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真剣で覇王に恋しなさい!

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第一部 川神学園
  第1話

 
前書き
ハーメルンから移転
理由はつぶやきにて 

 

 王者とは生まれながらにして王者である。
 少なくとも西楚の覇王と呼ばれる項羽はそうであったんだとか。
 それも全ての頂点に立たんとする、覇王としての素質を持っていたらしい。
 とはいえ、そんな話を聞いた所で、僕には何の意味も無いだろうけど。



 真剣で覇王に恋しなさい!



 僕は九鬼の武士道プランにより、現代に転生した英雄のクローンであるらしい。
 ただ、源氏の3人組とは違ってその正体を教えてもらう事はできなかった。
 同じく正体を教えてもらえなかった葉桜清楚さんとは『私と同じだね』という事で仲良くなる事ができたけど、今となっては失礼極まりない事に、その時の僕はとにかく自分の事が知りたくてしょうがなかった。
 だから僕は時間を作ってもらって、プランの発案者であるというマープルに聞いてみる事にしたのだ。

「ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだい?」

「僕の本当の名前、なんで教えてくれないの?」

「……まぁ、あんたなら別に教えても良いんだけどねぇ。ま、清楚と一緒に教えた方が都合がいいのさ。あんただって、一人だけ抜け駆けで教えてもらうなんて真似はしたくないだろう?」

 マープルの言う事に、僕はすんなりと納得していた。
 いくら知りたい事だとはいえ、大好きな友達が教えてもらえないのに自分だけっていうのは、なんとなくずるい気がしたのだ。
 おかげでその後は自分の事なんて気にする暇も無いほどに、源義経、武蔵坊弁慶、那須与一、それに葉桜清楚という同じ境遇の仲間達に絡んでしまうことになったけれど、おかげでとても良好な関係を築くことが出来た。
 ある一名とは、本当は友達以上になりたいって思うこともあるけど……それはもう少し大きくなって、自分に自信を持ててから。

 本当は少しだけ正体を教えてくれてもいいのになぁと思うこともある。
 でも、大事な友達と仲良くなれるきっかけを作ってくれたマープルには頭が上がらないので、その正体を教えてくれるという25歳まで待つことにした。
 きっと何か理由があるに決まってるのだ。外の世界についてそこまで詳しくない僕にだって、そういう事に関してはマープル以上の人はそういないんだろうと感じ取れる。
 だから僕は大人しく、マープルや他の九鬼財閥の従者さんたちに囲まれながら努力をする事にした。
 いつか、もっとたくさんの友達が作れるように。






 ――そう、色々読み返したところで、俺はふと我に帰った。
 確か昨夜の作業後に見つけた日記を読み始めて……どうやらそのまま止まらなくなってしまったらしい。
 まぁ、今日からは今までと違う生活になるからなんだろうな。つい振り返りたくなってしまったのも。
 そこへ、ドアをノックをする音と実に聞き慣れた声が聞こえてきた。

「柳司くん? 起きてる?」

 起床済みかどうかを問いかける声に俺は日記を閉じて窓の方へと目を向けた。
 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる様子を見るに、いつの間にやら朝になっていたらしい。
 またやってしまった。
 急いで支度をして外に出ると、心配そうな顔の清楚がこちらの顔を覗き込んできた。

「大丈夫? もしかして、また眠ってないの……?」

「あぁ、集中すると眠れないんだ」

「もう……昨日もあんなに言ったのに」

「すまない」

 清楚には本当に心配をかけて申し訳ないが、きっとそういう性分なのだ。昔はそうでもなかったのだが、きっとマープルの英才教育による副作用だ。俺のせいではないはずだ。
 それでもまた注意を聞かなかったことでむくれている清楚に、どう謝るべきだろうか。
 今までも何回言われても直す事ができなかったが、かといって諦めろなんて言うのもできない。きっとそれでも彼女は世話を焼こうとするはずだ。
 一番いいのは俺が徹夜をしないようにする事なんだが、直そうとして簡単に直せるものでも……

「ふふっ」

「ん?」

「そんなに悩まなくてもいいのに」

 どうやら考え込んでいる間によっぽど変な顔でもしていたらしい。
 やはり俺は顔に出やすいんだろうか。それとも清楚が俺の表情を読み取る術に長けているのか……

「今日からは学校だから気をつけてほしいけど、ちゃんと朝には起こしてあげるよ?」

「いや、流石にそれは俺の方が恐縮するんだが。というかそれなら九鬼の従者さんたちに頼んだって――」

「はいはい。それならちゃんと夜は寝るようにね。何なら眠るまで見ていてあげようか?」

「……いやっ! それは困る!」

 その仕打ちはあんまりにあんまりだ。
 あまり褒められたものではないが、薬でも貰うべきだろうか。
 それとも……と、俺が再び思考の渦にはまりかけた所で、清楚に腕を引かれて我に帰った。

「ほら、義経ちゃんたちも待ってるかもしれないんだから。今はご飯にしよう?」

「わかった。とりあえず対策は後で考える」

 みんなに迷惑をかけるわけにはいかないからな。
 まずは朝食、その後に……その後は川神学園で転入で色々忙しいんじゃなかったか?

「なぁ」

「ん、なに?」

「……いや、なんでもない」

「?」

 一度問いかけた俺だったが、清楚の顔を見て気が抜けた。
 流石に朝から俺の事で色々世話をかけているのだから、これから朝食という時にまたごちゃごちゃと問うのはナンセンスだろう。
 今更ではあるが、ここは大人しく。本当に余計な事は考えないようにして朝食に向かおう。

「おはよう柳司先輩! 清楚先輩も!」

「ふぁーあ、おはよ」

 源氏組の二人、義経が元気そうに、弁慶が眠そうに挨拶してくる。
 何か引っかかる単語が聞こえたが、別にいいだろう。

「よう。また徹夜したみたいだな」

「わかるのか与一」

「俺の力を以ってすれば容易いさ。夜に魅入られると戻れなくなるぞ。気をつけろ」

 源氏組唯一の男、与一は俺に挨拶しながら徹夜を言い当ててきた。なんだかんだで気が回る奴で、俺が徹夜した事を心配してくれているらしい。
 言い回しは非常に気になるが、いつもの事だ。
 朝食を取る前、俺は自分の席に座る時にさっきから気になっていた事を義経に聞いてみた。

「先輩って?」

「今日から学校では二人は先輩になるんだ。その方がいいと思って」

「肝心の清楚はどう思う?」

「私は別にどっちでもいいよ?」

「……まぁ、今はまだいいと思うけど、義経がそう呼びたいならそれでいいって事だな」

 正直言って俺は慣れないんだが、確かに学校で普通に呼ばれても規律としてみれば問題なのかもしれないしな。
 俺の思考がそんな風に脇道に逸れ始めたところで、弁慶が俺に話しかけてきた。

「柳司も先輩って呼ばれたい? ほらほら、柳司先輩、みたいに」

「……やめてくれないか」

「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」

 具体的には言えないが確実に減るものはあると思う。
 弁慶は子供の頃から事あるごとに俺と与一を弄ってきたため、俺にとっては若干の苦手意識がある女性である。
 ふと弁慶に俺以上に弄られている与一の方を見るが、与一はこっちを完全スルーでフォローしようともしない。やれやれである。
 しかしこれから学年が別れれば同じ教室の与一ばかりが弄られるようになるのだ。そう思えば、今こうしているのだって仕方の無い事だと思えてくるから不思議だ。
 与一の無事を祈ろう。



 朝食の後。
 川神学園へと向かう途中で、突然清楚に腕を掴まれた。
 そのあまりの力の強さにいったい何事かと思ったが、どうやらただ握手をするために掴んだらしい。
 ぐっと握手をした状態で、俺は真正面から清楚に言われた。

「それじゃあ、これから改めてよろしくね」

「あぁ、こちらこそ」

 そう言って、握手したままの手を軽くシェイクする。
 俺達の、初めての学園生活が、始まろうとしていた。

 
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