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Fate/ONLINE

作者:遮那王
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第十九話 覚悟

 
前書き
だいぶ遅れました。
今回は少し長め。

 

 
宝具……。

それは英霊のシンボルであり最も信頼の置ける武器、英雄と共に伝説を作り出した神器、それを極めたからこその英霊であり、意味するものは英霊の最大級の攻撃の発動。

そしてランサーの名が示すとおり彼の持つ宝具は”槍”。

宝具の開放を許されたランサーの纏う空気が変質する。
今までのを清流にたとえるなら、奔流とでも言うべき殺気の放出。

ランサーが持つ真紅の魔槍。

「そんじゃまあ……行きますかねえ!」

ランサーの口角が上がる。
右手の中で槍を回転させ、構えを改めると暴力的な力が流れ始めた。
槍の穂先を中心に、空間が歪んでいる。

「そう言う訳だ……全力で殺しに行かして貰うぜ、お二人さんよ!!」

朱槍を両手で構えるランサーにあわせるようにアーチャー、アサシンも腰を落として構える。

「一人ずつじゃあ間怠っこしい。まとめて片を付ける」

そう言うと共に、ランサーは後ろに飛んで距離をとり、這い蹲るような格好を取った。

アーチャーもアサシンもそれほど距離が離れているわけではない。
ランサーの射程圏内に二体ともいる。

ランサーの四肢は筋肉が膨張し始め、槍に膨大な魔力が宿る。

「(なんて出鱈目な……)」

彼等からやや離れた場所で、アスナはその様子を見つめていた。
あまりにも膨大な力が紅い槍に集まり、その暴力的な力は魔術師で無いアスナにも感じ取れた。

「呪いの朱槍……その真の姿を見よ!!」

言い終わると同時に、全身のバネを使いランサーは地面を蹴り飛び上がった。

「ふむ――――暫し、気を収めるか」
「なに……?」

アサシンはそう呟くと、アーチャーが虚を吐かれた表情を見せた。
アサシンの存在感が薄れていく。
周囲と同化するように、体が透けていった。

「チィ!!アサシンの野郎逃げたか……」

ランサーは毒づくが、槍を止めようとはしない。

今はアーチャーのみを仕留める。
そうランサーは判断した。

ランサーの手の中にある赤い槍はすでに膨大な魔力を纏い、放たれる時を待っている。

「突き穿つ(ゲイ)」

威力を十全に伝える事の出来る地点で、言葉と共にその手に持つ槍を振りかぶる。

「死翔の(ボルク)!!」

怒号と共に、紅い朱槍はランサーの手から放たれた。
まさに必殺の一撃。
解き放たれたランサーの槍は、散弾銃のように無数に分裂しアーチャーに殺到する。

「―――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)」

だが、アーチャー自身も自らを守る術を持っていた。
アーチャーが右手を振り上げ呟く。
そして、

「――――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

叫ぶと共に、アーチャーの目の前に桃色の七つの花弁を持つ花が咲き誇った。
ランサーの必殺の槍はアーチャーの創り出した盾によって防がれる。

アーチャーが創り出したアイアスの盾は、かつてトロイア戦争で第英雄ヘクトールの投槍にも無傷で防ぎきった代物だ。

「……んだと?」

ランサーもこの光景には思わず声を上げずにはいられない。
なにしろ、必殺を誓って繰り出した槍なのだ。
まさか防がれるとは思いもしなかったであろう。

「チッ、まさか止めるか――――――――だが…」

怒鳴る事もせず、ただその行く末を見守るランサー。
周りを暴風が撒き散らす。
ランサーの投擲した槍は、アーチャーの盾の花弁を一枚ずつ破壊していく。

「それでもそいつは―――――――――――――止まらねぇ」

ランサーが呟く。
その言葉通り、槍は花弁を一枚ずつ四散させ、アーチャーの元に届こうとする。

「―――――――――っ……!!!」

無残にも枯らされていく桃色の花。
アーチャーの表情にも余裕がなくなっていく。
殺しきれない真紅の魔槍。

槍はアーチャーの喉元寸前にまで届こうとしていた。

「ぬううううう――――――――――あああああああああ!!!!」

アーチャーの咆哮が木霊した。
全身全霊の力で自らの盾に力を込める。

そして……

----------------------

「―――――――――――――――」

言葉が出ないほどの衝撃。

正直、私は目の前で起こった事を理解する事が出来なかった。

簡単に言うなら、ランサーの投げた槍をアーチャーが盾で防いだ。
という説明になるだろう。

だけど、私が今目の前で見た光景は、そんな言葉じゃ決して言い表せない程の激闘だった。

その証拠に、私の目の前に立つアーチャーは右肩を抑え満身創痍の状態で立っている。

目の前に突き出していた右手は、肩口から赤いエフェクトを撒き散らし千切れる寸前。
他にもあちこちに傷が付いている。

そんな状態になりながらも、アーチャーは槍を防ぎ切った。

―――――――――――――――スタン。

アーチャーの向こうに誰かが着地した音がする。

音の主であるランサーは、ただ目の前にいるアーチャーを凝視している。

「……驚いたな。まさかアイアスを貫通しうる槍がこの世に存在していたとは」
「――――――――――――――」

アーチャーはランサーへと賛辞を送る。
だが、ランサーの方は憤怒の表情でアーチャーを黙って見つめている。

視線だけで人を射殺せそうなほどに。

「貴様――――――何者だ」

怒気が籠って入るが、幾分か冷静さも取り戻した声色で、ランサーが口を開いた。

「君の見立て通り、ただの弓兵だが……」
「抜かせ。たかが弓兵ごときが俺の槍を防ぐほどの盾を持ちだすか」

ランサーの声にまたしても怒気が奔る。

彼の言葉からして、自分の切り札を放ったのだと思う。
それを防がれたら、苛立つのも当然だろう。

だけどアーチャーは、フッと笑い口を開く。

「だが、この様だ。私が持ち得る最強の守りだったのに、腕をやられアイアスも破壊された」
「――――――――――――――」

軽口をたたくアーチャーをランサーはジッと睨みつける。

「だが……それ相応の収穫はあったぞ、ランサー。
―――――なるほど、ゲイ・ボルクか。其れが貴様の宝具……と言う訳だな』

アーチャーの言葉に再び、ランサーの表情に怒気が込み上げる。

――――――ゲイ・ボルク。

確か聞いた事がある。
ケルト神話に登場する伝説の槍だった気がする。
そしてその担い手は……

「アイルランドの光の御子《クー・フーリン》か」

虚空から声がした。
急いでそちらに顔を向ける。

私が視線を向けた場所。
そこには、先程姿を消したサーヴァント……アサシンが立っていた。

「呵々々々、成程。これは思わぬ収穫よ。まさか敵の一体の真名が分かるとは」

笑いながら饒舌に語るアサシン。

だけど、私たちにとっては笑えない状況になってしまった。
アーチャーは満身創痍で、もはや戦える状況では無い。

ランサーには目立った傷も無いし、アサシンに至っては無傷同然。

このまま再び三つ巴の戦いになってしまえば、真っ先にやられるのはアーチャーだ。

「――――――――――」
「…………………………」
「--------------------」

沈黙が続く。
三人が三人とも、無言を貫く。

「――――――チッ」

沈黙を破ったのは、ランサーの舌打ちだった。

「真名を知られたのがアーチャーだけだったなら、そいつだけを仕留めれば良かったが
―――――アサシンにまで知られちまうとはな……」

ランサーが毒づくように吐き捨てる。

「どうするお嬢ちゃん。このままアーチャーの奴を片付けるのは簡単だが――――――」
「呵々々々々、儂をどうする……か」

ランサーが話している所にアサシンが横入りする。
アサシンは至極楽しそうに笑い。不快そうにランサーが顔を歪める。

「儂は、このまま仕切り直して拳を交えるのも良いが……」
「………………」

問いを投げられた、ランサーのマスターである少女は、何か思いつめた表情で三体を見つめている。

「……退こう、ランサー」

彼女は影を落とした表情でそう言った。
ランサーは無表情で少女をチラリと一瞥すると、再び視線を戻す。

「―――――まあ、ここら辺が納め時ってやつか?」

ランサーは少女に答えると、槍を肩に担ぐ。

「呵々々々―――――――仕方あるまい。いささか以上に惜しいが、今宵はここまでが限界か。雪辱は後日の楽しみとしよう」

アサシンはそう言うと、ランサー、そしてアーチャーへと視線を向ける。

「では、次に会い見える時は仕留めさせて貰うぞ」
「戯言を……それはこっちのセリフだ、アサシン」

そう言うと、アサシンはアーチャーへと視線を向けた。
アーチャーは左腕を抑えながらも、直立不動でアサシンの眼を見つめている。

「卦体な技を持っているようだが、その妙技…儂にも通じるか……。貴様ともいずれ闘りあう時を楽しみにしておこう」

アサシンはそう言い残し、空気に溶けるように完全に姿を消した。
気配も完全に消え去り、アサシンはこの場から完全に消え去った。

「………………」
「………………」

この場には私たちとランサーの主従が残っている。

ランサーは槍を肩に担いでアーチャーを睨み、アーチャーは片腕を抑えながらランサーをただじっと見つめている。

そして、ランサーのマスターである少女は、私の眼を見つめていた。

「――――次は倒すから」

少女はそう言うと、

「ランサー」

ランサーを呼び、その場を後にしようとする。

「――――――あの…あなたは…」

私は何を聞く訳でもないが、声をかけてしまった。
何故か問いかけなければいけない気がして。

「――――――サチ」
「……え?」

思わず声を上げる。

「私の名前」

彼女のHPバーの下へ目を向ける。
そこには、ローマ字表記で「SACHI」と書かれていた。

正直、私は彼女に言われるまで名前に気がつかなかった。
この戦いの嵐の中で、少女のHPバーの下にある名前にまでは、気を向けられなかったのだから。

少女はそう言うと、ランサーに抱えられる。

「次は、全力で叩き潰させてもらうぞ」

ランサーはサチの腰に手を回すように抱えると、一瞬でそこから消え去って行った。

アサシン、そしてランサーの主従がこの場から立ち去ると、ドッと私の体が重くなった。
相当力を入れていたようで、膝がいとも簡単に折れ曲がりその場に崩れ落ちる。
同時に、体が空気を求めるように、呼吸が激しくなった。

体に力が入らない。

私は目の前で、人知を超えた戦いを見せつけられたのだ。
その殺気の固まりを目の前で見せられ、そして体中にぶつけられたのだから、足腰が立たなくなるのは当然なのかもしれない。

殺気の籠ったアサシンの拳。
呪われているが如く、気味の悪いランサーの槍。
そしてそれらを不気味なほど冷静に対処するアーチャーの双剣。

思いだすだけで体中に悪寒が走る。
私は、何かから守るように両腕で自分の体を抱きしめた。
体が震える。
歯の根も噛み合わないほど、ガタガタと震えだす。

私は今まで、様々な恐怖を味わってきた。
それでも、今回はそんなものが可愛いと思わせるぐらい激しいものであった。

私はその場から動く事が出来ない。

すると、目の前に誰かが立つ気配がした。
顔をゆっくりと上げると、私のパートナーでもあるアーチャーがいつもと変わらない無表情で私を見ていた。

アーチャーの腕はまだ赤いエフェクトを放っており、回復しきれていない。
それでもアーチャーは、私の顔を見ると苦笑しながら私の前にしゃがみ込んだ。

「酷い顔だな。それではせっかくの美人が台無しだ」

世間話をするが如く軽口を叩くアーチャー。
いつもなら、私が此処ですぐに反論するのだが今はそんな余裕がない。

「―――さて、私達もそろそろ離れるとしよう。何時までも此処にいるわけにもいかないからな」

アーチャーはそう言うと、私に催促した。
確かに此処に居座り続ければ、その分モンスターに襲われる可能性がある。

私は言われるがままに右手を宙に動かして、アイテム欄を探る。
そして目的の物を見つけると、それを取り出し叫んだ。

「転移―■■■――」

-----------------------

ある部屋の一角で、アスナは一人ベッドに腰掛け俯いていた。

本来なら戻った時、部屋着に着替えてすぐに就寝するはずなのだが、その時ばかりは着替える事もせず、戦闘服のままベッドの上で俯き続けていた。

そして、正面の壁には彼女の従者でもあるアーチャーが背中を預け、目を閉じたまま腕を組んで立っていた。
右腕は既に治ったのか、傷一つ無く服も既に直っている。

「―――――――――――ごめんなさい」

ベッドに腰掛けていたアスナの口から、そんな言葉が漏れた。
壁に背中を預けていたアーチャーも、その一言でアスナに目を向ける。

「――――あの時、アーチャーの言う通りにしておけばこんな危険なことなんて起きなかったのに……私、ついカッとなっちゃって、目の前が見えなくなった。本当にごめん」

アスナの口から再び謝罪の言葉が紡がれる。
アーチャーはアスナのその言葉を聞き、表情を読み取ると冷静に語り出した。

「君が謝る事は無い。止めきれなかった私の責任もある」

アーチャーがアスナに慰めにも似たような言葉をかける。

自分にも責がある。
そう、アーチャーは自嘲した。

「でも、私……!」
「それに、悪い事ばかりでも無かった」

私の声を遮るように、アーチャーは再び語り出す。

「ランサーの真名を突きとめる事が出来た。これは今後の戦いでかなり優位に進める事が出来る。まあ、アサシンは良く分からんが。それにあの不気味な男……おそらくはキャスターだろう。真っ当な魔術師には到底見えなかったがな」
「…………」

確かに、あの戦いで私達はランサーの真名を暴く事に成功した。
それは聖杯戦争という戦いにおいては、かなり優位と言える。

だが、それはあくまで結果論。
アスナは、マスターでありながら身勝手な行動をしたせいでキャスターにやられる寸前だったのだ。
それにアーチャー自身も、ランサー、そしてアサシンとの三つ巴の戦いで傷を負った。

これほどの事が一気に襲って来たのだから、アスナは責任を感じずにはいられなかった。

再び視線を床に向けてアスナは黙り込んだ。

「――――ふぅ……マスター、確かに君のした事は褒められるような事ではない。マスターの身でありながらサーヴァントを連れずに動き回ったのだ。正直、自殺行為だった」

アーチャーの辛辣な言葉にアスナはビクリと肩を震わせる。

「キャスターに攫われかけ、ランサーとアサシンとの殺し合い。正直、無事に戻れた事が不思議なくらいだ」

アーチャーは冷静に語る。
その度にアスナは小さく身を縮めていく。

「だが、これは全て私自身の責任でもある」
「……え?」

ビックリとした表情でアスナは顔を上げた。

「事前に詳しく説明していなかったからな。聖杯戦争を甘く見ていても不思議ではない。それに、私も彼らを見余っていた。あそこまで押し込まれるとは思わなかったからな」

アーチャーは自嘲するように言う。

自分が事前に詳しく説明していなかったから。
自分の実力不足だったから。

アーチャーは自らの責任だと、そう言った。

「違う!あれは私がアーチャーの言う事を聞かなかったから。私はアーチャーがいなくても一人で対処できるなんて思ってたから……」

アスナは反論した。
アスナ自身も自分の実力を見余っていた訳ではない。
攻略組でもトップクラスの実力ならば、そんじゃそこらのモンスターにやられる事は無いだろう。

だがサーヴァント相手となると、まさに大人と子供のような力関係になってしまう。

アスナも、サーヴァントを手に入れた者は全員が全員、皆攻略に力を入れる訳ではないだろうと覚悟はしていた。

だけど、今回の戦いで覚悟が甘かったと叩きつけられた。

純粋に聖杯を求めるものもいれば、急に大いなる力を手に入れ我が物顔で虐殺を楽しむものもいる。

ゾッとするような現状にアスナは再び顔を俯かせた。

「マスター、今回の戦いで分かっただろう。サーヴァントはただの便利な相棒ではない。殺し合いをする為の剣でもあり盾でもあるのだ」

アーチャーは諭すようにアスナに言う。

「もし、君がこの戦いに耐えきれないと思ったのならその令呪を使え」
「……?」

アスナはアーチャーが何を言ったのか良く解らなかった。

絶対命令権でもある令呪を何に使えと言うのか。
左手の甲に視線を移した。

「その令呪で私に命じろ。――――――自害しろとな」
「!?」

アスナは耳を疑った。

自害。
つまり自殺だ。

この令呪を使って、自分のサーヴァントに自殺を命じるなんて。
アスナは理解が出来なかった。

「ふざけないで!なんで私がそんな事命令しなくちゃいけないの!」

アスナは声を荒げた。
そんな事出来る筈がない。

そんな……人に自殺を命じる事など。

「なら、君に覚悟はあるのか?」
「え?」
「これから先―――――――――殺し合いを続ける覚悟が」
「……っ」

アスナは黙ってしまった。
サーヴァントを使役すると言う事は殺し合いを続けると言う事。
アーチャーはそれを問いかけた。

殺し合いに参加するだけの覚悟は有るのかと。

「――――まあ、今日は色々あったからな、答えはすぐに出せなくても良い。今日はしっかり休む事に専念するのだな」

アーチャーは先程までの張りつめた空気を弛緩させるかの如くそう言い放つと、粒子をまき散らしその場から消えてしまった。

「……」

アスナは一人部屋に取り残される。

ベッドの淵に腰掛けられていた体を中央付近まで持ってくると、そのまま丸くなり今日一日の事を思い出しながら、自問自答を始めた。

「私は……」

自分に戦い続ける覚悟があるのか。

その夜、アスナはアーチャーに問われた事をずっと考え続けた。
 
 

 
後書き
描いていく内に思った事一つ。

サチってこんな性格だっけ?

なんかだいぶ性格変わっているような。

次回から、閑話を挟んでキリト視点に戻ります。

感想、アドバイス、批判等、いつでもお待ちしています。 
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