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MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~

作者:小狗丸
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018

 士官学校ソヴァール・イコール。

 救世主の学園、という意味の名前をつけられたこの学校は、ベット・オレイユで成人とされる十五歳から入学できる。

 成人年齢が十五歳というのは地球の常識からすれば若すぎるように思えるが、これはベット・オレイユ人口の八割を占めるシメールが遺伝子調整をされた人種で成長が早いことと、過去のこの星が劣悪な環境で大量の若い労働力を必要としたことが関係していた。

 ソヴァール・イコールに入学した学生は四年間に及ぶカリキュラムを修了して卒業した後、士官候補生として一年間軍に従軍し、計五年の期間を経て正式な士官軍人として認められる。

「……そして私がこの学校の軍医コースに入学したのは十五歳の時で、つまり今の私はピッチピチの二十歳ジャストなのです。……分かりましたか? ハジメさん?」

「は、はい……」

 空中での戦闘で百体のゴーレムを撃退した次の日。ソヴァール・イコールの校舎にある教室の一つの前でファムが説明をしてハジメが相づちをうつ。会話を聞くだけなら普段通りに話をしているように聞こえるのだが実際に二人の顔を見てみると、ハジメは顔を真っ青にして冷や汗を滝のように流しており、ファムは口こそ笑っているが目は全く笑っておらず尻尾を逆立てている。

 誰から見てもファムが激怒しているのは明白で、ハジメは彼女の後ろに何か恐ろしい“獣”の姿を見た気がした。

 何故ファムがこんなに怒っているのかというと、今から数分前にハジメがふとした好奇心で「ファムさんっていくつなんですか? 士官学校を卒業したのだったら僕よりもずっと歳上なんですか?」という内容の、女性の前では決して口にしてはならない爆弾発言を言ってしまったからであった。

「よ、よく分かりました。ファムさん。失礼なことを聞いて本当に申し訳ありませんでした」

「うむ。よろしい」

 女性の前では歳の話は厳禁、と心のメモ帳に油性ペンで大きく書いたハジメは深々と頭を下げてファムに謝罪し、それを見て彼女もようやく機嫌をなおしてくれた。

「あの~、話は終わりましたか……」

『え?』

 ハジメとファムが揃って声が聞こえた方を見ると、眼鏡をかけた気弱そうな女性教師が教室から顔をのぞかせていた。

「えと、そろそろ自己紹介してもらいたいですから、教室に入ってもらえませんか?」

『あっ……』

 教師の言葉にハジメとファムは、自分達が長い間話していたのに気づく。今二人がいるのは自分達が今日から通う教室の前であり、教室から顔をのぞかせている教師は今日からお世話になる担任教師である。

 今日はハジメの初の登校日で、担任教師に「生徒に転入生のことを伝えますから、呼ばれるまでそこで待っていてください」と言われて教室の外で待っている時に、ハジメが例の爆弾発言を口にしてしまいファムを怒らせてしまったのだった。

「す、すみません。今行きます。ファムさん」

「そうですね、ハジメさん。先生もすみませんでした」

 ハジメとファムは担任教師に謝ると気まずげに教室の中へと入っていった。

(おおっ、これは……)

 教室に入って自己紹介をするために教壇に上がったハジメは、教室の様子を見て思わず声をあげそうになった。

 教室には二十名程のハジメと同じ十五歳前後の学生達がいたが、その学生のほとんどは頭に獣の耳や角を生やしたシメールの男女であったからだ。

(昨日の街でも思ったけど、やっぱりリアルな獣人、シメールが多いな。……それにしても)

 ハジメが教室の生徒達を興味深げに見ていると、生徒達の方もこちらを興味深げに見ていることに気づいた。時期外れの転入生が珍しいのは分かるが、生徒達の視線はそれよりもずっと好奇の色が強く、自分だけだなくファムにも向けられている気がする。

(何だ? あの視線、まるで信じられないものを見たってような感じだけど……)

 ハジメが内心で首を傾げていると担任教師が生徒達に呼びかける。

「はい。それでは皆さん、転入生を紹介します。今日からこの教室で皆さんと一緒に学ぶニノマエ・ハジメくんです。ハジメくんは『特別な事情』で今日まで軍の施設で暮らしていたそうです」

 担任教師が言った「特別な事情」とは軍が事前に用意したハジメの偽の経歴のことで、「幼少時にゴーレムによって家族を失い、サイコヘルム能力に目覚めてからは軍の実験所で実験に協力していた」という内容だった。

 最初に聞いたときは「まるでアニメや漫画の主人公だな」とハジメは思ったが、ファムによるとそういう経歴を持つ人は過去にも数人いたらしい。

「ハジメくん。自己紹介を」

「はい。……ニノマエ・ハジメです。ずっと軍の施設にいたから世間の常識にうとくて皆に迷惑をかけるかもですけど、よろしくお願いします」

 ハジメがにこやかな笑みを浮かべて挨拶をすると、教室の女生徒達が全員頬を赤くして、男子生徒が舌打ちをする。ハジメ本人は気づいていないが今の彼の姿はゲームで設定した「イレブン・ブレット」の姿で顔立ちが非常に整っており、モデルや俳優としても十分通用するレベルで、女生徒達の男子生徒達の反応もそれが原因だった。

「それでは次は私ですね。私はルナール・ファム。ハジメさんの専門医で、この学校の卒業生です。気軽に『ファム先輩』と呼んでくださいね♪」

『…………………………!?』

 ファムが自己紹介をすると教室の空気が一気に凍りついた。

「る、ルナール・ファムって……まさか『あの』……?」

「将来有望な男子生徒や男子教師を次々と誘惑しては捨てていった『男狩り』のファム……」

「恋人を捨てる時の冷酷な態度で再起不能者を続出させたという『ハートブレイカー』……あの人が?」

「恋愛関係のトラブルで敵対した女生徒をことごとく罠にはめた『腹漆黒のルナール』。……初めて見た」

 生徒達の口から次々と上がってくるファムの昔の呼び名に、ハジメはジト目となって横に立つファムを見る。

「…………ファムさん。貴女は一体この学校で何をしていたんですか?」

「お、おほほ。た、ただの甘酸っぱい青春の一ページを作っただけですよ」

 ハジメの言葉にファムは笑顔で答えるが、その口元はわずかにひきつっており、額には一筋の冷や汗が流れていた。 
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