ゲルググSEED DESTINY
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第九話 新たな開闢
ミネルバがオーブを離れ、オーブの静かな浜辺に似つかわしくない様相をした複数人が現れる。全員が暗視ゴーグルを付け、明らかに普通ではなく、またオーブの人間とも思えない。
一人の男が手話で命令を行う。隊長のヨップ・フォン・アラファスだ。彼らはプラントの上層部の人間からラクス・クライン暗殺の命令を受け、行動していた。これがデュランダル議長の指示なのか、それは本人にもわからない。
或いは、有利にことを運ばせる為に別の人間が送り込んだ部隊なのかもしれないのだから。ただ、上層部の人間からそうするように言われただけなのだ。そして、彼らは暗殺を実行に移し出す。
◇
「どうもこいつ等、厄介な連中らしいな」
「ええ、そうみたいね」
アンドリュー・バルトフェルドとマリュー・ラミアスは暗殺部隊の奇襲を退け、殿を務めながら移動する。ここまで戦ってきたが、おそらくは全員コーディネーターと思われる部隊。その割には手ごたえがない部分もあるが、おそらく対人戦の実戦経験が少ないのだろう位にしか予想がつかない。
「ともかくシェルターに急げ!子供たちを連れて、さあ!」
バルトフェルドが拳銃で迎撃するが流石に人数の差も相手が持っている武器の差もあり、追い詰められていく。何とかシェルターに撤退するときには既に敵は目の前にいてヒヤヒヤさせられるものだった。
「とりあえず、何とかなったかね?」
「たぶん、大丈夫だとは思います」
前大戦の英雄とも言えるキラ・ヤマトがバルトフェルドの発言に同意を示す。しかし、それが間違いであることはすぐに理解させられる。
外部から大きな衝撃が響き渡る。それは明らかに敵の攻撃だった。衝撃の大きさからしておそらくMS。シェルターのさらに奥にまで潜り込むものの、そう長い時間は持たないだろう。
「ラクス、鍵を……」
「ですが、キラ……」
守りたいと思うキラと、もうキラに傷ついて欲しくないと願うラクス。互いの主張は相反するモノであり、片方の主張を押し通さねばならない。
「このまま君たちのことすら守れずに…そんなことになる方が、ずっとつらい」
その言葉が決定的だったのか、ついにラクスが折れる。鍵によって扉が開かれ、自由の翼が、そして剣が再び目を覚ます。
「キラ・ヤマト、フリーダム行きます!」
◇
暗殺部隊の隊長であるヨップはようやく終わるか、と思っていた。シェルターの壁は何重にもなっており、ビームライフルを撃ちこんでいたがその層にも終わりらしきものが見え始めていた。
二種類の最新鋭の機体に乗っている暗殺部隊。一つは隊長であるヨップと二人のパイロットが搭乗している特殊作戦用のゲルググF型。残りは水陸両用兵器であるアッシュ。F型は水中戦がないと判断して装備を地上用の物に変更している。
ラクス・クラインの死体は必要なく、殺したという事実さえあれば問題ない。シェルターに入ったことは確認済みである以上、ここを破壊すれば証拠などなくとも殺したと断言できる。まあ、その上で死体が見つかれば上等であるが。
そして、最後のひと踏ん張りとばかりに攻撃を仕掛けようとしたその時、僚機の一機が腕を撃たれ武器を失う。
「何だ!」
『あれは……』
『データにあったフリーダム!?まだ存在していたのか!』
とはいえ、彼らもプロである。驚愕はあったものの、すぐさま冷静さを取り戻し、攻撃を開始する。だが、その圧倒的な機動で次々と味方は撃たれ、或いは斬られ戦闘力を失っていく。
『舐めるな!』
一人のパイロットがアッシュのビームクロー使い、突く様に切り裂こうとするが、フリーダムは半回転しながらそれを躱すどころかサーベルで腕を切り落とす。
「やらせん!」
唯一指揮官機用の改造が施されているヨップのゲルググFSはビームサーベルを抜いて、ゲルググシールドを構えながら腰を落とす。
『指揮官機か!』
頭部バルカンを放ちながらフリーダムに攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃も虚しく、一撃目は何とかシールドで防ぎながら放ったものの、二撃目に振りかぶった右腕はあっさりとフリーダムの振り上げられたビームサーベルに断たれ、そのまま援護しようとした味方も一気に撃ち落としていく。
「まだやれる!」
残った左腕で盾を捨てさり、腰に差したビームライフルを抜き出し、残ったアッシュと連携しようとするが、逆にフリーダムのビームライフルに武器を撃ち抜かれた。それでもと、最後の抵抗ばかりに速射砲を放つがあっさりと避けられてしまい、それどころか収束ビーム砲で両足も撃ち抜かれてしまう。
残ったのは一機のゲルググF型とアッシュ。同士討ちも辞さないとばかりに同時に前後からサーベルやクローで切り裂こうとしたがご丁寧にゲルググは頭部を撃ち抜かれ、アッシュは両腕を切り裂かれたまま足もレールガンで吹き飛ばされてフォノンメーザーすら撃てない体勢にさせられた。
ここまでの戦闘に三分もかかっていない。まさに圧倒的な強さだった。機体の性能上核を搭載しているフリーダムが上なのはわかる。だが、それでもこちらも最新鋭機であり、ヨップの乗っていたFSなどは同型機のゲルググの中でもトップクラスの性能だったはずだ。
『これが、キラ・ヤマト……スーパーコーディネーターの力……』
頭部が潰されたゲルググのパイロットがそう呟く。それを最後にその機体もライフルやレールガンで四肢を撃ち抜かれていった。
◇
どの機体もコックピットを討たれることはなかったが次々と自爆していく。暗殺部隊などという特殊部隊が敗北した先は死しかない。情報の秘匿もあり、彼らは機体ごと爆発させていった。
「結局、彼らはどこの部隊だったんだろうね?」
バルトフェルドが機体から降りたキラやマリューと話あう。武装や機体からしてザフトの人間に見えるが、もしかしたらそうやって偽装した別の組織の人間かもしれない。ジャンク屋や自分たちクライン派と似たような組織を探せば、ザフトの機体だって手に入る。或いは外装だけでも誤魔化すことは出来るだろう。
そして、ザフトだったとしてもザフトの誰がこんなことをしたのか。最も大きな命令権を持つのはデュランダル議長だが、別に議長だけが部隊を動かせるわけではない。可能性は低いが、この部隊の独断という可能性だってあるのだから。
「なんにせよ、オーブが決断を迫られている中、僕たちも選択を迫られているのかもしれません」
「ですが、キラ……あなたは!」
キラもラクスもマリューも、前大戦で負った精神的な傷は大きかった。廃人や奇人になるようなことこそなかったが、その一歩手前だったことは明らかだった。この二年、傷は癒されつつあるとはいえ、それでもと思ってしまう。
ラクスが療養していたのは自身よりもキラが心配だったからだ。戦争が終わった直後のキラは無気力に近い状態だった。親友のアスランや義父母であり叔父叔母であったヤマト夫妻、そしてラクスといった多くの人達に支えられて回復してきたのだ。
そんな中、再び戦火の渦中へと飛び込むことになるかもしれない。
「ああ、そうなのかもしれないね……」
「バルトフェルドさん!?」
キラの発言に最初に同意を示したのは砂漠の虎こと、アンドリュー・バルトフェルドだ。彼はこの中で唯一、まともな軍人である。マリューも軍属だったが、その分野は技術士官だったためこういったことは専門分野ではない。
「このままコーヒー専門の喫茶店でも開けたらよかったんだけどねぇ~。この件も含めて、どうも見て見ぬふりをするわけにはいかないってことだろ、キラ君」
「はい、僕たちは何が真実なのかを知るべきなんだと思います。アスランも真実を知るためにプラントへ向かいました。ラクス、僕はもう大丈夫だから」
「キラ―――わかりました。でも、絶対に無理だけはしないでください」
全員が真実を知るために再び動くことを決定する。
「じゃ、手始めにいったい何をするんだい?」
「はい、それは―――」
そして、カガリ・ユラ・アスハとユウナ・ロマ・セイランの栄えある結婚式に籠の中に閉じ込められた鳥を救いだし、自由を得たかのように、フリーダムがカガリを攫って行った。
◇
「こちら認識番号285002特務隊フェイス所属、アスラン・ザラ……寄港にいるミネルバへ乗艦許可を」
議長からセイバーを受け取り、オーブにいるミネルバへと向かった彼だったが、オーブの対応は予想だにしないものだった。
「ムラサメ―――演習か何かか?」
そう思ったのも束の間、ムラサメはミサイルを撃ちこんできた。
「なッ!?どういうことだ、こちらに攻撃の意志はない!?ミネルバへの乗艦の許可を―――」
『残念ながら、オーブが世界安全条約機構に加盟した今、プラントは敵性国家だ』
「何だって!?カガリは連合との同盟を止めれなかったと言うのか?――――――こちらオーブ市民番号2500474Cアスハ家のアレックス・ディノだ。代表につないでくれ。緊急を要する」
『受け入れられない。既にオーブにいないミネルバをダシにするなど間抜けすぎるぞ。オーブ軍をなめるな』
そういってビームを放ち、セイバーに再度の警告を促す。
『これが最後通告だ。今すぐオーブ領空から立ち去れ。ミネルバは寄港にはおらず、また、代表につなぐことも受け入れん。これを許諾出来ない場合、攻撃目標として貴殿を撃破させてもらう』
「クッ、了解した。オーブの領空から離れよう。――――カガリ……くそッ!」
◇
オーブ領海周辺から逃れ、カーペンタリア基地まで辿り着いたミネルバクルーの彼らは、戦闘の疲れと久しぶりの自軍の領域に羽を伸ばしていた。
ルナマリアやメイリンはオーブの時と同様ショッピングを、ヨウランとヴィーノは食事をしながら今後の予定はどうなるのかと話し合い、レイはグランドピアノで曲を弾き、マーレは喫茶店で静かな時間を過ごしていた。シンもオーブの時とは違い、機嫌が良かったのでショーンやデイル達と一緒に日用品や娯楽品を買いに買い物に出ていく。
そんな中で基地に一機の見慣れない赤い機体が着陸する。そんな機体が降りてきたせいか、基地に多くの人間が集まっていく。シンもまたその一人だった。そして、コックピットが開き、降りてくる人物を見て思わずつぶやく。
「どういうことだ?」
「口に気を付けなさい、彼はフェイスよ」
ルナマリアが窘めるようにそう言い、周りの人たちが敬礼するのに合わせて、シンも荷物を近くにいた人に押し付け服を整えながら敬礼する。
「すまないが、艦長に会わせてくれないか?」
「いいぞ、俺が案内してやる」
「ちょっと、マーレさん!?」
ぞんざいな口調で答えるマーレにルナマリアが注意するかのように言うが、ミーハー的な嫉妬めいた目線を見て、呆れた顔で言う。
「フェイスに権限があろうとも、俺はここじゃ独立した人間だ。それに命令権があるからってナチュラルみたいに上下関係が厳しいってわけじゃないんだよ」
正論とは言い難いが、間違ってるわけでもない指摘にルナマリアはそれ以上口を挟むことが出来ず、その様子を見たマーレはさっさとアスランを案内することにする。
「こっちだ」
「あ、ああ。わかった」
マーレとアスランは艦内を歩き、ミネルバの艦長室へと向かう途中、アスランは尋ねる。
「オーブがどうなっているのか知っているか?」
「ああ、詳しくは知らんがな」
「じゃあ、何故あんなことになったのか……」
「あんな事って言うのがどんな内容かは知らんが少なくともオーブは連合と手を組んだことは確かだ。おかげで俺たちはていの良い土産扱いを受けたぞ」
内容を聞き、アスランは「カガリがそんなことを…」や「結婚!?」って騒いだり、挙句連れ去られたことを聞いて驚愕するどころか少しばかりホッとする表情を見せる。マーレにはこの上なく苛立つ表情だ。ナチュラルに良いように利用され、ナチュラルにうつつを抜かす。仮にアスランがフェイスでなかったら殴り倒していたかもしれないとまで思う。
「聞きたいんだが、お前はオーブを討てるのか?」
「―――それは」
「そりゃこっちだって向かってこなけりゃ撃たんだろうが、状況が変われば最悪、本土まで攻めることになるんだぞ?それでもテメエは討てるのかよ?」
正直言って、色々と甘すぎるのだ。守るために戦うだとか、真実が如何とか、守ってばかりでは向こうは得をするばかりだ。少なくとも自分たちの土地を荒らされないだけ損はしない。必要なら攻めなければならんだろう。
それに、他国を攻めるのが良くて、オーブを攻めるのは躊躇う。愛着があるなら当然だが、攻められる他国からすれば文句の一つでも言いたくなるだろう。
「まあなんにせよ、その辺はよく考えた方が良いんじゃねえのか?俺はどうでもいいが、そのせいでお前が俺たちの足を引っ張ったら困るんだからな」
曖昧な表情を見せたまま、彼は頷くことしかできなかった。
後書き
マーレとアスランはマーレは嫌っていますがよく話し合いそうっていうような関係でしょうね。部活動とかサークルで嫌いな相手でも事務的なこと以外で話し合ったりすることが多い人という感じに近いと思います。
クラウの出番は今日もなし。クラウェ……
FS型とフリーダムの戦い。指揮官機だけあってFS型のスペックはそれなりに高かったはずなんだが、あっさりと一蹴されました。ちなみにF型の地上用装備はビームライフル、下腕部110ミリ速射砲、MMP80マシンガン、ゲルググシールド、ビームサーベルです。
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