ドン=パスクワーレ
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第二幕その十一
第二幕その十一
「そうなのかい?」
「そうじゃ。そしてじゃ」
甥に対してさらに言うのだった。
「ここに来るのじゃ。御前に話したいことがある」
「僕に?」
「だから早く来るのじゃ」
こうも告げる。
「ほら、早くじゃ」
「わかったよ。それじゃあ」
叔父の言葉を受けてその場に出て来た。その彼に告げられた言葉は。
「夕方の話じゃがな」
「ノリーナとの結婚のこと?」
「それを許そう」
こう話すのだった。
「そしてわしの跡も継げ。財産もやる」
「本当に?」
「わしは嘘は言わんぞ」
少なくともそれはないのである。騒動を巻き起こすことはあってもだ。
「決してな。それは御前が一番知っておることではないか」
「まあそうだけれど」
「ではわかるな」
あらためて甥に告げる。
「わしは御前に全てを譲る」
「結婚もだよね」
「その通りじゃ。証人もおるぞ」
「はい、確かに聞きました」
この場ではそれまで黙っていたマラテスタが出て来て述べた。
「そして決して忘れることはありません」
「わしもそれは同じじゃ」
また言うパスクワーレだった。
「では明日ノリーナを連れて来るのじゃ」
「いや、その必要はないよ」
エルネストは叔父の言葉を受けて楽しく笑ったうえで述べたのだった。
「その必要はね」
「それはどういうことじゃ?」
「だってもうここにいるから」
そしてこうも言うのである。
「もうね」
「ここにとは!?」
「はじめまして」
ノリーナがパスクワーレに対してあらためて恭しく一礼するのだった。スカートの両端をそれぞれの手に持ってそのうえで、である。
「ノリーナでございます」
「馬鹿を言うでない」
パスクワーレは最初それを質の悪い冗談だと思った。
「御前はソフロニアではないか」
「いえ、ノリーナでございます」
しかしあくまでこう返す彼女だった。
「私は」
「どういうことなのじゃ?」
「ああ、私が考えたことでして」
マラエスタがここでまた言うのであった。
「実はですね。エルネスト君とノリーナさんの為に」
「この二人の為に?」
「わざと妹ということにしてパスクワーレさんの御前に連れて来たのです」
ここで彼に真相を打ち明けたのであった。
「それで騒ぎを起こしてこういう流れにした次第です」
「何っ、それではじゃ」
真相を聞かされたパスクワーレはまずは驚いた顔になった。そのうえで。
「皆が皆わしを騙していたというのか?」
「そうなりますね」
怒りだした彼にしれっと返すマラテスタだった。
「実際のところは」
「あれだけ浪費してひっぱたいて怒鳴って」
「申し訳ありません」
そのことは謝るノリーナだった。
「お芝居は徹底的にしないといけませんし」
「お金がどれだけ消えたと思ってるんじゃ」
パスクワーレはこのことを特に抗議するのだった。
「全く。好き放題しおって」
「けれど叔父さん」
エルネストがその怒る叔父に告げてきた。
「あれ位じゃ我が家にとっては全くどうってことないじゃない」
「黙れ、御前もグルじゃろうが」
「そうだけれどね。あれ位じゃ何てことないじゃない」
「むう、それはそうじゃが」
少し落ち着いて頭の中で計算した上での返事だった。
「あの程度ではのう」
「家の使用人も給料があがっていい家具とかを貰えて喜んでるし」
「それはいいことじゃな」
「じゃあいいんじゃないの?」
叔父に対して言うのであった。
「それで」
「そうじゃな。それもその通りじゃ」
甥に言われて納得した顔になるのであった。
「ではよいか」
「うん。じゃあ」
「結婚は許す」
落ち着きを取り戻しあらためて甥に告げた。
「跡も継がせるし財産もやろう」
「有り難う、叔父さん」
「有り難うございます」
エルネストだけでなくノリーナも彼に対して礼を述べる。そしてまたマラテスタが言うのであった。
「では。話も終わりましたし」
「寝るか」
「いえいえ。家の人全てに起きてもらって」
彼は笑いながらパスクワーレに告げる。
「皆で祝いましょう」
「二人の結婚をか」
「そうです。本物の証明書もありますし」
言いながら結婚証明書を見せるのだった。
「ですから」
「そうか。ではサインをした後は」
「屋敷中で祝福です」
「わかった。ではとびきりのワインと御馳走を出してじゃな」
「祝おうではないですか」
早速音頭を取るマラテスタであった。
「皆で」
「そうじゃな。それでは」
マラテスタの顔に満足している顔で頷くパスクワーレだった。そうして今高らかに持っていた鈴を鳴らし。
「さて、これから二人を祝おうぞ」
早速使用人達が全て出て来て瞬く間にテーブルを用意してワインに御馳走も出していく。そのうえでワインを並々と注いだ杯を持って。
「乾杯!」
「乾杯!」
皆で祝うのだった。けたたましい騒動は最後は賑やかな宴で終わったのであった。
ドン=パスクワーレ 完
2009・9・30
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