッバス、飲み物出してやって、僕の奢りだから代金はいらないよ」

ワジが笑いを抑えきれない様子で飲み物を出すように指示するとアッバスと呼ばれた大男はすぐにカウンターに戻り、カクテルを出そうとしている。
ロイド以外の3人は笑ったかとピリピリした空気がワジの笑いで入れ替えられたことで、交渉は成功だなと安心した。
早速その空気に乗ったランディが酒を物色し始めた。

「おっ、結構良い酒があるじゃんか、冷えてるのあるか?」

「ランディ、職務中だぞ。喉が渇いてるなら水にしてくれ」

「じゃあ水を4人分、氷も入れてくれ」

タダで酒が飲めるところだったのにと不満に思いつつ支援課としてはジオフロント以来何も口にしていないし、今更何か入れて来るとも思えないのでエリィが言ったように休憩がてら話を聞くことに。
支援課の4人とワジはテーブルカウンターまで移動してコップに入れた水を貰うとロイドはまだ笑い続けているワジに受けを狙ったわけじゃないと凄んでさっさと話せと促すと、わかったわかったと事情を話してくれることになった。

「アッバス。教えちゃって」

カウンターにいるアッバスはテスタメンツが本気で“潰し合う理由”を説明してくれた。

「事の発端は五日前の夜、うちのメンバーの一人、アゼルが帰宅中に通った路地裏でバイパー共の闇討ちにあった」

闇討ちという言葉に驚く支援課にテスタメンツのメンバーの一人、キューを持っているリャンと呼ばれていた少年があれが喧嘩なものかと吐き捨てる。

「後頭部に一撃食らって倒れたところを滅多打ちだぞ!そのまま病院に担ぎ込んで入院。未だ意識不明だ。敵討ちせずにいられるもんか!」

仲間をやられた怒りを感じて本気で潰し合う理由はわかった。だが犯人も分かっている。疑問の余地がないのである。

「やられた方が意識不明ならどうしてサーベルバイパーにやられたとわかったんですか?誰か現場を見たんですか?」

小さな疑念を感じ取ったティオの質問にテスタメンツの面々が答えられず黙っている。

「誰も見てないのか。状況証拠だけなのか?」

「そこまで短絡的じゃないよ。僕達は知性派で売ってるんだよ。傷跡だよ」

「傷は主に打撲だったが同時に細かい裂傷も目立っていた。我々がよく食らう傷跡だ」

「連中の持ってた釘バッドか。凶器がわかったんじゃ証拠としては決定的だな」

仲間が闇討ちされ凶器はよく知る長年の対立グループの武器。状況的に見れば犯人は決定的だ。

「だが、決定じゃない。そう思ってるんだろう?」

ロイドは和平の可能性に掛けて疑念に思っていることを追求する。

「まあね。ヴァルドの使う手にしてはらしくない感じはする。まあ向こうが本格抗争がしたいから手下が勝手にやった線が濃厚だけどね。アゼルを運ぶために救急車を呼んだら向こうの怪我人も運ぶんで鉢合わせになって、そこから喧嘩、喧嘩でさっきのも見ただろう?あっちがその気なら受けて立つのも面白いと思ってね」

状況が動いてしまったのなら証拠もないので確かめる術もないから理由などどうでも良い。さっきの小競り合いもバイパーから仕掛けた感があり人数もバイパーの方が少し多いので、メンバーの勝手な暴走と考えれば疑念は掻き消えてしまう。

「ありがとう。参考になったよ。サーベルバイパーにも話を聞いて何か分かったら連絡するよ」

「期限は準備もあるから今日一日ぐらいかな。何も分からなかったら血の雨が降ることになるから連絡は準備が整う前にね」

「何も分からなくても絶対に連絡は入れるよ。じゃあ」

事情を話したのも面白いからで喧嘩はやめないよというワジの態度に支援課は絶対に真相を手にして阻止してやると決意を固める。
それは店の隅で青頭巾の不良少年たちがスリングショットで投げつけるために自作の煙幕弾や催涙弾、発煙筒を作ってるのを見ていると本格抗争を起こさせたくないと思わせたからだ。
カウンターに空のコップを置いた支援課はトリニティを出て行った。
外に出ると大体の事情がわかりましたねとティオが個人用端末で次に向かうバイパーが根城にしている場所を調べている。

「まだ結論を出すのは早い。バイパーの意見も聞いてみないと。一方からの情報だけを鵜呑みにすると真相が見えなくなる。証言を擦り合わせていくのも捜査官の仕事だ」

「なるほどね」

ランディが感心しているとティオが情報を出してきた。

「東側の倉庫街にあるイグニスという潰れたライブハウスを根城にしているそうです。大型倉庫を改装したものの利用者もなく所有会社は倒産。そのまま無人のところを占拠ってことでしょうか」

表示された建物が百人は普通に入れる大きさなことから戦闘になるかなと思いつつ支援課は旧市街の東側へ向かった。
 
 

 
後書き
話のわかる不良ワジへの接触。
せっかくビリヤードやってるのだから勝負でもさせれば良かったかも。話術でミスさせて勝つぐらいね。
ワジにとっては眼中になしの支援課が面白い連中だとチャンスはくれる存在に認識される。特にロイドの意思の力は面白い存在だと気に入るのよね。

ビリヤードの相手はリャンにしたけど、テスタメンツは横並びの組織なのでナンバー2はいないのだけど、選ぶなら手先が器用で温厚なリャンなんだよね。
頭が良い分劣等感も強いキーンツや吃音気味のペッセよりもね。とはいえアゼルは実直って感じだし、リャンとアゼルは仲良いのよね。
叔父夫婦の家から家出してるからこそ兄弟の和解を一番に喜んでいたからね。

テスタメンツは家庭でトラブッた家出人が多い。全員帰るべき場所はあるけど、帰りたくないから同じ境遇の仲間たちと過ごすし絆も深い。これはワジも同じで帰るべき場所があるけど居心地良いからいるだけ。
 
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