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転生者拾いました。

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蒼風の谷
  束縛

 
前書き
今回はいつもより長め 

 
「でもワタシは……行けない。」

 彼女は悲痛な面持ちでつぶやいた。

「行けない、とは?」
「ワタシの体を縛る鎖、己の意思では……。」
「どこにあるのです!」
「え?」
「その(いまし)めです!」

 面食らったように怯んだ彼女、詰め寄るエリザ。
 しかし彼女はエリザを突き放す。

「言えません。いえ、言えないのです。己の口からはこのことを。ワタシより上位の者しか言う権限がありません。どうか理解してください。」
「なら、探すまでです!」
「ちょっ、きゃぁっ!?」

 突然エリザが彼女に襲い掛かり、両手を背中にまわした。

「どこにありますの。」
「や、やめ、ぁあ!」

 エリザに体中を弄られ、いわゆる敏感なところで、いわゆる変な感覚に陥る。
 袖から裾からエリザの手が入り腰から肩からあらゆるところを触られ、くすぐったさを感じつつも気持ちいいとも思ってくる。

「あっ、だ、め……。」

 ※エリザさんはシルバを縛るものを探しています。決していかがわしいことをしている訳ではありません。

「エリザ様……、おやめ、くだ、さ、っ!?」

 エリザの指が背骨を撫で、シルバが海老反りになる。その事で彼女から力が完全に抜けてエリザにもたれ掛かるように倒れる。

「大丈夫ですか?」
「はぁはぁ、ええ、大丈夫です……。」

 顔は赤く染まって火照り目は虚ろでお世辞にも大丈夫には見えない。
 しかも彼女(シルバ)は新しい扉を開きつつあった。そしてそれはエリザも同様だった。
 だが、依然として部屋のドアの向こうでは激しい戦闘音が聞こえる。その音が彼女たちにひどく場違いな感覚にさせる。

「そ、そうです!あなた、名前は?」
「な、名前ですか?ワタシはシルバ、シルバ・ミラーです。ただ、この名は偽りの名です。」
「シルバさん……。あたくしはエリザ・K・クスィーです。もうご存じと思いますが。」
「はい、エリザ様。」
「様はやめてください。」
「いえ、付けさせてもらいます。」
「……もう。」

 平和な空気が流れるが依然として戦闘音が聞こえてくる。

「そういえばシルバさん、あなたどうやってここに?」
「あの鏡から。」

 それは部屋に備え付けてあったドレッサーの鏡、彼女はそこから出てきたという。
 曰わく、自分には鏡を伝ってワープ的なことができるらしい。鏡の中に潜んで外を観察することもできるとも、鏡でなくとも鏡面反射しているものなら何でもイケるらしい。

「では、あたくしを外に出すことは出来ないでしょうか。」
「できなくはないですが、結界があるので外からしか入れません。ここからはワタシも出られません。」
「なら、破壊すれば、」
「自組織の協力者には手を出せないように設定されています。結界にも手出しできない。」
「ということは。」
「はい、外部からの介入を待つことしかできません。」

 一切の脱出手段を絶たれ頼りとなる想い人と友人もいまだ戦っている。手助けのできない中で出会ったかつての敵―――シルバ・ミラーもここでは無力。
 
「やれやれ、様子見に来てみればこれはどういうことかな?」
「「!!」」

 自分たちからは出るはずのない低い音。テノールくらいの男声。それがどこからともなく聞こえてきた。

「ふむ、サイモン様への捧げ物に付け加えるべきか。」
「誰です、どこにいるのです!」
「我はプラチナム・ミラー。鏡の騎士を統べるもの。」
「プラチナム・ミラー!?なぜあなた様が!?」
「教主様はサイモン殿との関係強化に悩んでおられる。ただクスィーの娘を差し出すだけでは不十分と考えなさった。
 ちょうど、君たちは仲が良さそうだ。おまけのおかげでサイモン殿との関係が強化されそうだよ。ありがとう。」
「教主様が!?」

 突然ドレッサーの鏡に甲冑姿の男性が現れとんでもないことを宣言した。
 
「教主様がそうお望みなら……。」
「駄目よ!あなただけでも逃げて!」
「君たちがここから出るときはすでにサイモン殿の愛玩動物だ。」
「いやよ!あたくし達はあなたたちの思惑通り動く人形じゃない!ヴェルテ!」
『Yes,Master.』

 エリザの呼びかけに呼応して壁にかけてあったヴェルテが主のもとに飛翔し、その手に収まる。

「Licht・Magier!Sparkle eiskaltem(冷たき氷の輝き)!」

 ヴェルテの先から冷気を纏った光線が飛び、ドレッサーを氷付けに変えた。

「無駄なあがきよ────。」

 それっきりプラチナムは鏡に現れなかった。 
 

 
後書き
とめどない嵐の中で
死を削る凶が踊る

次回 死神奮迅 
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