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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第四十二章 秘めし決意《2》

 
前書き
 秘められしその決意とは。
 それではスタート。 

 
 西貿易区域の北側。
 そこで止まっていた戦闘が、息を吹き替えしたように再び始まった。
 学勢二人対社交院。
 普通ならば後者の方が有利だが、それは普通ならばの話しだ。
 押しているのは学勢の方で、押されているのが社交院。
 嵐の如く攻める学勢を相手に、二人の社交員が皆の壁となっていた。
 葉木原と倉澤だ。
 二人は両手を前にし、防御系術を発動している。
「「絶対防盾――!!」」
 発動している防御系術の名だ。
 円形の盾が、次々と来る相手の攻撃を防ぐ。
 その全ての攻撃を防ぐ盾には傷一つ付かず、攻撃を行っている学勢はある感覚を覚えている。
「面倒くせえもん発動しやがってよお。万象宗譜|《トータルスコア》の絶対防盾、てのは厄介だぜええ」
「攻撃を防ぐっつうよりも、攻撃の威力を食われるような感じっすね」
「打撃が駄目なら斬撃だな」
「馬鹿っすか先輩は。肝心の武器持ってきてないっすよ」
「かああ、これだからテメエは駄目なんだよ。手刀っていう立派な刀が俺達の拳にあるだろお?」
「何格好良く言ってるンすか」
「はあ――!」
 無視し、九鬼は目の前の盾に向かって腕を上げ、手刀を叩き込む。
 これを見て相手をしている葉木原は、
「これでは駄目だ、避けるぞ!」
「了解です」
 倉澤は返事を返し、数歩後ろへ後退する。
 味方には動くなと指示を出し、足が地に着く頃には盾は真っ二つに割れていた。
 地面が跳ね上がり、手刀を受け止めた地面には魔人族の手が深く刺さっていた。
 九鬼は刺さった手を地面から抜き、一つの結論を得た。
「なああるほどな。理解出来たぜ」
「何がっすか?」
「発動していたあの盾は一点集中型の盾だ。確か俺が信仰してる神格宗譜|《キリストスコア》にそんな感じの攻撃系術があったしなあ」
「どういうことっすか、それ」
「分かんねえのかよ。どうしようもねえなあ、おい」
 しょうが無いので説明する。
 相手が特に動かないのを見て、
「簡単なことだ。俺達の強烈な打撃を防ぐためにあの盾は打撃に対する耐性を持たせた、ただそれだけだ。絶対防盾なんてよく言ったもんだぜ。それ以外の攻撃に対しての攻撃には耐性を持たず、すこぶる弱くなるんだからよお」
「だから斬撃の手刀が通ったわけっすね」
「単純過ぎてさっきの戦いじゃ分からなかったけどな。まあ、そんなこたあいい。対処が分かっちまえば後はただの作業だ。ああ、あああ、つまんねえなあああ」
 深くため息を吐く。
 巨体が肩を落とし、先程の笑みが怠けたような表情へと変わる。
「最近の若者は礼儀というものがなっておらん。相手が子供|《ガキ》ではなく大人だったことを後悔するがいい」
「さっきから盾ばっか使ってる奴が何言ってんだあ? 俺が敬意を払うのは俺が認めた奴だけだ、他の奴らなんざ気い遣うこたあねえんだよ」
「がたいがいいと威勢も良くなるのは昔も今も変わらんか」
「言うじゃねえか。いいぜ、掛かって来いよ。まあ、テメエらじゃここを突破することは不可能だろうがよ」
 葉木原は服の埃を叩き落とし、
「準備をしておけ」
 仲間に伝える。
 これに応じるように倉澤を初めとする社交員はそれぞれ、戦闘の体勢を立て直す。
 先陣を切るように一歩前に出た葉木原は、こちらに勝機は無いと思いながらも、あえてそれを口にしなかった。
 皆、理解出来ているからだ。
 二人の学勢を目に捕らえ、
「例え目の前の敵が強靭で最強であっても、我々日来の者達は――」



 三分間の戦い。
 空に舞う二機の騎神は加速機が放つ塵を残光とし、高速で空を翔る。
 既に一分近く経っているだろうか、それぞれ二機は相手に向かって攻撃を行っていた。
 火炎ノ緋翼は携えた変型武器である炎熱火砲による砲撃を、戦竜は流魔刀による斬撃を。
 遠距離武器を持っている火炎ノ緋翼の方が一見有利に思えるが、燃料漏れにより残量が少ない今は加速機を満足に噴かせられない。
 一方の戦竜は背中に設けられていた武器装着部だけが損失しているだけであって、機体本体にはなんら問題は無いので加速機を噴かし近距離戦へと持ち込む。
「くそっ! 相手の機動力がこっちよりも上じゃ、せっかくの遠距離武器も意味をなさないじゃないか」
『だったら交えている刃はなんだって話しだな』
「これは炎熱火剣さ。銃形態の火砲と対の存在とも言うべきかね」
『原理は流魔刀と同じか』
 鍔迫り合いを相手の刀を払うことで解除し、身軽さを利用して再び行く。
 冷たい金属音が響き、
『質問だ』
「戦いの最中に質問とは、せこい手に出たねえ」
『なんとでも言え』
 吐き捨て、
『お前達は独立をした後どうする気だ? 日来を空に浮かべて、一体何をしたいんだ』
「口に出来ることは限られているが、口にするとすればこれさ」
 数回、刃と刃はぶつかり合う。
 離れられないようにするため、加速機を噴かし、戦竜は火炎ノ緋翼を押している。
 入直は隙を探すが見付からず、仕方無く声を返す。
「世界を少しマシにするために。アタイらの長はこう言ってたさ」
『少しマシに、か。よくそんなんで動く気になってたもんだな』
「アタイらの先輩達も考えていたからそんなことはないさね。ただ日来の連中は呑気なのが多いからね、そう見えるだけさ。て言ってるアタイも日来産まれの日来育ちだけどさ」
『世界を相手にすることをお前達は楽観視し過ぎた。世界はここよりも甘くないぞ、それでも行くのか』
 なんとか迫る戦竜から抜け出し、すぐに離れる火炎ノ緋翼に乗る入直は戦竜を目に入れる。
 銃形態へと炎熱火剣を変え、一発、砲撃を放つ。
 これは容易く避けられるが当てる気は無かったので、狙い通りと言えば狙い通りだ。
「ああ、それでも行くさ。日来の最終的な目的は崩壊進行の解決だからね」
『崩壊進行の解決、だと……?』
 崩壊進行。
 終焉の予兆ともされ、高濃度流魔が創生区域に進入してくることを指す。
 始まりは流活路からの流魔の異常放出により、大気中に流魔が溜まり高濃度化する。
 流魔は全てを構成する祖源体であり、高濃度になったそれを浴びれば突然変異に似たものを起こす。
 殆どのものはこの際の変化に耐えられず死に絶え、そんな現象が今まさに静かにだが起こっているらしい。
 各国も頭を悩ませる難題に、一地域の日来が挑むなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。
『狂っているな』
「外から来た連中によく言われる。だけど死にたくないからやるんさ、自分達のためにね」
『英雄にでもなるつもりか』
「そうじゃないさ。崩壊進行の解決には他の国や地域の協力を仰ぐつもりさ。皆、仲良くってね」
『お気楽過ぎる。いずれ沈むぞ』
「なんとでも言いな。そういう温い感じが日来には合ってるんだからさ」
 戦竜は距離を詰め、連撃を繰り出すが入直はそれを上手い具合に防ぐ。
 離れては刃と刃はぶつけ合い、火花のように流魔が散る。
 痛覚の伝播は弱いものなので、どれくらい力を出していいのか分からないが大体の範囲で出す。
 冷たい音を響かせながら空を行き、混じるように幾度も交差した。
 入直の方には遠距離武器があるからいいものの、相手の戦竜は近距離武器しか今は所持していないため離れないようにと追う。
「二重に吠えろ、炎熱火砲――!」
『面倒だな……ほんとに!』
 背を向け距離を離していた火炎ノ緋翼は反転し、振り向きざまに砲撃を放つ。
 二回に渡る砲撃は一撃目を二撃目が食らう形で、追って来る騎神を一直線に狙ったものだ。
 身体が障壁となり相手の判断を遅らせた結果、
『左腕がやられたか。まあ、いい。利き手の右手さえ残ってればな』
 前よりも出力を上げたために早く行く砲撃は、青の騎神の左腕を付け根から焼いた。
 結果、左腕は焼き溶けて無くなっていた。
 燃料がしぶきのように上がり、安全機器が働いたのかそのしぶきは途端に止んだ。
 痛覚機器により痛みが通っている筈なのだが、戦竜の様子は至ってこれまでと同じだ。
 これには入直は関心した。
「片腕失っても平気ってかい」
『痛覚を切ったからな。にしても、その砲撃は厄介だな』
「余裕ぶってるのかそうじゃないのか分からないね。どっちにしろ片腕だけじゃキツいだろうさ、実戦装備でもないんだしね」
『これでも宇天学勢院の騎神操縦者のエースなんでね、負けるわけにはいかない』
「ふん、いい意気じゃないか」
 陽炎が立つ火砲を火剣へと変え、加速機を噴かし火炎ノ緋翼は戦竜へと激突する。
 相手となる戦竜は片手だけで流魔刀を操り盾とし、後方へ行くのを加速機を噴くことで防ぐ。
 そして鍔迫り合いのなか、
『必ず世界はお前達を潰しに来る。それでもやるのか!』
「どんなに目の前の存在が強大であろうと、アタイら日来の連中は――」



「私達、日来は――」


「我々日来の者達は――」


「アタイら日来の連中は――」



「「「進んで行くと、そう決めた!!」」」



「だったら相手が強かろうがなんだろうが進んでく。だって日来は“日が来訪する場所”、暮れてもまた明ける。どんなに絶望したってまた希望を持ち立ち上がる、立ち上がれる」
 内臓が焼かれるような痛みを得ながら、必死にマギトは言葉を飛ばした。
 日来は弱くても抗えると。
 だから君達も抗えると。
 人を頼ることでは自分のためにはならない。
 自分の価値を下げるだけだ。
 時には頼ることも必要だが、されど時には自分で無茶をしてでもやり遂げることも必要だ。
 今、自分は騎神の冷却機器により涼められている。
 騎神の操縦者が行ったものであり、他人を気遣えるその気持ちがあるのならば、きっと長を自分達の手で救えただろうに。
 自らを下げるようなことを言わなければ、自信を持って自身らの長を救いに行くことが出来ただろう。
「悔しくないの……? 救いに行けなくて」
『――そんなの、悔しいに決まってるじゃないですか』
 声を聞けば、それはすぐに分かった。
『僕達、辰ノ大花はどうしたらいいか皆が皆、迷っています。ある者は長を救うことは黄森に逆らうことであり、家族を危険に晒すと言った。
 ある者は例え長を救い出せたとしても、今のままでは辰ノ大花は黄森の尻に敷かれたままで何も変わらないと言い、救出には否定的な者もいます。
 またある者は苦しみから長を救うことは、この世よから解放することなのではないかと言う人もいます』
 知らなかった。
 辰ノ大花でも、長のことについて悩んでいたことを。
 まだ自分は身の回りのことしか見えてない、とマギトは反省する。
 反省すると同時に、操縦者の声を聞いた。
『皆、長のことは好きです。辰ノ大花を古くから治めてきた一族の愛娘であり、小さい頃から皆は長の成長を見守ってきました。ですが、どんなに敬ったとしても自分達の家族と比べたら……どちらかを命の天秤に掛けなければならないとすれば、その命の天秤には家族など到底掛けられません。
 しかし、長を命の天秤に掛けることは辰ノ大花を護ってきた者を見捨てることと同じことです』
「だから迷ってるんだね。救うかどうか、を」
 理解出来無くも無い。
 家族の命が危うくなるのならば、変わりにどんなに敬っていた人であっても他人の方がそれはいいに決まっている。
 家族とは一番親しい間柄であり、そこにどんな事情が挟んでようとも家族は家族なのだ。
 愛されようとも、殴られようとも、笑い合おうとも、拒絶されようとも。
 根本的感情に負の感情さえなければ、亡くなるのは自分や家族以外の誰かの方がいい。
 だが、今目の前の騎神から聴こえた言葉はこう言っていたのだ。
 救いに行けば家族の命が危なくなる。しかし救いに行かないということは、今まで自分達を護ってきてくれた一族を裏切る行為だと。
 命と意志。
 どちらかを犠牲にしなければ、どちらかを得ることは出来無い。
 自分は彼らのことを何一つ理解していなかった。これでは後でこっちの長に怒られる。
 弱いくせに他人を気遣い、場数を踏んで人との繋がりを深めてきたあの馬鹿と呼ばれている長。
 本当に馬鹿だ。
 よりによって好きになる相手が辰ノ大花を治めてきた一族の唯一の生き残りで、一度拒絶されながらもまた告りに行こうとしているのだから。
 きっとこの場に彼がいたなら、間違い無くこう言うだろう。
「分かったよ、救いに行く」
 自分からそれを行おうとする。
『……ありがとうございます。本当に……ありがとう、ございます……』
 泣いていた。
 握りながら泣かれるのは初めての経験だったので、何やら新鮮なものに感じた。
 遅れてしまったが、長はこうも言うだろう。
「一緒に、だよ? 一緒に救おうね」
『……はい。きっと仲間が準備に取り掛かっている筈です』
「ふふ、初めからそうすればいいのに」
『本当ですよね。なんでもっと早く気付かなかったんだろう。もっと早く気付いていれば、こんなにも悩まなくて済んだのに……』
 握りを緩めてくれたので、するりと抜け出す。
 まだ熱があるものの全身を冷やしたお陰か、かなり具合は良くなった。
 魔力を使うのは、多分これ以上無理だろう。
 久し振りに多くの魔力を使ったせいか、魔力暴走がかなり早く起こってしまった。
 魔力暴走を遅らせることが、これからの課題だろう。
 なので魔箒|《イビルブルーム》は使わず、自身の翼で飛ぶ。
 大きく一呼吸。
 押し潰されていた肺を膨らませるように、一回。たくさんの空気を取り込んだ。
 そして吐く。
 熱が内側から外へ吐き出されるような気がして、涼しい感覚を覚える。
 マギトは笑みで騎神の顔を見て、
「生きるのって、難しいよね」
『はい。でも楽しいです』
「死んだらもう何も楽しめないのに、なんでこうもやり合うことが――」
『大丈夫ですか!?』
 急に気を失い、力無く落ちそうになったマギトを騎神が自身の手に載せた。
 先程の苦しみの影響なのか。
 だが、心配はいらなかった。
 力は無いがすやすやと、まるで赤子のように寝ていた。
 同時に魔装は解け液体のようなものになり、彼女の魔箒はレンタル式の拡張空間のなかへと液体の魔装と共に自動収納された。
 そして手の上にあるのは日来学勢院の制服を身にまとう、一人の魔法術師だ。
 なんの夢を見ているのか、笑みは崩さないで寝続けていた。
 騎神はそれを起こさないように地上へ戻り、その最中に出会った日来の二人組の魔法術師が眠る魔法術師の知り合いだったので渡した。
 最初はこちらを警戒していたが、戦意が無いことを証明すると近付いて来てくれたのだ。
 渡す最中に仲間内の一人が何やら、
 寝てる姿萌え萌え。私のマギトちゃん、はあはあ……。
 と不気味な言葉を言い、息を乱していたがもう一人の仲間は真面目そうだったので大丈夫だろう。
 そして二人の魔法術師に自分が知っている辰ノ大花のことを話し、勿論これから辰ノ大花の一部の者達が長を救いに行くことも。
 魔法術師はそれを真剣に聞いてくれて、日来の覇王会に連絡してくれるらしい。
 言うことを言い終えたら、二人の魔法術師はすぐに日来へと帰って行った。
 別れ際の言葉は無く、双方は背を向ける形でそれぞれの場所へと向かった。 
 

 
後書き
 マギトと騎神の戦いは終了しましたね。
 後は火炎ノ緋翼のところです。
 この章で更に詳しく、辰ノ大花が宇天長を救いに行かない理由が述べられました。
 家族を守るか、それとも辰ノ大花を治めてきた一族を守るのか。
 もし読者だったら、どっちらを選びますか。
 勿論、両方取るのも結構。
 要は守り抜けるかどうか、です。
 二つ守れるのならば両方取るのも手ですが、それでは二つの選択肢を取った際の負担も二つ共取るということです。
 学生の頃を思い出してみてください。
 成績とアルバイト。
 貴方はどちらを取りましたか?
 両方取った方もいるでしょう。
 両方取った時、貴方は両方で発生する負担をその身一つで請け負ったのです。
 アルバイトやってたし、成績も中間くらいだった。という人はハイスペック過ぎです。どうかそのハイスペックをください、お願いします。
 とにもかくにも、辰ノ大花の人達はどちらかを守るための選択肢を強いられたのです。
 一部の者は長の救出へと動き出し、また一部の者は黄森の指示に従い、更に一部の者は身動きを取らずにいた。
 日来はこのなかで如何に動き、宇天長を救出するのか。
 以後お楽しみに。 
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