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ドン=ジョヴァンニ

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第二幕その七


第二幕その七

「よかった。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「一緒に帰りましょう」
 にこりと笑ってマゼットに告げるのだった。
「一緒にね。帰りましょう」
「わかったよ。それじゃあ」
「あとこれからは」
 さりげなく彼に対して囁くツェルリーナだった。
「もう焼き餅を焼いたりしないでね」
「わかったよ」
 痛みの中で頷くマゼットだった。
「これでもうね」
「若し貴方がもっと賢くなったら」
 こう言うのだった。
「よく効く薬をあげるわ」
「薬?」
「そうよ。天然自然の飲みにくくなくてお薬屋さんも知らないものよ」
 マゼットを抱きながら話してみせる。
「私が持っているそのお薬はバルサモみたいなもので」
「バルサモみたいなものなんだ」
「そうよ。バルサモみたいなものよ」
 バルサモとは気付けに使う香料のようなものである。
「貴方がそれを試したいのならね」
「うん」
「あげてもいいから。けれどね」
「けれど?」
「それが私の何処にあるのか知りたくはなくて?」
 ここでふと話を変えてきたようなツェルリーナだった。
「私の何処にあるのか」
「君の何処かにあるのかって」
 マゼットは今のツェルリーナの言葉に目をしばたかせた。彼女が何を言ってきたのかどうにもよくわからず困惑した顔にさえなっていた。
「それって一体」
「ほら、ここよ」
 ツェルリーナはそのマゼットの手を取って自分の胸のところにやった。そうしてそのうえでさらに彼に対して言うのであった。
「ここにあるのよ」
「ここになんだ」
「なおったかしら」
 さらに言うツェルリーナだった。
「これでもう」
「うん。それじゃあ」
「さあ、行きましょう」
 ここでマゼットを立たせるのだった。
「そして帰りましょう」
「うん。それじゃあ」
 二人は立ち上がってからそのうえでこの場を後にする。二人の仲は元に戻った。この頃レポレロはエルヴィーラと共に公園にいた。
「松明の灯りが大勢来ているな」
「ええ」
 エルヴィーラはまだ彼がレポレロだとはわかっていない。それを考えればレポレロの演技もかなりのものである。少なくともエルヴィーラにはばれてはいない。
「隠れましょう」
「そうだな。あの松明達が行ってしまうまで」
「けれど」
 ここでエルヴィーラはレポレロのあることに気付いたのだった。
「怖いの?」
「怖い?」
「そうよ。声が震えてるけれど」
 エルヴィーラはこのことには気付いたのだった。
「どうしたの。いつもだったらこんな状況でも平気なのに」
「いや、別に」
 今は誤魔化すレポレロだった。
「何もない。ただ」
「ただ?」
(困ったな)
 これは心の中での言葉だった。
(どうやったらエルヴィーラさんから逃げられるかな。もう何時ばれるやら)
「そうだ」
 レポレロは半ば自分に対しての言葉を出した。
「恋人よ」
「ええ。どうしたの?」
「ここにいて欲しい」
 エルヴィーラを公園に置こうというのだ。
「ここにね。いて欲しいんだよ」
「私を置き去りにしないで」
 彼女は反射的にそのことを拒んだ。
 
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