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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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十四話

 
前書き
 若干暗い話です
 後、ナルトのオリ主ものも細々と上げてくんで、よかったら見て貰えるとありがたいです

今回は大体一万字ちょっと。なんか今までの読んでみると地の文でも説明とかが多いんで、出来れば上手く減らせるようにと思い始めました
地の文に関して多いか少ないかとか、感想貰えるとありがたいです
わかりづらいとかもあったら、それも込みだと嬉しいです
 

 


「政治関係はD、食糧関係はBに収めろ。つーかいい加減に覚えろよお前!」
「データに関してはバックアップを取ってラベル化、写真に関しては感光対策を施した上で。食糧関係については品目をリスト化するだけでまだ後回しだ」
「向こうの連中のとこ行って一回まとめっぞ! 誰か連絡して来い!」
「と、いうことだからエリス頼んだ」
「あのー、すいません。誰かいますか?」
「言われずとももう端子を飛ばしましたよシン。そういえば先日の件ですが……誰か来たようです」
「ん? ……ああ、アントーク家のお嬢さんか。久しぶりだね、何か用かな?」
「お久しぶりです。いえ、その……レイフォンはいますか?」

 何となく気晴らしに街に出た後、少し早いが偶には迎えに行くかとキャラバンに着いたニーナをシンラが迎える
 ニーナはこの数か月、何度かこのキャラバンに訪れたことがあったが、いつもとは違った慌ただしさに少し興味と居辛さを感じてしまう
 そんな様子に気づいたのかシンラが朗らかに答える

「レイフォンなら少し前に君の家の方に向かったよ。行き違いになったようだね。それと、今は色々と集めた物をまとめてるんだ。もう片方にいる仲間と定期的に情報を合わせているんだ。といっても、好き勝手に行き来するから対して違いはないけどね」
「そうなんですか。……旅は楽しいですか?」
「うん?」

 何度か来た際に聞いた他の都市を話すときの嬉しげな様子、今日の様に慌ただしくもどこか楽しげな様子を見て不意にニーナは言葉を零す
 ニーナ自身意図せぬうちに言ったのか、言った自分に少し驚きながらもなんとか続ける

「その……あなた達の話はいつも楽しげですし、他の都市を回るというのはどういったものなのかと思いまして」
「……そうだね。大変なことも多いけど楽しいよ。よければそこら辺にでも座って」

 戸惑いながらも言ったニーナの言葉に何か思ったのか、シンラはニーナに座るように進め、口調を柔らかくし何かを懐かしがるように口を開く

「前に言ったと思うけど、僕はまだ知らない物を見たかった。知識でしか知らない物に触れたかった。けど、その為には障害もあったからそのためにも色々と頑張りもしたよ」
「大変でしたか?」
「うん。仲間集めに情報の売買、前は肉体労働なんかもした。でも、それらはまだ大変でもそこまで苦にならなった。実際に目標に繋がる行動だからね。そんなことよりも一番辛かったのは親の説得だった」
「親の……」
「うん。僕の両親は僕が自分たちの後を継ぐか、そうでないにしても都市の中で生きると思っていた。だから僕が自分のやりたいことを告げたら怒られたよ。『馬鹿なことを言うな!』ってね。それでも必死に説得し、なんとか許してもらったけどその後が一番大変だった。
……エリスを連れていくとなった時、たくさんの人に言われた。
『お前の我儘に、自己満足に都市の守り手を巻き込むな。好きに生きたいなら俺達に迷惑をかけないようにして死ね』
『レギオスに生きる者として、お前は倫理が欠損している』
『ままごとでシュバルトの力を減らす気か。……お前の存在は、行いは毒だ。いずれ俺達を緩慢に殺す』って」
「———それ、は」
「懐かしい話です」

 シンラが告げる言葉にニーナが何か考える様に眉根をひそめ、話を聞いていたエリスが近くに寄ってくる

「随分昔のことですが、そんなこともありましたね」
「まあ、ね。とびぬけて秀でていた……といったわけじゃないけど、そこそこ優秀な念威操者だったエリスを都市から出すとなると色々とあってね。武芸者、念威操者はその地に生きる民を守る存在だというのが常識だ。さっき言っただけじゃなく、もっと色々と酷いことを言われたりもしたよ。それで初めて自分がすることの他への迷惑さを思い知らされ、一時期塞ぎ込みかけたこともあった。エリスの親に知られた時は一悶着あって大変だった」
「訂正をしてほしいですねシン。そこそこではありません」
「ハハ。……まあ、それは置いといて大変だったよ。味方は僕の両親と付き合いの長い仲のいい友人位だったからね。でも諦めきれなかったし、考えたうえでそれでも外を見たかった。……きっと、僕はレギオスで生きる人間としては不適合なんだろうね。そんなこと知るかと逆に開き直ったよ。でも、エリスの両親は反対し続けていたし、それを受けてかエリスも弱気になり始めた。だから……」
「……どうしたんですか?」

 どうしたのかと、ニーナは逸るような気持ちで答えを問う。それに、シンラは面白そうな笑みで一息に答えを言う

「攫った」
「え?」
「だからさ、攫ったんだよ。友人と協力して荷物持ってもらったりして拉致した。念威操者は武芸者と違って肉体面じゃ一般人と変わらないからね。バスの時間ギリギリに滑り込めるように計算して家出だね。
……まあ、僕の両親はある程度知ってたから僕は家出じゃないけど。いやー楽しかったよ、次の日にはバスの中で筋肉痛になってさんざいじられたけどね。ハッハッハ!」
「笑うな」
「イタっ!」

 笑い声が気に障ったらしく、復元してある錬金鋼でエリスがシンラを殴る

「……つぅ、それで殴るのは止めてくれエリス。とまあ、そんなことがあって都市を出たよ。でも、後悔はしていない。自分の夢を叶えられたからね。知らないことを知るのは楽しいし、見たことないものに触れるのは心躍る。だから、自分が決めたこれはけっして後悔していない」
「……そう、ですか」
「うん。それに、出る時の条件の一つで定期的に手紙を送っているしね。そのおかげで、少しは負い目が薄まってる。
……とまあ、僕としてはこんなとこかな。そろそろ戻った方がいいんじゃないの? 時間は大丈夫かい?」
「え? ……あ、そうでした! もう戻らせてもらいます。話、ありがとうございました!」
「こんな話で良ければいくらでも。それじゃまた」

 急いで出ていくニーナに向かいシンラはにこやかに手を振り続けた







「シン。なぜ、あんな話をしたんですか?」

 ニーナの姿が見えなくなり、シンラが上げていた手を下すのと同時にエリスは疑問を飛ばす

「……なんだか、昔の自分を思い出してね。つい、色々喋ってしまったよ」
「ということは、あの子もですか?」
「どの程度の思いかは知らないけどね……それと、何かいいかけていたけど何だったんだい?」
「ああ、それは……この前言われた情報が一通りまとまりましたので、そのことを伝えようと」
「あのことか。……で、何が分かった」

 それに答えるため、エリスは隠し持っていた紙をシンラに手渡す

「ふむ。……この内容ホント? おかしくないかい」
「シンもそう思いましたか。私も同感です」
「興味から調べてみたけど、情報が少なすぎる。もっと知られていてもいいはずだ。所々にへんな単語があるけど、エリスは何のことか知ってるの?」
「いえ、何も。そのことについても調べましたが何一つ……」
「ふーん……中々興味深そうなことじゃないか。一応、手紙でも実家に送ってみよう。何かお土産つけて」
「それがいいですね。では、そろそろ切れそうなので愛用していた化粧品を送るようにと付け加「お前ら暇なら手伝え!」……私たちも手伝いますか」
「……そうしようか」

 響いてきた怒声に、シンラはもう一度紙に視線を落とし、エリスとともに仲間の元へと足を向けながら一番上に書かれている名前を呟く

「……ジルドレイド・アントーク、か。これだから旅は面白い」















「少し早かったかな?」

 いつもニーナと鍛錬している庭の外れに荷物を置きながらレイフォンは呟く
 午前中に入っていたバイトが休みだったため、何もせずにいる時間が暇でいつもよりも早く着てしまった。いつも通りならば、ニーナが来るまでまだ三十分は優にあるだろう
 だからこそ、レイフォンはもう少し外れの、人が全然来ないだろう場所まで更に動く

「周りに誰もいないし、これだけ広ければ大丈夫かな。……レストレーション02」

 呟き、久しぶりに青石錬金鋼を復元し鋼糸を展開する
 腕の骨折などの怪我が治るまで駄目だとハーレイから錬金鋼の受け渡しを拒否されていたため、鋼糸を展開するのはレイフォンにとって久しぶりだ。骨折のままそれを隠し、他のバイトは続けて長引いたのだからより一層だ
 鋼糸に集中するため、気に寄りかかり意識を全身から展開中の鋼糸の方に移す
 展開されている百を超える鋼糸の全てに剄を巡らし、神経の延長の様な感覚を得る
 緩く流れる風、周囲の木々を感じ取りながらより一層意識を集中する

(ここから、筋肉の一部の様に……)

 そもそもがリンテンスが使っているところを見て始めた鋼糸。教えてくれる師がいないため、四苦八苦しながらレイフォンは使い方を覚えた
 元々、武器を神経の延長の様に感じる手ごたえはあったが、そこからが大変だった
 思う様に動かせない鋼糸、数が増えれば途端に制御がこんがらがる。何度も試し、かつて見た剄の流れを思い出して探り、神経だけでなく筋肉の様にするのだと暫くして気づいた
 そうして今、この数までになった

(筋肉の様に、腕の様に意識して……)

 こうして熱を入れているのも先日の戦いがあったから
 あの時、武器に出来ないにしても補助として使えていたならば、もっと善戦で来ていたはず。宙に浮けば動くことが出来ないが、これが使えていれば足場としても使えていたはず。だからこそ、少しでも使えるようにと鋼糸を動かす
 空いたブランクを埋めるため、少しでも早く慣れるために肉体的な感覚を閉じ、鋼糸の制御にだけ意識を使い体の一部となるように意識する
 徐々に動きが良くなっていくにつれ、少しずつ操る鋼糸を増やしていく
 只々、動く鋼糸にだけ意識を割いて世界を感知する

「レイフォン、寝ているのか?」


 だから、その気配に気づけなかった


「————え?」

 不意に聞こえてきた声に目を開けば鋼糸の範囲内、そこにニーナの姿がある
 なぜ? その思いの答えが出る前に不意に掛けられた声に体が、筋肉としていた鋼糸が反射的に反応してしまう
 そうしてやっとニーナの剄が弱いこと、殺剄を使っていることに気づく
 意識の全てを鋼糸に移し、肉体面での情報を意識的に閉じていたこと。そしてレイフォンは知らぬことだが、レイフォンが寝ていると思いニーナがかつてよりも精度の上がった殺剄をしていつも通りに、敵意などの害意ゼロで近づいてきたが故にレイフォンは気づくのが遅れてしまった
 殺剄を使い、剄の強化が弱いニーナに反射的に動いた鋼糸が向かうのを必死で止めようと動き————

「—————あ」

————直後、鮮血が舞った










「本当に大丈夫か?」
「ええ、なんとか……。血は止まりましたので、大丈夫だと思います」
「気をつけなきゃだめだよ。痛むようなら病院に行った方が良い」

 鋼糸で切り裂かれ、血が流れ出た腕をニーナに包帯を巻かれながらレイフォンは返事を返す
 あの後、なんとかニーナを避けて回収することは出来たが、代わりにレイフォンは腕を切り裂いた
 血は流れ、一瞬意識がブラックアウトしかけたがなんとか気を失わずに済み、すぐさま病院に連絡を入れようとしたニーナをレイフォンは止めた。それを受けてニーナはすぐさま家の中から包帯などの医薬品、ついでに家に来ていたハーレイを手伝いに連れて戻り今に至る
 傷はそれなりに深いが、既に血の流れは止めた

「……済まないな。鍛錬していたことに気づかずに近寄ってしまって」
「いえ、制御が甘かった僕が悪いんですので気にしないで下さい」
「しかし、目を凝らせば見えたはずだ。レイフォンの剄に気づいていたというのに……」
「時間に気づかなかった僕も悪いんです。自分の未熟な所に気づけたので、ある意味じゃいい経験です」
「しかし……」
「ストーップ。それ以上言ったって先に進まないんだから終わり。こう言ってくれてるんだからニーナもそんなに落ち込まないの」
「そうして下さい。……それじゃ、そろそろ始めましょう」

 ハーレイの言葉に賛成し、続けていった言葉に二人が驚く

「いやいやいやいや、何言ってるのレイフォン!?」
「そうだ、その傷でなど……」
「いえ、もう血は止まってますし、左手は無事何で大丈夫です」
「ダメだよ。今日は激しい運動は禁止」
「でも、それだったら基礎鍛錬位なら……」
「それ位なら私一人でも出来る。レイフォンは休んでいろ」
「いえ……でも……」
「……言いたいことがあるなら言え。どうしてそうも強情になる……」
「……ニーナ?」
「理由があるなら、そうしたい理由があるなら言えばいい……そんな怪我をしても続けようとする訳を私に教えてくれ……」

 いつもと違い、顔を俯け尋ねるニーナにハーレイは疑問の声を上げ、レイフォンは不思議に思いながらも曖昧な思いを口に出す

「その……何もしていないのが嫌なんです。しばらくの間怪我で来られませんでしたし。それに、元々この町に来た理由の為のことを、その為にすべき時間に、今までしていた時間に何もしていないというのが嫌なんです。多分……自分が、何も出来ていないように思えるので」
「……確か、出稼ぎだったっけ?」
「はい」
「大変だよねぇ……。僕なんか自分がしたいことしてるだけで、そんなこと考えたこともないや」
「……なあ、レイフォン……」
「はい?」

 静かな声にそちらを向けば、ニーナが俯けていた顔を上げ、険しい顔をしてこちらを見ている
 だがその声には険しさは無く、何か迷うようなものが混じっているようにも感じられる

「お前は……どうしてそこまでするんだ? 何があってそんなことを思うんだ?
……孤児院だというのは聞いた。出稼ぎだとも聞いた。だが、今のそこまでの思いを抱くというのが分からない。何か他に有るように思えてしょうがない……。よければ聞かせてくれないか……都市を出てまでもするその理由を……」
「ニーナ……君は……」

 ハーレイが何か気づいたように呟くが、何に気づいたのか分からない
 ニーナの迷いが何なのか、理解できない
 問われた言葉で思うのは過去のこと。浮かび上がる光景は未だ消えぬ心の傷
 ただそれを思うだけで感情が薄れるのが理解できる。表情が抜けていくのが感じられる

「……確かにあります。僕がお金を意識するようになった事が」
「失礼なことだとは分かる……だが、教えてくれないか……?」
「言うのは別にかまいません。けど、つまらない話ですよ?」
「……頼む」
「え、いいのレイフォン? 別に気にしなくても……」
「いえ、もう過ぎたことですし。言う分には特には……」

 ハーレイの言葉に構わないという返事を返し、過去のことを思い返す
 言葉を紡ごうと開いた口は一度躊躇い、そして音を発し始めた








「数年前、グレンダンで食糧危機がありました」
「食糧、危機?」
「ええ……何でも、生産プラントで家畜に原因不明の病気が流行ったらしく、食糧の生産力が一気に落ちたんです。食べ物が足りなくなりました」

 表情が消えていくのが分かる。意識が今でなく昔に飛び、言葉を聞いて驚いている二人の姿を、写真を眺めているような気にしかなれない
 言葉が只々流れ、まるで別個の意思を持ったようにすら思え言葉がただの音の連なりにしか聞こえない

「食糧が配給制になって、それでも無理があって、たくさんの餓死者が出ました………元々裕福じゃなかった僕の孤児院でも死にました」

 全ての都市は自給自足が成り立っている。緊急の際に他の都市から食料を輸送してもらうという事が事実上不可能な以上、そうでなければ不完全で、滅びるしかない
 だからこそ、そういった事故の際は対処が難しい。不可能ともいえる
 その時のことは今でも思い出せる

「いつも、僕が寝坊すると跳び乗って起こしてくれる弟の重さが段々と軽くなっていきました」

 そしてある日、寝坊したままの日が来た
 穏やかな目覚めの違和感が怖かった。眠気を残したまま、微睡の中眼を開いたあの日のことは覚えている

「寒い夜一緒に毛布にくるまった弟が、傍に居たはずなのに、朝目が覚めたら体が冷たかったんです」

 寝坊したのだと思って何度も声を掛けた
 眠った顔のまま養父の腕に運ばれていった後の、その日だけ一人分量が増えた食べ物の味は覚えていない

「どうしようもない状況になって、妹の一人が別の孤児院に引き取られていきました。別れる日、ずっとこっちを睨んでいたのを覚えています」

 眼を見るのが怖くて下を向いた
 憎まれているんじゃないかとしばらくの間、人の眼を見るのが怖かった。引き取られていった孤児院がどうなったのかは知らされなかった
 今、聞いているはずの二人がどうなのかが上手く認識できない

「弟たちに僕の食べ物を分けようとしたこともあります。武芸者なのだから人に分け与えず、その身を維持するようにしろと咎められました。
お腹を空かす兄弟がいる中、武芸者だからと優先的に、弟たちよりも多く配給される食べ物を受け取り食べました」

 羨ましそうに見る弟たちの眼を覚えている
 食事をする中、その眼を意識しないようにと必死でただ飲み込んだのを覚えている
 言葉が止まらずに口から出ていく。もしかしたら誰かに聞いて欲しかったのかもしれない
 今流れている音が話している言葉なのかも、それとも意識の中だけだと思っている言葉も一緒に口から流れているのか、その境界が分からない

「孤児院の外でも、足りない食べ物を争う暴動がよく起こりました。近所に住んでいた面識のあった老夫婦が、ある日死んだことを告げられることもありました」

 自分の周りの変化が怖かった
 眠る前、明日が今日と変わらないようにと何度も祈り、目が覚めて現実を突きつけられることが何度もあった

「……一番苦しかった半年を過ぎて少しずつ持ち直して、暫くして流通が再開した時にはまだ物価が高かったんです。もうあんな思いをするのが嫌だったんです。……お金がたくさんあれば少しは楽になった! 食べ物を買えた!! ……都市全体で食べ物が足りず、お金があれば手に入るとは限らなかったけど、そう思いました。僕には武芸しかなかったから、必死で鍛えました。少しでもお金を稼ぐように、少しでも孤児院が楽になる様に。もう二度と、何も出来ないままなのが嫌だったんです」

 何も出来ないままに周りが変わっていく無力感がどうしようもなく怖かった。武芸者だからと優遇されていた結果が欲しかった。そのことに意味が欲しかった。家族を守りたかった
 生きるためにはお金が必要だと刻み込まれた

「だから、僕にとっては武芸は神聖なものでは無く、お金を得るための手段でしかありません。誇りではお腹は膨れません」

 言うべきことを終え、レイフォンの意識が過去から今へと戻ってくる。目の前の景色が、写真から現実へと、モノクロからカラーへと意識の上で変わっていく
 思うがままに話したおかげか、レイフォンは昔のことを思う際の気持ちが少し落ち着いたようにも感じられる
 そんなことを思う中、聞いていた二人は声を出せずにいた








 学園都市への試験を受けた時も小さな痛みはあった。だが、その時は自分の思いがそれを塗りつぶしていた
 時間が経つにつれ、少しずつ自分の中の違和感として育っていった
 その発端はきっと、ずっと前に聞いたレイフォンの、この都市に来た理由があったから。明確に自覚したのは、数週間前に会った大祖父に会った際に言われた言葉

———良く、力をつけたなニーナ。良き武芸者となれ

 自分を思う気持ちが込められたその言葉に、その違和感が痛みだと、そして痛みの理由に気づいた

———武芸者とは都市と民を守るもの。あなたはこの仙鶯都市を守る、立派な武芸者に成られるお方です

 何度となく言われてきた言葉。“都市を守る”というその気持ちに対して抱いた疑問と不安
 外から植えつけられたものを自分の物だと思い込んでいるだけだと思い、自分の気持ちを確かめるのに外の世界に出ようと思った。それは同時に、自分に罪悪感に近い気持ちを抱かせた
 自分の行動に対する躊躇いを、周囲に対する罪悪感を生ませた
 そしてそれは今日、聞いたシンラの過去の話で決定的になった
 だから、レイフォンに聞いた。その根底にあるものを知りたかったから。自分の後押しが欲しかったから

「食糧が配給制になって、それでも無理があって、たくさんの餓死者が出ました………元々裕福じゃなかった僕の孤児院でも死にました」

 そうして聞かされる話はニーナの想像を超えていた
 無意識になのか、右手の包帯を巻かれた部分を左手で抑えながら話すレイフォンの話に声が出ない
 たくさんいる電子精霊は都市内の環境維持に貢献し、疫病に悩まされたことなどない。シュナイバルは誕生時より食糧危機になったことなどない。だからそんなこと想像したことなどなかった。それが当然だと思っていた
 お腹がすくことはあっても、家の大人に言えば直ぐに食べ物は手に入った

「寒い夜一緒に毛布にくるまった弟が、傍に居たはずなのに、朝目が覚めたら体が冷たかったんです。寝坊したと思って何度も声を掛けたのに、いつもの声が返ってこなかった。眠った顔のまま養父の腕に運ばれていった後、その日だけ食べ物が一人分増えた」

 身近な死を感じたことなんてない
 会わなくなった人はいても、少し離れただけ。会おうと思えば会える

「孤児院の外でも、足りない食べ物を争う盗みや暴動がよく起こりました。近所に住んでいた面識のあった老夫婦が、ある日死んだことを告げられることもありました。次の日が怖かった」

———どうして?
———どれだけ豊かでも、おれのとこまでそれが来ないんじゃ話にならねぇ

 ふいに思い出すのは昔のこと。十歳の時に会った電子精霊を盗もうとした武芸者の言葉
 あの時は意味が分からなかった。裕福で苦労を知らなかった自分は想像も出来なかった。だけど、もしかしたらどうしようもない事情があの武芸者にもあったのだろうか
 それを判断できるだけの経験が自分にはない。これだけのことを無表情で話すレイフォンに恐怖さえ抱いてしまう

「……お金がたくさんあれば少しは楽になった! 食べ物を買えた!! ……都市全体で食べ物が足りず、お金があれば手に入るとは限らなかったけど、そう思いました。僕には武芸しかなかったから、必死で鍛えました。少しでもお金を稼ぐように、少しでも孤児院が楽になる様に。もう二度と、何も出来ないままなのが嫌だったんです。武芸者だからと優遇されていた結果が、意味が欲しかった」

 知らず知らずの内に左手に力が入っているのか、レイフォンの右手の包帯が赤く染まって来ているのが見える
 レイフォンのその思いが分からない。自分にとって武芸とは武芸者である以上当たり前のこと。生きるためにしようなんて思ったことなんてない

((やはり私は、何も知らないんだ))

 そんな現実なんて知らない。与えられた幸福しか自分は知らない。そんな自分が嫌だ

(世界が知りたい。外に出られない檻の中の鳥みたいにいるのは嫌だ)

「だから、僕にとっては武芸は神聖なものでは無く、お金を得るための手段でしかありません。誇りではお腹は膨れません」

 今の、何も知らない自分では理解は出来ても賛同など出来ない言葉。外を知らない自分にとって、それは今までの教えの否定だから
 だからそれが知りたい。やはり自分は、どうしようもなく外の世界が見たい
 気付けば、ニーナの渦巻いていた胸の痛みはもうなくなっていた。ぶれていた気持ちがストンと落ち、静かに収まったように思える

(ああ、そうだ。もう迷いなどしない。———私は、外の世界を見たい)

 レイフォンの在り方を理解し、明確な意思が自分の中で出来たのをニーナは感じる
 気付けば話は今ので終わりらしく、レイフォンの無表情が段々といつも通りの緩い表情に戻っていくのがニーナには見て取れた

「今のが僕の理由ですけど……これでよかったんですか?」
「ああ。それと済まない。辛い過去だろうに、無理に聞いてしまったな」
「……なんというか、凄い過去だね。正直予想を超えていたよ。なんかゴメン」
「あ、いえ、気にしないで下さい。僕も聞いてもらって、気が少し軽くなったような気がします」
「そう言って貰えると助かる。……にしても、武芸が金を得るための手段、か。そんな言葉初めて聞いたな」
「そんなに変ですか?」
「最初に、お前がこの都市に来た理由を聞いた時は怒りを抱いた。武芸者の力は神聖なものだと教えられて来たからな。……今でも、金の為に使うという事には賛同できない。だが、お前の話を聞いて否定する言葉を出すには私は世界を知らなすぎる」

 それを聞き、レイフォンは特に表情も変えず、いつも通りの締まらない顔で同意の言葉を返す

「やっぱり、良くは思われないですよね〜」
「一般的に見ればな。だが、私にはどうとも言えん」
「まあ、今の話を聞けばそうだよね。生きるか死ぬかの話だもん。……それと、いつものニーナに戻ったね」
「気づいていたのか、ハーレイ?」
「ま、幼馴染だし。気持ちも固まったみたいだしね」
「……ああ」
「? どうかしたんですか?」

 不思議気に聞いてくるレイフォンに二人は少し楽しげに小さく笑ってしまう

「いや、特に何でもない」
「うん。なんでもないから気にしなくていいよ」
「? 分かりました。……じゃあ、そろそろ始めましょう」

 にこやかな顔のまま剣を手に持って言うレイフォンに、ニーナとハーレイは笑顔のまま同時に言った



「「その前に病院に行け」」



 レイフォンの右手の包帯は、既に真っ赤に染まっていた















「やあレイフォン。今日はいつもより早いね」
「ええ、その……色々あったので」
「そうか。……まあ、余り怪我はしないようにね」

 いつもより早くキャラバンに戻ってきたレイフォンの右手を、そこに巻かれた包帯を目ざとく見つけたシンラが苦笑しながら注意を促す
 それを受け、レイフォンはあいまいな笑みを返すしかない

「それはいいとして、今日はどこかに食べに行こう」
「いいんですか?」
「いつもエリス達と一緒に作ってくれてるんだ。今日ぐらい奢るよ。どこか良い店は知ってるかい?」
「ありがとうございます。確か、前に聞いた店が町の中に……」

 今日、一人の少女の心を決めたとも知らず、レイフォンとシンラは楽しげに会話しながら街の中心へと歩いて行った
 既に見慣れた道、見慣れた街並み。まだ知らない場所に人
 段々と旅行者から住人に近い存在へとなりながら、彼らは日々を生きていく















 その約二か月後、ニーナの受験が親にばれることになる
 だがそれは、二人の預かり知らぬとこ
 そして物語は本来の形とはやや異なったまま、前へと進むことになる

 
 

 
後書き

 暗い話っつーか少し鬱っぽい話にするつもりだったのに、見返してみれば激しく微妙
 文才の無さが憎い!
 原作で餓死者だたくさんとかあったので、武芸者が実質一人で貧しい孤児院ならあったんじゃないかと思って書きました

 ニーナが少し迷いを持ったのは、レイフォンとジルドレイドがいたから。そしてシンラの話を聞いたから。要はレイフォンが来たから。流石に家出には少しぐらい罪悪感持つだろうと思ったので、それを原作にはなかったことで膨らませました
 今回の話でニーナはレイフォンの過去を知ったので、ツェルニでのこととか色々変わったりします。というより今のまま行って変わらない方が変なんですけどね……
 次は時空列をちょっと戻っての閑話とか、グレンダンの話を入れる予定です
 骨折中のレイフォンの話とか、グレンダンでの女王様とリーリンとか、クララとか書く予定



 ……趣味を友人に話したら、お前は外道萌えなのかと聞かれてしまった……
 違うよ!ただ単にご都合主義が嫌で、勝つのにちゃんとした理由がほしいだけだよ!チートオリ主のご都合主義な鈍感ハーレムとかが大っ嫌いなだけだよ!
 感情論とか善悪じゃなく、ちゃんと戦略立てた奴や力や才能が上な奴が勝つ話が書きたいだけだよ!
 そんな思いが詰まったSS書くつもりです
 ただ、それはオリ主ものに限るので、原作キャラ主人公のレギオスは変な方向性に走らせるつもりはありません
 あ、後、もしかしたら短編ホラーとか東方のシリアス中編とか、美鈴主人公ものとか書くかも


 こんだけ言っときゃ、次何書いてもOKだよね。多分
 
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