転生者拾いました。
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濁り銀
流銀
前書き
いつまで続くんだ、この章は……。
蒼風の谷から数日後、ワタシに任務が下った。東方王国の国境の関所でエリザ・K・クスィーが捕えられ、それの監視任務を負った。
現在、エリザ・K・クスィーは三重城の一室に収容されたいる。そこに反転世界から侵入し、自傷されないようにする。
それでエリザがいる部屋に来たのだが、なんだ?あれは。
「クスィーのお姫様が無力を嘆くとは。」
「!誰です!」
ワタシを確認すると同時にエリザは杖を構える。せっかくワタシは無武装なのに。
「心外です。非武装の相手に杖を向けるなど。ワタシは戦いに来たのではありません、あなたの監視に来たのです。」
「監視?」
「今すぐサイモン様と戦っている罪人に投降を呼びかけください。」
扉に目を向ける。こっちとしても双方に暴れてほしくない。
「それこそ心外ですわ。あたくしの友人を罪人呼ばわりするなど!」
「失礼。では、その友人に投降を。」
「バカなこと言わないでちょうだい。あたくしがそのようなことするはずがありません。」
「では、彼らが死んでも?」
しかし、エリザは一蹴しワタシを睨み付ける。
「あの人たちは死にません!それは間近であの人の戦いざまを見たからです。」
「過去は過去、今は今です。その時は大丈夫でもいつかはできなくなる。」
「だからなんなのです!」
「人は老いそして死ぬ。人より老化の遅いハーフエルフでさえ大して変わらず死を迎える。」
「だからっ!」
「だからなんなのです?運命は変えられない。ただ、流れるのみ。」
「あたくしの話を聞きなさい!」
いきなり声を荒らげるなんて驚くじゃない。思わず怯んでしまった。
「老いがあり、死があるからあたくし達は努力するのです。白光教会とかいうところで育てられ、そのように教育されたのであればそうおっしゃるのも無理はないかもしれません。
でも、未来は決定されていません。運命なんかに縛られない!
そうです、あたくしたちは生きているのです!
生きて明日を掴むんです!」
長台詞を言いきったエリザは息を切らして黙り込んだ。同時にシルバも黙り込む。
「あなたには理解できないでしょう。絶望の中で育ったワタシの観念を。歯車が時計の針を進めるように、人の生も運命が動かす。未来は決定事項です。」
「では、その運命を打ち破ってはいかがでしょう。」
「……言葉の意味を量りかねます。」
「白光教会を抜けて新たに生きましょう。今までのあなたを捨てて。」
この女は何を言った?白光教会を抜ける?我が家を捨てろと?
「束縛から解放されて、自由に生きましょう。」
「ワタシは……。」
「あなた、言ってましたね?」
「な、何を……。」
エリザはシルバの肩を掴み、微笑を含んで問いかける。
「『違う出会い方ならあなたを好いたかもしれない。』」
「――――――!」
「これ、カズヤ様のことですよね?」
「……。」
「カズヤ様のことを好きになった。これも運命では?」
「そう、かもしれません。」
「なら……。」
そうか、ワタシはあの男が好きなのか。運命の針が彼を選んだのか。しかし、
「でもワタシは……行けない。」
「行けない、とは?」
「ワタシの体を縛る鎖、己の意思では……。」
「どこにあるのです!」
「え?」
「その縛(いまし)めです!」
またも声を荒らげたエリザに怯み、詰め寄る彼女に対応できなかった。
「言えません。いえ、言えないのです。己の口からはこのことを。ワタシより上位の者しか言う権限がありません。どうか理解してください。」
「なら、探すまでです!」
「ちょっ、きゃぁっ!?」
それにしてもこの女は物事が急すぎる。思い立ったらすぐ行動が身上なのか知らないがいきなりすぎる。
彼女に身体中を弄られ気持ちいいようなくすぐったいような。
そして良いように弄ばれてしまった……。
エリザは大丈夫かと言うがこれのどこが大丈夫に見えるのだろうか。
ふと、外の爆発音で二人とも居心地の悪さを覚えて前触れもなく自己紹介を始めた。すでにシルバはエリザのことを知っているのでサラッと流して聞いていたが。
後書き
人の思いは水のごとく
されど常に流るることなし
次回 覚銀
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