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真剣で覇王に恋しなさい!

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第8話




 歓迎会翌日。
 登校後、俺はHRが始まる前に昨日仲良くなったクラスメイトと話していた。
 Sクラスとはいえ、勉強一辺倒の人間ばかりというわけではない。意外に多趣味なクラスメイトたちは、色々と知識不足な俺にどんどんと知識を与えてくれる。
 そうして気分良くHRを迎えた時の事だ。
 いきなり学校全体がざわめきに包まれて何事かと思えば、朝からグラウンドでかなりハイレベルな試合が行われている。
 聞こえてきたざわめきは、窓際に集まって見物している他のクラスの生徒たちのものだった。
 これだけの注目を集める理由は何なのか。俺は最初、義経が関わっているからだと思っていたが、それは間違っていた。
 グラウンドの中央に立つ川神百代と向かい合っていたのは、顔も名前も知らない一人の女子生徒だったのだ。

「一体誰だ……?」

 直接見るのはこれが初めてだが、話に聞く武神である川神百代を相手にしての戦いぶりは、実に見事なものだった。
 クラスの生徒たちがグラウンドの方に目が釘付けになるわけだ。
 しかし、その戦いぶりだけが注目を引いたわけでもないらしい。

「あの川神百代とまともに戦っている……だと……!?」

「しかもまた美少女だ! この学園に入って本当に良かった!」

「あの子どこかで見た気がするんだよ……どこだか忘れたけど」

 よくわからないが、クラスメイトから漏れる言葉から察するに色々と注目するポイントがあるのだろう。
 実力が高い事は伺えるが、元々有名な人物なのか。

 どちらにせよ、しっかりと観戦しておこう。
 見るのもまた戦い、そんな言葉があるくらいだ。いつか敵になる相手かもしれないのなら……まぁ片方は確実に敵だが、とにかく直接戦いを見れる機会は貴重である。
 そうして俺は、HRの終了時間まで続いたその決闘をクラスメイト達と共に観戦し続けた。
 ……どうでもいいが、なぜ松永は戦闘終了後にマイクを使って納豆の宣伝をしているのだろうか。
 隣の席のクラスメイトにそれを聞いてみると、どうやら松永の家が納豆を発売していて、それの看板娘として納豆小町と呼ばれているらしい。
 商魂の逞しい奴だ。

「燕ちゃんはFクラスなんだって。後で一緒に挨拶しに行こうね」

 自分達と同じように、転校したきたばかりの松永燕。そんな彼女と早く仲良くなりたいと言う清楚だが、俺は少しだけ迷っていた。
 単純に嫌な予感がするというのもそうだが、Fクラスには百代がいるので行きたくないというのが主な理由だ。
 しかし、清楚を一人で行かせる方が危険だろう。昨夜の会話の中で『モモちゃんってスキンシップが激しいんだよね』と清楚が漏らしていたのを俺は忘れてはいなかった。
 ……まぁ、結局は昼休みにFクラスに行った時、松永燕も川神百代も姿が見えなかったから無駄な心配だったわけだが。




 放課後、俺と清楚と京極はC棟にある多目的室へと向かっていた。
 俺はついさっき知ったのだが、どうも知らない間に義経たちの歓迎会の準備が進んでいるらしい。
 京極も歓迎会の手伝いに呼ばれた一人で、歓迎会で飾る字を書くのだとか。
 そこで俺と清楚は、歓迎会の準備にはまだまだ人手がいると聞いて手伝いに行く事にしたのだ。

「力仕事なら俺がやるから清楚は来なくてもいいんだぞ」

「私だって手伝いたいの。素敵な歓迎会にしてあげたいもの」

 そんな台詞を笑顔で言われてしまったら、本当は任せてほしい俺でも何も言えない。
 幸い清楚はどうした理由か力持ちだ。大丈夫だろう。
 そうして辿り付いた多目的室は、相当に忙しそうな様子だった。どうやら人数が欲しいというのも本当のようだ。

「これは結構時間がかかりそうだな」

「うん。がんばらないとね!」

 そうして俺達はテキパキと指示を出している直江大和に従い、歓迎会の準備を手伝い始めた。
 重そうな壷を持ち上げた清楚にびっくりしている奴らもいたが、何か勝手に納得したようだ。
 少し気になったのは義経の事だ。チラチラと入り口の方からこっちを気にしていたようだが、話しかけようとしたらどこかに走り去ってしまった。

「案外楽しいな。歓迎会を準備するってのは」

「皆と一緒だから楽しく働けるものね」

「あぁ。お祭り好きだっていうここの学園の生徒の気持ちが少しわかったような気がするよ」

 楽しく会場設営に励む事一時間。
 皆の努力が身を結んだのか、会場はかなり形になってきた。
 一段落ついたところで、俺は忙しそうに携帯電話を弄くっている直江の元へと向かった。

「柳司先輩、何かありましたか?」

「いや、この歓迎会の事で礼を言いに来たんだ……ありがとう」

「手伝ってもらってるのはこっちなんですし、頭を下げないでくださいよ。それに、俺だって好きでやってる事なんで」

「そうか……とにかくだ。礼は言った。何か助けになれる事があれば力になるから、いつでも言ってくれ」

 何処か恐縮しているような感じの直江に礼を言って、俺はすぐにその場を離れた。まだ準備は残っていて忙しそうだし、それの邪魔をするのも悪いだろう。
 俺にとっては手伝う事自体が貴重な体験だから、本当に感謝しているのだが……やはり悪人顔をしているせいだろうか。

「うーむ……」

「どうしたの? 柳司くん」

「いや、後輩と仲良く接する方法について悩んでいた」

「え?」

 あまりにも唐突過ぎたせいで、清楚にきょとんとした顔を浮かべられてしまった。
 俺はすぐに手を振って多目的室の方へ足を向ける。

「なんでもない。さぁ、作業を再開しよう。時間ギリギリまでは手伝いたいからな」

「うん!」



 そして翌日。
 準備は完了し、授業も終え、放課後になって歓迎会が無事開かれるという段階でトラブルが発生した。
 主賓である義経、弁慶、与一の三人全員の姿が見えないのだ。

「まさか、また……?」

「与一くん、かな?」

「たぶんな……あいつめ」

 大方、人前に出るのが恥ずかしいから嫌だとかそんな理由で出席を渋っているのだろう。
 義経と弁慶はそれを連れ戻そうと思って遅れていると。おそらくはそんな感じだろう。
 もう歓迎会の開始予定時間まで10分だ。果たして間に合うのかどうか……
 と、そこで直江大和が携帯片手に外へと走って行くのが見えた。なにか連絡でもきたのだろうか。しかし連絡があったにしても相手は与一だ。

「……不安だな」

「心配する必要はないぞ。柳司先輩」

 いつの間にか近くに来ていたクリスが話しかけてきた。
 つい先ほどまでざわめく生徒達を良く通る声で抑えていたが、もう大丈夫なのだろうか。

「ああ見えて大和は頼りになるんだ」

「確かに良い指示が出せていたとは思うが……」

 しかし与一は気難しい奴だ。それを説得して連れて来るのは至難の業だぞ。
 いざとなれば俺がなんとかするつもりではあるが。

「柳司先輩は心配せずに待っていてくれ」

「とりあえず、正式な開始時間までは大人しくしている。その後は首を突っ込むがな」

 ……そう思っていたのだが、俺の直江に対する評価はかなり低すぎたらしい。
 直江は見事に与一を連れて会場へと戻ってきた。しかも与一の方も嫌々というわけではないようなので、ちゃんと説得して連れてきたらしい。

「ほら、心配する必要はなかっただろ?」

「……みたいだな」

 しかし、一体全体どんな方法で説得したのだろうか。
 今度時間があれば聞いてみよう。何かの役に立つかもしれない。

 そうして無事始まった歓迎会は素晴らしいものになった。
 食事も美味しく、俺や清楚と触れ合う機会の少ない一、二年が多く参加している為か、喋りかけられることも多い。
 本当に素晴らしい歓迎会だ。

「だから、紋白にも感謝する。俺たちの事を随分と考えてくれてありがとう」

 偶然見つけた九鬼紋白に、俺はそう言って頭を下げた。
 いつから企画していたのかは知らないが、彼女自身も俺たちと一緒に転入してきたのだから、時間も無かっただろう。
 それ相応の苦労をしたに違いなかった。

「そんなに頭を下げぬとも良いぞ、柳司。我は当然の事をしただけだ」

「……だが一応、俺達は紋様の先輩に当たる。筋は通したい」

「うむ、わかった。そういう事なら礼を受けよう」

 そう言われた俺が下げ続けていた頭を上げると、そこには紋白が困った顔で腕を組んでいた。

「どうした?」

「……先輩だと言うのなら、尚更頭を下げるべきではないと我は思うぞ」

「そうなのか?」

「我は一年生だが、普通はそうであろう」

 そういうものなのか。
 今度から気を付けるようにしよう。
 そう思って何度か頷く俺に向かい、更に紋白は言った。

「柳司もちゃんと知識を付け、友達を作るのだぞ」

「それは心配いらない。俺は勉強が好きな方だし、ここの生徒は皆はいい奴だ」

「うむ、そうであろう。では我はそろそろ行くぞ。さらばだ!」

 満足そうに頷いた紋白はその場から去っていった。
 俺もまだまだ学ぶ事が多いようだ。これからも頑張ろう。



「今日は楽しかったね! お友達がいっぱいできちゃった」

「俺もさ。与一も結構話せてたみたいだし、いい事尽くめだ」

 その日の夜、清楚は再び俺の部屋に来訪していた。。
 歓迎会ではお互いに違う人と話したリしていたので、どんな人がいたかを互いに教えあっていた。
 そうして新しくできた友達の事を話すだけで、結構な時間が経過していた。

「あのね、柳司くん」

「どうした?」

「さっきね、ちょっとマープルと話してきたの」


 唐突に切り出した話題に、俺は頭の中で疑問を浮かべながら清楚に先を促す。

「私達の正体の事、柳司くんも気になるでしょ?」

「……気にならないといえば嘘になる」

「うん」

「だが、気にしなくたっていい事だ。義経は義経で、俺達は俺達。自分の思うままにやる事が一番だ、と俺は思う」

 こんな答えじゃ不満か? と、俺自身がかつてマープルに言われた事を思い出しながらそう言ってやった。

「……ううん、そう言うだろうなぁって思ってた」

 くすくす笑いながら清楚はそう言った。
 そしてどこか吹っ切れたような顔で、勢いよくベッドから立ち上がる。

「よし! それじゃあ、また明日ね。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

 ふわりと黒髪を靡かせて、清楚は俺の部屋を後にした。
 それを見届け、俺もベッドへと寝転がる。
 明日からは土日だが、三日後にはまた学校だ。
 それに土日の間に町を出歩けば、新しい出会いがあるかもしれない。
 俺はそんな事を思いながら、逸る気持ちを抑えながら目を瞑った。
 今日も、いい夢が見れそうだ。









 しかし、その日の夜。
 俺は悪夢を見た。
 ここ最近は第六感がますます鋭敏に働くようになってきてはいたが、そんな事はどうでもよくなるような、そんな悪夢。
 どうしようもなく恐ろしく、衝撃的なそれを見た俺は――


 
 

 
後書き
第一章終了。
六月十二日(金)の夜。
物語はようやく、ようやく始まった。
次からは第二章です。
 
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