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ゲルググSEED DESTINY

作者:BK201
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第十話 アスランの立ち位置

アスラン・ザラがこの艦に同乗することになり、艦長であるタリア・グラディスはアスラン・ザラ同様フェイスに任命された。
そして、アスラン・ザラの同乗には様々な感情が広がっていく。ルナマリアやメイリンといった若い女性陣は憧れや興味といったミーハーめいたものを、副館長のアーサーやヨウラン、ヴィーノといった整備士はフェイスに対する純粋な尊敬を、パイロットのショーンやデイルは命令されたり、まともに連携が取れたりできるのかといった不安が、シンは軍に戻ってきたことに対して複雑な感情を、マーレやタリア、当の本人であるアスランといった比較的冷静な人達は騒がしくなったクルーに対して少々呆れを見せていた。

「全く、前大戦の英雄ってだけでこれ程盛り上がれるもんなのかね?」

セイバーのコックピットを覗き込みながらマーレは今一理解できないとばかりにアスランに尋ねる。

「さあ、俺にもよくわからないな。大体、英雄なんて担ぎ上げられたくもないし」

そう言いながらアスランはセイバーをコックピットで整備し、もう一つ不可解な疑問を口にする。

「それで、なんでマーレは俺の所に来てるんだ?俺は嫌われてるとばかり思ってたんだが……」

ナチュラル嫌いの彼がナチュラルにうつつを抜かしている(アスランとしても否定しにくい)彼の傍に何故いるのかが今一よくわからない。とはいえフェイスという立場に委縮せず対等な口を利くマーレはある意味、気が楽で、その上女性陣の積極的なアプローチも避けられるからこちらとしてもありがたいものだが。

「別に大した理由じゃねえよ。騒がしくない所を探してたら自室か艦長室、後ここ位しかなかっただけだ。騒がれてる本人のとこに来たら騒がしくないなんざ、まるで台風の目だな」

溜息をつきながら嫌々そう説明するマーレ。実際にアスランに対してあまり好意的な感情を持っているわけではないのだろう。言葉の節々には少しばかり皮肉めいたものがある。

「悪かったな、俺のせいで騒がしくて」

「全くだな―――」

笑いながら同意をするマーレ。少しムッとするが、その笑いからして冗談なのだろう。何だかんだ言ってナチュラル嫌いを除けばいい奴なのだろうと思う。そのナチュラル嫌いが度を越しているせいで親しくしたがらない人が多いのだろうが。

「ま、何はともあれ明日にはこの艦も出航だ。インド洋位は無事渡れるといいんだがな」

そう言いながらセイバーのコックピット周辺でマーレはアスランとしばらく雑談を交わしていた。








ミネルバがボズゴロフ級潜水艦ニーラゴンゴと共にインド洋沖を移動していくと敵の部隊が現れた。

「一体どこから?」

「まさかミラージュコロイド?」

「海で?ありえないでしょ」

アーサーがミラージュコロイドによる偽装かと予測を立てるがタリアが否定する。ミラージュコロイドは移動の痕跡まで消えるわけではない。推進剤を使用すれば当然熱反応が起こるし、スクリューであっても音でばれる。何よりミラージュコロイドは水中ではコロイドが水に溶解し、装甲に定着しないため使用することが出来ない。
ともかくとニーラゴンゴの機体も含めてMS隊を発進させることにする。タリアは部隊の指揮をアスランに任せる。フェイスの人間が二人もいて、どちらも命令をすれば現場は混乱すると判断したためだ。
だが、その指令に不安や不満を覚える人物がいた。シン、ショーン、デイルの三人である。ルナマリアはアスランに熱が上がってるし、レイは元々そういったことを気にしない。マーレも状況を呑み込めているので大した問題ではないと判断している。
だが、一方で不安を覚えるのも当然だった。いきなり現れた人間が現場の状況も知らずに的確な指示を果たして出せるのか。そんなしこりの残る中で戦闘は始まった。







三十機のウィンダムにネオ専用のウィンダム。そしてセカンドシリーズの二機。
シンとアスランは共に空戦が可能なので先に出撃する。マーレ機もミネルバの上で砲撃戦を行う為に出ていく。他のゲルググはとりあえず待機となった。ニーラゴンゴからもグーンの部隊が出撃していく。

「この場では俺が指揮をとることになった。頼むぞ」

『えぇ?』

『了解した。シンも従え。ここは戦場なんだからな』

嫌そうな声を上げるシンに、同意を示しシンを窘めるマーレ。アスランとしては癖の強い二人を的確に指示することが出来るのか不安だがやるしかなかった。

『また新型かい。ザフトはすごいねぇ~』

『見せてみろよ、力をッ!』

カオスがセイバーに向かって突撃を、ネオのウィンダムはインパルスを仕留めにかかる。マーレやミネルバはウィンダム部隊を狙っていくが、水中にいたグーンは早々に一機落とされた。

『アハハッ、ごめんねぇ、強くてさ!!』

アビスの攻撃によってあっさりと撃墜されていくグーン。ニーラゴンゴからの要請もあり、レイとルナマリアはF型に換装して海中で戦闘することになる。

『あたし水中戦苦手なのよね。しかも、F型って下手すればすぐに沈んじゃうんじゃ……』

『無装備やザクでそのまま水に入るよりはましだ。少なくとも自由に動くことは出来るんだからな』

互いに愚痴をこぼしながら換装が完了したゲルググに二人は乗り込む。ショーンとデイルもOSの書き換えが完了し、武装を取り換えたら直に発進する予定だ。相手は最新鋭とはいえ一機。要はそれまでの間、時間を稼ぎ、艦に攻撃を仕掛けさせなければいい。

『レイ・ザ・バレル、出撃するぞ』

『ルナマリア・ホーク、出るわよ』

残っていたグーン部隊も苦戦を強いられおり、下手すればすぐにでも撃墜されるような状況だ。

『援護が来たか。ありがたい!』

『ハッ、そんなんでこの僕をやろうって?なめんなよコラァ!!』

早速とばかりにやってきた二機に対して攻撃を仕掛けてくる。防御するのは自殺行為だと予測した彼らは回避に徹し、VPS装甲にも有効であるレーザーライフルで攻撃を仕掛ける。

『へえ、意外とやるじゃん?だったらもっと僕を楽しませろよォ!』

一方で空の戦場も状況を変え始めていた。アスランの駆るセイバーはカオスを翻弄し、インパルスも次々とウィンダムを撃墜していく。ミネルバやマーレ機の援護、さらにはウィンダム部隊の士気の低さもあってかうまく連携を取ることも出来ずあっさりと数を減らしていた。
そして、徐々に地上に近づいていくとそこに待機してたであろうガイアがインパルスに襲い掛かる。

『こいつ、また!』

『今日こそ……落とす!』

海中での戦闘もショーンとデイルも出撃し、アビスを翻弄していく。

『こいつらァッ!?』

アビスはMA形態に変形し、一気に加速して囲んでいた敵から逃れる。それを追いかけようとしたグーン。だが、アビスは構造上後ろについていた連装砲を放ち、逆にグーンを撃墜する。

『そろそろ潮時かね?お前ら、撤退するぞ!』

スティングとステラはその言葉を聞いてすぐさま撤退を開始する。だが、一人水中で戦っていたアウルは何で、とばかりに反論する。

『こっちに来てたウィンダムが全滅したんだよ。いくらなんでも空の敵押さえてなくちゃきついでしょ?』

『何やってんだよ、ボケ!』

『そういうなよ、お前だって大物は仕留めてないだろ』

『じゃあ、落としてやるさ』

そのままMA形態でニーラゴンゴに向かっていくアビス。意図に気付いたMS隊はすぐに止めようとするが遅かった。

『貰いッ!!』

魚雷を発射し、ニーラゴンゴは直撃を受け、爆発する。アビスはそのまま勝ち逃げとばかりに撤退していった。








戦闘が終了し、シン達が帰還した中、アスランはシンに近づき、平手打ちをする。

「殴りたいなら構いやしませんけどね。けど、オレは間違ったことはしてませんよ。あそこの人たちだって、あれで助かったんだ!」

シンはガイアとの戦闘を終了した後、強制就労させていた市民に向かって発砲した連合歩兵をみて、連合歩兵に対して攻撃を仕掛けたのだ。それを見たアスランはMSに対する戦闘力を持たない連合兵に対して攻撃するなと言ったのだが、シンは聞き入れず、そのまま市民を救ったのだ。
そのことに対してアスランは叱責する。

「戦争はヒーローごっこじゃない!力を持つものなら、その力を自覚しろ!」

そう言って、アスランはそのままその場を退出していった。やはりいきなり任命され艦に配属されたアスランはそういった面でも他者との軋轢を感じてしまう。

「あれ、言いすぎじゃないかね?」

ロッカールームで先に待機していたマーレはドリンクを投げ渡しながらそう言う。

「アンタの意見は正しいが、シンの奴だってハッキリ言って間違っちゃいねえだろ」

事実、連合軍が無抵抗のままに投降したのならともかく、敵の連合軍は無意味とはいえ攻撃を仕掛けていたのだ。市民に対する虐殺行為も含め、シンの行動とて決して間違ってはいない。

「確かに、今回は間違わなかった。だが、あいつは力を見誤ってる部分がある。あのまま同じことを繰り返せば、あいつはいつか、無抵抗の市民にまで銃を向けることになる」

「だから間違ってるって?そう言う意味だって伝わってないんじゃ、意味ないだろ?向こうも冗談じゃないって意固地になるだけだぞ」

マーレは思わず苦笑する。やはりアスランも若い。伝え方が酷く不器用に思える。マーレは年長者として介入してやるべきなのだろうが、生憎こういった分野は苦手であり、他人任せにするしかない。

「まあ、話くらいは聞いてやるからお前も少しは歩み寄ってやれよ。あいつ等だって色々と思う所があるんだからな」

「わかってるさ」

全く分かってない。そう思いながらマーレは少しばかり溜息をついていた。








ミネルバはマハルーム基地に辿り着く。シンの不機嫌な態度は続いており、ルナマリアには子供っぽ過ぎるとまで言われるがシンの苛立ちはなくならない。レイはそんな状況を見ながらも微笑ましいものだとばかりに対応するだけだ。
そのことを食事しながらルナマリアはメイリンやショーン、デイル達に愚痴をこぼす。

「でもさ、実際シンの言いたいことも分からなくない?」

「だよな、別に悪いことしてるわけじゃないし―――連合は敵なんだし」

「でも、アスランさんってフェイスでしょ?フェイスの命令を聞かないのはどうかと思うんですけど?」

男としてなのか、男性パイロットだからなのか、シンを擁護するような発言をするショーンやデイルにたいし、メイリンが正論を突き付け苦い顔をする二人。

「だよな~」

「実際、フェイスってどのくらい偉いんだ?俺、座学苦手でさ……」

「お前座学は寝てばっかで試験も一夜漬けだったもんな」

「そんな寝てねえよ。一夜漬けは確かだけどさ」

ショーンが座学が苦手だと言いながらそれをデイルが茶化す。メイリンはアスランのことを調べた際に知ったフェイスのことについて話す。

「国防委員会及び評議会議長に戦績・人格ともに優れていると認められた者が任命されるザフトのトップエリート。その上、個々において行動の自由を持ち、その権限は通常の部隊指揮官より上位みたいで作戦の立案及び実行の命令権限までも有している、らしいですよ」

「げえ、マジで凄いじゃん、それ」

「だからそう言ってるじゃない。それなのにシンってば突っかかっちゃってさ」

「お、何々?シンが構ってくれなくてご立腹ってやつ?」

「いいな~、青春してんな~」

「そんなんじゃないわよ!!」

「「あ、はい。すいません」」

ルナマリアが思わず激怒し、二人は同時に謝罪した。








アスランはマハルーム基地での作戦会議が終了し、夕日の中歩いて帰る。すると、その夕日を見ながらひとり佇むシンを見つける。

「どうしたんだ、そんなところで?」

マーレに歩み寄ってやれと言われた言葉を思い出し、シンに話しかける。

「そちらこそ、こんなところでサボっていて、よろしいんでありますか?」

シンは不機嫌そうに、納得がいかない様子を見せながら言葉を放つ。それを見てハッとする。自分がマーレにした時の反応もこんな感じではなかっただろうか。
似ているな、と素直にそう思ってしまう。そうだ、多分似ているのだ。自分とシンは。兵士となった動機も、力を求める理由も、そしてこういった態度も。結局、同族嫌悪と言うか、人の振り見て我が振り直せと言った所だろうか。

「フフ、フックククッ―――」

「な、何いきなり笑ってるんですか!?」

顔を真っ赤にしながら突っかかって来るシン。ああ、やっぱりこういうところが似てるんだなとアスランは思う。

「いや、悪い。どうも俺にも反省すべき点があったって理解してな」

「―――え?」

「悪かったシン。俺もきちんと説明してやるべきだった。言葉が足りなかったみたいだ。シン、オーブで家族を殺されたといったが、そのとき力があればいいと思ったのか」

「はい」

「自分の非力さに泣いたものは誰でもそう思う。だが、その力を手にしたときから、今度は自分が誰かを泣かせるものとなる。それを忘れるな。勝手な正義をふるうだけなら、ただの破壊者だ。それは分かってるんだろ」

ニコルを、母を思い出す。自分も同じような事を思い、同じように行動した。

「それは……わかってます」

「それさえわかっていれば、優秀なパイロットだ。そうでなきゃ、ただのバカだがな」

少しだけ、彼らの間にあった距離が縮まったような気がした。 
 

 
後書き
ルナマリアはアスランよりもシンの方が気になる様子。憧れと恋愛感情を区別できる大人です。理由としてはマーレやクラウ等の年上と接したことがあるのとシンが精神的に余裕があったおかげでアカデミーに居た時から割と親しくなってたから。
シンに対する恋愛感情には気付いてないけど、アスランに対しては単純に憧れてるだけの状態です。それに気づいておらず恋心と勘違いしている妹の方は成長してないような気もするけど(笑)
ショーンやデイルは相変わらずアスランの指揮に不安な様子。まあ勝ったのにシンを平手打ちしてるんじゃ良い印象も浮かびにくいんでしょうけど。 
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