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ドン=パスクワーレ

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第二幕その四


第二幕その四

「黙っていなさい」
「無念じゃ・・・・・・」
「いいわね。だから」
 彼を黙らせてからさらに使用人達に対して告げる。
「全ては私の言うことに従いなさい」
「わかりました、奥様」
「それでは」
 使用人達もノリーナの登場にまずは驚いてそれぞれ顔を見合わせていたがそれでもここで彼女に対して頭を下げたのであった。
「それでです」
「はい」
「何でしょうか」
「まずは貴方達全員の給料を倍にします」
「えっ!?」
「倍に!?」
「そうです」
 驚く彼等に対して再度告げるのだった。
「倍です」
「じょ、冗談ではないぞ」
 その言葉を聞いたパスクワーレは慌てふためいてノリーナに抗議した。
「今でもかなり高い給料を払っているんじゃぞ。それで倍といったら」
「黙っていなさい!」
 またしても一喝であった。
「貴方には何も言わせません!」
「ううう・・・・・・」
 一喝されすっかりしょげ返ってしまったパスクワーレだった。見れば完全に小さくなってしまっている。
「何たることじゃ・・・・・・」
「そして新しいメイドを入れて」
 ノリーナの指示はさらに続く。
「馬車の新調、あとは」
「あとは?」
「家具は全て取り替えます」
 それを行うというのであった。
「そう、全てです」
「な、金が減っていくぞ」
 あまりにも次々に言うノリーナの指示に真っ青になるパスクワーレだった。
「このままでは。そんなことに金を使わせるか」
「文句があるのかしら」
「ある、ないわけがないわ」
 必死に新妻に抗議するパスクワーレだった。
「そんな無駄遣いをしてじゃ。誰かに寄付をするならともかく」
「家の主は私です」
「わしじゃ」
 抗議するが結婚前の元気さは何処にも無く弱々しい。完全に負けている。
「わしじゃ。わしが家長じゃぞ」
「妻の言葉は絶対よ」
 そしてノリーナは完全に彼に勝っていた。それを確信しての今の言葉だった。
「逆らうっていうのかしら」
「逆らうも何もじゃな」
 言いはするがどうしても負けてしまっていた。
「この屋敷は」
「もう言う必要はないわ」
 それを見透かしたノリーナにこれで封じられてしまった。
「さあ、後はよ」
「はい、奥様」
「次は」
「悪夢じゃ」
 パスクワーレはその場にへなへなとへ垂れ込みながら呟いた。
「こんなことがあっていいのか」
「さて、まずはこれでよしだね」
「まずはですか」
 茫然自失となり虚しく上を見上げるパスクワーレを見ながら言うマラテスタに問うエルネストだった。
「いきなり凄いことになってますけれど」
「いやいや、あの人にはあれ位が丁度いいんだよ」
 マラテスタの目はずっとパスクワーレにある。そのうえでエルネストに告げるのだった。
「あれでね」
「はあ。そうなんですか」
「さて、これからもっと動くよ」
 マラテスタはこうも言ってにんまりと笑った。
「どうなっていくかな」
「見ものってわけですか」
 あれこれと動きはじめた使用人達に部屋の中央でふんぞり返るノリーナ、パスクワーレにとっては悪夢がはじまっているのであった。
 
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