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真剣で覇王に恋しなさい!

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第二部 自分探し
  第9話


 小さい頃から、ずっと傍にいてくれる人がいた。
 どんな時も私の傍にいて、私の事を考えてくれる、とても優しい人。
 一緒にいると楽しくて、二人で笑っていたいと思える人。
 私の、一番最初のお友達。



 真剣で覇王に恋しなさい!



 赤戸柳司という男の子に出会ったのは、私がまだ一人ぼっちだった子供の頃。
 きっかけは、自分の正体を知らないという共通点だった。
 それからすぐに仲良くなって、私達は友達になった。
 義経ちゃん、弁慶ちゃん、与一くんたちから離されていたその時の私にとって、彼は唯一の友だちだった。
 それから今まで、ずっと一緒に育ってきた。
 色々な事を互いに学んで、教えあって、それに遊んだりもして。
 隔たりなんて何もない、そんな関係を築き上げてきた。

 でも、一つだけ。
 柳司くんには秘密にしている事がある。
 今は自分の正体なんてどうでもいいと言う柳司くんだけど、昔は違った。最近の私がそうであるように、自分の正体についてずっと悩み続けていた。
 そんな柳司くんがマープルに自分の正体を尋ねるのを、私は偶然に聞いてしまっていた。
 それが、私の秘密。

『ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけど』

『なんだい?』

『僕の本当の名前、なんで教えてくれないの?』

『……まぁ、あんたなら別に教えても良いんだけどねぇ。清楚と一緒に教えた方が都合がいいのさ。あんただって、一人だけ抜け駆けで教えてもらうなんて真似はしたくないだろう?』

 それから柳司くんは、自分の正体については話に出さなくなった。
 幼い頃の私は彼と同じでは無くなる事を怖がっていたけど、その不安は現実にはならなかった。

 でも今思えば、私はずっと彼の枷になっていたのかもしれない。
 あの時だって私がいなければ、柳司くんはきっと自分の正体を知る事ができたはずだ。
 気にしないで聞けばいい、そう言う事は私にはできなかった。
 もう彼は、考えを変えてしまっていたから。
 私が自分の正体を知るまでは、どんなに言った所で考えを曲げない。
 柳司くんは頑固な男の子だから。

「……だから、やっぱり私がしっかりしないとね」

 自分の正体を知る。
 その為の自分探しをしよう。
 きっとそれをしていけば、柳司くんともっと仲良くなれると思うから。



 土日明けの月曜日。
 今日は朝から柳司くんの様子が変だった。

「どうしたの?」

「清楚か……なんでもない。ちょっと徹夜しただけだ」

「またなの? この前もあんなに言ったのに」

「あぁ、すまない。できるだけ気を付ける」

 柳司くんはどこか上の空な様子でそう応えた。
 思えば土日の間だってあまり姿が見えなかったし、何かあったのかもしれない。
 でもこの様子だと、たぶん答えてくれないかな。

『大丈夫ですか、清楚。何か悩んでいるようですが』

 登校中、スイスイ号が小さな声で私に話しかけてきた。
 私が悩んでいる事を感知して、気にしてくれているみたい。
 柳司くんに心配掛けないように気を付けて、私も小声でスイスイ号に話しかけた。

「大丈夫だよ。でも、私自身の事とか、柳司くんの事とか、考え始めたら頭がいっぱいになっちゃって」

『私にはその答えを出すことはできませんが、口に出すことで悩みが緩和されるのであれば是非言ってください』

「ありがとね、スイスイ号」

『いえいえ。それで清楚が気分良く通学できるのならばお安い御用です』

 その後もこっそりスイスイ号と話しながら学校へと向かった。
 おかげで気分はずっとよくなった気がする。
 ……でも、柳司くんの様子はおかしなままだった。
 学校に着いてもそれは変わらない。
 でも、お友達と話したりする時には普段通りみたいだから、私が少し気にしすぎてるだけなのかな……?

「どうかしたのかな? 葉桜君、随分と赤戸君の方を気にしているようだが」

 休み時間、読んでいた本から目を外して柳司くんの方に目を向けていたからか、いつの間にか近寄くに来ていた京極くんにそんな事を言われてしまった。

「そこまでわかりやすかったかな?」

「うむ。気付かないのはどこか空ろな赤戸君と葉桜君自身だけではないかな」

「……そんなに?」

「嘘は言わんよ」

 そう言われて周りを見てみると、京極くんの言った事を聞いていたらしいクラスメイトたちが同意するように頷いていて、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
 そして思わず俯いた私に、京極くんは言った。

「確かに今日の彼はどこか違和感を感じるが……」

 一度言葉を切り、京極くんは柳司くんへと目を向ける。
 柳司くんはやっぱり昨日は徹夜をしていたみたいで、少しうとうとしながら本を読んでいた。
 これだけ注目を集めても全然気にしていないのもその為だろう。

「葉桜君には何か心当たりがあるのではないか?」

「……うん、一応はね」

 柳司くんが部屋の中で何をしているのか、九鬼の一室を借りて何をしているのか、私は知っていた。
 だから徹夜の事については、柳司くんがそれに集中していたからなんだってわかってる。
 そして徹夜とか関係なしに柳司くんの様子がおかしい事。それにはもしかすると、義経ちゃん達の歓迎会があった夜、私が聞いた事が関係しているのかもしれなかった。

「いずれにせよ、私には手の出せない問題だ。君が良い答えを出せる事を願っている」

「ありがとう、京極くん」

「私も君達の友人として、早く彼に元通りになってほしいという思いはあるからね」

 京極くんはそう言って私から離れていった。私も、自分の手元にある本に視線を落とす。
 私はどうしたいのだろう。さっぱりわからなかった。
 でも、答えは出さなきゃいけない。私のためにも、柳司くんのためにも。
 私にできるのは、考えることだけだ。

 でもその答えに、思わぬ所でふと気付いてしまった。

 放課後、図書室の窓から見えたもの。
 クラスメイトの人じゃない、私の知らない皆と一緒になって第二グラウンドで遊ぶ柳司君の姿があった。
 今までには、九鬼の従者さんたちに色々絡んでいた時だってしなかった、とても晴れ晴れとした顔で笑っていた。


 新しい生活が始まってまだ一週間。
 与一くんは変わったし、私だって変わってる。
 だから柳司くんも、今まさに変わっているのかもしれない。
 そうして悩んでいるのだとしたら、きっと私が出る幕じゃない。
 そうだよね? 柳司くん。

 
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