MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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019
「なぁ、ちょっといいか?」
最初の授業が終わり、休憩時間となって教師が教室から出ていくと、一人の男子生徒がハジメに話しかけてきた。
「君は?」
「俺か? 俺はカーネ・リヴァーレ。知っての通りお前と同じクラスのクラスメートだ。よろしくな」
カーネ・リヴァーレと名乗った男子生徒は、ハジメと同じ十五歳くらいの明るくて人懐っこそうな感じの青年で、金髪を短く切り揃えており耳には髪と同じ色の犬の耳が生えていた。
「こちらこそよろしく。それでカーネ君、一体何の用?」
「リヴァーレでいいって。それよりハジメってさ、そこにいるファム先輩が専門医としてついているってことはサイコヘルムなんだよな?」
「うん。そうだよ」
「やっぱり! じゃあさ、お前ってばもうアンダーギアに乗ったことがあるのか?」
ハジメが答えるとリヴァーレは瞳を輝かせて顔を近づけて聞いてくる。
「アンダーギア? ま、まあ一応乗ったことがあるかな……?」
本当はアンダーギアどころかマスターギアに乗ったことがあるのだが、流石にそれを言うわけにもいかないためハジメは適当に言葉を濁して答える。
「そっかぁ……。もうアンダーギアに乗ったことがあるなんて羨ましいよな……」
リヴァーレは心からの羨望の目でハジメを見つめる。その目に興味を覚えたハジメも彼に一つ聞いてみることにした。
「リヴァーレって、アンダーギアが好きなの?」
「ああ、大好きさ! 巨大ロボットなんて男のロマンじゃないか。俺、アンダーギアのパイロットになりたくてこの士官学校に入学したんだ」
リヴァーレが胸を張って答えると、他のクラスメート達が彼の姿を見て小さく笑う。どうやら彼のロボット好きはクラス中に広まっているらしい。
「僕もロボットは大好きだよ。乗って操縦するとまるで自分が自分を越えた力強い存在になれたみたいで凄く興奮するんだ」
ハジメが初めてサイクロプスに乗ったときの感想を言うと、リヴァーレは興奮したのか頬をわずかに赤くして何度も頷く。
「本当か!? やっぱり凄いなサイコヘルムってのは。ウチの学年にも何人かサイコヘルムがいるんだけど、そいつらってばすぐに専門医とどこかに行ってしまうから、こうして話ができたのは始めてだぜ」
「そうなのですか?」
ハジメがリヴァーレではなく自分の隣に座るファムに聞くと彼女は首を縦に振って答える。
「ええ、そうですよ。強力なサイコヘルムは能力が不安定なことが多くて、一日に何度も検査をすることがあるんです。ハジメさんは能力が安定してますから検査は一日に一回するくらいでオーケーですよ」
「そうですか。……サイコヘルムっていうのも大変なんだな」
「なに他人事みたいに言っているんだよ。……そうだ。なあハジメ、お前これを知っているか?」
リヴァーレはそう言うとポケットから携帯端末を取り出して画像を見せる。画面に映っていたのは、空中で鳥の姿をしたゴーレムの群れと戦っている同じく鳥の姿をしたアンダーギアの部隊の映像だった。
「この画像って……」
「そう。昨日現れたゴーレムの群れと軍のアンダーギア部隊が戦っている映像だ。ニュースで報道された映像を記録したんだ」
リヴァーレの携帯端末の画像に映っていた映像は、昨日ハジメ達が参加した戦いの様子だった。
「それでこの画像がどうかしたの?」
「ハジメって、ずっと前から軍に協力しているサイコヘルムなんだろ? だったらハジメは昨日のこの戦闘に参加したのか?」
リヴァーレの言葉にそれまで「何故か」遠巻きにハジメとファムを見ていた他のクラスメート達も視線をハジメに集中させる。聞かれたハジメは横目でファムを見て、彼女が苦笑を浮かべながら小さく頷いたのを確認すると質問に答えた。
「………うん。僕は昨日、この戦闘空域からずっと離れた戦艦に乗っていたんだ」
昨日の戦闘でハジメはリンドブルムを後方で待機させていたため嘘は言っていない。まあ、もっともハジメはすぐにサイクロプスに乗って戦闘に参加したわけだが。
「マジで!? じゃ、じゃあさ、この機体を見たりしなかったか?」
そう言うとリヴァーレは携帯端末を操作すると、画面に別の画像が映し出される。それは最初はただの空の風景を映したものかと思ったが、よく見ると一点に銃を構えたハジメがよく知る緑色の機体が小さく映っていた。
(……サイクロプス)
「これは噂なんだけどな。どうやら昨日のゴーレムの群れを撃退したのは軍のアンダーギア部隊じゃなくてこの機体らしいんだよ。でも詳しい情報が全然入んなくてさ、この画像も昨日のニュースでちらっと出たっきりで、それからまったく見当たらないんだ」
十中八九軍の情報統制だとリヴァーレの話を聞いたハジメは思う。どうやらベット・オレイユのマスコミはかなり優秀のようで、軍も焦ったことだろう。何しろ昨日ファムから聞いた話では「イレブン・ブレット少将」の姿を世間の目にさらすのはまだ先の話らしいのだから。
「それでハジメ? この機体のこと何か知らないか?」
リヴァーレに聞かれてハジメがふと横を見るとファムが目線だけで「分かっていますよね?」と言っていた。
分かっている。もしここでサイクロプスの名前をだしたら、それだけでもハジメ達には大きなペナルティをかせられて、リヴァーレを初めとするこの場で話を聞いていた全員に情報漏洩を防ぐための監視などがつくことだろう。
「………………ごめん。僕は戦艦の中でずっと作業をしていたから、詳しいことは何も知らないんだ」
「そっかぁ……」
わずかにためらった後にハジメが嘘をつくと、リヴァーレはあからさまに肩を落とし、周りで聞いていたクラスメート達もがっかりした表情となる。その様子を見てハジメは心の中でリヴァーレ達に謝るのだった。
リヴァーレに話しかけられてから数時間後。午前の授業が終わり昼休みになると、ハジメは食堂の椅子に座ってため息をついた。
「ふう……」
「どうしたんだ? ため息なんかついて」
「いや、学校の授業がちょっとね……難しくて……」
両手で日替わり定食をのせたトレイを持ったリヴァーレに聞かれて疲れた顔で答えるハジメ。
午前中の授業、ハジメは言葉と文字は理解できるのだが専門的な用語が多すぎて、授業の内容をまったく理解できなかったのだ。唯一歴史だけは前世のゲームの知識と同じでついていくことができたが、それ以外は教師の言葉をノートに写すので精一杯だった。
「授業なんて気にするなよ。俺だってさっぱり分からなくて、歴史の授業なんかずっと寝ていたんだぜ?」
「ははっ。そうなんだ」
ハジメと同じテーブルの椅子に座って笑いかけるリヴァーレ。それはそれで問題があると思うが、少し気が楽になった気がする。
「あれ? そういえばハジメ、お前メシ食わないのか?」
「いや、これは……」
「ハジメさん。お待たせしました♪」
首を傾げるリヴァーレにハジメが答えようとすると、そこに二人分の弁当箱を持ったファムがやって来た。
「あっ、ファム先輩」
「あら、リヴァーレさん。ちょっとテーブルを使わせてもらいますね」
ファムはハジメの横に座ると、自分とハジメの前に弁当箱を置いた。
「さあ、召し上がれ♪」
弁当箱の中身はサンドイッチとサラダで、サンドイッチに挟まれている具もサラダも手間をかけたものだと分かる。
「これ、ファム先輩が作ったんですか? ハジメ、お前ってファム先輩にメシを作ってもらっているのか?」
「うん。まあね……」
「当然です!」
リヴァーレの言葉にファムが胸を張って答える。
「ハジメさんのカロリー計算も専門医である私の仕事です。ハジメさんにはもっと私好みのイケメンになってもらうのですから余分な脂肪なんて一ミリたりともつけませんよ。ええ、つけませんとも!」
拳を作って力説するファム。リヴァーレはそんな彼女をしばし見たあと、同情するような視線をハジメに向けた。
「………………なんつーか、お前も大変だな」
「もう慣れたよ」
僧侶のような顔でリヴァーレに答えるハジメ。何やらもう少しで悟りを開けそうなその表情が痛々しかった。
「そ、そうか。……っと、それより早いとこメシをくっちまおうぜ。次の授業に備えないとな」
「次の授業って何だっけ?」
ハジメが聞くとリヴァーレは瞳を輝かせて答える。
「聞いて驚けよ。次の授業は何と、アンダーギアに乗った戦闘訓練だ!」
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