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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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九話

 
前書き
 名前ありのオリキャラ出るから反応が怖い。

 追記
 レイフォンが持ってきた戦闘関係の物は黒鋼錬金鋼、青石錬金鋼、都市外戦闘服一着。その他小物 

 
  外を見回せば荒廃し、はるか遠くまで見渡せる緑無い大地が彼方まで続いている
 それでも地面に大なり小なりの起伏があるのだろう。絶え間ない小さな振動の中に、稀に大きな揺れが混じることがある
 グレンダンを出てから大よそ二週間と少し。レイフォンは放浪バスの中で景色を眺めていた
 今日まで二度汚染獣の群れを発見し、実力的にはなんら問題はないはずなのに、その度に小さな箱の中にいるという事実からか恐怖にとらわれたこともあった
 既に乗り換えること二度。都合三台目のバスの中で遥か彼方に見えてきた姿を見続ける

 時間が経つごとに大きくなるそれは、幾多もの足を生やし、中心が盛り上がった形をしながら動き続けている
 交通都市ヨルテム。それが今レイフォンが目指し、次にたどり着く都市の名前である



 封鎖されたこの世界において、自分たちがいる以外の都市の多く知ることは少ない
 だけれども、情報が入ってこないわけではなく、都市によっては広く知られているところも多々ある
 自分の故郷である槍殻都市グレンダンに、仙鶯都市シュナイバル。そして交通都市ヨルテム
 この中でもヨルテムは放浪バスの統制を唯一管理し、全ての放浪バスはヨルテムを出、ヨルテムに戻るためこの都市を知らない人物などいないと思われるほど有名な都市である
 そしてこの都市はその性質上、様々な人々が大量に出入りする都市でもある
 故にレイフォンはこの都市を目指していた



「ここ、か」

 降り立った地に感慨がわいてくる
 交通の中心であるためか、途中で寄ってきたどの都市よりも行きかう人々の数が多く、活気にあふれている

「ここならいい仕事があるかな」

 その活気に不安がわくと同時、知らない土地であるはずなのに不思議と希望が湧いてくる
 どんなことがあるのか楽しみに思いながら、レイフォンは滞在するための宿を探しに町の中に入って行った

















「……仕事が、ない」

 ヨルテムに到着して四日。レイフォンはうなだれていた
 何せ金を得るためにここにまで来たのに、そのための仕事がないのである
 初日は宿の調達、それにヨルテムの地理の簡単な把握などで過ぎ、二日目から仕事を探し始めたのだが全然見つからなかった
 いや、筋力を必要とする力仕事や、武芸者優遇の体力仕事ならばたくさん。それもグレンダンよりも高額であったにはあった
 だが、こちらが子供、それも十二歳という年齢ということでどれも能力を見せるまでもなく跳ねられてしまったのだ
 グレンダンが変だっただけで普通、十二歳といえば学校に通ったり親の庇護のもとで暮らしたり、保護される立場である年齢だ
 いくら強いといってもあくまで実戦ではなく訓練を繰り返すだろう年齢。だからこそ様々な仕事の告知は低くとも十代後半、ひいては二十代以降の者を対象にしたものだった
 一応金ならばまだ余裕はある。全額預ければとリーリンにはいったが、それでは出ている間どうするのだと詰られ、持たされた分の金が。レイフォン一人ならおそれくだが一か月、二か月ぐらいなら持つだろうだけ十分にある
 しかし、だからといって時間をかけるわけにはいかない。それでは出てきた意味がないのだから
 やや心中に焦りを浮かべながら、目を凝らして仕事を探していたレイフォンは一つの告知を見つけ、手にもってよく見る



≪護衛求む≫
・内容  放浪バスによる他都市への移動までの間のキャラバンの護衛。可能なら、帰りの分までの契約が望ましい
・条件
 年齢  不問
 力量  危険が訪れた際、対処できるだけの十分な力量。汚染獣経験があるものが望ましい
・期間  片道ならば大凡一週間から二週間。往復ならば滞在期間を含めて大凡一年

{備考}  金額については人数、契約内容を踏まえたうえで話し合いの上決定。力量に関しては確認を含む
…………


 それは五日前に出されたものであり、期日は今日。望むものは明記された場所に来るようにとのこと
 色々と調べてみて分かったが、固有の放浪バスを持ち都市を行き来するもの達は護衛を雇うことが多く、仕事の中でも金額は高額らしい
 汚染獣との交戦経験なら老生体を除けばいくらでもある。年齢が不問とあるのだ、行ってみるのも悪くはないだろう
 ホテルに荷物を置き貴重品と錬金鋼を持ち、レイフォンは一縷の望みをかけて向かっていった


















 やや中心部を外れたとはいえ、人の行き来がそこそこ多く、近くには飲食店も立ち並ぶ通り
 その近くにある開けた広場。そこが明記されていた場所だった

「……では、片道のみということなのでこの位が妥当だと」
「いやいや、それはちっとなめてねぇか? こちとら十六人だぜ、もう一声ほしいな〜」
「ルイ。口を挟むな」
「フム……ならばこれでは?」
「だーかーらー。もう一声だって。いざという時命かけるのはこっちなんだか……ってぇなオヤジ」
「ハァ……もう一度言う。お前は口を「あの〜」はさ……何だ?」

 レイフォンは指定の場所についたのはいいものの、どれだか分からないので近くにいた人物に尋ねる

「あの、少し聞きたいことがあるんですが」
「ああ」
「護衛の告知にあった場所はここでいいんでしょうか?」
「……そうだが。それがどうした」
「その、護衛の仕事に応募したくて」

 冗談だとでも思ったのか、その言葉にその場にいた全員、それぞれ五人ずつぐらいの集団が二つで合わせて約十人の顔に苦笑いが浮かぶ
 恐らく同じに護衛として契約に来たのだろう。話し合っていた片方、筋肉質で顎鬚を生やした男性がこちらを向く

「坊主、冗談は言っちゃいけねぇ。ロクに戦ったことのねぇのにあんまり口出しちゃいけねぇよ」
「汚染獣との戦闘経験だったらありますけど?」
「ほう……何回くらいだか言ってみな」
「ええと……確か三十回は越えてます。ただ、老生体とはまだ戦ったことはありません」

 自分としては正直に答えたつもりなのだが、男はその言葉に呆れた顔を浮かべる
 そして今度は違う男性。恐らくだが、キャラバンの側だろうメガネをかけた男が話してくる

「老生体というのが何かわからないが……それが本当だったら頼もしいね。まだ彼らとの契約が終わってないから、本当なら是非とも契約したいくらいだよ」
「本当ですか!」
「ああ。……君の話が本当だったらね」

 本当のことを言っているのに信じてもらえない。ここにきて実感したことだが、自分の見た目が見た目である以上仕方のないことなのだろうが引くわけにはいかない
 どうしたものかとレイフォンが考えていると二十歳程度の青年、先ほどルイと呼ばれていた彼が錬金鋼を復元しながら前に出てくる

「まどろっこしいことしてんなよ。んなもんやってみりゃ分かるじゃねぇか」
「馬鹿なことを言うな。お前はその喧嘩っ早い性格をどうにかしたらどうだ」
「聞き分けのねぇガキには鉄拳で教えろ。そういって殴ってたのはどこの誰だよ」
「……戦えばいいんですか?」

 どうやら出てきた青年はこちらの実力を試そうとしているらしく、父親とおもしき人物に文句を言っている
 そして、面白そうな顔をしたキャラバン側の男性も口をはさむ

「……そうだね。もしここにいる人たちに勝てたら、君と契約しよう」
「本当ですか?」
「ああ、嘘は言わないよ」
「ほらオヤジ。向こうもああ言ってんだからいいじゃねぇか」
「……勝手にしろ」

 もう知らんとばかりに下がった髭の男性の代わりに、青年が一歩前に出て復元した武器、手に付けた鉤爪のようなものを翳し、全身に剄をめぐらす
 口をはさむだけのことはあるのか、見た限り彼らの中で一番の実力を持つらしい。こちらを舐めているとしてもたたずまいから実力が分かる。けっして雑魚ではない
 レイフォンも錬金鋼を復元し、剣を握る

「ほら、来いよ少年」
「……では行きます」

 汚染獣ほどではないが、表情が抜けていくのが分かる
 言われたとおりに剣を構え、全身に剄を巡らし—————レイフォンは消えた















「——————っ!!」

 莫大な剄が空間に溢れたと思った瞬間、相対していたレイフォンの姿が消えたことに青年は驚く
 だがその剄量を感じ取った危機感、そして僅かに見えた姿から全身のバネを動かして体を捻り、青年は右斜め後ろにいた相手、レイフォンがそこで剣を振るう姿を確認する

(間に合わねぇ!)

 このままではくらうと確信した青年は捻るのではなく力を足に向け、全力で地を蹴る。同時に右手を翳して力を入れ、振るわれる剣を爪で受け、想像して以上の衝撃に空中で姿勢が崩れながらも左手を振るい、爪から剄を放つ

「全員で囲め!」

 レイフォンの剄を感じ取った瞬間、錬金鋼を復元した青年の仲間が動き、男性の指示によって動き出す
 ここがグレンダンでない以上力を隠す必要はなく、護衛としての選定を兼ねているためレイフォンは出し惜しみするつもりはない
 千人衝を使い、三人増やして青年の仲間たちへ向け、自身は向けられた衝剄を正面から叩き潰して青年へと向かい剣を振るう
 地に爪を指して体を支え、既に体制を整えていた青年は振るわれた剣を受けようと右の鉤爪を翳し、左の鉤爪を迎撃のために振るうが、振るわれたそれは圧倒的剄量差を持って一刀のもとにはじかれ、そこに蹴りを足元にくらい地に伏せられ、そのまま剣が首筋に翳される

「……これでいいですか?」

 見れば青年の仲間達も既に無力化され、その首筋には例外なく剣が翳されている

「……ああ。少年、お前つええな」

 負けを認め青年が錬金鋼を復元状態に戻したのを確認し、レイフォンが剣をどけるのと同時に分身が消え他の三人も解放される

「あれだ、少年が言ってた、老生体? ってのはなんなんだ?」
「ええと、繁殖を放棄した個体で、雄性五期が脱皮したものです」
「……それって強いのか?」
「確か、都市が半壊するのを覚悟すれば、勝てるかもしれないらしいです」
「かも、か。はっ、こりゃはなっから全員でかかっても無理だったな。少年、お前名と出身は?」
「グレンダンで、レイフォン・アルセイフです」
「ああ? そこって潰れたんじゃなかったか? ……まあいい、俺はルイス・アルベンドだ。レイフォン、ね。…………次会ったら潰す。背中に気つけろや」

 そう言いながら立ち上がり、青年はキャラバンの男の方を向く

「んじゃ、そういう訳だからよ。俺たちは今回の契約白紙ってことで」
「……あ、ああ。分かった」
「そんじゃオヤジ。さっさと次行こうぜ」

 唖然としていたキャラバンの男に声をかけ、青年は仲間たちの方へと歩いていく

「調子に乗るからだ馬鹿野郎」
「おいおい、オヤジなんか速攻でやられてたじゃねぇかよ。ちったぁ俺以上に足掻いて見せろや」
「……歳か」
「上には上がいるもんだなぁ……」

 そう愚痴をたたきながら、彼らは歩いて去っていた













「これでよかったですか?」
「……ああ、問題ない。問題ない以上言った通り契約を結びたい、が」

 そういってメガネの男性は周囲を見回す
 それに釣られ、レイフォンも周囲を見、先ほどまでまばらにいた人影が一つもないことに気づく

「……出来れば、場所を移さないか」
「……ええ」

 逆らう理由はなかった




「では、帰りの分も契約する、ということでいいんだね」
「はい」

 喫茶店の中に場所を変えての話し合い
 既にレイフォンの桁外れの実力を目の当たりにした男は断る理由もなく、人数的な問題も先ほど見た技、それに自分の仲間にも三人武芸者がいるため問題なく、そのためレイフォンを受け入れた 
 レイフォンとしても契約してくれるならそれでよく、往復で一年というのなら丁度いいと思い契約を望んだ

「では、これくらいでどうかな?」

 そう言い、男が提示した金額にレイフォンは驚く
 自分が想定した金額をずっと上回っていたからだ

「え!? こんなに?」
「ああ。先ほどの彼らから比べれば少ないがね」
「……さっきの人たちって、そんなに高かったんですか?」
「いや、そこまででもないよ。確かに割高だったが、異常というほどでもない。あの青年、ルイスという彼が一番強くてね。彼らが全員彼と同じだけの力量を持っていれば妥当。というくらいの値だったよ。その分君は一人だから低くなって助かるから、色を付けてこのくらいにしたんだが…………無論、帰りの分はその時になったらまた払うよ。それでいいかな?」
「あ、はい。お願いします」
「了解した。料金は後で支払うとして、いつ頃出られるかな?」
「ホテルに戻って荷物を取って来れば、直ぐにでも」
「では、三時間後にここに来てくれるかな」

 そう言って渡される紙をレイフォンは受け取り、指定の場所を見る
 記憶が正しければ、そのバスの停留所は急げば宿から一時間もかからない所だ
 レイフォンが頷くのを確認し、男は立ち上がる

「そういえば、まだ君の名前をちゃんと聞いてなかったね。僕の名前はシンラ。シンラ・ライセンスだ」
「レイフォン・アルセイフです」
「そうかレイフォン。ここの代金は僕が受け持とう。では、三時間後にまた」




 三時間後、指定の場所に行くと既に彼らは準備を終えていた
 見る限り約十五人。ここまで乗ってきた放浪バスとはやや違う、改造されたバスの前で待っていた
 既に説明されていたのだろう。やって来たレイフォンに疑問をロクに持たず、めいめいにバスに乗り込んでいく
 そんな中、シンラがレイフォンのもとに歩いてくる

「来てくれたね。あれが僕たちのバスだ。乗ろう」
「あ、はい。……そういえば、どこに向かうんですか?」

 今更といえば今更だが、やっとのことでとれた仕事に気を取られ、聞いていなかった肝心なことをバスに向かって歩きながら聞く
 それに相手も気づいたのだろう。シンラが申し訳なさそうにしながら口を開く

「そういえば言ってなかったね、申し訳ない。僕たちが向かうのは—————」

 そうして、バスの乗り口の目の前に立って振り返りながら笑顔で告げる






「—————仙鶯都市、シュナイバルだ」












 かくして少年はまだ見ぬ地へと足を向け、そこで迷いを持つ一人の少女と出会うこととなる

 
 

 
後書き
サントブルクだったらフェリフラグ。が、これのヒロインはニーナ愛してる。
フェリヒロインを書くつもりはゼロである。 
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