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万華鏡

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第三十四話 トラックその六

「少しずつな」
「よくなっていかないと駄目っていうのね」
「まあ頑張ってくか」
 これが美優の今の言葉だった。
「少しずつでもな」
「そうしていきましょう」
「ああ、じゃあな」
「少しずつでも」
 こう話す二人だった、そうした話をしながら。
 琴乃はここでだ、トラックの運転手の方を見て言った。
「トラックって運転難しそうね」
「普通の車とは違うわよ」 
 先生も琴乃にこう説明する。
「さっきも言ったけれど普通の自動車免許じゃ動かせないから」
「だからなんですね」
「同じ車だから要領は同じみたいだけれど」
「それでもなんですか」
「私は乗れないけれど旦那は乗れるから」
 それで夫から聞いて知っているというのだ。
「色々と違うところがあるのよ」
「普通の車とはですか」
「そう、違うのよ」
 こう話すのだった。
「そこはよく踏まえてね」
「ううん、そうですか」
「だから特別な免許が必要なのよ」
 先生も運転席を車の外から見ながら話す。
「けれど先生もね、時間があればね」
「トラックの免許取ってですか」
「乗りたいわね」 
 羨望と共に出した言葉だった。
「旦那と交代で乗るなんていいわね」
「ご主人のトラックもこれなんですね」
「そうよ」
 自衛隊でも使っている軍用に相応しい大きさと形、ついでに言えば色もそうであるそのトラックだというのだ。
「これよ」
「よくある物凄く大きくて独特のデザインの絵があるのは」
「あれね、トラック野郎のね」
「ああいうトラックじゃないんですね」
「あれもいいし旦那も好きだけれどね」
 それでもだというのだ。
「旦那は会社勤めだから」
「ああしたトラックには乗られないんですか」
「あれは大体個人でやってる人のものなのよ」
「フリーの人のですか」
「そうなの、ああした大きさのトラックは会社にもあるけれど」
「絵はですか」
「それはないから」
 よくある演歌の世界の様な絵を描いたトラックは会社のものでは無理だというのだ。
「ああしたのはね」
「八条運送でもですか」
「ないみたいね、旦那の話だと」
「そうですか」
「あれもロマンだけれど」
 男のロマンだというのだ、トラックもまたその中に入るというのだ。
「それでもね」
「中々ありませんか」
「ええ、中々ね」
 実際にないというのだ。
「会社でやってる人はね」
「私あの絵を観るのも結構好きなんですけれど」
 琴乃は言いながらそうしたトラックの絵を脳裏に思い浮かべる、そこには独自の美があるのもまた事実だからだ。
「演歌チックね」
「貴女演歌好きなの?」
「あっ、趣味じゃないですけれど」
 それでもだと先生に返す。
「見ていると面白いですから」
「だからなのね」
「観ることは好きです」
 琴乃はこう先生に話す。 
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