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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第111話:制圧作戦


寮のなのはの部屋から自分の部屋に戻り、俺は出動に向けた最後の
準備を始めた。
クローゼットから潜入任務用の装備を取り出して、着こんでいく。
今回は魔法なしでの潜入任務なので、姿を隠しやすく動きやすい
ぴったりとした装備を使うことにした。

装備を身につけ終わると、クローゼットの奥に置いた黒いケースに目をやる。
俺はケースを引っ張り出すと、そのロックを解除して蓋を開ける。
そこには拳銃が1丁とその弾薬、そして大ぶりのナイフが収められている。
この装備は情報部にいたころに、今回のような魔法を使えない場合に備えて
特別な教育と訓練を受講して所持資格をとったものだ。
とはいえ、所属部隊長の許可なく使用すれば質量兵器の不法使用で
重罪に問われるので、6課に来てからは一度も箱から出していなかった。

今回の任務にあたって、俺ははやてにこれを使用する許可を得ている。
ただし正当防衛などの緊急かつやむを得ない場合しか使ってはならない旨が
臨時許可書にも明記してある。
こういう場合は、任務中に銃やナイフを使用すると任務終了後に拘束され
第3者によって使用が適正であったか否かが審査される。
この手続きには非常に時間がかかるので、俺は今回の任務で使うつもりは
無かった。文字通り、生きるか死ぬかの場面以外では。

時計を見るとそろそろシンクレアと待ち合わせている時間が近づいていた。
俺は銃とナイフを身につけると、大きくひとつ息を吐いてから部屋を出た。
シンクレアと待ち合わせている格納庫に向けて通路を歩いて行くと
格納庫の少し手前で、はやてが壁にもたれて立っていた。
俺が近づくと、はやては壁から身を話して俺の方に向きなおる。

「これから行くんやね」

はやての言葉に俺は無言で頷く。

「ま、2人と無事に会えるのを期待しとるわ。 気いつけて」

「ああ、判ってるよ」

俺はそう言って小さく頷くと、再び格納庫に向けて歩を進める。
格納庫に入ると、ある戦闘車両のそばに俺と同じ装備を身に付けた
シンクレアが立っていた。
俺が近寄っていくとシンクレアは俺の方を振り返る。

「待たせたな、シンクレア」

「いえ。行きますか?」

「ああ、行こう」

シンクレアが運転席に、俺は助手席に座り格納庫から発進した。
クラナガン市内を囲むように走る環状道路に入ったところで、
シンクレアが話しかけてきた。

「やっぱり、ゲオルグさんもこの装備なんですね」

「まあな。魔法なしだとこの装備しかないだろ」

「そうですね」

短い会話を終えて、再び車内は沈黙に包まれる。
そのまま、東に向かって1時間ほど走ると現場が近づいてくる。
シンクレアは環状道路から脇道に車を入れる。
しばらく走ると、道幅が狭くなって勾配もきつくなってくる。
やがて、道の舗装がなくなったところでシンクレアは車を止めた。

「ここからは歩きですね」

「そうだな」

俺とシンクレアは車を降りると携帯端末のナビを頼りに
目的地に向かって歩き出した。
地面は数日前に降った雨の影響なのか、少しぬかるんでいる。
シンクレアが俺の少し前を歩き、前方の様子をうかがいながら進んで行く。
俺は側方と後方の警戒をしながら、シンクレアのあとに続いて進む。
30分ほど暗闇の中を進んでいくと、シンクレアの足が止まった。
俺はシンクレアのそばまで行くと、小声でシンクレアに話しかける。

「どうした?」

「目的地ですよ。 あそこが洞窟の入り口ですね」

シンクレアが指差す先には、一見すると岩の割れ目のように見える
洞窟の入り口が見えた。

「あれか・・・。この辺にセンサーの類はあるか?」

「ちょっと待ってください」

シンクレアは片手を俺に向けてかざすようにして俺を制すると、
携帯端末を操作し始める。
数分あって、シンクレアが俺の方に顔を向ける。

「いくつかセンサー類が見つかりましたけど、魔力探知系ばかりですね。
 魔力放出を抑えて、魔法を使わなければ難なくクリアできます」

「了解。じゃあ突っ込むか」

「そうですね。行きましょう」

2人で頷き合うと、洞窟の入り口に向かってゆっくりと歩を進める。
足音を立てないように足を運ぶのだが、足元がぬかるんでいるせいか
足を下ろすたびに、ピチャピチャと小さな音がする。
洞窟のすぐ脇まで来ると、俺とシンクレアは入り口の両脇に立ち、
そっと中を覗き込む。
中は明かりも物音もなく、その様子をうかがい知ることは出来ない。
俺は心の中で舌打ちすると、腰に下げたケースから暗視スコープをとりだした。
暗視スコープを装着して、改めて洞窟の中を覗き込む。
岩がむき出しになった洞窟の内壁は見えるようになったが、
見張りなどは見当たらない。

俺はシンクレアに"先に中に入る"のサインを出す。
俺と同じく暗視スコープをつけたシンクレアが俺のサインに頷くのを確認すると
俺は腰をかがめて洞窟の中に入っていく。
洞窟の内壁に沿って進んでいくと、先にわずかな明かりが見えてきた。
反対側の壁に沿って進んでいるシンクレアの方に目を向けると、
シンクレアも俺の方に顔を向けていた。

"慎重に進むぞ、音を立てるな"

"了解"

ハンドサインでシンクレアと連絡を取り合うと、再び足を前に進める。
拳大の石がところどころに転がっている足元に注意しながら進んでいくと、
俺の進む側の内壁が突然なくなった。
見ると立って進めるほどの横穴が開いている。
シンクレアに向かって俺のところに来るように合図を送り、
横穴の奥をそっと覗く。

「どうしました・・・って、横穴ですね」

「ああ、奥を見てくるからシンクレアはここで見張っててくれ」

「了解です。気をつけて」

俺はシンクレアに向かって小さく頷くと、横穴の奥へと進んで行った。
横穴は奥に行けば行くほど高さも幅も狭くなっていく。
やがて、天井が俺の頭にかすりそうな高さまで低くなってきたころ、
穴は突き当たりになっているように見えた。

(なんもないな・・・)

そう思って引き返そうと踵を返した時、視界の端に穴らしきものが目に入った。

(ん? この横穴・・・奥で折れてんのか・・・)

俺はさらに奥まで進み、曲がり角を曲がる。
そこは少し広い行き止まりの空間だった。
その空間の中をグルッと見回すと、隅のほうに高さが俺の腰ほどもある
大きな木箱が置かれていた。

(あれは・・・)

木箱に近づいてみると蓋らしき板がわずかにずれていた。
そこから中を覗いた俺は思わず絶句した。

(マジかよ・・・)

箱の中には、今回の対象となっているテログループが起こした
爆破事件で使われたのと同じ高性能爆薬が、山と積まれていた。
それは、全部使えば地上本部のビルを丸ごと爆破できるほどの量だった。
俺は木箱から後ずさるように距離をとる。
もう一度その空間の中を見回すと、先ほどのものより2回りほど小さい
木箱が置かれているのを見つけた。
その箱に近づき中を覗き込むと、10丁を超えるサブマシンガンが無造作に
置かれていた。

(これは・・・使われるとマズイな・・・)

そうは思うのだが、持ち出そうにも2人で持ち出すには重すぎる。
結局俺は、銃をそのままにして横穴を戻ることにした。
シンクレアが待つ横穴の分かれ道まで戻ると、シンクレアが顔を寄せてくる。

「どうでした? 何かありました?」

「高性能爆薬がたっぷり、銃が10くらい」

「マジですか? どうします? 回収しますか?」

「いや、2人で回収するには多すぎる。 位置だけ記録して、
 部隊が突入するときに押さえられるようにする」

「了解です。 じゃあ、奥に行きますか?」

「そうだな」

そう言ってシンクレアに向かって頷くと、俺達は再び洞窟の両脇に分かれ
明かりが見える洞窟の奥へと向かう。
奥へ進んでいくと、だんだん明かりが大きく明るくなってくる。
暗視スコープの明るさを調整しながら近づいて行くと、
明かりの元が徐々にはっきりと見えるようになってきた。
それは、先ほどのものより1回り大きく、シンクレアが進む側の内壁に
あいた横穴から漏れていた。

シンクレアは横穴のきわに取りつくと、俺に横穴の反対側に回るよう
ハンドサインを送ってきた。
俺はそれに頷くと、横穴を一旦通り過ぎてから洞窟を横断して
シンクレアとは反対側の横穴の際に取りつく。
シンクレアの方に目を向けると、シンクレアも俺の方を見ていた。
お互いに頷き合うと、2人で横穴の中をそっと覗く。

横穴の中は半球形をした広い空間になっており、その中で10人ほどの
男たちが横になって眠っていた。
中央には明かりが置かれていて、そのそばにある椅子の上で一人の男が
うつらうつらしている。

(なんだ? 武器の置き場といい、ずいぶんユルイ連中だな・・・)

そんなことを考えながら広場の中をグルリと見回していくと、
先ほど別の横穴で見たのと同じ木箱が隅に置いてあるのを見つけた。

(さすがに、武器は手元に置いてんのか・・・)

他には特に何も見当たらなかったので、シンクレアの方に目を向けると
シンクレアも俺の方を見ていた。
俺がシンクレアに向けて手招きすると、シンクレアは横穴の中の様子を
慎重に探ってから俺の方にゆっくりと歩いてきた。

「なんですか?」

「奥の方を見てくるから、ここで見張りを頼む」

「大丈夫ですか? 俺も行った方がいいんじゃないですか?」

「ま、大丈夫だろ。 お前も見たろ? 連中は基本的にユルいからな」

「それはそうですけど、慎重に行って行き過ぎってことはないでしょ」

「だからお前に残れって言ってんだよ。 2人して洞窟のどん詰まりで
 敵に襲われたら怪我じゃ済まないぞ」

「・・・それもそうですね。 わかりました、お気をつけて」

シンクレアは納得したように頷いてそう言った。
俺はシンクレアの肩をポンと叩くと、洞窟の奥へと向かった。
洞窟は奥に進むと、緩く右にカーブしていく。
さらに進んでいくと、右にカーブした洞窟の奥から明かりが漏れている。
少しスピードを落として慎重に進んでいくと、またも横穴が出現した。
明かりは横穴の中から差している。
俺は横穴の際に立ち、中を覗き込んだ。
そこには、10人ほどの男たちが横になって眠っていた。

(あれ? さっきと同じ穴か・・・?)

よく見ると、眠っている男たちの配置が、さっきと異なっている。
どうやら、先ほど見た広い空間の別の場所にある穴のようだ。

(まだ奥があるな・・・。行くか)

俺は横穴を離れて、さらに洞窟を奥へと進む。
5分ほど進むと、洞窟の先に先ほどまでとは違う色の光が見えた。
さらに進むと、足元の地面がむき出しの岩からぬかるんだ土に変わった。
足元に意識を集中していた俺は、その場で立ち止まり目線を上に上げた。
そこには、きれいに晴れ渡った星空とその中に浮かぶ2つの月があった。

(外につながってんのか・・・厄介だな)

俺はポケットから携帯端末を取り出すと、現在地をマークして洞窟の中に戻る。
来た道をシンクレアのところまで戻ると、シンクレアの肩をたたいて
ついてくるように促す。
再び洞窟を奥へと進んで先ほど見つけた出口から外に出ると、
俺は大きく息を吐いた。

「もうひとつ出口があったんですね。こっちも押さえないといけませんね」

後ろから俺の後についてきたシンクレアの声が聞こえてくる。

「そうだな。ま、これでとるべき情報は取りきっただろ。はやてに連絡するぞ」

「隊舎には戻らなくていいんですか?」

「ここで連中の動きを監視しなきゃならんだろ」

「それもそうですね。じゃあ、こっちの出口は俺が見てますから
 ゲオルグさんは最初の入口を押さえてください。何かあったら
 通信を入れますから」

「いいだろう。 だけど、くれぐれも無茶はすんなよ」

「言われるまでもないですよ」

俺はシンクレアと別れると、最初に入った入り口のところまで戻り、
そこではやてに連絡をとることにした。

『はいはい・・・八神ですけど』

通信がつながると、制服のジャケットを脱いだはやての眠そうな顔が映った。
まだ空は真っ暗な時間だから無理もないだろう。

「こんな時間にすまない。 今、テログループが潜伏する洞窟の調査を
 終えたところだ」

『ん!? ゲオルグくんかいな!』

そう言ったはやての目がグッと見開かれる。
画面の中のはやては自分の顔をパンと両手で叩く。

『ゴメン、寝ぼけとった。 で、首尾はどないなん?』

「上々。洞窟の構造も把握できたし、武器の類の場所も確認できた」

俺がそう言うとはやてはホッとしたように大きく息を吐き出す。

『そらよかった。ほんならすぐにでも突入作戦をはじめよか』

「大丈夫か? フォワード連中も寝てるだろ」

『ええって。 すぐに緊急招集かけるから30分で出られるよ』

「了解。じゃあ、これから送るポイントにヘリから降下してくれ。
 作戦については現地で相談しよう」

『わかったわ。ほんなら後で』

はやてはそう言って通信を切った。





1時間後、俺の指定したポイントの上空にヘリがやってきた。
後部ハッチが開くと、はやてを先頭にフォワード隊の面々が
次々と降下してくる。
全員の降下が終わると、ヘリは隊舎の方向へと去って行った。
降下の様子を少し離れたところから見ていた俺は、
降下を終えたはやて達のもとへと歩いて行く。
はやて達は、俺を探しているのか周囲をきょろきょろと見回している。

「よう、お疲れ」

「ひゃうっ!」

俺がはやての肩に触れながら声をかけると、はやては軽く悲鳴を上げた。
はやては俺の方を振り返ると、安心したのか大きく息をついた。

「なんや、ゲオルグくんか・・・。敵かと思ってびっくりしたっちゅうねん」

「そりゃ悪かったな。 それより、さっさと突入作戦の検討を始めよう」

「そやね。ほんなら・・・全員集合や」

はやてがそう言って全員を呼び集めると、フォワード隊の全員が集まってきた。

「これからゲオルグくんにテログループが潜伏する洞窟の状況を
 説明してもらうで。そのあとで作戦について協議するからよう聞いといてや」

はやての言葉に全員が頷く。
俺は洞窟内部の地図を示しながら、テロリストの人数や連中が保有している
武器について説明していく。
俺が説明を終えると、全員が洞窟の地図を真剣な表情で見つめていた。

「で、作戦はどーすんだ?」

沈黙を破ったのはヴィータだった。

「それをこれからみんなで相談して決めようと思うんよ。
 そやから、みんな活発に意見を出してや」

はやてがそう言うと、最初に口を開いたのはなのはだった。

「とりあえず、2つの入り口の両方をきちんと押さえないと
 逃げられちゃうよね。 だから、2つのチームを作って
 それぞれの入り口から突入するのがいいんじゃないかな」

「それはそうだろうが、実際に2つのチームを同時に突入させれば
 少なからずこちらも混乱するだろう。まして、中央のテロリストがいる
 区画への突入口はほぼ正対しているから、砲撃は使いづらくなる。
 万全を期するなら、同時突入は避けるべきだと思うが」

なのはの意見に対して異論を唱えたのはシグナムだった。

「じゃあ、シグナムには案があるんですか?」

フェイトが尋ねると、シグナムはグッと言葉に詰まってから首を横に振り、
再び全員が黙りこんでしまう。
俺が全員の顔を順番に眺めていくと、何かを言おうとしている
キャロが目にとまった。

「キャロ、何か意見があるんじゃないのか?」

俺がそう言うと、全員がキャロの方に目を向ける。
キャロはその目線に気圧され、うつむいてしまう。

「キャロ。何かあるなら言った方がいいよ」

「え・・・? うん、そうだね、エリオくん」

エリオに励まされたキャロは意を決したように頷き、おずおずと口を開く。

「あの・・・、罠を仕掛けてその罠に追い込むような作戦には
 できないでしょうか?」

「罠・・・か。具体的にはどうするのだ?」

「えっ・・・と、例えば片方の入り口を固めて、別のチームがもう片方の
 入り口から突入するとかはどうでしょう?」

シグナムに問われ、キャロは時折詰まりながらも自分なりの作戦案を提示する。

「待て。それでは、突入したチームが挟撃される可能性があるぞ」

「あっ・・・そうですね。えっと・・・」

シグナムの反論にキャロは考え込んでしまう。
しばらく待っていると、キャロは顔を上げた。

「シグナム副隊長の言うとおりです・・・。この作戦じゃあダメですね」

「そうかしら?」

そこで口を挟んだのはティアナだった。

「確かにそのままじゃシグナム副隊長の言うとおりだけど、
 突入側のチームを2つに分けて、片方を横穴の入り口で待機させておけば
 逃げ道もふさげるし、突入チームが挟撃されるのも防げるわよね」

「たしかにそうですね。それなら大丈夫だと思います」

概ね作戦計画についての議論が収束してきたところで、はやてが口を出す。

「だいぶまとまってきたみたいやから、基本的な計画はキャロとティアナの案で
 行こうと思うけどええかな?」

はやては全員が頷くのを見てわずかに笑みを浮かべると先を続ける。

「ほんなら、突入作戦は今シンクレアくんが見張ってくれとる方の入り口から
 行います。こっちをライトニング分隊が担当。
 スターズはこちら側の入り口の封鎖を担当。ええね」

はやての言葉にその場の全員が頷く。

「で、ライトニングもスターズも洞窟内部を直接しっとる訳やないから、
 案内役をそれぞれつけます。ライトニングにはシンクレアくん、スターズには
 ゲオルグくんにそれぞれ案内についてもらいます」
 
「了解」

「あと、各隊での戦力運用は各隊の隊長に一任します。
 作戦開始は0600時です。以上、質問は?」

はやてはそう言うと、全員の顔を眺める。
誰の手も上がらないのを確認すると、はやては大きく頷いた。

「よっしゃ。ほんなら、全員配置についてや」

はやてがそう結ぶと、ライトニングとスターズに分かれてそれぞれの
打ち合わせが始まった。





・・・1時間後。
作戦開始まであとわずかという時間になり、俺も、一緒にいるスターズの連中も
緊張感が高まってきていた。
すでに全員が所定の配置についており、あとははやての作戦開始命令を
待つばかりとなっていた。

洞窟入り口の近くにある茂みの手前で身をかがめていると、
少し後ろでなのはとヴィータがスバルとティアナに向けて、
質量兵器を相手にする場合の注意を与えていた。
スターズ分隊はスバルとヴィータが前面に立ち、
ティアナとなのはが後方から援護するという配置で作戦に臨む。
各自の得意分野を生かした常識的な配置といえるだろう。

スバル達への訓示を終えたなのはが、俺の側に寄ってきた。

「そろそろだね」

「だな。 あいつらはどうだ?」

「リラックスしてるし、何の問題もないよ」

「そっか・・・まあ、あいつらもAAランクの魔導師だしな」

年が明けてすぐに行われたランク認定試験でスバルとティアナは揃って
AAランクに認定されている。
別に、魔導師ランクが認定されようがされまいが、力が変わるわけでは
ないのだが、高い実力があると認定されることによって自信を持って
作戦行動を遂行できるようになる。
この効果はバカにできないと俺自身の体験から考えている。

「そだね。 リラックスしてるって言っても油断してるわけじゃないし。
 すっかり安心して見ていられるようになったよ」

なのははそう言うと微笑を浮かべて、真剣な表情で待機している2人を見ていた。
作戦開始時刻になり、はやてから連絡が入ると、俺はスッと立ちあがった。

「聞いての通りだ。行くぞ」

俺はスターズの面々を先導して洞窟の入り口へと向かう。
一気に洞窟内部へと突入すると、爆薬などが置かれた横穴を
少し過ぎたところで陣を張った。

『ライトニング・ベータ、突入を開始します』

キャロの声で通信が入る。
ライトニング・ベータはテロリストたちが潜んでいる中央の空間に
突入するチームで、キャロとエリオが属する。
まもなく、洞窟の奥が騒がしくなってきた。
野太い叫び声が内壁に反響し洞窟内部に響き渡る。
やがて奥の方に閃光が光り、数人の男たちがちらちらと後ろを振り返りながら
こちらの方に走ってくる。

「スターズ分隊、攻撃開始」

「了解!」

なのはの命令に従い、ティアナが射撃を始める。
ティアナの攻撃は確実に男たちを捉え、混乱の極致へと突き落としていく。

「スバル! 身柄を確保!」

「了ー解っ!」

ティアナの声に従って、スバルが男たちの方へと突っ込んでいく。

「でゃぁああああっ!」

攻撃で意識を刈り取られた男たちをスバルはバインドで拘束していく。

「ティア! 向こう側に逃げてく人たちがいるよ!」

「深追いしなくていいの。いいから、手の届く範囲の敵だけ倒しなさい」

「了解!」

スバルはそう返事をすると、バインドで縛られた男を引きずって
一旦後退してくる。

「1人だけ?」

「うん。あと何人かいたみたいだけど、ティアの攻撃を受けて向こうに
 行っちゃったみたい」

「そ。じゃあ、あとはライトニングに任せるしかないわね。
 待機してましょ。いいですよね、なのはさん?」

「そうだね。私たちの役目は一旦終わりかな。
 身柄を確保したテロリストは丁重に扱ってね」

なのはの指示にスバルとティアナは頷く。
しばらく待機していると、フェイトの声で通信が入る。

『こちらライトニング01。逃走してきたテロリストの制圧・拘束を完了』

『ロングアーチ01了解。 ロングアーチ02はスターズ・アルファとともに
 洞窟内部の捜索を開始してください』

「ロングアーチ02了解」

はやての通信に返事をすると、俺はヴィータとスバルの方に向き直る。

「じゃあ行くぞ、お二人さん」

ヴィータとスバルが頷くのを確認して、俺は洞窟の奥に向かって足を踏み出す。
中央の空間へ入ると戦闘の痕跡がそこかしこに残っていた。
物陰など人が隠れられそうな場所をくまなく探っていくが、人っ子一人いない。

「誰かいたか?」

スバルとヴィータの方を振り返って尋ねるが、2人とも首を横に振る。

「なら出るぞ。後は、フェイトとティアナの仕事だ」

俺は2人にそう言ってから通信を送る。

「ロングアーチ02より各局。洞窟内部に敵影なし。捜索を終了する。以上」

『ロングアーチ01了解』

はやてからの返信を確認して、俺は2人を引き連れて洞窟の出口へと向かう。
途中でティアナとすれ違った。

「ティアナ。あとは任せたぞ」

「はい。あとの捜査は任せてください」

洞窟から出ると、フェイトとティアナを除く6課のメンバーが集まっていた。

「ん。3人ともお疲れさん」

輪の中に居たはやては俺たちを見つけると声をかけてきた。

「おう、お疲れ」

俺はそう言うと、きょろきょろと周囲を見回す。

「テログループの連中は? 見当たらないけど」

「本局の捜査部に送致したよ。ウチでは扱いきれんからね」

「そっか。 まあ、なんにせよこれで一件落着か」

「そやね」

はやてがそう言って微笑んだとき、上空からヘリの音が聞こえてきた。

「ヴァイスくんやね。 さ、帰ろ。 お腹も減ったし」

はやての言葉に全員が頷き、ヘリの降りてくる方へと歩き出した。

 
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