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MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~

作者:小狗丸
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 昼休みが終わり、体操着に着替えたハジメがグラウンドに出ると、そこには五体の訓練用のアンダーギアが横一列に並んでいた。

 全長五メートルほどの巨大な鉄の箱に手足をつけたようなデザインをした灰色の機体。人型兵器というよりも重機といった方が近い訓練機を見てファムが懐かしそうに呟く。

「『ゴブリン』ですか。懐かしいですね。私も何回かこれに乗って訓練をしたことがありますよ」

「軍医のファムさんも?」

「そうですよ。緊急時における対策って名目で。……でも私、これの成績は良くなかったんですよね。ソルダは一番成績が良かったんですけど」

 ファムが言うには彼女とソルダ、そしてフィーユはこの学校の同級生であり、一度ソルダとこの訓練機で対戦した時はひどい目に遭ったとファムは語る。

「あんの虎娘。訓練だっていうのに本気を出して……。お陰であの時私、三日くらい全身が痛かったんですから……。ああ、もう! 思い出したら腹が立って……」

「よしっ! それでは生徒は訓練機の後ろに並べ! 自分の順番がきたら補助役の指示に従って機体に搭乗しろ!」

『はいっ!』

 ファムの言葉を遮るように教師が指示を飛ばし、ハジメを初めとする生徒は一斉に返事をすると四、五人の列となって訓練機の後ろに並ぶ。

「ではハジメさん。私は向こうで応援してますから頑張ってくださいね~♪」

 ファムはハジメにそういうと教師の隣へと行ってしまった。ファムが隣に来たとき教師が何やら複雑な表情をしたが、ハジメは気のせいだろうと思うことにした。

 ウィィン……ガシャン。ウィィン……ガシャン。

 順番がきた学生達は補助役の最上級生と一緒に訓練機のコックピットに入り、補助役のアドバイスを受けながらぎこちない動きで訓練機をグラウンドの向こう側まで歩かせて帰ってくる。どうやら今日は学生達をコックピットに入れて操縦の雰囲気に慣れさせるだけのようだ。

「へへっ。訓練機だけど漸くアンダーギアに乗れるぜ」

 ハジメの隣の列では頬を赤くしたリヴァーレが見るからに興奮した様子で順番を待っているのが見えた。

(リヴァーレ……本当にアンダーギアが好きなんだな)

 隣の列で今か今かと順番を待つ友人を見てハジメが微笑ましく思っていると、いつの間にか自分の前にいた生徒が訓練機に乗って戻ってきた。

「よし。では次、ニノマエ・ハジメ。乗れ」

「はいっ!」

 教師の指示に従いハジメは訓練機のコックピットへと入っていった。

「おおっ!? こ、これは……!?」

 訓練用のアンダーギア「ゴブリン」のコックピットに入ったハジメは思わず感動の声をあげた。

 中央にある複座式のパイロットシート。その左右にある二本のレバー。機体の状態をパイロットに知らせる計器類。

 ハジメが前世の世界の漫画やアニメでよく知る「巨大ロボットのコックピット」がそこにあった。

(これだよ。これがロボットのコックピットだよ)

 サイクロプスの全方位型モニターに囲まれたコックピットも感動したが、この「いかにも」なロボットのコックピットにもハジメは感動を禁じ得なかった。

「ゴブリンのコックピットは気に入りましたか? イレブン・ブレット少将」

 ハジメが目を輝かせてコックピットを見回していると、補助役の上級生が小声で「ニノマエ・ハジメ」ではなく「イレブン・ブレット」の名前で彼に話しかける。

「っ!? せ、先輩!? ……な、何のこと、ですか?」

「ふふっ。驚かせてしまってすみません。貴方は覚えていないかもしれませんけど、私は宇宙でゴーレムに襲われていた『あの』救助挺に乗っていたんです」

「え?」

 動揺しながら誤魔化そうとするハジメに上級生の女性は優しく笑いかける。彼女がいう救助挺とはハジメがこの世界に転生してすぐに出会ったファム達が乗っていた救助挺のことである。

 言われてみればハジメは、この上級生の女性の顔を見た覚えがあった。あの時救助挺に乗っていた人間ならハジメがイレブン・ブレットであることを知っていてもおかしくはなかった。

「先輩。そのことは……」

「大丈夫です。この件に関してはあの場にいたメンバー全員に軍から箝口令が敷かれています。……驚かせてすみませんでした」

「そ、そうですか……」

「ええ。それではシートについてください。あまり遅くなると先生に怒られますからね」

「あっ、はい」

 上級生の女性に言われてハジメは複座シートの前部に座り、上級生の女性は後部のシートに座る。

「今日は私の指示通りに機器を操作してください。間違っても指示にない機器には触らないでくださいね。でないと……」

『おっしゃあっ! 行くぜぇ!』

 上級生の女性の言葉を遮るように隣の訓練機から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あの声、リヴァーレ?」

『お、おい、待て!? 勝手に動かず……なぁあ!?」

 ドゴォン!

 リヴァーレが乗る訓練機は突然動き出したかと思うと、派手な音をたてて転倒をする。

「……ああなりたくなかったら私の指示に従ってくださいね?」

「……はい」

 上級生の女性の言葉にハジメは転倒したリヴァーレの訓練機を見ながら頷いた。

「それじゃあまず最初に背中を押し付けるように深くシートに座ってください」

「こうですか?」

 ピピピッ。

 上級生の女性の指示に従ってハジメが深くシートに座ると、左手にあるモニターの一つが三つの棒グラフを映し出す。三つの棒グラフは左右が同じくらいの高さで、真ん中はまったく高さがなかった。

「これは?」

「これは機体のエネルギーを示すグラフです。左のグラフが貴方のサイコウェーブを転換したエネルギーを示していて、真ん中のが機体のエネルギージェネレイターが発生させたエネルギーを、右のがそれらを合わせたエネルギーを示しています。アンダーギアにはパイロットのサイコウェーブの強さに応じて、不足分のエネルギーをエネルギージェネレイターが発生させるシステムがあるのですが、貴方の場合は必要ありませんでしたね」

 今この機体はハジメの思念波だけで必要なエネルギーの全てを賄っている。その事を上級生の女性から聞いたハジメは首を傾げて質問をする。

「あの……これってやっぱり凄いことなんですか?」

「ええ。普通の学生……いえ、軍人でも動かすのに必要なエネルギーの二割か三割しか出せません。ですから強力な思念波を放ち、アンダーギアのエネルギージェネレイター兼コントロールシステムとなり得るサイコヘルムはとても貴重なのです」

「そうなんですか」

「はい。では機体を動かしてみましょう。サイコヘルムである貴方の思念波でしたら『動け』と念じれば機体がそれに従ってくれます」

「分かりました」

 上級生の女性に言われてハジメは、サイクロプスを動かすように頭の中で機体が歩くイメージを浮かべる。

 ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 ハジメのイメージを受け取った訓練機が歩きだす。その動きは先に動いていたどの機体よりもスムーズで学生達は口々に「凄い」と言葉を漏らし、教師は「流石はサイコヘルムだな」と感心して頷く。だが動かしている当の本人のハジメはというと……、

 ガシャン! ガシャン! ガシャン!

「………………………………………………………」

 訓練機を動かしながら物凄く退屈そうな顔をしていた。

「あの……? どうしたのですか? 凄く退屈そうな顔をしていますけど?」

 先程まで感動で表情を輝かせていたのに、今はつまらなそうにしているハジメを見て上級生の女性がたずねる。

「いえ……。ただちょっと、せっかくレバーとか機器があるアンダーギアのコックピットに入れたのに、ただ『動け』って思うだけなんてつまらないなと思って……」

 前世の世界にいた時からロボットアニメファンだったハジメは、自分の手で巨大ロボットを操ることにちょっとした憧れを抱いていた。だからこの授業ではアニメのパイロットほどではなくても自分の手で訓練機を操縦できると期待していたのだが、期待していた分だけ落胆も大きかった。

「……その、でしたら今からでも手動で動かしてみますか?」

「っ! いいんですか?」

「ええ。では私が言う通りに操作してくださいね」

「はい!」

 ハジメは元気よく返事をすると、上級生の女性の指示通りに手動で訓練機を動かす。手動で動かした訓練機の動きは、思念波で動かしていた時よりも固かったが、それでもハジメは心から満足していた。 
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