戦国異伝
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第百三十話 南蛮具足その一
第百三十話 南蛮具足
信長の具足は他の具足と全く違っていた、まず丸みがあった。
そして鉄製であり全身を覆っている、鉄を青く塗ったものだった。
その陣羽織も違う、袖がなく足首の辺りまであり表は青で裏は群青だ、織田家の青をあしらっているが他のどの具足でも陣羽織でもない。
その姿を見て今回も留守を守る平手が飛び上がってからこう言った。
「殿、何ですかそのお姿は」
「ははは、やはり爺が最初に言ったのう」
「やはりではありませぬ」
驚きだけでなく怒りも露わにさせての言葉だった。
「それは何ですか、また傾きですか」
「これは南蛮の具足に陣羽織じゃ」
「南蛮の?」
「うむ、南蛮にも具足がある」
このことは容易に想像がついた、南蛮にしても戦があるからこそ鉄砲があり大砲がある、それならばである。
「その具足がじゃ」
「鉄で出来ていて丸く」
「しかもこうして手足も覆っておるのじゃ」
「左様ですか」
「そして陣羽織もじゃ」
信長はそれの話もする、見えば首元を紐で縛りそれでまとめている。
「これもまた南蛮のものじゃ」
「袖がありませぬな」
「元々はマントというらしい」
身体の横と後ろを覆っている、具足の前だけが見えている。
「こうして背中に羽織る様にして着る」
「そうなのですな」
「うむ、それがこの陣羽織じゃ」
「そういえばそうしたものは」
平手はこれまで読んできた書の中から思い出した。
「明の書でもありましたな」
「向こうの陣羽織もじゃな」
「確かそうしたものもあったかと」
こちらから見れば明のマントも陣羽織になる、それで話すのだった。
「では本朝では異様ですが」
「南蛮や明では普通じゃな」
「ですか、しかしそれはまた異様な」
「格好よいじゃろ」
「格好はよいですが何時までも傾かれますな」
「わしは生きている限り傾くぞ」
それを止めないというのだ、無論今もだ。
「この様にな」
「全く、お幾つになられてもですな」
「ではこの姿で出陣する」
そしてまずは上洛するというのだ。
「留守を頼むぞ」
「お任せ下さい」
「十九万の兵のうち十万で攻める」
「そして残りの九万で、ですな」
「領国全体を頼むぞ」
ただ岐阜を任せるだけではなかった、織田家の全ての領国を任せるというのだ。無論信長が留守の間の政の一切もだ。
「よいな」
「はい、さすれば」
「爺がいてくれて助かるわ」
留守役も必要だ、平手はそれに最適なのだ。
「では暫くの間頼む」
「さすれば」
「竹千代には今朝出たと伝えよ」
三河の家康のことも言う。
「よいな」
「では今すぐに文を送ります」
「そうせよ、おそらく一旦都に上がり越前に向かう辺りで合流するな」
「徳川殿の兵も加わりますか」
「一万じゃな」
家康はそれだけ出すというのだ。
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