真剣で覇王に恋しなさい!
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第2話
おそらく朝のHRだろう時間帯、川神学園の全校集会にて俺達は転入生として紹介される事となった。
生徒達はかなりざわついているが、無理もないだろう。
おおっぴらに流れている情報では、『武士道プランによって生み出された源義経、武蔵坊弁慶、那須与一が転入する』という事になっているのだ。
そこに追加で4人分も生徒が増えると聞けば驚くだろう。
壇上に上がった学長、川神鉄心がその事について軽く説明を行っているが、さすがに年季の入った教育者という感じだ。
俺達をクローンという色眼鏡だけで見るのではなく、学友として仲良くするようにもきちんと注意を促していた。
まぁ、だからといって全くの平等ってわけにもいかないだろう。そこらへんには九鬼の面子やら色々関わってくるのだ。
「それでは、まずは3年のSクラスに転入する生徒からじゃ。葉桜清楚、挨拶せい」
川神鉄心に促され、清楚は壇上へとあがっていった。
どうやら俺は清楚の後に壇上に上がって挨拶すればいいらしい。
生徒の様子は……まぁ当然と言うべきか、男子も女子も清楚に釘付けになっていた。あいつは容姿といい立ち居振る舞いといい何から何まで目を引くからなぁ……
ところで学長、悪ふざけだろう生徒が3サイズを質問するのはともかく、あなたが清楚の3サイズを調べようとしたら殴りますので悪しからず。
エロ爺の面を除かせた鉄心にギロリと目を光らせつつ、俺は壇上の清楚へと目を向ける。
そこには、いつも以上の笑顔を振りまく清楚がいた。これからの学園生活に胸躍らせているのか、それとも新しい友達ができる事を喜んでいるのか、どっちにしたって両方にしたって彼女の喜ぶ姿が見られて俺は満足だ。
そうこうしている間に清楚の自己紹介は終わり、次は俺の番となった。
「ほれ、お主の番じゃぞ。赤戸柳司」
「清楚の後だとハードルが上がっててやりづらいんだが……」
「何言っとるんじゃ、さっさと出てこんかい」
これ以上言われれば更に出にくくなる。そう思った俺は渋々壇上へと上がった。
同時に、全校生徒の好奇の視線に晒される。
やりづらい。
紹介を終えて満足げな顔の清楚からマイクを受け取り、ぐっと息を吸って口を開く。
「あー、はじめまして」
そう言って一度頭を下げ、できる限りの平静を取り繕ってから顔を上げた。
「赤戸柳司だ。できれば多くの友人を作りたいので、遠慮なく話しかけてきてくれ」
流石に清楚に負けるわけにもいかないので、マイク越しであってもきちんと皆に聞こえるようにしっかりと声を出す。
……ちょっと出しすぎた気もするが。
「そういうわけで、よろしく頼……む?」
そう言って再度頭を下げようとした所で、一気に女子生徒たちの歓声が巻き起こった。
どういうことだ。そういうのは清楚だけでいいだろう。
「……結構予想通りかも」
「どういうことだ?」
「うーん……柳司くんは気にしなくていいと思うよ?」
なんだそれは。気遣いなのか? なんなんだ?
とりあえず清楚みたいに、俺が自分の正体を知らない事も話しておこう。既に生徒の中には予想がついている奴もいるみたいだが。
「実は俺も自分の正体を教えられていない。清楚と同じだ」
そこで言葉を切って少しだけ視線を清楚の方に向けると、そこにはうんうんと頷く清楚の姿。
実に和まされる……ではなくて。
「俺は学問ではなくとにかく一つの事に打ち込むようにと言われているが、正直言って自分でもイメージがわかない。まぁ、勝手に色々想像でもしてくれ」
そう言い切って、俺は川神鉄心へとマイクを放り投げた。
これ以上は何も言わないぞ。絶対に。ツンデレとか素直クールとかよくわからん単語が聞こえるが、知った事か。
だから清楚、にやにや笑うのはやめてくれないか。
「ふぉふぉふぉ、つっけんどんな態度じゃがきっと照れてるんじゃろ。女子生徒の目の保養にもなって結構結構」
「照れてないからな」
やりづらくはあったが。
「さて、次は2ーSに入る3人を紹介じゃ。まずは源義経と武蔵坊弁慶。ちなみに二人とも女性じゃぞ」
俺の言葉はスルーされ、次に紹介される義経と弁慶が壇上へと上ってきた。
同時に、生徒全体が再びざわめいた。
義経も弁慶も、名前からして人気があるのにあれだけの容姿だからなぁ。
案の定気負いすぎな義経が緊張しながらも挨拶する傍ら、俺は義経に対する一部の生徒たちの反応を見てある事を思い出した。
(そういえば、義経はこの転入より前に『東西交流戦』とかいうのに参加したから、一部の生徒たちとも面識があるんだったか)
ちなみに俺は行かなかった。
三年生には川神百代がいるのだ。わざわざ参加する必要なんてないからな。
そんな事を思いながら義経を見守っていた俺だったが、新たな問題が発生しそうなことに気が付いた。
与一の姿がいつの間にか消えていたのだ。
気配を探ってみた所、どうやら上の方にいるみたいだ。たぶん屋上だろう。あいつは昔からそういう所にいるのが好きだった。かくれんぼとかで遊んだ時もそうだった。
どうせ転入の挨拶もサボるつもりなんだろうが、そうはいかない。
俺は面倒見がいいわけではないが、だからといって義経が悲しむ姿をあえて見過ごすという真似をするつもりはないのだ。
「ちょっと行ってくる」
「え?」
「トイレだ」
「えぇ!?」
驚愕する清楚をそのままに、俺は急いで屋上へと向かった。
変な姿を見られるのも嫌なので、ちゃんと誰にも見られない位置から。
そうして即座に屋上へ辿り着いた俺は、寝転がってブツブツ言っている与一を担ぎ上げた。
「うぉっ!? おいおいいきなりすぎるだろ柳司ィ!?」
「お前の扱いは心得ているんだ。これが一番早く済むだろう」
「そうじゃねぇ! だいたいだな、あんたは昔っから勘違いを――」
「わかっている。心配するな与一、ここの生徒たちは皆優しいようだったからな。俺もお前もきっと上手くやれるさ」
「だから――」
未だに文句を言う与一の発言を聞き流し、俺は急いで全校集会を行っているグラウンドへと戻った。
そこではいなくなった与一の事を義経が謝っているところだったので、急いで与一を壇上へと連れて行くことにした。
「すまない待たせた」
「あっ、与一! ありがとう柳司先輩! 与一を連れてきてくれたんだな!」
「まぁな。あとやっぱり先輩というのはむず痒いんだが」
「みんな! 与一を紹介するぞ! ちょっと遅れたけど、本当は皆と仲良くなりたいはずだから!」
「…………」
義経はぐったりした与一を紹介し始め、既に俺の声は聞こえなくなったようだった。仕方が無いので一歩下がり、清楚の横に立ってその様子を見守る事にした。
そうしていると、いつのまにか清楚が俺に向かっていつも以上に優しい笑顔を浮かべていた。
「ありがとう柳司くん。義経ちゃん、すごい喜んでるみたい」
「見ればわかるさ」
「いつの間にかみんなのお兄ちゃんだね」
「そういうのは俺には似合わないと思うけどなぁ」
清楚の他愛の無い会話をしている間に与一の紹介も終わり、一区切りが着いた所で俺は小声で弁慶に話しかけていた。
どうしても気になる事があったからだ。
「聞いてくれ。俺は自己紹介の時、生来の悪人顔だから清楚の後だと大顰蹙を買うと思ったんだがなぜか歓声が上がったんだ。どう思う?」
「……ねぇ柳司、それ本気で言ってる?」
「昔与一となんかの映画を見た時にそっくりだと言われたぞ」
「悪人っていうかマフィアの若頭とか暗黒街の顔役みたいな? 少なくとも不細工じゃあないよ」
「悪人とマフィアとどう違うんだ?」
「どっちもでもいいでしょ。人気はあるみたいだし」
……まぁ、確かに問題が発生しているわけではないのだが。
なんとなく釈然としないというか。
「まぁ柳司は柳司らしくしてればいいでしょ……はー、美味しい」
やはりからかわれているんだろうか……
俺がついつい悩み始めてしまった所で、弁慶は腰に提げたひょうたんから川神水を皿に注いで飲み始めた。
川神水はノンアルコールなのに酔えるという不思議な水で、生前の弁慶が酒好きだったことを思えば、今はまだ未成年の弁慶がそれを飲む事自体はおかしくはない。
しかし全校生徒の目の前で転入の挨拶をしている時に飲むのは流石に問題だろう。
「弁慶! 我慢できなかったのか?」
「申し訳も」
義経に注意されて一応謝っているが、言っただけという感じだ。
昔から川神水が大好きすぎて中毒じみた事になってはいたから、学校でも飲めるようにするのは仕方が無いのかもしれない。それでも生徒は納得しないだろうが、さすがに成績が4位以下で即退学というルールまで設けてあれば表だって文句を言う者もいないだろう。
普段はあんなとぼけた態度のくせに実はかなり頭がいい弁慶なら、常に4位を取るのだって難しくはあっても不可能じゃないだろうし。
「今こうして飲んでおく姿を見せておけば、これからはいつでも好きな時に飲めるわけで」
むしろ悪知恵が回る子供みたいな発想に思えてきたが、与一に対してプロレス技を仕掛ける時の事を考えればあながち間違いじゃないんだろうな。
「とにかく、皆には色々と不快に思わせてしまったかもしれないが、仲良くやっていきたい。よろしく頼む」
そう言って深々とお辞儀をする義経に合わせ、俺と清楚も一緒にお辞儀をする。
弁慶は軽く手を上げる程度で、与一はさっきの反動かそっぽを向いたままだったが。
こうして全校集会における俺達の出番は終わったので、壇上を降りる事になった。
あとは、1年S組に転入してくる九鬼紋白とヒューム・ヘルシングの出番だろう。
しばらく、これから共に過ごすことになる生徒達とどう話すかについてでも考えておこう。
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