転生者拾いました。
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蒼風の谷
運命
エリザのいる部屋の直前において、ラスボス的存在のサイモンと戦いは苛烈を極め、結界が張られていなければエリザの部屋は崩壊していただろう。
「外で一体なにが……。」
部屋に轟音が響き、天井から細かいホコリが落ちる。
『この魔力はサイモン様とカズヤ様、セリナ様です。』
「カズヤ様……。」
部屋の主はいのるように手を合わせ、唯一の出入り口の扉を見つめる。
「あたくしに何かできれば。」
『カズヤ様とセリナ様のご無事をお祈りください。』
せめてこの相棒の力でここから脱出出来ればいいのだが。この結界は内からの攻撃を全く受け付けない。突貫性に優れた魔法でも意味を為さなかった。
今はただこうしてうずくまっていることしか出来ない。
「クスィーのお姫様が無力を嘆くとは。」
「!誰です!」
突然自分と相棒以外の声がした。声のした方を見るとつい先日命のやり取りをした敵がいた。たしか……名前聞いてなかった。
が、急いで相棒を掴み、戦闘態勢をとる。
「心外です。非武装の相手に杖を向けるなど。ワタシは戦いに来たのではありません、あなたの監視に来たのです。」
「監視?」
「今すぐサイモン様と戦っている罪人に投降を呼びかけください。」
彼女の知り合いに罪人などいないが心当たりがあった。権力者特有の方法で罪人に仕立て上げること。
カズヤとセリナはさっきまで地下の牢に入れられていた。
つまり罪人とは彼らのこと。
「それこそ心外ですわ。あたくしの友人を罪人呼ばわりするなど!」
「失礼。では、その友人に投降を。」
「バカなこと言わないでちょうだい。あたくしがそのようなことするはずがありません。」
「では、彼らが死んでも?」
きつい言葉を浴びせられ言葉に詰まる。
彼女が言うことももっともだ。理解はできても納得できない。
「あの人たちは死にません!それは間近であの人の戦いざまを見たからです。」
「過去は過去、今は今です。その時は大丈夫でもいつかはできなくなる。」
「だからなんなのです!」
「人は老いそして死ぬ。人より老化の遅いハーフエルフでさえ大して変わらず死を迎える。」
「だからっ!」
「だからなんなのです?運命は変えられない。ただ、流れるのみ。」
「あたくしの話を聞きなさい!」
エリザが急に声を荒らげたことに驚いて語勢が弱まった。
「老いがあり、死があるからあたくし達は努力するのです。白光教会とかいうところで育てられ、そのように教育されたのであればそうおっしゃるのも無理はないかもしれません。
でも、未来は決定されていません。運命なんかに縛られない!」
そうだ、運命なんかに縛られない。何のためにこの城を脱出したのだ。どうしてカズヤについて行ったのか。なぜ、嘆いたのか。
「そうです、あたくしたちは生きているのです!」
エリザは監視者に詰め寄り前髪が当たるくらい近づいて、
「生きて明日を掴むんです!」
しばらくの沈黙。先に口を開いたのは監視者だった。
「あなたには理解できないでしょう。絶望の中で育ったワタシの観念を。歯車が時計の針を進めるように、人の生も運命が動かす。未来は決定事項です。」
「では、その運命を打ち破ってはいかがでしょう。」
「……言葉の意味を量りかねます。」
「白光教会を抜けて新たに生きましょう。今までのあなたを捨てて。」
彼女の眉がわずかに動き、表情も強張った。
「束縛から解放されて、自由に生きましょう。」
「ワタシは……。」
「あなた、言ってましたね?」
「な、何を……。」
エリザは彼女の肩を掴み、微笑を含んで問いかける。
「『違う出会い方ならあなたを好いたかもしれない。』」
「――――――!」
「これ、カズヤ様のことですよね?」
「……。」
「カズヤ様のことを好きになった。これも運命では?」
「そう、かもしれません。」
「なら……。」
しかし彼女はエリザを突き放し、顔を伏せた。
「でもワタシは……行けない。」
後書き
感情を止める楔と刃
思い馳せる少女と打ち砕く少女
次回 束縛
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